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第二十六話 激昂
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同日の体育の授業の日。私は体育館の端っこに座って、バレーボールをしているのを眺めていた。
別のクラスと合同で行っているのだけど、みんな結構上手なのよね。私なんて、何度やっても顔でボールを受け止めてしまうの。いつか、顔がへこんでしまうかもしれないわ。
はぁ、魔法とか勉強とか、色んな面でシャーロットに劣っている無能人間だけど、こんなところでも無能っぷりを発揮しなくてもいいのにね。
「ちょっとお手洗いに行ってこよう」
次の試合まで時間があるから、その間にお手洗いに行って用を済ませる。少しはすっきりしたし、少しは顔面レシーブが減るかしら……。
「あ、いたいた」
「え? シャーロットにフローラ様?」
お手洗いを済ませて立ち去ろうとすると、面倒な二人に捕まってしまった。こんなの嫌な予感しかしないわ。
なんて思ったのも束の間、私は人気のない体育倉庫の裏へと連れて来られた。敷地が広いから、結構隠れて話せる場所はあるのが困りものだ。
「フローラ様は同じクラスだからいいけど、シャーロットはどうしてここに? 授業はどうしたの?」
「お姉様と話すために、抜け出してきたのよ。あたしくらいの優等生なら、一回くらい抜け出しても問題無いの」
いや、問題あると思うんだけど……? 優等生だからこそ、模範となるように真面目に生活するべきだと思うわ。
「それで、用は?」
「お姉様さ、今日どうやって登校した?」
「…………」
これは、もしかして……シャーロットにレオ様と一緒にいる所を見られたわね。仕方ない、それとなく伝えて切り抜けよう。
「回りくどい聞き方はやめなさい。見たのでしょう?」
「見たわよ。だから聞いているの」
「なら聞く必要とないと思うけど……レオ様と一緒に登校したわ」
「昨日帰ってきてないわよね。どこ行ってたの?」
「門限で困ってたところに、レオ様がうちに来いって仰ってくださったから、レオ様のお屋敷にお邪魔してたわ」
シャーロットとフローラは、顔を少しだけ見つめ合うと、私を馬鹿にするように笑いだした。
これ、別の人間にも何度もやられるんだけど、いじめっ子特有の気持ち悪い儀式かなにかなの?
「いいわねぇ。レオ様ってカッコよくて優しくて、凄くモテるんだよね。まあお姉様は馬鹿だから知らないでしょうけど」
悪いけど知っているわ。モテモテの状態でも、私の所に来てくれるくらい、優しい方だというのも。
「あと、この前お姉様がレオ様と一緒に町にいたっていう目撃情報もあるんだけど、それも本当?」
「ええ。シャフト先生にお使いを頼まれて、レオ様と一緒に行ったわ」
「へえ。お使いなんて、子供でも出来そうなものをやらされるのは、お姉様らしくて良いと思うけど、レオ様とデート気分を味わえるなんて、生意気ね」
私に悪口と嫌味を言うのを忘れないあたり、さすが長年私を毛嫌いしてきただけのことはあるわね。ある意味尊敬に値するわ。
「本題に入ってくれるかしら?」
「はっ、偉そうに……お姉様、レオ様と縁を切って。金輪際関わらないで」
「またそんな話? どうしてあなた達の指示を聞かないといけないの?」
「簡単よ。あたしがうざいから! めざわりだから! 鬱陶しいから! それと、あたしの友達がレオ様と親密になるのを助けたいから! 言っておくけど、アンタは所詮あたしの劣化よ? そんなポンコツが楽しそうにしてると思うと、腹が立って仕方がないの!」
とりあえず、なんとなくわかったから整理しよう。
まず、私がレオ様と一緒にいた所をシャーロットに見られた。その話をフローラにして協力を仰ぎ、ここに来たと。
目的は、私とレオ様の仲を裂くこと。理由は大体が私怨というか、気に入らないからだろう。全てにおいて意味がわからないし、そんなことをしても無駄だと思う。
「話は終わり? じゃあ回答だけど……前回と同じ。嫌よ」
「っ……!」
「まだ短い間しかいないけど、彼と一緒にいて楽しいし、今まで忘れていた感情や気持ちを思い出せた。彼といるととても楽しくて満たされるし、もっと大切なものを取り戻せるかもしれない。でもそれだけじゃない。彼には沢山恩返しをしなきゃいけないの。邪魔しないで」
そこまで言い切った瞬間、ずっと黙っていたシャーロットは、何もない所から短い杖を出し、杖の先に水球を作り出すと、それを私の顔にぶつけてきた。
突然ぶつけられて驚いたけど、そこまでの勢いがあったわけじゃないから、ケガはしないで済んだ。代わりに顔がずぶ濡れだし、服も濡れてしまった。
それと、ぶつけられた衝撃で倒れてしまった私の上に、シャーロットが馬乗りになってきた。
「この前もだったけど、無能の分際で有能なあたしに歯向かうなんて、どこまで愚かなの!!」
「愚か……愚かね。それはどちらなのかしらね」
「うるさいっ!!」
乗るだけかと思ったら、そのまま私に平手打ちをしてきた。
でもこんなの序の口。魔法の的当てにつかう人形役をやらされて、ボロボロにされた経験を思い出せば、これくらい平気よ。心が冷えきった人間を舐めないでもらいたい。
まあ、最近はレオ様と一緒にいると、冷え切った心が熱を取り戻していってる気がするけどね。
「こんな騒ぎを起こしたら、誰かに見られるわよ?」
「はぁ? あたし達は優等生よ? そんなあたしがなにしたって、全部黙認よ! いやぁ、便利で楽な立場だと思わない? ねぇお姉様!」
「…………」
「はぁ? 聞いてるんだから答えてくれる!?」
沈黙でいるのが嫌だったのか、シャーロットはもう一回、二回と私の頬を叩いてきた。
こういう時に防御魔法でも使えればいいんだけど、無能の私にそんなものは使えない。逃げるにも、この状況じゃ無理だ。さっきも先生が通りがかったけど、見向きもされないし……諦めるしかない。
そう思った時、首から下げている、バラとカランコエのペンダントが光り始め――その光が真っ直ぐ天に向かって伸びた。
「な、何ですのあれは……? もしかしてシャーロットが?」
「あたしじゃないわ! お姉様、何をしたの!」
「私にも何がなんだか……」
呆気に取られる私達など関係なしに、まっすぐと伸びていた光は、ゆっくりと何もなかったかのように消えていった。
「よくわからないけど……そんなことよりも、さっさとお姉様に関わらないって誓ってもらわなきゃ」
「へえ、それは誰と関わらないのかな?」
「そんなのもちろん、レオ様とに決まってるじゃない! って……え?」
聞き覚えのある、そして安心感を感じる声。その声に反応して顔を上げると、いつの間にか私達のすぐ近くに、レオ様の姿があった。
「レオ様、どうしてここに……?」
「前に君にプレゼントしたペンダントがね、アメリアになにかあった時に俺に知らせが届くようになっている魔法道具なんだ。その知らせを確認したから、急いで来たんだよ」
もしかして、さっきのペンダントから出た光がそれだったの? それなら、このタイミングでレオ様が来てくれたのも頷ける。
「そんな……男子はここから離れた校庭で体育をしているのよ! 間に合うわけがありませんわ!」
「フローラ様、もう忘れたのかな? 前にも同じ様なことがあった時も、俺は瞬時に駆け付けただろう?」
「……あたしの憶測だけど、移動が速くなる魔法とか、瞬間移動の魔法が使えるのね」
「そんなところだよ、シャーロット様。こんな愚かなことをするから、頭の方はあれだと思っていたけど、少しは回るようで安心した。アメリア、大丈夫かい?」
レオ様はポケットからハンカチを取り出すと、濡れてしまった私の顔を優しく拭いてくれた。
「こんなに濡れて……言ったよな? アメリアを泣かせるようなことをしたら許さないと。許しを乞う準備は出来ているだろうな? まあ……許すつもりは一切ねえけどな……!」
「へえ、上等じゃない……あたし達は天才魔法使いよ? 間近でその力を見れば、あんな無能よりも良いってことがわかるわよね!」
優しくて物腰の柔らかいのとは真逆の、怒りに全てを任せた雰囲気で立ち上がるレオ様。
以前はすぐに止まってくれたけど、今は全くその気配が無い。現にレオ様は、右手を真っ黒な魔力の光で包み、ゆっくりと二人に近づいていってる。
その後ろ姿は、まるで私と別れを告げて、二度と戻ってこないんじゃないかと思えるものだった。
このままでは、大変なことになってしまう……私はレオ様と離れたくない。それに、いくら相手は嫌いな相手とはいえ、傷つくのは見たくない。
早く……早く止めなければ!!
別のクラスと合同で行っているのだけど、みんな結構上手なのよね。私なんて、何度やっても顔でボールを受け止めてしまうの。いつか、顔がへこんでしまうかもしれないわ。
はぁ、魔法とか勉強とか、色んな面でシャーロットに劣っている無能人間だけど、こんなところでも無能っぷりを発揮しなくてもいいのにね。
「ちょっとお手洗いに行ってこよう」
次の試合まで時間があるから、その間にお手洗いに行って用を済ませる。少しはすっきりしたし、少しは顔面レシーブが減るかしら……。
「あ、いたいた」
「え? シャーロットにフローラ様?」
お手洗いを済ませて立ち去ろうとすると、面倒な二人に捕まってしまった。こんなの嫌な予感しかしないわ。
なんて思ったのも束の間、私は人気のない体育倉庫の裏へと連れて来られた。敷地が広いから、結構隠れて話せる場所はあるのが困りものだ。
「フローラ様は同じクラスだからいいけど、シャーロットはどうしてここに? 授業はどうしたの?」
「お姉様と話すために、抜け出してきたのよ。あたしくらいの優等生なら、一回くらい抜け出しても問題無いの」
いや、問題あると思うんだけど……? 優等生だからこそ、模範となるように真面目に生活するべきだと思うわ。
「それで、用は?」
「お姉様さ、今日どうやって登校した?」
「…………」
これは、もしかして……シャーロットにレオ様と一緒にいる所を見られたわね。仕方ない、それとなく伝えて切り抜けよう。
「回りくどい聞き方はやめなさい。見たのでしょう?」
「見たわよ。だから聞いているの」
「なら聞く必要とないと思うけど……レオ様と一緒に登校したわ」
「昨日帰ってきてないわよね。どこ行ってたの?」
「門限で困ってたところに、レオ様がうちに来いって仰ってくださったから、レオ様のお屋敷にお邪魔してたわ」
シャーロットとフローラは、顔を少しだけ見つめ合うと、私を馬鹿にするように笑いだした。
これ、別の人間にも何度もやられるんだけど、いじめっ子特有の気持ち悪い儀式かなにかなの?
「いいわねぇ。レオ様ってカッコよくて優しくて、凄くモテるんだよね。まあお姉様は馬鹿だから知らないでしょうけど」
悪いけど知っているわ。モテモテの状態でも、私の所に来てくれるくらい、優しい方だというのも。
「あと、この前お姉様がレオ様と一緒に町にいたっていう目撃情報もあるんだけど、それも本当?」
「ええ。シャフト先生にお使いを頼まれて、レオ様と一緒に行ったわ」
「へえ。お使いなんて、子供でも出来そうなものをやらされるのは、お姉様らしくて良いと思うけど、レオ様とデート気分を味わえるなんて、生意気ね」
私に悪口と嫌味を言うのを忘れないあたり、さすが長年私を毛嫌いしてきただけのことはあるわね。ある意味尊敬に値するわ。
「本題に入ってくれるかしら?」
「はっ、偉そうに……お姉様、レオ様と縁を切って。金輪際関わらないで」
「またそんな話? どうしてあなた達の指示を聞かないといけないの?」
「簡単よ。あたしがうざいから! めざわりだから! 鬱陶しいから! それと、あたしの友達がレオ様と親密になるのを助けたいから! 言っておくけど、アンタは所詮あたしの劣化よ? そんなポンコツが楽しそうにしてると思うと、腹が立って仕方がないの!」
とりあえず、なんとなくわかったから整理しよう。
まず、私がレオ様と一緒にいた所をシャーロットに見られた。その話をフローラにして協力を仰ぎ、ここに来たと。
目的は、私とレオ様の仲を裂くこと。理由は大体が私怨というか、気に入らないからだろう。全てにおいて意味がわからないし、そんなことをしても無駄だと思う。
「話は終わり? じゃあ回答だけど……前回と同じ。嫌よ」
「っ……!」
「まだ短い間しかいないけど、彼と一緒にいて楽しいし、今まで忘れていた感情や気持ちを思い出せた。彼といるととても楽しくて満たされるし、もっと大切なものを取り戻せるかもしれない。でもそれだけじゃない。彼には沢山恩返しをしなきゃいけないの。邪魔しないで」
そこまで言い切った瞬間、ずっと黙っていたシャーロットは、何もない所から短い杖を出し、杖の先に水球を作り出すと、それを私の顔にぶつけてきた。
突然ぶつけられて驚いたけど、そこまでの勢いがあったわけじゃないから、ケガはしないで済んだ。代わりに顔がずぶ濡れだし、服も濡れてしまった。
それと、ぶつけられた衝撃で倒れてしまった私の上に、シャーロットが馬乗りになってきた。
「この前もだったけど、無能の分際で有能なあたしに歯向かうなんて、どこまで愚かなの!!」
「愚か……愚かね。それはどちらなのかしらね」
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でもこんなの序の口。魔法の的当てにつかう人形役をやらされて、ボロボロにされた経験を思い出せば、これくらい平気よ。心が冷えきった人間を舐めないでもらいたい。
まあ、最近はレオ様と一緒にいると、冷え切った心が熱を取り戻していってる気がするけどね。
「こんな騒ぎを起こしたら、誰かに見られるわよ?」
「はぁ? あたし達は優等生よ? そんなあたしがなにしたって、全部黙認よ! いやぁ、便利で楽な立場だと思わない? ねぇお姉様!」
「…………」
「はぁ? 聞いてるんだから答えてくれる!?」
沈黙でいるのが嫌だったのか、シャーロットはもう一回、二回と私の頬を叩いてきた。
こういう時に防御魔法でも使えればいいんだけど、無能の私にそんなものは使えない。逃げるにも、この状況じゃ無理だ。さっきも先生が通りがかったけど、見向きもされないし……諦めるしかない。
そう思った時、首から下げている、バラとカランコエのペンダントが光り始め――その光が真っ直ぐ天に向かって伸びた。
「な、何ですのあれは……? もしかしてシャーロットが?」
「あたしじゃないわ! お姉様、何をしたの!」
「私にも何がなんだか……」
呆気に取られる私達など関係なしに、まっすぐと伸びていた光は、ゆっくりと何もなかったかのように消えていった。
「よくわからないけど……そんなことよりも、さっさとお姉様に関わらないって誓ってもらわなきゃ」
「へえ、それは誰と関わらないのかな?」
「そんなのもちろん、レオ様とに決まってるじゃない! って……え?」
聞き覚えのある、そして安心感を感じる声。その声に反応して顔を上げると、いつの間にか私達のすぐ近くに、レオ様の姿があった。
「レオ様、どうしてここに……?」
「前に君にプレゼントしたペンダントがね、アメリアになにかあった時に俺に知らせが届くようになっている魔法道具なんだ。その知らせを確認したから、急いで来たんだよ」
もしかして、さっきのペンダントから出た光がそれだったの? それなら、このタイミングでレオ様が来てくれたのも頷ける。
「そんな……男子はここから離れた校庭で体育をしているのよ! 間に合うわけがありませんわ!」
「フローラ様、もう忘れたのかな? 前にも同じ様なことがあった時も、俺は瞬時に駆け付けただろう?」
「……あたしの憶測だけど、移動が速くなる魔法とか、瞬間移動の魔法が使えるのね」
「そんなところだよ、シャーロット様。こんな愚かなことをするから、頭の方はあれだと思っていたけど、少しは回るようで安心した。アメリア、大丈夫かい?」
レオ様はポケットからハンカチを取り出すと、濡れてしまった私の顔を優しく拭いてくれた。
「こんなに濡れて……言ったよな? アメリアを泣かせるようなことをしたら許さないと。許しを乞う準備は出来ているだろうな? まあ……許すつもりは一切ねえけどな……!」
「へえ、上等じゃない……あたし達は天才魔法使いよ? 間近でその力を見れば、あんな無能よりも良いってことがわかるわよね!」
優しくて物腰の柔らかいのとは真逆の、怒りに全てを任せた雰囲気で立ち上がるレオ様。
以前はすぐに止まってくれたけど、今は全くその気配が無い。現にレオ様は、右手を真っ黒な魔力の光で包み、ゆっくりと二人に近づいていってる。
その後ろ姿は、まるで私と別れを告げて、二度と戻ってこないんじゃないかと思えるものだった。
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