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第九話 彼女しか見えない
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「おはようございます。ちょっといいでしょうか?」
翌日の朝。私は登校して教室に行こうとしているところを、フローラに呼び止められた。その隣には、いつもの取り巻きもいる。
「おはようございます。なにかご用でしょうか?」
「ええ。凄く大切な用がありまして。一緒に来てくださる?」
「…………」
急に呼び止めるから、何かと思えば……絶対に良いことで無いのは確かだ。ここはさっさと退散するに限るわね。
「ああ、言っておくけど……あなたに拒否権はありませんわ」
フローラの取り巻き達は、私の逃げ道を塞ぐように、私の周りに立った。
……はぁ、これはさっさと退散しなかった私のミスね。通りすがりの人達は、遠巻きに見てるだけで助けてくれる気配は無さそうだし……素直に行くしか無いわね。
「わかりました」
「話が早くて助かりますわ。それではこちらに来てくださいな」
何が話が早くてよ。あなた達が私を逃げられない状況に追い込んだくせに……本当に調子が良いというか……不愉快な人間だ。
「ここは……」
フローラ達に連れられたのは、人が少ない旧別館の裏だった。こんな人気のない所に連れてくるなんて……大体の想像がつく。
これでもいじめられるようになってから結構長いから、こういった状況は何度も体験している。だからなのか、ただ面倒なだけで恐怖とかは感じない。
「こんな所に連れてくる必要がある用って、一体何でしょうか?」
「ようこそ、お姉様!」
「……シャーロット?」
誰かの足音に反応して振り返ると、そこには口角を上げているシャーロットの姿があった。
元々フローラだけでも面倒なのに、シャーロットまで加わると、なおさら面倒なことになりそうだわ。こういう時に逃げるのに役立つ魔法が使えれば……自分の魔法の才能の無さが恨めしい。
「おはようございます、シャーロット!」
「おはようフローラ! わざわざお姉様を連れて来てくれてありがとう」
「大切な友達の頼みだもの、これくらい当然ですわ」
シャーロットとフローラは、互いの両手を握り合いながら、キャッキャと子供のようにはしゃいでいる。
……私は何を見せられているのだろうか。はっきり言って、世界一どうでもいい光景だわ。こんなのを見るくらいなら、勉強をしている方が何千倍もマシね。
「仲良しごっこをするつもりなら、私は失礼します」
「ちょっと、わざわざあたし達がお姉様なんかを呼んであげたのに、その生意気な態度は何?」
「別にそんなの頼んでないわ。恩着せがましく言わないでくれる?」
「本当に生意気ね。そうやって噂の転校生にも迷惑をかけてるわけ?」
転校生って……レオ様のこと? シャーロットもレオ様のことを知っていたのね。同じ学年だけど、所属しているクラスは違うから、知らないと思っていたわ。
「何が言いたいの?」
「単刀直入に聞きます。アメリア様、新学期が始まってからずいぶんとレオ様と一緒におりますけど、どういうことですの?」
「どういうって……」
もっと凄いことを聞かれると思っていたのに、内容が拍子抜けすぎて、言葉を詰まらせてしまった。
これ、なんて答えるべきだろうか。そもそも私からレオ様に一緒にいてくれって言ったわけじゃないけど、今では一応友達ってことになっているし……。
「話せないような内容なのね! あんな優しくて素敵な人に迷惑をかけるなんて、お姉様ってば……最低だわ!」
「説明に困っていただけよ。彼に迷惑をかけるようなことはしていないわ。それに、私から彼に接触したわけでもないのは、フローラ様もご存じでしょう?」
「何よ、あたしの友達に偉そうに……!」
シャーロットは私の胸ぐらを掴むと、そのまま旧別館の壁に叩きつけてきた。背中にじんわりと痛みが広がっていくけど、こんなのも慣れっこだ。
「よしなさいシャーロット。あなたの綺麗な手が汚れてしまうわ」
「それもそうね。心配してくれてありがとう、フローラ」
「お気になさらず。それで話を戻しますが……あなたのような根暗で落ちこぼれな女に、レオ様は相応しくないわ!」
ああ、話がなんとなく読めてきたわね。そういえばフローラって、レオ様と仲良くなりたさそうな雰囲気はあった。そこに、私がレオ様と一緒にいるのを見たら、面白くないのはわかる。
シャーロットに関しては、フローラの件を聞いて協力しているとか、ついでに私への嫌がらせをしたいとか、その程度のことだろう。
それなら、さっさとレオ様を渡してしまえば良いんじゃないかしら? 彼と一緒にいても嫌じゃないけど、勉強の邪魔をされているのも事実だ。
それに、私の近くにズケズケ入ってくるし、いつも笑顔で見つめてくるし、簡単なことで褒めてくれるし……そんな人がいなくなったら……。
……ちょっとだけ。ほんのちょっとだけ……寂しいわね。
だから、私の回答は。
「嫌よ」
「……よく聞こえなかったよお姉様。もう一度言ってくれる?」
「嫌と言ったの。あなた達のような性悪女なんかに、私の友達は渡さないわ」
「そう。アメリア様は話が通じない方ですこと。なら……体でわからせるしかないようですわね! 彼は私達の所有物になりますのよ!」
「所有物? それは聞き捨てなりませんね。彼は物じゃない。彼は……私の友達よ。何度も言わせないでください」
すっぱりと言い切ったタイミングで、なんと上から一人の男性が下りてきた。真っ白な短い髪をたなびかせるその姿は、なんとも美しい。
「こんな所で秘密のパーティーなんてね。俺も良かったら参加させてくれないか?」
完全に空気を読まない発言をするレオ様。一方の私は、一つの疑問が浮かんでいた。
「レオ様、どうしてここがわかったんですか? それに、どうして助けに……」
「移動は魔法を使ってね。それに助けるのは当然だ」
「当然って……」
「困ってる人がいたら、助けるのは当然だろう?」
「っ……!?」
その言葉は、幼い私が人助けをしていた時に口癖で言っていた内容だ。多くの人を助けたいと思い、それを口癖にしていた。
それを知っているなんて……やっぱり私は、レオ様と何処かで会っている? それとも偶然?
「まあレオ様! ご機嫌麗しゅう! こちら、大親友のシャーロット! まあ一応……そこの女の双子の妹ですわ」
「フローラ様は元気そうだね。シャーロット様、初めまして。それで、一体何をしていたんだ?」
「聞きたいことがあって呼びだしましたの!」
「呼び出した……へえ、こんな大人数で囲ってお話とは、面白いね」
レオ様の顔は驚く程無表情で、なにかに耐えているような顔にも見えた。
「最近その女と一緒にいるみたいですけど、なにか弱みでも握られたんですの!?」
「そんなことは無い。アメリアがそんな酷いことをするはずもない」
「そ、そうでしたの。それでは、私と仲良くしましょう!」
「ちょっとちょっと、抜け駆けはずるいじゃん。あたしとも仲良くしましょ!」
……あなた、私から奪った婚約者がいるじゃないの。二股上等とか言わないで頂戴ね?
「熱烈なラブコールをしてもらって悪いけど、俺はもう決めているんだ」
そう言うと、レオ様は私の肩に手を回し、ギュッと力を入れて抱き寄せた。
「俺にはアメリアしか見えてないんだよ。だから、君達とは友達になれない」
「はあ!? 訳がわからないわ! お姉様は……勉強も運動も、魔法も見た目も、何一つ妹のあたしに勝てないのよ! 家ではいない人間扱いされて、母親には罵られるくらい価値が無い人間に……」
まくし立てるシャーロットだったが、レオ様を見て顔を青ざめてしまっていた。
なぜなら、レオ様の顔は無表情だというのに、恐ろしいほどの殺気が込められていた。
「君のような、醜悪で耳障りな言葉なんて絶対に言わない、清い心を持っているアメリアと一緒にいるほうが、俺にとって至福でね。ああ、それと……」
レオ様は私と一緒に去ろうとした瞬間、一度だけシャーロット達の方を振り向いた。
「お前、随分と俺のアメリアに調子乗ったことを言ったな。今回だけは見逃してやるが、もう一度アメリアを傷つけるようなことをしたら……絶対に許さねえからな。その空っぽの頭に叩き込んでおけ」
「れ、レオ様……?」
「おっと、つい本音が出てしまった。では失礼」
レオ様は深く頭を下げてから、私を絶対に離さないと言わんばかりに、まさかのお姫様抱っこでその場を離れた――
翌日の朝。私は登校して教室に行こうとしているところを、フローラに呼び止められた。その隣には、いつもの取り巻きもいる。
「おはようございます。なにかご用でしょうか?」
「ええ。凄く大切な用がありまして。一緒に来てくださる?」
「…………」
急に呼び止めるから、何かと思えば……絶対に良いことで無いのは確かだ。ここはさっさと退散するに限るわね。
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「わかりました」
「話が早くて助かりますわ。それではこちらに来てくださいな」
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「ここは……」
フローラ達に連れられたのは、人が少ない旧別館の裏だった。こんな人気のない所に連れてくるなんて……大体の想像がつく。
これでもいじめられるようになってから結構長いから、こういった状況は何度も体験している。だからなのか、ただ面倒なだけで恐怖とかは感じない。
「こんな所に連れてくる必要がある用って、一体何でしょうか?」
「ようこそ、お姉様!」
「……シャーロット?」
誰かの足音に反応して振り返ると、そこには口角を上げているシャーロットの姿があった。
元々フローラだけでも面倒なのに、シャーロットまで加わると、なおさら面倒なことになりそうだわ。こういう時に逃げるのに役立つ魔法が使えれば……自分の魔法の才能の無さが恨めしい。
「おはようございます、シャーロット!」
「おはようフローラ! わざわざお姉様を連れて来てくれてありがとう」
「大切な友達の頼みだもの、これくらい当然ですわ」
シャーロットとフローラは、互いの両手を握り合いながら、キャッキャと子供のようにはしゃいでいる。
……私は何を見せられているのだろうか。はっきり言って、世界一どうでもいい光景だわ。こんなのを見るくらいなら、勉強をしている方が何千倍もマシね。
「仲良しごっこをするつもりなら、私は失礼します」
「ちょっと、わざわざあたし達がお姉様なんかを呼んであげたのに、その生意気な態度は何?」
「別にそんなの頼んでないわ。恩着せがましく言わないでくれる?」
「本当に生意気ね。そうやって噂の転校生にも迷惑をかけてるわけ?」
転校生って……レオ様のこと? シャーロットもレオ様のことを知っていたのね。同じ学年だけど、所属しているクラスは違うから、知らないと思っていたわ。
「何が言いたいの?」
「単刀直入に聞きます。アメリア様、新学期が始まってからずいぶんとレオ様と一緒におりますけど、どういうことですの?」
「どういうって……」
もっと凄いことを聞かれると思っていたのに、内容が拍子抜けすぎて、言葉を詰まらせてしまった。
これ、なんて答えるべきだろうか。そもそも私からレオ様に一緒にいてくれって言ったわけじゃないけど、今では一応友達ってことになっているし……。
「話せないような内容なのね! あんな優しくて素敵な人に迷惑をかけるなんて、お姉様ってば……最低だわ!」
「説明に困っていただけよ。彼に迷惑をかけるようなことはしていないわ。それに、私から彼に接触したわけでもないのは、フローラ様もご存じでしょう?」
「何よ、あたしの友達に偉そうに……!」
シャーロットは私の胸ぐらを掴むと、そのまま旧別館の壁に叩きつけてきた。背中にじんわりと痛みが広がっていくけど、こんなのも慣れっこだ。
「よしなさいシャーロット。あなたの綺麗な手が汚れてしまうわ」
「それもそうね。心配してくれてありがとう、フローラ」
「お気になさらず。それで話を戻しますが……あなたのような根暗で落ちこぼれな女に、レオ様は相応しくないわ!」
ああ、話がなんとなく読めてきたわね。そういえばフローラって、レオ様と仲良くなりたさそうな雰囲気はあった。そこに、私がレオ様と一緒にいるのを見たら、面白くないのはわかる。
シャーロットに関しては、フローラの件を聞いて協力しているとか、ついでに私への嫌がらせをしたいとか、その程度のことだろう。
それなら、さっさとレオ様を渡してしまえば良いんじゃないかしら? 彼と一緒にいても嫌じゃないけど、勉強の邪魔をされているのも事実だ。
それに、私の近くにズケズケ入ってくるし、いつも笑顔で見つめてくるし、簡単なことで褒めてくれるし……そんな人がいなくなったら……。
……ちょっとだけ。ほんのちょっとだけ……寂しいわね。
だから、私の回答は。
「嫌よ」
「……よく聞こえなかったよお姉様。もう一度言ってくれる?」
「嫌と言ったの。あなた達のような性悪女なんかに、私の友達は渡さないわ」
「そう。アメリア様は話が通じない方ですこと。なら……体でわからせるしかないようですわね! 彼は私達の所有物になりますのよ!」
「所有物? それは聞き捨てなりませんね。彼は物じゃない。彼は……私の友達よ。何度も言わせないでください」
すっぱりと言い切ったタイミングで、なんと上から一人の男性が下りてきた。真っ白な短い髪をたなびかせるその姿は、なんとも美しい。
「こんな所で秘密のパーティーなんてね。俺も良かったら参加させてくれないか?」
完全に空気を読まない発言をするレオ様。一方の私は、一つの疑問が浮かんでいた。
「レオ様、どうしてここがわかったんですか? それに、どうして助けに……」
「移動は魔法を使ってね。それに助けるのは当然だ」
「当然って……」
「困ってる人がいたら、助けるのは当然だろう?」
「っ……!?」
その言葉は、幼い私が人助けをしていた時に口癖で言っていた内容だ。多くの人を助けたいと思い、それを口癖にしていた。
それを知っているなんて……やっぱり私は、レオ様と何処かで会っている? それとも偶然?
「まあレオ様! ご機嫌麗しゅう! こちら、大親友のシャーロット! まあ一応……そこの女の双子の妹ですわ」
「フローラ様は元気そうだね。シャーロット様、初めまして。それで、一体何をしていたんだ?」
「聞きたいことがあって呼びだしましたの!」
「呼び出した……へえ、こんな大人数で囲ってお話とは、面白いね」
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「最近その女と一緒にいるみたいですけど、なにか弱みでも握られたんですの!?」
「そんなことは無い。アメリアがそんな酷いことをするはずもない」
「そ、そうでしたの。それでは、私と仲良くしましょう!」
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……あなた、私から奪った婚約者がいるじゃないの。二股上等とか言わないで頂戴ね?
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そう言うと、レオ様は私の肩に手を回し、ギュッと力を入れて抱き寄せた。
「俺にはアメリアしか見えてないんだよ。だから、君達とは友達になれない」
「はあ!? 訳がわからないわ! お姉様は……勉強も運動も、魔法も見た目も、何一つ妹のあたしに勝てないのよ! 家ではいない人間扱いされて、母親には罵られるくらい価値が無い人間に……」
まくし立てるシャーロットだったが、レオ様を見て顔を青ざめてしまっていた。
なぜなら、レオ様の顔は無表情だというのに、恐ろしいほどの殺気が込められていた。
「君のような、醜悪で耳障りな言葉なんて絶対に言わない、清い心を持っているアメリアと一緒にいるほうが、俺にとって至福でね。ああ、それと……」
レオ様は私と一緒に去ろうとした瞬間、一度だけシャーロット達の方を振り向いた。
「お前、随分と俺のアメリアに調子乗ったことを言ったな。今回だけは見逃してやるが、もう一度アメリアを傷つけるようなことをしたら……絶対に許さねえからな。その空っぽの頭に叩き込んでおけ」
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