【完結】私を虐げる姉が今の婚約者はいらないと押し付けてきましたが、とても優しい殿方で幸せです 〜それはそれとして、家族に復讐はします〜

ゆうき

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第二十七話 前段階

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「ご足労いただき、誠にありがとうございますわ」

「げっへっへっ、奥様からご連絡が来るとは、驚きましたよ」

「それは大変申し訳ございませんでしたわ」

 ルネが目覚めてから一週間後、フィルモート家の領地に行った時に協力してくれた商人のお方が、今日も怪しく笑いながら、私と握手を交わしました。

「どうぞおかけになってください」

「へい。して、今日はどういったご用件で?」

「あなたのお知り合いで、違法な商売をしている商人をご紹介していただきたいのです。特に、人身売買をしているお方が望ましいです」

 商人のお方は、私の言葉を聞いて、口をポカンと開けて固まってしまいました。

 無理もないでしょう。ずっと付き合いのある貴族の婚約者から、突然違法な話を持ちかけられれば、誰だってこうなりますわ。

「シエル様がそんなことをいうたぁ、何か事情がおありのようですな。まあ、知り合い程度ならいやしやすが……あまりそいつとは関わりたくないってのが本音でしてね」

「なにか対価を支払えば、紹介していただけますか? 私に出来ることなら、なんだってしますわ」

「その言葉、二言はありやせんな?」

「ええ」

 一体何を要求されるのかと身構えていると、彼の口から出たものは、少々想定外のものでした。

「そのお願いに至った経緯を話してくだせえ」

「えっ?」

「あっしらの世界では、金と同じくらい価値があるのは信用でしてね。その信用をあっしから勝ち取るために、どうしてシエル様がそんなお願いをしたか、話してもらいやしょう」

「仰りたいことは理解しました。正直、気分のいい話ではありませんし、内情を聞いたらあなたもどうなるかわかりませんわ。それでもよろしくて?」

「くくっ、シエル様はご冗談がお上手ですなあ。その程度でビビってちゃあ、この世界で生きていけませんよ」

 てっきり悩むかと思っておりましたが、彼はくぐもった笑い声を漏らしながら、肩をすくませました。

 さすが、大商人と呼ばれるだけはありますわね……肝がとても据わっておりますわ。
 そんなことを思いながら、私は自分が復讐をしたいことや、そう思った経緯を話しました。

「なるほど、事情は理解しやした。それにしても、シエル様もそれなりに大変な生活を送ってきたんでやすね」

「そ、それなりって……」

「っと、失敬。なにせあっしは、元々この国から遠い地にあるスラム出身……シエル様のような酷い境遇の人間は、ごまんと見てきたものでしてね」

 この国には、表向きにはスラムと呼ばれるような地域は存在しませんので、そのような治安が乱れている場所は、話でしか聞いたことがありません。

 きっと、彼は私の想像など遥かに凌駕するくらい修羅場を乗り切って、今の地位についたのでしょうね。

「具体的に、シエル様はどうするおつもりで?」

「今回お願いするつもりの内容を、資料にまとめましたわ」

 私は、この一週間の間にまとめた資料を、彼に手渡しました。

 最近も、出来る時は文字の勉強はずっと続けていたので、読める内容にはなっているはずですが……。

「なるほどなるほど、これはなんともえげつないと言いやすか……話に聞いたお母様には、随分な仕打ちですな」

「そうでなければ、復讐にはなりませんもの」

「それで、こんな人間離れした芸当が本当に出来るとでも?」

「出来ますわ。私の聖女の力を使えば」

「聖女? あの特別な力の? そういえば、フィルモート家は聖女の血筋でやしたね……なるほど、国がはした金でフィルモート家を見逃していたのも、聖女の血筋を持つ一族にそっぽを向かれたくなかったから、と」

 ……そ、そうなのでしょうか? その辺りの事情は存じませんし、ローランお兄様の資料にも無かったことです。

 でも、言われてみれば、どうしてフィルモート家を国が見逃していたのか不思議でした。その解釈でしたら、しっくりきます。

「……いいでしょう。そこまで腹を割って話してくれたのですから、あっしも協力しましょう。そうと決まれば、さっそく連絡を」

 彼は通話石と呼ばれる水晶のような球を使い、誰かと連絡を取り合ってくださいました。

 なんにせよ、これで一人目の準備は出来ましたわ。さあ、復讐の始まりですわ!
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