【完結】私を虐げる姉が今の婚約者はいらないと押し付けてきましたが、とても優しい殿方で幸せです 〜それはそれとして、家族に復讐はします〜

ゆうき

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第十六話 いざ民を救うための第一歩へ

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 翌日、今日は洗濯物のお手伝いをしていたところ、突然エヴァン様に自室に呼び出されました。

「突然呼び出してすまない」

「いえ、大丈夫ですわ」

 言葉では平静を装っておりますが、昨日からエヴァン様の顔をまともに見られません。

 その……自分の恋心に自覚したうえに、エヴァン様も同じ気持ちだったのがわかってしまったせいで、目を合わせるのが恥ずかしいといいますか……。

「以前君が頼んできた件だ。トラルキル家からの返事はまだだが、領地の方はなんとかなりそうだ」

「本当ですか!?」

 エヴァン様の仰る頼んだ件というのは、なんとかしてフィルモート家の領地で、今も苦しんでいる民に会いに行くため、そして……ローランお兄様とちゃんとお別れして、もう大丈夫だとお伝えするため、トラルキル家に行くために、とあることをエヴァン様にお願いをしたのです。

 その内容とは、シャルディー家と付き合いのある商人に協力してもらって、商人に扮して領地やトラルキル家に行くというものですの。

 この案を思いついたのはよかったのですが、私には当然商人の伝手なんてありませんので、エヴァン様にお願いをした次第です。

 とはいっても……まだ皆様をお救いする方法は見つかってませんので、本当に会いに行くだけになってしまいますが……これが少しでも救いになれれば本望ですわ。

「この後、ちょうどフィルモート家の領地に商売の話をしに行く人物がいてな。彼に頼んだら、引き受けてくれた」

「これから!?」

「突然すぎたか? 急いでいるように見えたのだが」

「いえ、凄く嬉しいです! ありがとうございます!」

 私は嬉しくて、エヴァン様の手を掴むどころか、その勢いのまま抱きついてしまいました。

 いつもならそんなハレンチな行為など、絶対にやらないのですが……エヴァン様が好きになってしまったことと、今回の一件から来る喜びが爆発した結果、抱きついてしまったのです。

「…………」

「も、申し訳ありません! 嬉しくてつい……!」

 自分のしてしまったことに猛省しながら急いで離れましたが、案の定エヴァン様はその場で固まっていました。
 それも、いつもは無表情で固まるというのに、今日は耳まで真っ赤にして……隠し切れないほど、動揺させてしまったようです。

「あ、ああああ! 申し訳ございません! 本当に申し訳ございません!!」

「ダメですよシエル様。今主様は動けないのですから、そのままベッドに押し倒してしまいませんと」

「エレンは何を期待しておりますの!?」

 私が平謝りしているというのに、エレンは残念そうに溜息を漏らしておりました。

 一体エレンは、私に何をさせるつもりでしたの!? ベッドに押し倒すって……そ、そそ、そんなのハレンチですわー!

「少し煽ったくらいでは、進展しませんか……」

「エレン、もしかして気づいて……?」

「使用人として、主様達の恋愛事情を知らないなんてありえませんよ。ほら、主様。いつまでも呆けていたら、話が進みません。時間もあまり無いのですから」

「…………」

「これは重症ですね。主様、失礼いたします」

 何をするのかと思ったら、エレンはエヴァン様に思い切りビンタをしました。それも一度ではなく往復しながら何度も何度も。

 それのおかげ? と言って良いのかは疑問ですが……エヴァン様は無事に瘴気を取り戻してくださいました。

 ……綺麗なお顔が、トマトみたいにパンパンに腫れあがっているのを覗けば、うまくいった……と思いたい。

「すまない、シエルに抱きつかれるなんて夢にも思ってなかったから、つい固まってしまった」

「私こそ、申し訳ございませんでした……嬉しくて、自分を抑えきれませんでした」

 自分のしてしまったことへの反省をするとともに、謝罪の意を込めて、エヴァン様のトマトみたいに腫れあがった顔の治療をいたしました。

「治療してくれてありがとう。ただ……今度抱きつく時は、事前に言ってほしい。ただでさえ君に触れると……緊張で固まってしまうのでな……」

「わかりました」

 いくら嬉しかったり、互いに好きと思っているからといっても、いきなり抱きつくのは良くありませんわ……猛省しませんと。

「よし、顔も治ったところだし、そろそろ準備をしようか」

「え? エヴァン様も一緒に行かれるのですか?」

「当然だ。一緒にいなければ、何かあった時にこの剣で守れない。君が来るなと言うなら、家で留守番をしているが」

「とんでもありません! しかし、いいのですか? エヴァン様はお仕事で忙しいでしょう?」

 エヴァン様は、私のことを第一に考えて動いてくれております。これだけ見ていると、避ける時間があるように思えますが、そんなことはありません。

 私と一緒にいない時のエヴァン様は、朝の鍛錬以外は常に何かの仕事に追われております。社交界にも出ないといけないので、夜中にお帰りになることだってあります。

 だというのに、エヴァン様は詰められる仕事は詰めて、私の時間を何とか作ってくれているのです。
 そんな事情を知っていたら、簡単にお願いしますなんて言えるわけがありませんわ。

「それは問題無い。君が気にするような内容ではない」

「ですが……」

「心配してくれるのは、とても嬉しい。だが、もし何かあった時に、自分が一緒にいれば助けられたのにと、一生後悔するのは……嫌なんだ」

 その気持ちは、私にも痛いほどわかります。もしも、ローランお兄様が亡くなる直前に私が一緒にいれば、聖女の力で助けられたかもしれないと、何度も思ったことがありますもの。

 エヴァン様もきっと同じ様な気持ちなのでしょうね……そう考えると、これ以上断るなんて出来ません。

「エヴァン様……わかりました。もし何かあってお怪我をされた時は、全力で治療させていただきますわ」

「ああ、頼りにしている」

「それと……あなたのことですから、気にするなって仰ると思いますが……何かお礼をさせてください。このままでは、私の気が収まりません」

 私に出来ることなんて、大それたことはありませんが、これでも色々と家事の練習をしてきたおかげで、出来ること自体は増えてきました。きっと、エヴァン様のお役に立てるはずです。

「そうだな……うん……」

 なにかを考えるような素振りを見せながら、チラッとだけ私を見ました。それから間もなく、すぐに視線を逸らされてしまいました。

「主様、既にシエル様にお気持ちを伝えているのですから、もっとガンガンいきませんと」

「え? エリン、どうしてそのことまで知っておりますの?」

「それはもちろん、あの時のお二人のやり取りを全て覗――ごほん、見守っておりましたので」

 覗くって言いかけましたわよね!? 私、聞き逃しておりませんよ!? それに、こっそり見守るのもあまり変わりませんわ!
 ……あ、だからさっき、押し倒せみたいなことを仰っていたのですね!?

「私はお二人が一日でも早く結ばれ、幸せになってほしいのです」

「エリン、気持ちは嬉しいが、彼女にも色々と都合がある。そういうのを押し付けるのは感心しない」

「それは大変失礼いたしました。では、過剰にではなく、適度に口を出させていただきます」

 あ、そこはやめるって言わないんですね……てっきり、反省してもうやらないってなるところかと。

「それで主様、お礼の件はどうされるのですか?」

「…………」

 黙りこくったエヴァン様の視線が、再び私の顔へと向けられました。

 ただ、視線が私の目ではなく、少しだけ下の方に向けられていたのが、少しだけ気になりました。

 ……私の体を見ている? 私の貧相な体なんて見ても、なにも面白い事はありませんし、そもそも体にしては、少々視線が上すぎる気がしますわ。

「主様、煽っておいてなんですが、それは少々ステップアップしすぎな気がしますわ」

「っ……!? なぜ気づかれたんだ……」

「何年あなた様に仕えていると思っているのですか? それくらい、簡単にわかります」

 ……? 一体何のお話かは分かりませんけど、結局私は何をすればいいのでしょう。

 それを私を知ることは出来ず、私はエリンに身支度を整えてもらってから、エヴァン様と一緒に馬車に乗りこみました。
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