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第十二話 私って実は無能では……
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「ごちそうさまでした。今日のお食事も、とてもおいしかったですわ」
無事にエヴァン様の鍛錬が終わった後、今日も私の部屋での朝食となりました。パンやスープを主体としたメニューで、とても満足ですわ。
「それはよかった。なにか食べたいものがあれば、コックに希望を出すが?」
「これが食べたいというのはありませんが……エヴァン様と一緒に食事がしたいです」
「……俺?」
私の言葉の意図が伝わらなかったのか、エヴァン様はキョトンとしておりました。
「はい。同じものでも、あなたと食べるとおいしく感じるんです。あなたは、そういうのはございませんか?」
「よくわからない。だが……そうだな。一人よりも、君と一緒の方が、とても……楽しい」
「私もとっても楽しいです。他愛ない話でも、お互いの好きなことや嫌いなことの話でも、他にも色々……どれも楽しいですわ!」
実家にいた時は、誰かと食事をするのはもちろんのこと、こうやってまともな会話をしたことすらほとんどございません。
唯一覚えているまともな会話など、ローランお兄様とくらいしかありませんもの。
「それはよかった。本当は、もう少し君と会話をしていたいのだが……そろそろ仕事に取り掛からないといけない」
「そうですか、残念です……」
ワガママを言って困らせてはいけないとわかってはいますが、それでももう少しエヴァン様と一緒に過ごしたかったですわ……。
「俺は自室で仕事をしているから、君は自由に過ごしていてくれ」
そう仰って立ち上がったエヴァン様の手を、咄嗟に掴んでしまいました。
こうなれば、当然エヴァン様は固まってしまうわけで……。
「………………」
私ってば、一体何をしておりますの? こんなことを突然すれば、固まってしまうのは当然なのに、一緒にいたいからって手を掴んで……!
とにかく、なんとかエヴァン様を落ち着かせませんと!
「え、えっと……エヴァン様、落ち着いてくださいませ。深呼吸をしてください」
「深呼吸……すー……はー……」
よかった、先程よりも顔の強張りが取れましたわね。これなら、私の言葉を聞いてくれそうです。
「こうやって触れ合っても、緊張する必要なんてありませんわ。大丈夫、大丈夫」
「シエル……俺のために、わざと?」
「え、えーっと……そ、そんなところです……あはは……せっかくご縁があって婚約したのに、まともに触れ合いすらできないなんて、そんなの寂しいではありませんか」
咄嗟に誤魔化しつつも、ニッコリと微笑んで見せました。
私はお姉様の代わりで、愛の無い婚約ではありますが……エヴァン様となら、まるで愛のある婚約をしたお方の様に、触れ合いたいと本当に思いますし、力になりたいとも思いますの。とても不思議ですわ。
「少しずつ、こうして触れ合うことに慣れていきましょう。大丈夫、あなたの婚約者として、いくらでもお付き合いいたしますわ」
「……ありがとう、シエル。君はやはり、優しい人だな」
私は……優しくなんてありません。本当に優しい人が、自分の家族に復讐をしたいだなんて、普通は思わないでしょう?
……なんて自虐をしているうちに、エヴァン様は今度こそ私の部屋を出て行ってしまいました。
「さてと、自由にとは言われましたけど……何をすればいいのでしょう?」
ベッドに腰を掛けた私は、腕を組みながらう~んと考え込む。
実家にいる時は、公務が無い時は屋敷の雑用をずっとやらされていて、他はお忍びで領民に会いにいってました。
たまに僅かに時間が空いた時は、ぼんやりと外を眺めて過ごしておりました。
ですが、ここの生活で雑務なんてやらされないでしょうし……そうですわ!
「エレン。昨日からとてもお世話になっているので、少しでも何か返せることがしたいのですが」
「シエル様。お気持ちは大変嬉しいのですが、私達はあなた様から見返りを求めて行動をしているわけではありませんので、お返しとか気になさらなくて結構です」
「ありがとうございます、エレン。ですが、私は自分がやりたくて言っていますの。だって、また二日目だというのに、こんなに胸が暖かくなるほど、皆様に優しくしてもらっているのですから」
私の家は、とんでもない不義理なことをしたのだから、この家で迫害されてもおかしくないのに、皆様はそれとは真逆のことをしてくださってくれてます。
それなら、こちらも誠意を持った行動をしたいと思うのは、自然なことではありませんか?
「なんでも仰ってください。私の出来ることといえば、聖女の力での治療と……掃除と……それと……あ、あれ? 私、よくよく考えたら……治療と掃除以外、まともなことが出来ないのではなくて……??」
この家の公務はもちろん、料理も洗濯も裁縫も出来ません。
そんな、なんてことですの……私って、こんなにも無能でしたの? これでは、私は婚約者という立場を利用して、極潰しをしているようなものではありませんか!
「こ、これではいけませんわ……目的を達成する方法を考えるのも大切ですが、恩返しも大切! エレン、私に色々教えてくださいまし!」
「は、はぁ……?」
……決めましたわ。私のために色々してくれるエヴァン様やエリン達に恩返しをするために、色々できるようになりましょう。
もちろん、目的を達成することも忘れておりません。現状では何も手が出せないので、何か方法を考えながら、色々と覚えていきましょう!
無事にエヴァン様の鍛錬が終わった後、今日も私の部屋での朝食となりました。パンやスープを主体としたメニューで、とても満足ですわ。
「それはよかった。なにか食べたいものがあれば、コックに希望を出すが?」
「これが食べたいというのはありませんが……エヴァン様と一緒に食事がしたいです」
「……俺?」
私の言葉の意図が伝わらなかったのか、エヴァン様はキョトンとしておりました。
「はい。同じものでも、あなたと食べるとおいしく感じるんです。あなたは、そういうのはございませんか?」
「よくわからない。だが……そうだな。一人よりも、君と一緒の方が、とても……楽しい」
「私もとっても楽しいです。他愛ない話でも、お互いの好きなことや嫌いなことの話でも、他にも色々……どれも楽しいですわ!」
実家にいた時は、誰かと食事をするのはもちろんのこと、こうやってまともな会話をしたことすらほとんどございません。
唯一覚えているまともな会話など、ローランお兄様とくらいしかありませんもの。
「それはよかった。本当は、もう少し君と会話をしていたいのだが……そろそろ仕事に取り掛からないといけない」
「そうですか、残念です……」
ワガママを言って困らせてはいけないとわかってはいますが、それでももう少しエヴァン様と一緒に過ごしたかったですわ……。
「俺は自室で仕事をしているから、君は自由に過ごしていてくれ」
そう仰って立ち上がったエヴァン様の手を、咄嗟に掴んでしまいました。
こうなれば、当然エヴァン様は固まってしまうわけで……。
「………………」
私ってば、一体何をしておりますの? こんなことを突然すれば、固まってしまうのは当然なのに、一緒にいたいからって手を掴んで……!
とにかく、なんとかエヴァン様を落ち着かせませんと!
「え、えっと……エヴァン様、落ち着いてくださいませ。深呼吸をしてください」
「深呼吸……すー……はー……」
よかった、先程よりも顔の強張りが取れましたわね。これなら、私の言葉を聞いてくれそうです。
「こうやって触れ合っても、緊張する必要なんてありませんわ。大丈夫、大丈夫」
「シエル……俺のために、わざと?」
「え、えーっと……そ、そんなところです……あはは……せっかくご縁があって婚約したのに、まともに触れ合いすらできないなんて、そんなの寂しいではありませんか」
咄嗟に誤魔化しつつも、ニッコリと微笑んで見せました。
私はお姉様の代わりで、愛の無い婚約ではありますが……エヴァン様となら、まるで愛のある婚約をしたお方の様に、触れ合いたいと本当に思いますし、力になりたいとも思いますの。とても不思議ですわ。
「少しずつ、こうして触れ合うことに慣れていきましょう。大丈夫、あなたの婚約者として、いくらでもお付き合いいたしますわ」
「……ありがとう、シエル。君はやはり、優しい人だな」
私は……優しくなんてありません。本当に優しい人が、自分の家族に復讐をしたいだなんて、普通は思わないでしょう?
……なんて自虐をしているうちに、エヴァン様は今度こそ私の部屋を出て行ってしまいました。
「さてと、自由にとは言われましたけど……何をすればいいのでしょう?」
ベッドに腰を掛けた私は、腕を組みながらう~んと考え込む。
実家にいる時は、公務が無い時は屋敷の雑用をずっとやらされていて、他はお忍びで領民に会いにいってました。
たまに僅かに時間が空いた時は、ぼんやりと外を眺めて過ごしておりました。
ですが、ここの生活で雑務なんてやらされないでしょうし……そうですわ!
「エレン。昨日からとてもお世話になっているので、少しでも何か返せることがしたいのですが」
「シエル様。お気持ちは大変嬉しいのですが、私達はあなた様から見返りを求めて行動をしているわけではありませんので、お返しとか気になさらなくて結構です」
「ありがとうございます、エレン。ですが、私は自分がやりたくて言っていますの。だって、また二日目だというのに、こんなに胸が暖かくなるほど、皆様に優しくしてもらっているのですから」
私の家は、とんでもない不義理なことをしたのだから、この家で迫害されてもおかしくないのに、皆様はそれとは真逆のことをしてくださってくれてます。
それなら、こちらも誠意を持った行動をしたいと思うのは、自然なことではありませんか?
「なんでも仰ってください。私の出来ることといえば、聖女の力での治療と……掃除と……それと……あ、あれ? 私、よくよく考えたら……治療と掃除以外、まともなことが出来ないのではなくて……??」
この家の公務はもちろん、料理も洗濯も裁縫も出来ません。
そんな、なんてことですの……私って、こんなにも無能でしたの? これでは、私は婚約者という立場を利用して、極潰しをしているようなものではありませんか!
「こ、これではいけませんわ……目的を達成する方法を考えるのも大切ですが、恩返しも大切! エレン、私に色々教えてくださいまし!」
「は、はぁ……?」
……決めましたわ。私のために色々してくれるエヴァン様やエリン達に恩返しをするために、色々できるようになりましょう。
もちろん、目的を達成することも忘れておりません。現状では何も手が出せないので、何か方法を考えながら、色々と覚えていきましょう!
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