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第六話 恐ろしい婚約者?
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応接室に入ると、そこには一人の男性が座っておりました。
空に浮かぶ美しい月のような、サラサラな金の髪に、ルビーのように赤く輝く切れ長な目が特徴的な、とても美しい男性です。
彼が、この家の若き当主であり、私の新しい婚約者でもある、エヴァン・シャルディー伯爵様ですわ。
「失礼します、エヴァン様。お久しぶりでございます。息災そうでなによりですわ」
「…………」
エヴァン様は黙ったまま、スッと手を差し出して私をソファに座るように促してくださいました。
無表情なので感情が読みにくいですが、一応歓迎されているという認識でよろしいのでしょうか……いえ、勝手に決めるのはあまりにも悪手ですわね。
「…………」
「…………」
ち、沈黙がつらい……私から何か話しだせばいいのですが、お相手のことを全然知らないせいで、話のきっかけを見つけることが出来ません。
ですが、このまま黙っているわけにもまいりませんし……と、とりあえず今回の一件のことを謝罪しませんと。
「エヴァン様。此度の件は、大変申し訳ございませんでした。こちらの都合で一方的に婚約を破棄したこと、大変ご立腹でしょう」
「……気にしなくていい」
ようやく会話が出来たことは喜ばしいですが、これを果たして会話と表現していいのか、甚だ疑問ではございますわね……。
「ですが……」
「結婚相手の変更は……俺としても好都合だった」
「??」
好都合というのは、一体どういう意図なのでしょう? あまりにも言葉足らずなせいでわかりにくいですが、とりあえず今回の件は許してもらえそうな雰囲気です。
「今日は疲れただろう。話はまた明日にして、今日は君の部屋でゆっくりしてほしい」
「わ、わかりました」
エヴァン様は立ち上がると、そのまま部屋の扉を開けてくださいました。
どうやら、今日はこれ以上のことは話すつもりは無いようですわね。
ここは言われた通り、部屋でゆっくりと休ませてもらいましょう。正直、色々あって心身ともに疲れていますし……。
「その、これからよろしくお願いいたします」
望まない形だったとはいえ、私はこのお方と後々に結婚させていただくのだから、最低限の礼儀は必要ですわ。
だから、挨拶をするために、握手を求めたのですが……なぜかエヴァン様は、私の手をチラッと見てから、すぐに目をそらしてしまいました。
「……エヴァン様?」
「あ、ああ。よろしく頼む」
おずおずと差し出された手を掴むと、大小様々な固いもので、手のひらを押される感覚を覚えました。
これって、手に出来たタコですわよね? シャルディー家は代々剣術に長けている家とはお聞きしていましたが、どうやら本当の様ですわね。
だって、たくさん剣を握らなければ、こんな沢山タコができるはずがありませんもの。
「…………」
「……あの、エヴァン様?」
「…………」
握手というのは、大体が数秒で終わるものだと思っていたのですが、いつまでたってもエヴァン様が手を離してくれません。まるで、エヴァン様の時が止まってしまったみたいに、何の反応も無くなってしまいました。
「エヴァン様!」
「……あ、ああすまない。なんだ?」
「その、そろそろ手を離してもらえると……」
「手……? こ、これは失礼した」
いつも無表情で、言葉や態度も変わらないという印象でしたが、今みたいに慌てることもございますのね。初日から新しい発見がありましたわ。
「私こそ、握手なんて求めて申し訳ございませんでした」
「……気にする必要は無い。挨拶で握手は、おかしなことではない」
「そう言ってくださると、とても心が楽になりますわ。では、失礼いたします」
ドレスの裾を持って頭を下げた私は、先程の初老の使用人に連れられて、歩きだしました。
……ちょっと変わったところはありますが、評判のような恐ろしいお方ではないような気がしてきました。
むしろ、色々と気を使ってくださっているような、優しいお方という第一印象でした。
「……さ、触ってしまった……女性に触ると酷く緊張してしまうのに、よりにもよってあのシエルと……変に思われてないだろうか……いや、それよりもシエルに随分と気を使わせてしまったようだな……俺としては、大変喜ばしいことだというのに……どうすれば伝わるだろうか……」
空に浮かぶ美しい月のような、サラサラな金の髪に、ルビーのように赤く輝く切れ長な目が特徴的な、とても美しい男性です。
彼が、この家の若き当主であり、私の新しい婚約者でもある、エヴァン・シャルディー伯爵様ですわ。
「失礼します、エヴァン様。お久しぶりでございます。息災そうでなによりですわ」
「…………」
エヴァン様は黙ったまま、スッと手を差し出して私をソファに座るように促してくださいました。
無表情なので感情が読みにくいですが、一応歓迎されているという認識でよろしいのでしょうか……いえ、勝手に決めるのはあまりにも悪手ですわね。
「…………」
「…………」
ち、沈黙がつらい……私から何か話しだせばいいのですが、お相手のことを全然知らないせいで、話のきっかけを見つけることが出来ません。
ですが、このまま黙っているわけにもまいりませんし……と、とりあえず今回の一件のことを謝罪しませんと。
「エヴァン様。此度の件は、大変申し訳ございませんでした。こちらの都合で一方的に婚約を破棄したこと、大変ご立腹でしょう」
「……気にしなくていい」
ようやく会話が出来たことは喜ばしいですが、これを果たして会話と表現していいのか、甚だ疑問ではございますわね……。
「ですが……」
「結婚相手の変更は……俺としても好都合だった」
「??」
好都合というのは、一体どういう意図なのでしょう? あまりにも言葉足らずなせいでわかりにくいですが、とりあえず今回の件は許してもらえそうな雰囲気です。
「今日は疲れただろう。話はまた明日にして、今日は君の部屋でゆっくりしてほしい」
「わ、わかりました」
エヴァン様は立ち上がると、そのまま部屋の扉を開けてくださいました。
どうやら、今日はこれ以上のことは話すつもりは無いようですわね。
ここは言われた通り、部屋でゆっくりと休ませてもらいましょう。正直、色々あって心身ともに疲れていますし……。
「その、これからよろしくお願いいたします」
望まない形だったとはいえ、私はこのお方と後々に結婚させていただくのだから、最低限の礼儀は必要ですわ。
だから、挨拶をするために、握手を求めたのですが……なぜかエヴァン様は、私の手をチラッと見てから、すぐに目をそらしてしまいました。
「……エヴァン様?」
「あ、ああ。よろしく頼む」
おずおずと差し出された手を掴むと、大小様々な固いもので、手のひらを押される感覚を覚えました。
これって、手に出来たタコですわよね? シャルディー家は代々剣術に長けている家とはお聞きしていましたが、どうやら本当の様ですわね。
だって、たくさん剣を握らなければ、こんな沢山タコができるはずがありませんもの。
「…………」
「……あの、エヴァン様?」
「…………」
握手というのは、大体が数秒で終わるものだと思っていたのですが、いつまでたってもエヴァン様が手を離してくれません。まるで、エヴァン様の時が止まってしまったみたいに、何の反応も無くなってしまいました。
「エヴァン様!」
「……あ、ああすまない。なんだ?」
「その、そろそろ手を離してもらえると……」
「手……? こ、これは失礼した」
いつも無表情で、言葉や態度も変わらないという印象でしたが、今みたいに慌てることもございますのね。初日から新しい発見がありましたわ。
「私こそ、握手なんて求めて申し訳ございませんでした」
「……気にする必要は無い。挨拶で握手は、おかしなことではない」
「そう言ってくださると、とても心が楽になりますわ。では、失礼いたします」
ドレスの裾を持って頭を下げた私は、先程の初老の使用人に連れられて、歩きだしました。
……ちょっと変わったところはありますが、評判のような恐ろしいお方ではないような気がしてきました。
むしろ、色々と気を使ってくださっているような、優しいお方という第一印象でした。
「……さ、触ってしまった……女性に触ると酷く緊張してしまうのに、よりにもよってあのシエルと……変に思われてないだろうか……いや、それよりもシエルに随分と気を使わせてしまったようだな……俺としては、大変喜ばしいことだというのに……どうすれば伝わるだろうか……」
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