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第23話 不正疑惑と謎の悪評
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「よし……次までに、さっき言った部分の修正が終われば、いよいよ完成だ」
「わかったわ」
エクエス家での一件があってから、数カ月の時が流れた――私は今日もイズダーイに来て、ユースさんと一緒に次作の話し合いをしていた。
現状は特に大きな問題もなく、順調に書き進められている。このままいけば、もう少し頑張れば完成出来そうだわ。
「とりあえず今日はこれで終わりだが……解散する前に、話しておきたい事がある」
「え、急にどうしたの?」
なんか随分と真剣な顔だけど……なにかあったのかしら?
「この本、知ってるか?」
「あ、つい最近出版された本よね。確か冒険活劇で、恋愛要素もあるって聞いてるわ。まだ読んではいないけど……」
「ああ。この本がかなり売れていてな。もしかしたら、次のベストセラーになる可能性がある」
ベストセラー……そこまで面白いって事ね。このまま順調に進んで二冊目を出版で来た時は、かなり手ごわいライバルになりそうだわ。
「ちょっと今読んでみてくれないか?」
「え、いいけど……全部?」
「序盤だけで良い」
この場で読ませたいほど面白いのかしら。ユースさんのお願いだし、さっそく読んでみましょう。
えーっと……ん? 主人公の名前はアベル……ヒロインのニーナという少女と一緒に、お宝を探して冒険に出発する……ちょっと待って、これって!?
「気づいたか?」
「この主人公とヒロイン、あいつらと名前が同じじゃないの! 偶然なわけないわよね!?」
「おそらく。この先を読んでいくとわかるが、主人公はかなりナルシストだし、ヒロインはかなりワガママなのがわかる。アベルと話した事がないから性格は知らんが、ニーナは非常に似ている……いや、瓜二つと言ってもいい」
ナルシスト……確かに現実のアベル様はいつも自分が美しいって言ってるし、ナルシストと思って間違いないわ。
それにしても、一体誰が書いてるのかしら。キャラはアレだけど、序盤の展開は王道で面白いから、素人が書いてるとは思えない。
「どう考えても素人が書いたものじゃない……アベル様が誰かに書かせて出版したものよね」
「十中八九そうだろうな。それで、序盤を読んだ感想は?」
「……内容は普通に面白いけど、主人公とヒロインのキャラが一々鬱陶しいっていうか……私が二人の事を嫌ってるからそう感じるだけ……?」
「編集部でも同意見だ。せっかく面白いのに、この二人のせいで台無しだって」
よかった、私だけが感じてる事じゃなかったのね。私個人の感想としては、主人公のナルシストな発言や、ヒロインのワガママな発言が、いちいちイライラして楽しめないって感じ。
でも、話自体が面白いのは事実。このキャラを許容できる読者にだったら楽しめる作品になってるって印象かな。
「この本が売れているの?」
「ああ。不自然なくらいに売れている」
「不自然? 引っかかる言い方ね」
「データを取ったんだが……初日から相当な数が売れて、売れない日は全然売れていない。グラフにもしてみたんだが、こんなにデコボコなグラフは見た事がない」
「うわ、本当にデコボコだわ」
ユースさんに差し出された紙には、極端なくらいデコボコな縦グラフが書かれていた。私はこういったデータに関しては素人だけど、それでも変なグラフだと感じるくらいには変だわ。
「……もしかして、アベル様が本の売り上げを増やすために、誰かに頼んで大量購入させてる可能性ってない? もしくは自分で買ってるとか」
「鋭いな。俺はそうみている。もしこの仮定が正しいなら、購入を依頼した、もしくは自分で買った日の売り上げが異常に伸びて、そうじゃない日は極端に低いと言う事に結びつけられる」
うわぁ……なにその卑怯なやり方……完全に不正じゃないの。お金にものを言わせたやり方って感じね。
けど、売り上げが伸びればこの本は人気で売れてる! って宣伝が出来るし、そこから一般の人が興味を持って、買ってみようかなーって展開に持っていける。あながち間違ったやり方ではないのかも?
「それとだな……これは聞いた話なんだが……」
「……?」
「最近、ティアの出した本の悪口や悪評が出回っていてな」
「悪評!? ど、どういう事!?」
「内容はくだらない……難癖と言ってもいいくらいだ。だが、それが最近どんどん広まっているのか、ティアの本の売り上げが落ちてきている。イズダーイにも、悪評に関しての抗議の手紙が届いているくらいだ」
そんな……私の物語に酷い事を言う人がいるなんて……あ、もしかして!
「ユースさん、その悪評の出どころって――」
「おそらく妹、だろうな。アベルと協力して社交界に噂をばらまいて、そこから庶民にも拡散させたんだろう」
「くっ……なんなのよあいつらっ!!」
アベル様やニーナへの怒りが抑えきれなくなった私は、両腕を振り上げて思い切り机を叩いてしまった。
売り上げを自作自演するどころか、一生懸命書いた私の本の悪評を流すなんて、どれだけ私に嫌がらせをすれば気が済むのよ!!
「落ち着け。あいつらが確実にやった保証はない」
「そうだけど! でも、どう考えてもあいつらがやったとしか思えないわ!」
「そうだな……悔しいか?」
「悔しいわよ! こんな汚い事をして、私の大切な物語を……! ファンの人達に変な事まで吹き込んで……!」
百歩譲って、あいつらの不正で売り上げが負けるのは良いわ。でも……でも! 難癖みたいな事を言って、私の大切な物語をバカにするのは許せない! それに、もし悪評を聞いたファンの人達が悲しい思いをしていたらって思うと、申し訳なくなってしまう。
「……こいつを見てくれ」
「えっ? きゃあ!」
ユースさんは一度廊下に出ると、両手に大きな紙袋を持って戻ってきた。
す、すごい量だけど……一体何が入ってるのかしら? もしかして、さっきな悪評が書かれた手紙とか!? そ、そんなの見たくないわよ……。
「どうした、そんな悲しい顔をして」
「だってそれ、さっき言ってた悪評関連の手紙でしょう……?」
「違う。良いから好きなのを読んでみろ」
ユースさんに促された私は、緊張で震える手で手紙を一通取ると、ゆっくりと開けた。
そこには、子供が書いたような文字で、
『びょーきのおねーちゃんがね、このごほんをよんで、えがおになったの。さくしゃさん、ありがとう!』
と書かれていた。それ以外の手紙も見てみると、
『これからも応援してます』
『変な噂に負けないで!』
『学園のみんながファンです。みんな応援しています。次の作品も楽しみにしています! でもお身体には気をつけてください』
『あんな噂なんかにファンは屈しません! 新刊が出たら、必ず買います!!』
『これを読んだら若い頃を思い出してのぉ。思わず手紙を送ってしまったわい。忘れていたこの恋心を思い出させてくれてありがとうのぅ』
これはほんの一部だけど、どれもこれも、私の応援をしてくれる、とっても素敵なファンレターだった。一通一通に思いが込められていて、それが嬉しくて……気づいたら涙が頬を伝っていた。
「大丈夫か?」
「ええ、大丈夫。ファンのみんな、私を待ってくれてるのね……」
「そうだ。ベストセラーを取った時よりも、ここ数日のファンレターの数の方が圧倒的に多い。きっと悪評を聞いて、ティアを元気づけたいって思ってくれたんだろう」
「うっ……ぐすっ……」
なによ、なんなのよぉ……なんでみんなそんなに優しくしてくれるのよぉ……嬉しくて、申し訳なくて、感情がぐちゃぐちゃよ……。
「読者達は、ティアを待っている。そんな読者のためにティアが出来る事は、最高の作品を俺と作る事だ。あいつらがどう足掻いても勝てないと思えるほどに」
「え……?」
「作品で売られた喧嘩は作品で買うという事だ。大丈夫、今書いてる作品は一作目と同じか、それ以上に面白い」
ユースさんは私の頬を伝る涙をぬぐい取りながら、そのまま頬に手を当てる。その目はとても真っすぐで、私の事を一切信じて疑わない……そんな目だった。
「私、書く。あんな人達になんか、絶対に負けない」
「ああ」
「悪評が何よ! 売れてるから何よ! そんなになんか、私は負けない!」
「それでこそ俺の愛した女だ。だが気負い過ぎは良くない。今まで通り、一緒に丁寧に作品を作ろう」
「わかった。ユースさん、ありがとう」
「俺は何もしてない。感謝するなら、読者の方々にな」
「読者の方にもする。でも……ユースさんには、もっとする」
そう言いながら、私はユースさんの胸にそっと寄り添いながら、静かに目を閉じた。
絶対に負けないんだから……あんな卑怯な人達に、私の物語を、私の子供と言えるキャラクター達をバカにされたままで終わらせるものですか!!
****
その日からも、私は毎日書き続けた。私の物語を面白いと言ってくれた読者のために。私に嫌がらせをしてきたあいつらに勝つために。少しでも早く、マリーをもっと楽にしてあげるために。そして……愛するユースさんに喜んでもらうために。
書いて、勉強して、書いて、書いて、それをユースさんに確認してもらい、アドバイスをもらったところを直しながらまた書いて。そんな日を続けていたら、ユースさんに息抜きも必要だと言われて……デートなんかも行ったりして。
そんな日々を続けている間に、アベル様の本はかなりの量が売れたようだ。最近では本屋さんによくある、おススメの棚に並んでいる事が多くなっている。その棚には、元々私の本があったんだけれど、売り上げが落ちたせいで追いやられてしまい、アベル様の本が置かれているというのが現状だ。
「悔しいわ……やっぱり、あの悪評のせいなのかしら……」
私はイズダーイから家に帰る途中、夕焼け色に染まる草原の街道を歩きながら、ボソッと呟いた。
ユースさんに、どんな悪評や抗議の手紙が来たのかを聞いた事があるんだけど、絶対に教えてくれなかった。優しいユースさんの事だから、聞いても教えてくれないと思ってたから、案の定ってやつだわ。
はぁ……あーもう、ちょっと気を抜くとアベル様の物語の事や、私の物語の悪評の事ばかりを考えちゃうわ。考えても仕方ないんだから、もっと楽しい事を考えましょう!
「楽しい事……この前のデート、楽しかったなぁ」
息抜きという事で、お休みの日にユースさんと一緒にケーキバイキングに行ってきたの。そうしたらビックリ! ユースさんって凄い甘いものが大好きで、たくさんごはんを食べる私の倍くらいの量のケーキを食べてたのよ! 何度も食事は一緒に行ってて、あまり食べない人だなーと思ってたのに、本当にビックリだったわ!
詳しく聞いてみたら、「甘いものは別腹だ」って言ってて、大笑いしちゃったの。それを言うのって若い女性だよねって!
そうしたら、ちょっとだけ拗ねちゃって……いつも大人びてるユースさんが拗ねてるのが、もう可愛くて可愛くて! 思い出すだけでパン十斤は食べられそう!
「ふふっ……ユースさんとの楽しい思い出を思い出すだけで、嫌な事なんて全部忘れられちゃうわ」
嫌な事を忘れられるどころか、胸が幸せでいっぱいになっちゃうのよね。本格的に執筆をするようになってからは、妄想をする機会が減っちゃったけど、やろうと思えばユースさんとの妄想で一日過ごせる自信があるくらい幸せだわ。
「よーし、ユースさんの事を考えたおかげで、元気が出てきたわ! 早速帰って指摘された部分を直し――え?」
気合いを入れて歩き出した私の先には、私とマリーが住んでいる小屋が見えるんだけど……なんか随分とカラフルに見える。あんなに派手じゃなかったはず……まさか!?
「はぁ……! はぁ……! はぁ……!」
全速力でダッシュをして家に帰ると、家の前で呆然と眺めるマリーと、家の壁に書かれた、大量の落書きが私を出迎えた――
「わかったわ」
エクエス家での一件があってから、数カ月の時が流れた――私は今日もイズダーイに来て、ユースさんと一緒に次作の話し合いをしていた。
現状は特に大きな問題もなく、順調に書き進められている。このままいけば、もう少し頑張れば完成出来そうだわ。
「とりあえず今日はこれで終わりだが……解散する前に、話しておきたい事がある」
「え、急にどうしたの?」
なんか随分と真剣な顔だけど……なにかあったのかしら?
「この本、知ってるか?」
「あ、つい最近出版された本よね。確か冒険活劇で、恋愛要素もあるって聞いてるわ。まだ読んではいないけど……」
「ああ。この本がかなり売れていてな。もしかしたら、次のベストセラーになる可能性がある」
ベストセラー……そこまで面白いって事ね。このまま順調に進んで二冊目を出版で来た時は、かなり手ごわいライバルになりそうだわ。
「ちょっと今読んでみてくれないか?」
「え、いいけど……全部?」
「序盤だけで良い」
この場で読ませたいほど面白いのかしら。ユースさんのお願いだし、さっそく読んでみましょう。
えーっと……ん? 主人公の名前はアベル……ヒロインのニーナという少女と一緒に、お宝を探して冒険に出発する……ちょっと待って、これって!?
「気づいたか?」
「この主人公とヒロイン、あいつらと名前が同じじゃないの! 偶然なわけないわよね!?」
「おそらく。この先を読んでいくとわかるが、主人公はかなりナルシストだし、ヒロインはかなりワガママなのがわかる。アベルと話した事がないから性格は知らんが、ニーナは非常に似ている……いや、瓜二つと言ってもいい」
ナルシスト……確かに現実のアベル様はいつも自分が美しいって言ってるし、ナルシストと思って間違いないわ。
それにしても、一体誰が書いてるのかしら。キャラはアレだけど、序盤の展開は王道で面白いから、素人が書いてるとは思えない。
「どう考えても素人が書いたものじゃない……アベル様が誰かに書かせて出版したものよね」
「十中八九そうだろうな。それで、序盤を読んだ感想は?」
「……内容は普通に面白いけど、主人公とヒロインのキャラが一々鬱陶しいっていうか……私が二人の事を嫌ってるからそう感じるだけ……?」
「編集部でも同意見だ。せっかく面白いのに、この二人のせいで台無しだって」
よかった、私だけが感じてる事じゃなかったのね。私個人の感想としては、主人公のナルシストな発言や、ヒロインのワガママな発言が、いちいちイライラして楽しめないって感じ。
でも、話自体が面白いのは事実。このキャラを許容できる読者にだったら楽しめる作品になってるって印象かな。
「この本が売れているの?」
「ああ。不自然なくらいに売れている」
「不自然? 引っかかる言い方ね」
「データを取ったんだが……初日から相当な数が売れて、売れない日は全然売れていない。グラフにもしてみたんだが、こんなにデコボコなグラフは見た事がない」
「うわ、本当にデコボコだわ」
ユースさんに差し出された紙には、極端なくらいデコボコな縦グラフが書かれていた。私はこういったデータに関しては素人だけど、それでも変なグラフだと感じるくらいには変だわ。
「……もしかして、アベル様が本の売り上げを増やすために、誰かに頼んで大量購入させてる可能性ってない? もしくは自分で買ってるとか」
「鋭いな。俺はそうみている。もしこの仮定が正しいなら、購入を依頼した、もしくは自分で買った日の売り上げが異常に伸びて、そうじゃない日は極端に低いと言う事に結びつけられる」
うわぁ……なにその卑怯なやり方……完全に不正じゃないの。お金にものを言わせたやり方って感じね。
けど、売り上げが伸びればこの本は人気で売れてる! って宣伝が出来るし、そこから一般の人が興味を持って、買ってみようかなーって展開に持っていける。あながち間違ったやり方ではないのかも?
「それとだな……これは聞いた話なんだが……」
「……?」
「最近、ティアの出した本の悪口や悪評が出回っていてな」
「悪評!? ど、どういう事!?」
「内容はくだらない……難癖と言ってもいいくらいだ。だが、それが最近どんどん広まっているのか、ティアの本の売り上げが落ちてきている。イズダーイにも、悪評に関しての抗議の手紙が届いているくらいだ」
そんな……私の物語に酷い事を言う人がいるなんて……あ、もしかして!
「ユースさん、その悪評の出どころって――」
「おそらく妹、だろうな。アベルと協力して社交界に噂をばらまいて、そこから庶民にも拡散させたんだろう」
「くっ……なんなのよあいつらっ!!」
アベル様やニーナへの怒りが抑えきれなくなった私は、両腕を振り上げて思い切り机を叩いてしまった。
売り上げを自作自演するどころか、一生懸命書いた私の本の悪評を流すなんて、どれだけ私に嫌がらせをすれば気が済むのよ!!
「落ち着け。あいつらが確実にやった保証はない」
「そうだけど! でも、どう考えてもあいつらがやったとしか思えないわ!」
「そうだな……悔しいか?」
「悔しいわよ! こんな汚い事をして、私の大切な物語を……! ファンの人達に変な事まで吹き込んで……!」
百歩譲って、あいつらの不正で売り上げが負けるのは良いわ。でも……でも! 難癖みたいな事を言って、私の大切な物語をバカにするのは許せない! それに、もし悪評を聞いたファンの人達が悲しい思いをしていたらって思うと、申し訳なくなってしまう。
「……こいつを見てくれ」
「えっ? きゃあ!」
ユースさんは一度廊下に出ると、両手に大きな紙袋を持って戻ってきた。
す、すごい量だけど……一体何が入ってるのかしら? もしかして、さっきな悪評が書かれた手紙とか!? そ、そんなの見たくないわよ……。
「どうした、そんな悲しい顔をして」
「だってそれ、さっき言ってた悪評関連の手紙でしょう……?」
「違う。良いから好きなのを読んでみろ」
ユースさんに促された私は、緊張で震える手で手紙を一通取ると、ゆっくりと開けた。
そこには、子供が書いたような文字で、
『びょーきのおねーちゃんがね、このごほんをよんで、えがおになったの。さくしゃさん、ありがとう!』
と書かれていた。それ以外の手紙も見てみると、
『これからも応援してます』
『変な噂に負けないで!』
『学園のみんながファンです。みんな応援しています。次の作品も楽しみにしています! でもお身体には気をつけてください』
『あんな噂なんかにファンは屈しません! 新刊が出たら、必ず買います!!』
『これを読んだら若い頃を思い出してのぉ。思わず手紙を送ってしまったわい。忘れていたこの恋心を思い出させてくれてありがとうのぅ』
これはほんの一部だけど、どれもこれも、私の応援をしてくれる、とっても素敵なファンレターだった。一通一通に思いが込められていて、それが嬉しくて……気づいたら涙が頬を伝っていた。
「大丈夫か?」
「ええ、大丈夫。ファンのみんな、私を待ってくれてるのね……」
「そうだ。ベストセラーを取った時よりも、ここ数日のファンレターの数の方が圧倒的に多い。きっと悪評を聞いて、ティアを元気づけたいって思ってくれたんだろう」
「うっ……ぐすっ……」
なによ、なんなのよぉ……なんでみんなそんなに優しくしてくれるのよぉ……嬉しくて、申し訳なくて、感情がぐちゃぐちゃよ……。
「読者達は、ティアを待っている。そんな読者のためにティアが出来る事は、最高の作品を俺と作る事だ。あいつらがどう足掻いても勝てないと思えるほどに」
「え……?」
「作品で売られた喧嘩は作品で買うという事だ。大丈夫、今書いてる作品は一作目と同じか、それ以上に面白い」
ユースさんは私の頬を伝る涙をぬぐい取りながら、そのまま頬に手を当てる。その目はとても真っすぐで、私の事を一切信じて疑わない……そんな目だった。
「私、書く。あんな人達になんか、絶対に負けない」
「ああ」
「悪評が何よ! 売れてるから何よ! そんなになんか、私は負けない!」
「それでこそ俺の愛した女だ。だが気負い過ぎは良くない。今まで通り、一緒に丁寧に作品を作ろう」
「わかった。ユースさん、ありがとう」
「俺は何もしてない。感謝するなら、読者の方々にな」
「読者の方にもする。でも……ユースさんには、もっとする」
そう言いながら、私はユースさんの胸にそっと寄り添いながら、静かに目を閉じた。
絶対に負けないんだから……あんな卑怯な人達に、私の物語を、私の子供と言えるキャラクター達をバカにされたままで終わらせるものですか!!
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書いて、勉強して、書いて、書いて、それをユースさんに確認してもらい、アドバイスをもらったところを直しながらまた書いて。そんな日を続けていたら、ユースさんに息抜きも必要だと言われて……デートなんかも行ったりして。
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「悔しいわ……やっぱり、あの悪評のせいなのかしら……」
私はイズダーイから家に帰る途中、夕焼け色に染まる草原の街道を歩きながら、ボソッと呟いた。
ユースさんに、どんな悪評や抗議の手紙が来たのかを聞いた事があるんだけど、絶対に教えてくれなかった。優しいユースさんの事だから、聞いても教えてくれないと思ってたから、案の定ってやつだわ。
はぁ……あーもう、ちょっと気を抜くとアベル様の物語の事や、私の物語の悪評の事ばかりを考えちゃうわ。考えても仕方ないんだから、もっと楽しい事を考えましょう!
「楽しい事……この前のデート、楽しかったなぁ」
息抜きという事で、お休みの日にユースさんと一緒にケーキバイキングに行ってきたの。そうしたらビックリ! ユースさんって凄い甘いものが大好きで、たくさんごはんを食べる私の倍くらいの量のケーキを食べてたのよ! 何度も食事は一緒に行ってて、あまり食べない人だなーと思ってたのに、本当にビックリだったわ!
詳しく聞いてみたら、「甘いものは別腹だ」って言ってて、大笑いしちゃったの。それを言うのって若い女性だよねって!
そうしたら、ちょっとだけ拗ねちゃって……いつも大人びてるユースさんが拗ねてるのが、もう可愛くて可愛くて! 思い出すだけでパン十斤は食べられそう!
「ふふっ……ユースさんとの楽しい思い出を思い出すだけで、嫌な事なんて全部忘れられちゃうわ」
嫌な事を忘れられるどころか、胸が幸せでいっぱいになっちゃうのよね。本格的に執筆をするようになってからは、妄想をする機会が減っちゃったけど、やろうと思えばユースさんとの妄想で一日過ごせる自信があるくらい幸せだわ。
「よーし、ユースさんの事を考えたおかげで、元気が出てきたわ! 早速帰って指摘された部分を直し――え?」
気合いを入れて歩き出した私の先には、私とマリーが住んでいる小屋が見えるんだけど……なんか随分とカラフルに見える。あんなに派手じゃなかったはず……まさか!?
「はぁ……! はぁ……! はぁ……!」
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