上 下
41 / 44

第四十一話 形勢逆転

しおりを挟む
 再び門の所に来ると、同じ人達が門を守っていた。ボーっと立つその姿は、操られていた人達と全く同じだった。

「来たのはいいけど、魔法ってどうやって使えばいいのかな?」
「心の中で、魔法を使うというイメージをすればいいのです」
「それだけ?」
「はい。ただ、使い過ぎには気をつけてください。魔法は体力を使うので、乱用すると倒れてしまいます」

 その情報は、今のうちに聞けて良かったかも。知らないで手当たり次第に助けた結果、自分が倒れちゃってたら意味が無いもんね。

「私が先に行きますので、後ろをお願いします」
「うん、わかった!」

 ラルフは前を、私は後ろを警戒しながら門番の所に行くと、さっきと同じ様に道を塞がれてしまった。

「パーティーの最中は、誰も出入りをさせるなと命じられている」
「さっきと同じ言葉ですね」
「きっと、魔法でそれだけを言うように操られているんだよ。すぐに助けてあげますからね!」

 私は心の中で、門番の二人に魔法を使うイメージをすると、体からあの青い光が出てきた。そして、光は二人を包み込み……ガラスが割れるような音と共に消えていった。

 さっきもこの音がしたよね? これって、魔法が上手くいって、魔法の力を解除できましたっていう、お知らせみたいなものなのかな?

「大丈夫ですか。しっかりしてください」

 光が消えると、二人はその場で膝をつき、息を荒くしていた。目を見ている感じだと、さっきの虚ろな目じゃなくなり、少し疲れた普通の人の目になっているように見える。

 もしかして、うまくいった……!?

「うぅ……ここは、一体……」
「俺達は……」
「落ち着いて聞いてください。ここがどこかはわかりますか?」
「ダニエル様の、屋敷の門だ」
「今日はパーティーだから、俺達が門番をしていたんだが……」

 ちゃんと喋れてる! 意思疎通ができてる! さっきまでは、一方的に命令内容を突き付けるだけだったのに! 私の魔法は成功したんだ!

「無事で良かったです!」
「……頭がボーっとするな……さっき綺麗な貴族のお嬢さんと話してから、なんか変だな」
「俺も……」

 それ、絶対にヴィオラお姉様だ……そのタイミングで、この人達に魔法を使ったんだね。

「お話中に申し訳ございません。今、この会場で大変なことが起こっているのです」

 ラルフが代表として、現状起こっていることを門番の二人に話すと、二人は驚愕の表情を浮かべていた。

 そうだよね、意識がボーっとしながら門番をしている間に、ダニエル様やマーヴィン様といった多くの貴族が魔の手に落ちていたら、驚くのは無理もない。

「とりあえず、なにかあった時の退路として、ここを確保したいのですが、可能でしょうか?」
「問題無い! ここは俺達が絶対に守ってみせるぜ!」
「だから、代わりに……ダニエル様を助けてくれ! あの人、いつもは温厚でとても良い人なんだ! こんな門番しか出来ない俺にも、優しく声をかけてくれて、たまにお茶まで誘ってくれて……ぐすっ、そんな人が悪い奴に操られてるなんてよお……!」
「大丈夫、任せてください!」

 この人にも、色々と思うことがあるんだろう。もう、こんな悲しいことを増やさないためにも、早く私の家族達と決着をつけなきゃ!

「さあ、ヴィオラ様とリンダ様の所に行きましょう。あのお二人のことですから、きっとマーヴィン様も近くにいらっしゃるかと」
「私の大切な人を近くで操って、優越感に浸ってそうだよね。さっきお父様が会場にいるって言ってたから、きっと二人もそこにいると思う!」

 私達は再び固く手を繋ぐと、婚約パーティーの会場の前へとやってきた。

 ここから先に進んだら、何が待っているかはわからない。でも、行くしかないよね。

「よし、行こう!」

 ラルフと一緒に会場の扉に手をやると、そのまま強く押す。中はさっきよりもボーっとしている人が増えていて、婚約パーティーなのに、まるでなにかの集会みたいだ。

 そんな中、私の家族達が楽しそうに談笑している姿を見つけた。近くにマーヴィン様はいないみたいだけど……どこにいるのかな……。

 いや、ここで考えていても仕方がない。まずは他の人達を助けて味方になってもらい、ヴィオラお姉様とリンダがこれ以上悪いことができないように捕まえないと!

「見つけた!!」
「……え、えぇ!? なんでシエルお姉様がここにいるの!?」

 まさか私が生きていると思っていなかったであろうリンダが、その大きな目を丸くして驚いていた。その隣にいるお父様とヴィオラお姉様も、驚きを隠せていなかった。

「バカな、ヴィオラの話では、貴様は死んだはず!」
「お久しぶりだというのに、最初の言葉がそれなんですね、お父様」

 別に再会を喜ぶ言葉をとかを期待していたわけじゃないけど、改めてこうして言われると、何となく胸がモヤモヤする。

「ヴィオラ、リンダ! 話が違うではないか!」
「落ち着いてくださいませ、お父様。どうやって助かったのかは存じませんが、それならそれで、やることは一つでしょう?」

 ヴィオラお姉様が指をパチンっと鳴らすと、さっきの兵達が一斉に集まり、私達に向けて戦闘態勢を取っていた。

 案の定、この人達の武力でどうにかするつもりなんだ。そう思った矢先、ヴィオラお姉様は、変なことを話し始めた。

「皆さん、聞いてください。この子はシエル。私の妹なのですが、私達を恨んでおりまして、パーティーを滅茶苦茶にしようとしております! 先程は私達を殺そうともしたんですよ! 彼女は危険です! なので、一緒に彼女達を排除しましょう!」
「あいつらは犯罪者なの! さっき、あいつらに殺されそうになって……怖かった! だから……あたしを守って~!」

 二つの魔法によって完全に操られてしまった貴族や兵士達の他にも、普通にしていた貴族の人達まで頭を抱えはじめ、そして襲いかかってきた。

 今の言葉で、駒を増やしたってことだね。こんなに多くの人を簡単に操るなんて、完全に人間離れしている。

「ふふっ、バカな連中を操る程度、私達には造作もないことですわ」
「私達が思っていた以上に、お二人の魔法の力は強いようですね」
「そうだね。でも……絶対に諦めないよ!」

 さっきやったように、魔法を使うのをイメージすると、青い光が生まれた。

「え、なにかしらあの青い光は?」
「あたしも知らない……お父様は?」
「わからん……だが、あの光の中心にいるのは、紛れもなくシエルだ!」

 私の体から生まれた光は、私の体を覆うようにして、どんどんと大きくなる。

 さっきの魔法とは、少し雰囲気が違う――そんなことを思っていたら、光が沢山の細い糸となって、操られている人達の一部に伸びた。

「私の力よ、みんなを救って!!」

 私の声に呼応して、割れる音が辺りに響いた。そして、操られていた全員が、その場に座り込んでしまった。

 よし、とりあえずまだ全員じゃないけど、魔法の呪縛から解放できた。この調子で、全員を解放しよう!

「あ、あれ……私達はなにを……?」
「今までしていたことが、全然思い出せない……」
「……ね、ねえ。あたしの見間違えじゃなければ、あいつら元に戻ってない?」
「私も、魔法の力が目覚めたの! 私の魔法は、他の魔法の効果を消す力! もうあなた達の洗脳は効かない!」

 明らかに動揺をする家族達に、私はビシっと指を差して宣言をする。

 私にこんな大口を叩くのなんて、似合ってないなって思うけど、こう言えば諦めて投降してくれるかもしれないでしょ?

「みなさんは、私を殺すという身勝手な理由で、ヴィオラお姉様とリンダの魔法で操られていたのです!」
「な、なんだって……?」
「そんなことを急に言われても……」
「でも、言われてみれば最近の記憶がないぞ?」

 それぞれ反応は違っていたけど、共通していたのは動揺だった。

 そうだよね、もし私が同じ立場だったら、きっと意味がわからなくて混乱していると思う。

「それが彼女達の魔法の力です! 自分の強い意志を持っていれば、多少は抵抗できます! もし操られても、私がすぐにお助けします! だから……一緒に彼女達を止めてください!!」

 動揺する人達に、心の底からお願いをすると、一人の兵が家族に向けて剣を構えた。それに続くように、他の人達も続々と剣を構えたり、家族達を睨みつけていた。

「魔法を消す力……なるほど、それは想定外でしたわね。駒達も、ほとんど元に戻された……こんな絶体絶命の状況を打破できる方法なんて無いでしょう。わかりました、諦めて降伏しましょう」
「ヴィオラお姉様!? 何を言っているの!?」
「貴様、こんな所でマーチャント家を裏切るつもりか!?」

 な、なんか家族同士で言い争いを始めたんだけど……私達にとっては好都合だ。リンダの魔法は男性にしか効かないらしいから、ヴィオラお姉様が降伏すれば、これで少なくとも女性が洗脳されることは無い。

「シエル様、油断はされませんように。まずは、まだ残っている操られている人を順番に助けてから、ヴィオラ様とリンダ様を止めましょう」
「でもどうやって?」
「私がお二人を殴って気絶させます」
「そ、想像以上に暴力的だった……」

 やり方はあれかもしれないけど、とりあえずこのままいけば一件落着だ。あとは国の自警団に身柄を渡して終わりだ。

 本当はさっき言ったように、私自身が裁きを下したいところだけど……ここはグッと我慢だよね。

「ふふっ……本当にバカね! この私が諦めるわけないでしょう? 切り札は最後まで取っておくものですわ!」
「っ!? シエル様、後ろです!」
「えっ……?」
「ヴィオラ様の障害は、排除する」

 ほとんど息に近い声を出しながら振り向くと、そこには手に持ったナイフで私を刺そうとしている、マーヴィン様の姿があった。

 最後の最後で油断をした。マーヴィン様がいないと思ってはいたけど、まさかこんな役割を与えられていたなんて――
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

婚約者を譲れと姉に「お願い」されました。代わりに軍人侯爵との結婚を押し付けられましたが、私は形だけの妻のようです。

ナナカ
恋愛
メリオス伯爵の次女エレナは、幼い頃から姉アルチーナに振り回されてきた。そんな姉に婚約者ロエルを譲れと言われる。さらに自分の代わりに結婚しろとまで言い出した。結婚相手は貴族たちが成り上がりと侮蔑する軍人侯爵。伯爵家との縁組が目的だからか、エレナに入れ替わった結婚も承諾する。 こうして、ほとんど顔を合わせることない別居生活が始まった。冷め切った関係になるかと思われたが、年の離れた侯爵はエレナに丁寧に接してくれるし、意外に優しい人。エレナも数少ない会話の機会が楽しみになっていく。 (本編、番外編、完結しました)

大切なあのひとを失ったこと絶対許しません

にいるず
恋愛
公爵令嬢キャスリン・ダイモックは、王太子の思い人の命を脅かした罪状で、毒杯を飲んで死んだ。 はずだった。 目を開けると、いつものベッド。ここは天国?違う? あれっ、私生きかえったの?しかも若返ってる? でもどうしてこの世界にあの人はいないの?どうしてみんなあの人の事を覚えていないの? 私だけは、自分を犠牲にして助けてくれたあの人の事を忘れない。絶対に許すものか。こんな原因を作った人たちを。

妹に陥れられ処刑決定したのでブチギレることにします

リオール
恋愛
実の妹を殺そうとした罪で、私は処刑されることとなった。 違うと言っても、事実無根だとどれだけ訴えても。 真実を調べることもなく、私の処刑は決定となったのだ。 ──あ、そう?じゃあもう我慢しなくていいですね。 大人しくしてたら随分なめられた事態になってしまったようで。 いいでしょう、それではご期待通りに悪女となってみせますよ! 淑女の時間は終わりました。 これからは──ブチギレタイムと致します!! ====== 筆者定番の勢いだけで書いた小説。 主人公は大人しく、悲劇のヒロイン…ではありません。 処刑されたら時間が戻ってやり直し…なんて手間もかけません。とっととやっちゃいます。 矛盾点とか指摘したら負けです(?) 何でもオッケーな心の広い方向けです。

必要ないと言われたので、元の日常に戻ります

黒木 楓
恋愛
 私エレナは、3年間城で新たな聖女として暮らすも、突如「聖女は必要ない」と言われてしまう。  前の聖女の人は必死にルドロス国に加護を与えていたようで、私は魔力があるから問題なく加護を与えていた。  その違いから、「もう加護がなくても大丈夫だ」と思われたようで、私を追い出したいらしい。  森の中にある家で暮らしていた私は元の日常に戻り、国の異変を確認しながら過ごすことにする。  数日後――私の忠告通り、加護を失ったルドロス国は凶暴なモンスターによる被害を受け始める。  そして「助けてくれ」と城に居た人が何度も頼みに来るけど、私は動く気がなかった。

噂の悪女が妻になりました

はくまいキャベツ
恋愛
ミラ・イヴァンチスカ。 国王の右腕と言われている宰相を父に持つ彼女は見目麗しく気品溢れる容姿とは裏腹に、父の権力を良い事に贅沢を好み、自分と同等かそれ以上の人間としか付き合わないプライドの塊の様な女だという。 その名前は国中に知れ渡っており、田舎の貧乏貴族ローガン・ウィリアムズの耳にも届いていた。そんな彼に一通の手紙が届く。その手紙にはあの噂の悪女、ミラ・イヴァンチスカとの婚姻を勧める内容が書かれていた。

婚約破棄は別にいいですけど、優秀な姉と無能な妹なんて噂、本気で信じてるんですか?

リオール
恋愛
侯爵家の執務を汗水流してこなしていた私──バルバラ。 だがある日突然、婚約者に婚約破棄を告げられ、父に次期当主は姉だと宣言され。出て行けと言われるのだった。 世間では姉が優秀、妹は駄目だと思われてるようですが、だから何? せいぜい束の間の贅沢を楽しめばいいです。 貴方達が遊んでる間に、私は──侯爵家、乗っ取らせていただきます! ===== いつもの勢いで書いた小説です。 前作とは逆に妹が主人公。優秀では無いけど努力する人。 妹、頑張ります! ※全41話完結。短編としておきながら読みの甘さが露呈…

悪役令嬢は処刑されないように家出しました。

克全
恋愛
「アルファポリス」と「小説家になろう」にも投稿しています。 サンディランズ公爵家令嬢ルシアは毎夜悪夢にうなされた。婚約者のダニエル王太子に裏切られて処刑される夢。実の兄ディビッドが聖女マルティナを愛するあまり、歓心を買うために自分を処刑する夢。兄の友人である次期左将軍マルティンや次期右将軍ディエゴまでが、聖女マルティナを巡って私を陥れて処刑する。どれほど努力し、どれほど正直に生き、どれほど関係を断とうとしても処刑されるのだ。

愛されない花嫁は初夜を一人で過ごす

リオール
恋愛
「俺はお前を妻と思わないし愛する事もない」  夫となったバジルはそう言って部屋を出て行った。妻となったアルビナは、初夜を一人で過ごすこととなる。  後に夫から聞かされた衝撃の事実。  アルビナは夫への復讐に、静かに心を燃やすのだった。 ※シリアスです。 ※ざまあが行き過ぎ・過剰だといったご意見を頂戴しております。年齢制限は設定しておりませんが、お読みになる場合は自己責任でお願い致します。

処理中です...