婚約破棄をされ、父に追放まで言われた私は、むしろ喜んで出て行きます! ~家を出る時に一緒に来てくれた執事の溺愛が始まりました~

ゆうき

文字の大きさ
上 下
35 / 44

第三十五話 ドレス試着会

しおりを挟む
 ドレスの依頼をしてから、ピッタリ一週間後のお昼前。私はユーゴ様が作ってくれたドレスを受け取り、自室で袖を通していた。

 ユーゴ様が作ってくれたドレスは、青と白を基調としたものだ。ドレスの胸元の部分は青が強く、そこから足の方に行くにつれて、白が強くなっている。

「わあ、凄い……!」

 これでも一応貴族の令嬢ではあるから、ドレス自体は何度も着たことがある。その中でも、このドレスは断トツで一番だといえる。

 見た目が綺麗なのはもちろんだけど、ドレスなのに動きやすいし、風通しが良いおかげで肌が蒸れない。肌触りも絹みたいに滑らかだし……非の打ち所がないよ!

「お、良い感じじゃねーか! サイズもピッタリだな!」
「ユーゴ様! 最高のドレスを作ってくれて、ありがとうございます!」

 姿見の前でクルクルと回って楽しんでいると、ユーゴ様がやってきた。

「なに、礼には及ばねえよ! 俺も作ってて楽しかったしな! そうだ、姉ちゃんがよければ、店の宣伝でもしてくれねーか?」
「はい、任せてください! 知り合いはほとんどいませんけど……頑張ります!」

 握り拳を作り、自信たっぷりにそう言うと、ユーゴ様は楽しそうに高笑いをしていた。そんなに笑うようなことを言った覚えはないんだけどなぁ。

「がはははは! 姉ちゃんは随分と真面目な人間だな! ところで、兄ちゃんはどこに行ったんだ? 帰る前に、挨拶をしておきたかったんだが」
「ラルフですか? 午前中は用事があるみたいです。そろそろ帰ってくると思いますけど」
「なるほどな。だから出迎えられた時に、姉ちゃんだけだったのか」
「そういうことです」

 仕事だから仕方ないけど、ラルフがいないと寂しくて仕方がない。本当に私は、ラルフに身も心も虜に……いや、依存してしまっているのかもしれない。

 依存はあまり良くないし、直さないといけないのはわかってるけど……いきなりは結構難しい。少しずつ直さないとね。

「あーあ、早く兄ちゃんが驚いてすっころぶ姿を拝みてーわ」
「ラルフはそんなことはしないと思いますよ?」
「どうだろうな? 兄ちゃんはあんたにべた惚れしてるみたいだし、綺麗な姿に衝撃を受けて、倒れてもおかしくねーだろ?」
「うーん……ドレス姿自体は、何度も見てるから、そんなことは無いと思いますよ?」
「そういうもんかねぇ」

 のんびりとユーゴ様とお話をしていると、部屋の扉がノックされた。時間的に、そろそろラルフが来ても良い時間だから、きっと来訪者は……。

「ラルフです。今よろしいですか?」
「うん、どうぞ~!」

 やっぱりラルフだと思いながら返事をすると、いつもの様に静かにラルフが入ってきた――その矢先、私のことを数秒程見つめてから、その場で膝から崩れ落ちた。

「ら、ラルフ? 大丈夫!?」
「なんて……なんて美しい……私は今、この世の全てを超越した美しさを目の当たりにしている……!」
「お、大げさだよ~!」
「ガーッハッハッハっ! すっころびはしなかったが、だいたい俺の言う通りだったろ!」
「で、ですね……」

 まさか、ユーゴ様の予想のような、こんなに大げさな反応をされるなんて、思ってもいなかった。あったとしても、普通に美しいとか、愛してるとか、そういうことを言われて終わりとばかり……。

「ユーゴ様、最高の品を用意してくれてありがとうございました。大変気に入りました」
「そいつは職人冥利に尽きるってもんよ。んじゃ、次の仕事があるからそろそろ失礼するぜ」
「かしこまりました。ではお帰りになられる前に、支払いの方を別室でさせてくださいませ」
「っと、そうだったな。俺としたことが、すっかり忘れてたぜ!」

 それって、職人さんとして大丈夫なのだろうかと苦笑いしつつ、私は二人を部屋から見送った。

 ……美しいかぁ……そんなことを言われたら照れちゃうよ。ほら、鏡に映ってる自分の顔が、人に見せられないような、だらしない顔になってる。

 でも、こんな顔になっちゃうくらい、ラルフに褒められると嬉しいし……欲を言わせてもらうなら、もっともっと言ってほしいな……な、なんて……えへへ。

「……だ、ダメだよラルフ……そんなこと言われたら、恥ずかしい……えへへへへ……」
「ただいま戻りました。おや、どうかされましたか?」
「ふにゃあ!?」

 鏡の前で妄想に浸っている中、ラルフの声で正気に戻った私は、その場でピョンっと飛び上がってしまった。

 わ、私ってば一体何を妄想しているの!? さっきから、手伝ってくれた使用人も近くにいたというのに……あまりにも浮かれすぎだって!

「なな、なんでもないよ! ユーゴ様はもう帰ったの?」
「ええ。帰り際に、この素晴らしい仕事っぷりを布教させてもらうと約束いたしました」
「そうなの? 私も宣伝するって言ったんだ!」
「考えることは同じですね」

 別に大したことじゃないのに、ラルフと同じだと思ったら、それだけで嬉しくなっちゃうよ。

「……すまない、少しシエル様と二人きりにしてもらえるか?」
「かしこまりました。もうすぐ昼食ですので、その時間になったらお迎えに参ります」
「わかった。ありがとう」

 ドレスを着る手伝いをしてくれた使用人が部屋を後にすると、ラルフが私の方をジッと見つめてから、私の頬に触れた。

 私の頬に触れる。その後に繋がる動作はもうわかっている――だから私は、静かに目を閉じ、顔を少しだけ上に向けた。

「んっ……」

 ラルフと唇を重ねながら小さく息を漏らしながら、ラルフの首に手を回した。キス自体は数秒程で終わったけど、その数秒で心が満たされているのがよくわかった。

「もう、ラルフっていつも急にキスするよね」
「シエル様が、私にそうさせるのが悪いのですよ」
「えー、私のせいなの?」
「冗談です」
「えへへ、知ってる」

 ラルフの軽口に笑って答えてから、もう一度キスをする。

 本当なら、このままずっとラルフと部屋でのんびりイチャイチャしていたいけど、さすがにそういうわけにはいかないよね。我慢我慢っと……。


 ****


 ダニエル様に招待されたパーティーの当日、私はユーゴ様に仕立ててもらったドレスに身を包んでから、玄関でラルフが来るのを待っていた。

 今日のパーティーでラルフに恥をかかせないように、いつも以上に身だしなみは気を付けているつもりだ。ドレスはシワ一つ無いし、髪もお化粧も完璧。ラルフに貰ったネックレスも付けている。

 ……まあ、そのほとんどは準備をしてくれた使用人のおかげだから、私が胸を張るのはおかしい話だけどね。

「ラルフ、まだかな……」
「もう少しで準備が出来るといってたから、そろそろ来ると思うわ。まったく、女性を待たせるなんて、いつからそんな悪い子になったのかしら? それに、ナディアも仕事で見送りに来れないなんて!」
「ま、まあまあ……きっとラルフとナディア様には、事情があるんですよ!」

 見送りに来てくれたクリスティア様は、子供のように頬を膨らませて不満を表していた。

 クリスティア様にも、こんな可愛い一面があったんだね。こんな所で新しい発見をしちゃったよ。

「お待たせいたしました」
「っ……!?」

 玄関にやってきたラルフの格好は、黒の燕尾服だった。髪も私の誕生日の時のようにオールバックにしているおかげで、その端正な顔が前面に強調されている。

 ……な、なるほど。ラルフがこのドレスを見た時に、あんな反応をしたのがよくわかった。確かに大好きな人がドレスアップをした時の衝撃は、言葉に言い表せないほど凄い……!

「シエル様、お顔が赤いですが……体調がよろしくないのですか?」
「ち、違う違う! 今日のラルフ、凄くカッコイイから、見惚れちゃって……」
「……シエル様……」

 モジモジしながら答えると、ラルフは息を漏らすような声で私の名前を呼びながら、私の頬に手を添えた。

 ……ちょ、ちょっと待って! 私もラルフと同じことがしたいけど、今は見送りに来てくれたクリスティア様も使用人もいるんだよ!? さすがにマズいってー!

「ら、ラルフラルフ! 周り!」
「……わ、私としたことが……大変失礼しました」

 私達を見て、顔を赤くして目を逸らす人や、キャーキャーと喜ぶ人とか、色々な反応があったけど、大体が好意的なものだった。

 あ、ちなみに私達がお付き合いしてることは、ちゃんと全員に報告しているよ。

「うふふ、これは孫の顔が見れる日も近いかもしれないわね。あ、私は男の子でも女の子でも、どちらでもいいわよ?」
「く、クリスティア様!?」
「何を仰っているんですか母上!?」
「二人して焦っちゃって、可愛いわね~」

 子供だなんて、まだ早すぎるよ! そもそも結婚だってしてないし……いつかは産みたい気持ちは山々だけどね!

「さて、そろそろ出発の時間ね。シエル、ラルフ。今回のパーティーについては、ナディアから事前に聞いているわ。バーランド家のことなんて気にしなくていいから、我が身を第一に考えて、必ず帰ってくるのよ」
「母上……」
「シエル、あなたはもう私の子なんだから、帰ってこないなんてなったら泣いちゃうわよ。だから、ラルフと一緒に私の元に帰ってきて。ラルフも、孫の顔を見せる前にいなくなったら、承知しないわよ」
「わかりました、お義母様!」
「えっ……」

 自然と口から出た言葉を止めようと、慌てて口元に手を持っていく。

 今更もう遅いのは重々承知の上で、そーっとクリスティア様の方を見ると、とても嬉しそうな表情で、私に抱きついてきた。

「ええ、私はあなたの母よ。だから、これからは沢山甘えていいからね」
「クリス……じゃなかった、お義母様……ありがとうございます。私、ラルフと一緒に必ず帰ってきます!」

 私はクリスティア様改め、お義母様と使用人達に見送られながら、ダニエル様の屋敷へと向かって出発した。

 さて、一体何が待ち受けているのだろうか。不安は無いと言ったら嘘になるけど、ラルフが近くにいるなら、私は大丈夫。

 それに、守られるだけじゃなくて、私もラルフを守るんだ!

 さあさあ、蛇でもクマでもかかってきなさい! なにがパーティー会場にいたとしても、このシエル・バーランドとラルフ・バーランドが全部蹴散らしてあげるからねー!

 ……あ、虫だけはやめて! お願いだからやめてよね!!
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

婚約者を譲れと姉に「お願い」されました。代わりに軍人侯爵との結婚を押し付けられましたが、私は形だけの妻のようです。

ナナカ
恋愛
メリオス伯爵の次女エレナは、幼い頃から姉アルチーナに振り回されてきた。そんな姉に婚約者ロエルを譲れと言われる。さらに自分の代わりに結婚しろとまで言い出した。結婚相手は貴族たちが成り上がりと侮蔑する軍人侯爵。伯爵家との縁組が目的だからか、エレナに入れ替わった結婚も承諾する。 こうして、ほとんど顔を合わせることない別居生活が始まった。冷め切った関係になるかと思われたが、年の離れた侯爵はエレナに丁寧に接してくれるし、意外に優しい人。エレナも数少ない会話の機会が楽しみになっていく。 (本編、番外編、完結しました)

初耳なのですが…、本当ですか?

あおくん
恋愛
侯爵令嬢の次女として、父親の仕事を手伝ったり、邸の管理をしたりと忙しくしているアニーに公爵家から婚約の申し込みが来た! でも実際に公爵家に訪れると、異世界から来たという少女が婚約者の隣に立っていて…。

「妹にしか思えない」と婚約破棄したではありませんか。今更私に縋りつかないでください。

木山楽斗
恋愛
父親同士の仲が良いレミアナとアルペリオは、幼少期からよく一緒に遊んでいた。 二人はお互いのことを兄や妹のように思っており、良好な関係を築いていたのである。 そんな二人は、婚約を結ぶことになった。両家の関係も非常に良好であったため、自然な流れでそうなったのだ。 気心のしれたアルペリオと婚約できることを、レミアナは幸いだと思っていた。 しかしそんな彼女に、アルペリオはある日突然婚約破棄を告げてきた。 「……君のことは妹としか思えない。そんな君と結婚するなんて無理だ」 アルペリオは、レミアナがいくら説得しても聞き入れようとしなかった。両家が結んだ婚約を、彼は独断で切り捨てたのである。 そんなアルペリオに、レミアナは失望していた。慕っていた兄のあまりのわがままさに、彼女の気持ちは冷めてしまったのである。 そうして婚約破棄されたレミアナは、しばらくして知ることになった。 アルペリオは、とある伯爵夫人と交際していたのだ。 その事実がありながら、アルペリオはまだレミアナの兄であるかのように振る舞ってきた。 しかしレミアナは、そんな彼を切り捨てる。様々な要素から、既に彼女にはアルペリオを兄として慕う気持ちなどなくなっていたのである。 ※あらすじを少し変更しました。(2023/11/30) ※予想以上の反響に感想への返信が追いついていません。大変申し訳ありません。感想についてはいつも励みになっております。本当にありがとうございます。(2023/12/03) ※誤字脱字などのご指摘ありがとうございます。大変助かっています。

婚約白紙?上等です!ローゼリアはみんなが思うほど弱くない!

志波 連
恋愛
伯爵令嬢として生まれたローゼリア・ワンドは婚約者であり同じ家で暮らしてきたひとつ年上のアランと隣国から留学してきた王女が恋をしていることを知る。信じ切っていたアランとの未来に決別したローゼリアは、友人たちの支えによって、自分の道をみつけて自立していくのだった。 親たちが子供のためを思い敷いた人生のレールは、子供の自由を奪い苦しめてしまうこともあります。自分を見つめ直し、悩み傷つきながらも自らの手で人生を切り開いていく少女の成長物語です。 本作は小説家になろう及びツギクルにも投稿しています。

完】異端の治癒能力を持つ令嬢は婚約破棄をされ、王宮の侍女として静かに暮らす事を望んだ。なのに!王子、私は侍女ですよ!言い寄られたら困ります!

仰木 あん
恋愛
マリアはエネローワ王国のライオネル伯爵の長女である。 ある日、婚約者のハルト=リッチに呼び出され、婚約破棄を告げられる。 理由はマリアの義理の妹、ソフィアに心変わりしたからだそうだ。 ハルトとソフィアは互いに惹かれ、『真実の愛』に気付いたとのこと…。 マリアは色々な物を継母の連れ子である、ソフィアに奪われてきたが、今度は婚約者か…と、気落ちをして、実家に帰る。 自室にて、過去の母の言葉を思い出す。 マリアには、王国において、異端とされるドルイダスの異能があり、強力な治癒能力で、人を癒すことが出来る事を… しかしそれは、この国では迫害される恐れがあるため、内緒にするようにと強く言われていた。 そんな母が亡くなり、継母がソフィアを連れて屋敷に入ると、マリアの生活は一変した。 ハルトという婚約者を得て、家を折角出たのに、この始末……。 マリアは父親に願い出る。 家族に邪魔されず、一人で静かに王宮の侍女として働いて生きるため、再び家を出るのだが……… この話はフィクションです。 名前等は実際のものとなんら関係はありません。

精霊の加護を持つ聖女。偽聖女によって追放されたので、趣味のアクセサリー作りにハマっていたら、いつの間にか世界を救って愛されまくっていた

向原 行人
恋愛
精霊の加護を受け、普通の人には見る事も感じる事も出来ない精霊と、会話が出来る少女リディア。 聖女として各地の精霊石に精霊の力を込め、国を災いから守っているのに、突然第四王女によって追放されてしまう。 暫くは精霊の力も残っているけれど、時間が経って精霊石から力が無くなれば魔物が出て来るし、魔導具も動かなくなるけど……本当に大丈夫!? 一先ず、この国に居るとマズそうだから、元聖女っていうのは隠して、別の国で趣味を活かして生活していこうかな。 ※第○話:主人公視点  挿話○:タイトルに書かれたキャラの視点  となります。

家族に裏切られて辺境で幸せを掴む?

しゃーりん
恋愛
婚約者を妹に取られる。 そんな小説みたいなことが本当に起こった。 婚約者が姉から妹に代わるだけ?しかし私はそれを許さず、慰謝料を請求した。 婚約破棄と共に跡継ぎでもなくなったから。 仕事だけをさせようと思っていた父に失望し、伯父のいる辺境に行くことにする。 これからは辺境で仕事に生きよう。そう決めて王都を旅立った。 辺境で新たな出会いがあり、付き合い始めたけど?というお話です。

悪役令嬢に仕立て上げられたので領地に引きこもります(長編版)

下菊みこと
恋愛
ギフトを駆使して領地経営! 小説家になろう様でも投稿しています。

処理中です...