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第三十五話 ドレス試着会
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ドレスの依頼をしてから、ピッタリ一週間後のお昼前。私はユーゴ様が作ってくれたドレスを受け取り、自室で袖を通していた。
ユーゴ様が作ってくれたドレスは、青と白を基調としたものだ。ドレスの胸元の部分は青が強く、そこから足の方に行くにつれて、白が強くなっている。
「わあ、凄い……!」
これでも一応貴族の令嬢ではあるから、ドレス自体は何度も着たことがある。その中でも、このドレスは断トツで一番だといえる。
見た目が綺麗なのはもちろんだけど、ドレスなのに動きやすいし、風通しが良いおかげで肌が蒸れない。肌触りも絹みたいに滑らかだし……非の打ち所がないよ!
「お、良い感じじゃねーか! サイズもピッタリだな!」
「ユーゴ様! 最高のドレスを作ってくれて、ありがとうございます!」
姿見の前でクルクルと回って楽しんでいると、ユーゴ様がやってきた。
「なに、礼には及ばねえよ! 俺も作ってて楽しかったしな! そうだ、姉ちゃんがよければ、店の宣伝でもしてくれねーか?」
「はい、任せてください! 知り合いはほとんどいませんけど……頑張ります!」
握り拳を作り、自信たっぷりにそう言うと、ユーゴ様は楽しそうに高笑いをしていた。そんなに笑うようなことを言った覚えはないんだけどなぁ。
「がはははは! 姉ちゃんは随分と真面目な人間だな! ところで、兄ちゃんはどこに行ったんだ? 帰る前に、挨拶をしておきたかったんだが」
「ラルフですか? 午前中は用事があるみたいです。そろそろ帰ってくると思いますけど」
「なるほどな。だから出迎えられた時に、姉ちゃんだけだったのか」
「そういうことです」
仕事だから仕方ないけど、ラルフがいないと寂しくて仕方がない。本当に私は、ラルフに身も心も虜に……いや、依存してしまっているのかもしれない。
依存はあまり良くないし、直さないといけないのはわかってるけど……いきなりは結構難しい。少しずつ直さないとね。
「あーあ、早く兄ちゃんが驚いてすっころぶ姿を拝みてーわ」
「ラルフはそんなことはしないと思いますよ?」
「どうだろうな? 兄ちゃんはあんたにべた惚れしてるみたいだし、綺麗な姿に衝撃を受けて、倒れてもおかしくねーだろ?」
「うーん……ドレス姿自体は、何度も見てるから、そんなことは無いと思いますよ?」
「そういうもんかねぇ」
のんびりとユーゴ様とお話をしていると、部屋の扉がノックされた。時間的に、そろそろラルフが来ても良い時間だから、きっと来訪者は……。
「ラルフです。今よろしいですか?」
「うん、どうぞ~!」
やっぱりラルフだと思いながら返事をすると、いつもの様に静かにラルフが入ってきた――その矢先、私のことを数秒程見つめてから、その場で膝から崩れ落ちた。
「ら、ラルフ? 大丈夫!?」
「なんて……なんて美しい……私は今、この世の全てを超越した美しさを目の当たりにしている……!」
「お、大げさだよ~!」
「ガーッハッハッハっ! すっころびはしなかったが、だいたい俺の言う通りだったろ!」
「で、ですね……」
まさか、ユーゴ様の予想のような、こんなに大げさな反応をされるなんて、思ってもいなかった。あったとしても、普通に美しいとか、愛してるとか、そういうことを言われて終わりとばかり……。
「ユーゴ様、最高の品を用意してくれてありがとうございました。大変気に入りました」
「そいつは職人冥利に尽きるってもんよ。んじゃ、次の仕事があるからそろそろ失礼するぜ」
「かしこまりました。ではお帰りになられる前に、支払いの方を別室でさせてくださいませ」
「っと、そうだったな。俺としたことが、すっかり忘れてたぜ!」
それって、職人さんとして大丈夫なのだろうかと苦笑いしつつ、私は二人を部屋から見送った。
……美しいかぁ……そんなことを言われたら照れちゃうよ。ほら、鏡に映ってる自分の顔が、人に見せられないような、だらしない顔になってる。
でも、こんな顔になっちゃうくらい、ラルフに褒められると嬉しいし……欲を言わせてもらうなら、もっともっと言ってほしいな……な、なんて……えへへ。
「……だ、ダメだよラルフ……そんなこと言われたら、恥ずかしい……えへへへへ……」
「ただいま戻りました。おや、どうかされましたか?」
「ふにゃあ!?」
鏡の前で妄想に浸っている中、ラルフの声で正気に戻った私は、その場でピョンっと飛び上がってしまった。
わ、私ってば一体何を妄想しているの!? さっきから、手伝ってくれた使用人も近くにいたというのに……あまりにも浮かれすぎだって!
「なな、なんでもないよ! ユーゴ様はもう帰ったの?」
「ええ。帰り際に、この素晴らしい仕事っぷりを布教させてもらうと約束いたしました」
「そうなの? 私も宣伝するって言ったんだ!」
「考えることは同じですね」
別に大したことじゃないのに、ラルフと同じだと思ったら、それだけで嬉しくなっちゃうよ。
「……すまない、少しシエル様と二人きりにしてもらえるか?」
「かしこまりました。もうすぐ昼食ですので、その時間になったらお迎えに参ります」
「わかった。ありがとう」
ドレスを着る手伝いをしてくれた使用人が部屋を後にすると、ラルフが私の方をジッと見つめてから、私の頬に触れた。
私の頬に触れる。その後に繋がる動作はもうわかっている――だから私は、静かに目を閉じ、顔を少しだけ上に向けた。
「んっ……」
ラルフと唇を重ねながら小さく息を漏らしながら、ラルフの首に手を回した。キス自体は数秒程で終わったけど、その数秒で心が満たされているのがよくわかった。
「もう、ラルフっていつも急にキスするよね」
「シエル様が、私にそうさせるのが悪いのですよ」
「えー、私のせいなの?」
「冗談です」
「えへへ、知ってる」
ラルフの軽口に笑って答えてから、もう一度キスをする。
本当なら、このままずっとラルフと部屋でのんびりイチャイチャしていたいけど、さすがにそういうわけにはいかないよね。我慢我慢っと……。
****
ダニエル様に招待されたパーティーの当日、私はユーゴ様に仕立ててもらったドレスに身を包んでから、玄関でラルフが来るのを待っていた。
今日のパーティーでラルフに恥をかかせないように、いつも以上に身だしなみは気を付けているつもりだ。ドレスはシワ一つ無いし、髪もお化粧も完璧。ラルフに貰ったネックレスも付けている。
……まあ、そのほとんどは準備をしてくれた使用人のおかげだから、私が胸を張るのはおかしい話だけどね。
「ラルフ、まだかな……」
「もう少しで準備が出来るといってたから、そろそろ来ると思うわ。まったく、女性を待たせるなんて、いつからそんな悪い子になったのかしら? それに、ナディアも仕事で見送りに来れないなんて!」
「ま、まあまあ……きっとラルフとナディア様には、事情があるんですよ!」
見送りに来てくれたクリスティア様は、子供のように頬を膨らませて不満を表していた。
クリスティア様にも、こんな可愛い一面があったんだね。こんな所で新しい発見をしちゃったよ。
「お待たせいたしました」
「っ……!?」
玄関にやってきたラルフの格好は、黒の燕尾服だった。髪も私の誕生日の時のようにオールバックにしているおかげで、その端正な顔が前面に強調されている。
……な、なるほど。ラルフがこのドレスを見た時に、あんな反応をしたのがよくわかった。確かに大好きな人がドレスアップをした時の衝撃は、言葉に言い表せないほど凄い……!
「シエル様、お顔が赤いですが……体調がよろしくないのですか?」
「ち、違う違う! 今日のラルフ、凄くカッコイイから、見惚れちゃって……」
「……シエル様……」
モジモジしながら答えると、ラルフは息を漏らすような声で私の名前を呼びながら、私の頬に手を添えた。
……ちょ、ちょっと待って! 私もラルフと同じことがしたいけど、今は見送りに来てくれたクリスティア様も使用人もいるんだよ!? さすがにマズいってー!
「ら、ラルフラルフ! 周り!」
「……わ、私としたことが……大変失礼しました」
私達を見て、顔を赤くして目を逸らす人や、キャーキャーと喜ぶ人とか、色々な反応があったけど、大体が好意的なものだった。
あ、ちなみに私達がお付き合いしてることは、ちゃんと全員に報告しているよ。
「うふふ、これは孫の顔が見れる日も近いかもしれないわね。あ、私は男の子でも女の子でも、どちらでもいいわよ?」
「く、クリスティア様!?」
「何を仰っているんですか母上!?」
「二人して焦っちゃって、可愛いわね~」
子供だなんて、まだ早すぎるよ! そもそも結婚だってしてないし……いつかは産みたい気持ちは山々だけどね!
「さて、そろそろ出発の時間ね。シエル、ラルフ。今回のパーティーについては、ナディアから事前に聞いているわ。バーランド家のことなんて気にしなくていいから、我が身を第一に考えて、必ず帰ってくるのよ」
「母上……」
「シエル、あなたはもう私の子なんだから、帰ってこないなんてなったら泣いちゃうわよ。だから、ラルフと一緒に私の元に帰ってきて。ラルフも、孫の顔を見せる前にいなくなったら、承知しないわよ」
「わかりました、お義母様!」
「えっ……」
自然と口から出た言葉を止めようと、慌てて口元に手を持っていく。
今更もう遅いのは重々承知の上で、そーっとクリスティア様の方を見ると、とても嬉しそうな表情で、私に抱きついてきた。
「ええ、私はあなたの母よ。だから、これからは沢山甘えていいからね」
「クリス……じゃなかった、お義母様……ありがとうございます。私、ラルフと一緒に必ず帰ってきます!」
私はクリスティア様改め、お義母様と使用人達に見送られながら、ダニエル様の屋敷へと向かって出発した。
さて、一体何が待ち受けているのだろうか。不安は無いと言ったら嘘になるけど、ラルフが近くにいるなら、私は大丈夫。
それに、守られるだけじゃなくて、私もラルフを守るんだ!
さあさあ、蛇でもクマでもかかってきなさい! なにがパーティー会場にいたとしても、このシエル・バーランドとラルフ・バーランドが全部蹴散らしてあげるからねー!
……あ、虫だけはやめて! お願いだからやめてよね!!
ユーゴ様が作ってくれたドレスは、青と白を基調としたものだ。ドレスの胸元の部分は青が強く、そこから足の方に行くにつれて、白が強くなっている。
「わあ、凄い……!」
これでも一応貴族の令嬢ではあるから、ドレス自体は何度も着たことがある。その中でも、このドレスは断トツで一番だといえる。
見た目が綺麗なのはもちろんだけど、ドレスなのに動きやすいし、風通しが良いおかげで肌が蒸れない。肌触りも絹みたいに滑らかだし……非の打ち所がないよ!
「お、良い感じじゃねーか! サイズもピッタリだな!」
「ユーゴ様! 最高のドレスを作ってくれて、ありがとうございます!」
姿見の前でクルクルと回って楽しんでいると、ユーゴ様がやってきた。
「なに、礼には及ばねえよ! 俺も作ってて楽しかったしな! そうだ、姉ちゃんがよければ、店の宣伝でもしてくれねーか?」
「はい、任せてください! 知り合いはほとんどいませんけど……頑張ります!」
握り拳を作り、自信たっぷりにそう言うと、ユーゴ様は楽しそうに高笑いをしていた。そんなに笑うようなことを言った覚えはないんだけどなぁ。
「がはははは! 姉ちゃんは随分と真面目な人間だな! ところで、兄ちゃんはどこに行ったんだ? 帰る前に、挨拶をしておきたかったんだが」
「ラルフですか? 午前中は用事があるみたいです。そろそろ帰ってくると思いますけど」
「なるほどな。だから出迎えられた時に、姉ちゃんだけだったのか」
「そういうことです」
仕事だから仕方ないけど、ラルフがいないと寂しくて仕方がない。本当に私は、ラルフに身も心も虜に……いや、依存してしまっているのかもしれない。
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「あーあ、早く兄ちゃんが驚いてすっころぶ姿を拝みてーわ」
「ラルフはそんなことはしないと思いますよ?」
「どうだろうな? 兄ちゃんはあんたにべた惚れしてるみたいだし、綺麗な姿に衝撃を受けて、倒れてもおかしくねーだろ?」
「うーん……ドレス姿自体は、何度も見てるから、そんなことは無いと思いますよ?」
「そういうもんかねぇ」
のんびりとユーゴ様とお話をしていると、部屋の扉がノックされた。時間的に、そろそろラルフが来ても良い時間だから、きっと来訪者は……。
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やっぱりラルフだと思いながら返事をすると、いつもの様に静かにラルフが入ってきた――その矢先、私のことを数秒程見つめてから、その場で膝から崩れ落ちた。
「ら、ラルフ? 大丈夫!?」
「なんて……なんて美しい……私は今、この世の全てを超越した美しさを目の当たりにしている……!」
「お、大げさだよ~!」
「ガーッハッハッハっ! すっころびはしなかったが、だいたい俺の言う通りだったろ!」
「で、ですね……」
まさか、ユーゴ様の予想のような、こんなに大げさな反応をされるなんて、思ってもいなかった。あったとしても、普通に美しいとか、愛してるとか、そういうことを言われて終わりとばかり……。
「ユーゴ様、最高の品を用意してくれてありがとうございました。大変気に入りました」
「そいつは職人冥利に尽きるってもんよ。んじゃ、次の仕事があるからそろそろ失礼するぜ」
「かしこまりました。ではお帰りになられる前に、支払いの方を別室でさせてくださいませ」
「っと、そうだったな。俺としたことが、すっかり忘れてたぜ!」
それって、職人さんとして大丈夫なのだろうかと苦笑いしつつ、私は二人を部屋から見送った。
……美しいかぁ……そんなことを言われたら照れちゃうよ。ほら、鏡に映ってる自分の顔が、人に見せられないような、だらしない顔になってる。
でも、こんな顔になっちゃうくらい、ラルフに褒められると嬉しいし……欲を言わせてもらうなら、もっともっと言ってほしいな……な、なんて……えへへ。
「……だ、ダメだよラルフ……そんなこと言われたら、恥ずかしい……えへへへへ……」
「ただいま戻りました。おや、どうかされましたか?」
「ふにゃあ!?」
鏡の前で妄想に浸っている中、ラルフの声で正気に戻った私は、その場でピョンっと飛び上がってしまった。
わ、私ってば一体何を妄想しているの!? さっきから、手伝ってくれた使用人も近くにいたというのに……あまりにも浮かれすぎだって!
「なな、なんでもないよ! ユーゴ様はもう帰ったの?」
「ええ。帰り際に、この素晴らしい仕事っぷりを布教させてもらうと約束いたしました」
「そうなの? 私も宣伝するって言ったんだ!」
「考えることは同じですね」
別に大したことじゃないのに、ラルフと同じだと思ったら、それだけで嬉しくなっちゃうよ。
「……すまない、少しシエル様と二人きりにしてもらえるか?」
「かしこまりました。もうすぐ昼食ですので、その時間になったらお迎えに参ります」
「わかった。ありがとう」
ドレスを着る手伝いをしてくれた使用人が部屋を後にすると、ラルフが私の方をジッと見つめてから、私の頬に触れた。
私の頬に触れる。その後に繋がる動作はもうわかっている――だから私は、静かに目を閉じ、顔を少しだけ上に向けた。
「んっ……」
ラルフと唇を重ねながら小さく息を漏らしながら、ラルフの首に手を回した。キス自体は数秒程で終わったけど、その数秒で心が満たされているのがよくわかった。
「もう、ラルフっていつも急にキスするよね」
「シエル様が、私にそうさせるのが悪いのですよ」
「えー、私のせいなの?」
「冗談です」
「えへへ、知ってる」
ラルフの軽口に笑って答えてから、もう一度キスをする。
本当なら、このままずっとラルフと部屋でのんびりイチャイチャしていたいけど、さすがにそういうわけにはいかないよね。我慢我慢っと……。
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ダニエル様に招待されたパーティーの当日、私はユーゴ様に仕立ててもらったドレスに身を包んでから、玄関でラルフが来るのを待っていた。
今日のパーティーでラルフに恥をかかせないように、いつも以上に身だしなみは気を付けているつもりだ。ドレスはシワ一つ無いし、髪もお化粧も完璧。ラルフに貰ったネックレスも付けている。
……まあ、そのほとんどは準備をしてくれた使用人のおかげだから、私が胸を張るのはおかしい話だけどね。
「ラルフ、まだかな……」
「もう少しで準備が出来るといってたから、そろそろ来ると思うわ。まったく、女性を待たせるなんて、いつからそんな悪い子になったのかしら? それに、ナディアも仕事で見送りに来れないなんて!」
「ま、まあまあ……きっとラルフとナディア様には、事情があるんですよ!」
見送りに来てくれたクリスティア様は、子供のように頬を膨らませて不満を表していた。
クリスティア様にも、こんな可愛い一面があったんだね。こんな所で新しい発見をしちゃったよ。
「お待たせいたしました」
「っ……!?」
玄関にやってきたラルフの格好は、黒の燕尾服だった。髪も私の誕生日の時のようにオールバックにしているおかげで、その端正な顔が前面に強調されている。
……な、なるほど。ラルフがこのドレスを見た時に、あんな反応をしたのがよくわかった。確かに大好きな人がドレスアップをした時の衝撃は、言葉に言い表せないほど凄い……!
「シエル様、お顔が赤いですが……体調がよろしくないのですか?」
「ち、違う違う! 今日のラルフ、凄くカッコイイから、見惚れちゃって……」
「……シエル様……」
モジモジしながら答えると、ラルフは息を漏らすような声で私の名前を呼びながら、私の頬に手を添えた。
……ちょ、ちょっと待って! 私もラルフと同じことがしたいけど、今は見送りに来てくれたクリスティア様も使用人もいるんだよ!? さすがにマズいってー!
「ら、ラルフラルフ! 周り!」
「……わ、私としたことが……大変失礼しました」
私達を見て、顔を赤くして目を逸らす人や、キャーキャーと喜ぶ人とか、色々な反応があったけど、大体が好意的なものだった。
あ、ちなみに私達がお付き合いしてることは、ちゃんと全員に報告しているよ。
「うふふ、これは孫の顔が見れる日も近いかもしれないわね。あ、私は男の子でも女の子でも、どちらでもいいわよ?」
「く、クリスティア様!?」
「何を仰っているんですか母上!?」
「二人して焦っちゃって、可愛いわね~」
子供だなんて、まだ早すぎるよ! そもそも結婚だってしてないし……いつかは産みたい気持ちは山々だけどね!
「さて、そろそろ出発の時間ね。シエル、ラルフ。今回のパーティーについては、ナディアから事前に聞いているわ。バーランド家のことなんて気にしなくていいから、我が身を第一に考えて、必ず帰ってくるのよ」
「母上……」
「シエル、あなたはもう私の子なんだから、帰ってこないなんてなったら泣いちゃうわよ。だから、ラルフと一緒に私の元に帰ってきて。ラルフも、孫の顔を見せる前にいなくなったら、承知しないわよ」
「わかりました、お義母様!」
「えっ……」
自然と口から出た言葉を止めようと、慌てて口元に手を持っていく。
今更もう遅いのは重々承知の上で、そーっとクリスティア様の方を見ると、とても嬉しそうな表情で、私に抱きついてきた。
「ええ、私はあなたの母よ。だから、これからは沢山甘えていいからね」
「クリス……じゃなかった、お義母様……ありがとうございます。私、ラルフと一緒に必ず帰ってきます!」
私はクリスティア様改め、お義母様と使用人達に見送られながら、ダニエル様の屋敷へと向かって出発した。
さて、一体何が待ち受けているのだろうか。不安は無いと言ったら嘘になるけど、ラルフが近くにいるなら、私は大丈夫。
それに、守られるだけじゃなくて、私もラルフを守るんだ!
さあさあ、蛇でもクマでもかかってきなさい! なにがパーティー会場にいたとしても、このシエル・バーランドとラルフ・バーランドが全部蹴散らしてあげるからねー!
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