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第二十六話 一生の思い出

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「えっ、みなさんいつの間に!?」

 いつも使用人が仕事をする時に来ている服じゃなくて、全員がパーティー用のドレスや燕尾服を着ていて、ビックリしちゃった! みんな綺麗で、見惚れちゃうくらいだよ!

「シエル様、我々からのプレゼントは、二つご用意いたしました。まずその一つとして、この楽しく踊れる環境をご提供させていただきます。周りに気を使う貴族はおりませんので、思う存分羽を伸ばしてください。それと、これを贈らせていただきます」

 使用人を代表して、お歳を召した男性が、私に花束をプレゼントしてくれた。ほんのりと甘い香りが、何とも心地いい気分にしてくれる。

「ありがとうございます! 皆さんも着替えてるってことは、踊るのですか?」
「はい、我々も自由に楽しませていただきます」
「なら良かったです! みなさんで楽しんだ方が良いですもんね!」

 私が笑顔でそう言うと、皆さんが嬉しそうに頷いてくれた。

 踊りなんて、最近全くしてなかったんだよね。一応習い事でダンスを習ってたとはいえ……まあ、やってみないとわからないか!

「ラルフ」
「シエル様」
「「一緒に踊ってください」」

 名前を呼ぶタイミング、それに誘うタイミングと言葉まで一緒すぎて、私とラルフは思わず笑ってしまった。周りの人達も、釣られて笑っている。

「息が合いすぎっていうのも、ちょっと困りものかもね!」
「そうですね。今度、調整のために喧嘩でもしてみますか?」
「えー? 多分しても、ラルフのバーカ! しか言わないと思うよ?」
「この話は無かったことにしましょう。今の一言だけで、私は膝から崩れ落ちそうです」
「さすがに弱すぎるよっ!?」

 使用人達に微笑ましい笑みで見られる中、私は近くにいた使用人に、花束のことをお願いしてから、ラルフとダンスの構えを取る。すると、使用人達もそれぞれの位置で構えを取った。

「えへへ、ラルフと踊れる日が来るなんて思ってもなかったよ」
「今までの私の立場や我々の関係だと、こういう場で踊るのは、少々無理がございましたからね」

 ゆったりした音楽に合わせながら、私達は体を寄せ合ってステップを踏み始める。

 曲に合わせて右左に動き、離れたりくっついたりと、見た目以上に社交界のダンスは難しい。なのに、ラルフは一切動きを乱すことなく、私をリードしてくれた。

「右、左、ここでステップ……久しぶりだから、上手く動けないなぁ……」
「うまくやる必要はございませんよ。今日はあなたに楽しんでもらうためのパーティーですからね」
「……そ、それもそうだね!」

 いつも以上に近く、そしてはっきりと見えるラルフのカッコよさに、ドキドキが止まらない。

 このドキドキしている音が、ラルフに聞こえちゃったら少し恥ずかしいけど、今はそんなことを気にしてないで、このパーティーを全力で楽しもう!


 ****


 三曲ほど踊ったところで、ダンスは無事にお開きとなった。結局私はラルフにリードされっぱなしだったけど、楽しかったからそれでいいかな!

「楽しかったね、ラルフ!」
「ええ、とても。おっと、額に汗が……動かないでくださいね」
「もう、子供じゃないんだから、自分で拭けるよ!」

 私のお化粧が崩れないように、ポンポンと優しく汗を拭いてくれるラルフに、ほんの少しだけ不満の表情を向ける。

 ラルフって、私のことをたまに子供みたいな扱いをするんだよね。私のことを考えてくれているのはよくわかるんだけど、ちょっぴり恥ずかしい。

 ……まあ、こういうことをされて、喜んでいる自分がいるのは、否定できないけどさ。

「二人共、お疲れ様。とても楽しそうに踊っている姿を見ていたら、私まで幸せになっちゃったわ」
「クリスティア様! はい、とっても楽しかったです!」
「なら良かったわ。そんなシエルに、私からプレゼントがあるの」
「クリスティア様まで、私のために……!?」
「あら、未来の家族なんだから当然でしょう?」

 わ、私がラルフと結婚するのは、クリスティア様の中では決定事項なのかな……迎えてもらえて嬉しいような、恥ずかしいような……。

「ラルフ、シエルをバルコニーに連れて行ってあげて」
「はい、母上。シエル様、こちらにどうぞ」
「うんっ。その前に……皆さん、今日は私のために色々としてくれて、ありがとうございます! こんなに素敵な誕生日にしてもらえて、私は本当に幸せです!」

 私が伝えられる精一杯の感謝を込めて、勢いよく頭を下げると、皆さんの暖かい拍手に包まれた。

「良かったですね、シエル様」
「うんっ! 待たせてごめんね。バルコニーに行こう!」

 嬉しくて流れた涙を拭ってから、もう一度皆さんにお辞儀をした私は、ラルフに連れられて会場を後にすると、同じ建物の最上階にあるバルコニーに連れてこられた。

 一体ここでなにがあるのだろう? バルコニーには、これといったものは無さそうだし……。

「そろそろですね。それを見ていてください」
「空……あ、あれは……!?」

 綺麗な夜空を割るように、一筋の光が空に上がり……そして、爆発音と共に綺麗な赤い光となった。

「い、今のは一体何!? バーン!! って音がしたと思ったら、光がまるでお花のように広がってたよ!? ねえラルフ、あれはなに!?」
「あれは、花火ですよ」

 ハナビ……! 風の噂程度で聞いたことがあるけど、こうして実際に見るのは初めてだよ! こんなに綺麗で迫力があるものだったんだね!

「異国の祭りでよく行われるそうです。母上が幼い頃、ご両親と共に旅行で訪れた際に見たそうで、その時に大層気に入ったと仰っておりました」
「それを、私のためにわざわざ?」
「ええ。母上のお知り合いの方に、花火職人と繋がりがある方がいらっしゃるのです。今日も、花火を上げるために来てくれたのです」

 もしかして、プレゼントってこの花火のこと? なんておしゃれな誕生日プレゼントだろう! こんなの、一生忘れることができないよ!

「こんな良いものが見れるなんて……クリスティア様には感謝しかないよ!」
「何を仰っているのですか?」
「えっ?」

 一回だけで終わりだと勘違いしていたが、なんと今度は空に二つの光が上がっていき、青い光となってはじけ飛んだ。

 それだけでは終わらず、次々に光は轟音と共にはじけ続け、まるで空に光の花畑が広がっているような、幻想的な光景が広がっていた。

「こ、こんなに盛大にやってくれるなんて、想像もしてなかったよ……」
「私も少々度肝を抜かれました。まさか、ここまで盛大に行うとは……これでは、私のプレゼントが霞んでしまう」

 そう言うと、ラルフは服の内ポケットから、縦長の箱を取り出して、私に手渡してくれた。

 これって、この前ラルフが町に行って買ってきてくれた物だよね?

「毎年ありがとう、ラルフ。すっごく嬉しい……! 開けてみてもいい?」
「はい」

 綺麗にラッピングされた包みを破かないように開けると、そこには銀色に輝くペンダントが入っていた。花びらのチャームが付いていて、可愛らしさと美しさが両立されている。

「こ、こんな綺麗なものを、本当に貰っちゃっていいの!?」
「はい。あなたのために買ってきたのですから」
「う、嬉しすぎて、この気持ちを何て言葉にすればいいかわからない……」

 手元には綺麗なネックレス、目の前にはカッコいい男性、そして夜空に花開く花火達。最高のパーティーまでしてもらえて……嬉しすぎて、このまま死んじゃってもいいやって思えるくらいだよ。

「ありがとう、ラルフ! 私、人生で一番嬉しい誕生日だよ!」
「それはなによりです。つけて差し上げますので、一度私に渡していただけますか?」
「いいの? それじゃあ、お願いしちゃおうかな」

 つけやすいように、髪を両手で持ち上げて、うなじが見えるようにした。これでついけられるかな……そう思ってからまもなく、私の首にペンダントがかけられた。

「綺麗だし、付け心地が良いし、この花びらも可愛いし、最高だよ! この花びらはなんのお花なんだろう?」
「その花は、サクラを模しております」
「サクラ? この辺りには無いお花だよね。だから見たことなかったんだ!」
「はい。ちなみに桜の花言葉は、優美な女性、純潔という意味があるそうです」

 このペンダントに、そんなに沢山の考えが詰まっていたなんてね。さすがはラルフ、しっかり調べておいたんだね!

「そろそろクライマックスですね」
「わぁ……すごいね、一気に花火が上がったよ! 迫力がものすごい!」
「ええ、圧巻ですね」
「うんっ……って、ラルフ?」

 さっきよりも多くの花火が空に旅立ち、そして轟音と共に花開く。その美しさに見惚れていると、ラルフに後ろから抱きしめられた。

 ビックリはしたけど、別に嫌とかは無くて……むしろ嬉しい。このままずっとこうしていたい。そう思ったら、自然とラルフの手に自分の手を重ねていた。

「ラルフ、今日は本当にありがとう。今日のことは一生忘れないよ」
「喜んでもらえて良かったです」

 今までに感じたことのない幸福感とラルフへの感謝、そして今までもこれからもラルフと一緒にいたいと思った私は、ラルフの手に自分の手を重ねる。そして、自然と口が開いた。

「ラルフ、大好きだよ」
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