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第二十五話 誕生日パーティー!

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 ラルフと少々すれ違いを起こしてしまった日から十日後。今日は私の誕生日……だというのに、私は自分の部屋に軟禁状態にされてしまっていた。

 普段から、何か用事があって外に行くことはしていないから、出れなくても支障はあまり無いのだけど、部屋を出ないでくれなんて言われたのは初めてだから、変な感じだよ。

「……ラルフ、今頃なにをしてるのかなぁ」

 読み終わった冒険小説を閉じ、外に視線をやりながら、ぽつりと呟く。外は既に夕焼け空に染まっていて、美しいけど少し寂しさを覚えた。

 ラルフは今朝、私に部屋を出ないようにと言い残してから、一度も私の前に姿を現していないんだ。

「はぁ……せっかくの誕生日なのに、一人ぼっちで過ごすだなんて、思ってもなかったな。これも、ラルフにずっと甘えていた罰なのかも……?」

 自分のせいなのはわかっているけど、誕生日くらいは誰かと一緒に過ごしたかったな……そんなことを思っていると、扉をノックする音が聞こえてきた。

「失礼します。クリスティア様がお呼びです」
「え、クリスティア様が? わかりました、すぐに行きます」

 クリスティア様が用事で呼び出すなんて、初めてのことだ。何の用かわからないけど、待たせるわけにもいかないから、早く行かなくちゃ!

「こちらです」
「ここって……」

 連れてこられた場所は、屋敷から少し離れた所にある、大きな建物だった。

 ここって、バーランド家が主催のパーティーをする時なんかに使う場所だったはずだ。

「お待ちしておりました、シエル様」
「ラルフ? えっと、これって……」
「もう勘づかれているかと思いますが……ささやかなお誕生日パーティーを用意させていただきました」

 入り口の前に立っていたラルフは、いつものように深々とお辞儀をすると、端的に説明してくれた。

 パーティー!? もしかして、私をずっと部屋にいさせたのは、パーティーの準備を見られないようにするためだったとか?

 もう、こっそりそんなのを準備するなんて……嬉しくて泣いちゃいそうだよ!

「本当は盛大にお祝いさせていただきたかったのですが、公にするとシエル様のご実家に見つかってしまうかもしれませんので、今回はバーランド家だけでお祝いさせていただく予定です」

 そっか、私とラルフは、湖の上で死んでるって思われてるだろうから、生きていると知られたら、変にまた絡んでくるかもしれないもんね。

 私としては、他の貴族の人達に気を使うのは大変だから、むしろそうしてもらえてありがたいよ。

「さあ、お手を」
「うんっ」

 ラルフに連れられて、会場へと向かうと、煌びやかな会場が広がっていて、そこにいた使用人達に出迎えられた。

 初めて入ったけど、とても広くて綺麗な所だ。装飾品の一つ一つが手入れされていてピカピカだし、明るさも明るすぎず暗すぎずで、丁度良い。

 ただ一つ気になるのが、会場の奥に何故か一つだけ置かれた椅子だ。周りには何も置かれていないせいで、その主張がすごい。

「待っていたわ、シエル」
「クリスティア様! 今日は私のためにパーティーを開いてくれて、ありがとうございます!」
「お礼ならラルフに言ってちょうだい。このパーティーを企画したのは、全てラルフなのよ」

 えっと声を漏らしながらラルフに視線を移すと、ラルフはクリスティア様の言葉を肯定するように頷いた。

「私が仕える主、そして未来の妻であるシエル様のお誕生日をお祝いするのは、当然のことですから」
「ら、ラルフ……! ありがとう! 私、凄く嬉しいよ!」

 こっそりとプレゼントを用意してくれていただけでも嬉しいのに、こうしてパーティーを開いてお祝いしてくれるなんて、本当に嬉しい。

「さあ、主役の席は既に用意してあります。こちらへどうぞ」

 私はラルフに再び手を引かれて、何故か会場の壁を沿うように歩いて椅子の所まで連れていかれた。

 どうしてこんな所に椅子が置いてあるのだろう? 近くに何も置いていない状態だから、目立ってしまって少し恥ずかしい。

「ではシエル様、目を瞑って少々お待ちいただけますか?」
「目を?」
「はい。音で合図を出しますので、そうしたら目を開けてくださって結構です」

 ……?よくわからないけど、ラルフがそうしてくれと言うなら、その通りにするべきだよね。

「閉じたよ」
「ありがとうございます。では……いきますよ」

 目を閉じてから十秒程待つと、パチンッ! と指を鳴らす音が聞こえた。

 きっと今の音が、ラルフの言っていた合図だろう。そう思って目を開けると、そこには思わぬものが広がっていた。

 さっきまでは、私が座っている椅子以外は何もない、だだっ広い空間だったのに、目を開けたらそこには色とりどりの料理、そしてとんでもなく大きいケーキがあった。

 い、一体いつの間に運ばれてきたの? 音とか一切しなかったし、十秒程度でこんなに用意できるわけがない。

 もしかして、何かの魔法? ラルフの魔法ではないのは確かだけど……。

「はーっはっはっはっはっはっ!! シエルちゃん、誕生日おめでとう!! 今日という日を祝して、私からはお手製の特大ケーキをプレゼントだ!!」

 ケーキの前で仁王立ちをしていたナディア様に、私はただ茫然と眺めることしか出来なかった。

「あ、あわわわ……こ、こんな大きなケーキ、初めてみた……! それに、ナディア様が作ったの!? 料理も沢山で、私の好きな物ばかりだよ!? もしかして、これって夢!?」

 そうだよね、いくら誕生日だからって、こんなに山のような料理を振舞ってもらえるわけがないよね!

 ほら、こうしてほっぺをつねってみれば……い、いひゃい……。

「夢ではございませんよ、シエル様」
「夢じゃないの!?」
「これは甘い夢を超えた、最高の現実なのだよ! さあ、私と一流のコックが用意した思考の料理たちを、是非堪能したまえ!」

 堪能してと言われても、これだけ多いと何から手を付ければ良いか全然わからないよ! パッと見ただけで、料理だけで十人前はあるだろうし、ケーキなんて私の身長よりもあるし!

「シエルちゃんは困った子だね! ラルフ、彼女が困っているようだから、何か選んで食べさせてあげたらどうだい?」
「名案ですね。ではシエル様の大好物のこちらを」

 ラルフは近くにあったお肉を食べやすいサイズに切ると、そのまま私に食べさせてくれた。

 ……いつもだったら、あーんなんて恥ずかしいよって言うところだけど、今回はそんなことを言う余裕はないくらい、嬉しさと戸惑いが勝っていた。

「どうですか?」
「お、おいひすぎる……! 口の中で、お肉が溶けた……!」

 一口食べた時点で、私のごはんへの欲求が完全に開放されてしまった。次から次に食べ進めて行き、その度にそのおいしさに感動し続ける。

 実家にいる時も、見捨てられていたとはいえ、体裁のためにそれなりのものは食べれたし、バーランド家で毎日おいしいごはんをいただいていたけど、今日のは別格過ぎる!

「シエル様、お水もしっかり飲んでください」
「うん、ありがとうラルフ! ごくごくっ……もぐもぐ……おいしぃ~!」

 あまりにもおいしくて、涙を流しながら食べ進めるという、何とも奇妙な図が出来てしまった。

 でも、そんなことを気にするほど私は暇じゃないの! 今は全部の力を使って、用意してくれた方達と食材たちに感謝を込めて、一つも残さず食べなきゃいけないの!


 ****


 結局全て平らげた私は、満面の笑みで両手を合わせて、最大の感謝を伝えた。

「私なんかのために、こんなに用意してもらっちゃって……ありがとうございます!」
「満足してもらえたようで、私もコック達もご満悦だよ! 本当は、何か形に残るものを渡そうと思ったんだけど、私が一番胸を張れるものを贈りたいと思って、この形にさせてもらったよ!」

 ナディア様が堂々と胸を張るのもわかる。それくらい、今日のごはんはおいしかった。

 特に、ナディア様お手製のケーキは絶品だったよ! 場所によって甘さが控えめだったり凄く甘かったり、しょっぱかったりもして、食べてて全然飽きないの!

 使われているフルーツも豊富なおかげで、触感や風味も楽しめて……もう満点なんて余裕で超えているくらいの満足度だよ! こんなにおいしいケーキを作れるなんて、ナディア様は凄いよ! さすが、ラルフにケーキの作り方を教えただけはある!

 私、ずっと家で冷遇されて生きてて、辛いと思った時もあったけど……生きててよかったぁ……!

「ふふっ、満足してもらえたようで何よりだわ。さてと、それじゃあ食後の運動といきましょうか」
「クリスティア様、運動って?」
「うふふ、パーティーなのだから、あれしかないでしょう?」

 クリスティア様の合図が入ると、使用人達が一斉にお皿とテーブルを片付ける。そして、私は女性の使用人に連れられて、その場を後にした。

 行き先は、同じ建物の中にある更衣室だった。そこで社交界用のフリフリが付いている青のドレスに着替えさせられた。

「お綺麗ですよ、シエル様。髪色とあっていて、とてもお似合いです」
「ありがとうございます! それで、これからなにを?」
「時期にわかるかと。ほら、噂をすれば」

 ノックの音と共に入ってきたのは、燕尾服を着たラルフだった。その表情は、いつも以上にわかりやすい笑顔だった。

 ラルフの格好がいつもと違うのもあるけど、何よりも驚いたのが、いつも目を隠すために前髪を下ろしてたのに、オールバックにしているから、目が露わになっていた。

「ラルフ、それ……!」
「せっかくの機会ですし、こういうのもいいかと思いまして」
「うんうん、すっごく素敵だよ! カッコよくて綺麗で、私は大好きだよ!」

 率直な感想を伝えただけだったんだけど、ラルフは私から視線を逸らしてしまった。しかも、その頬はほんのりと赤に染まっている。

 も、もしかして……ラルフが照れてる!? うそっ、そんな奇跡が起こるの!? ラルフって、いつも落ち着いてて、私に甘い言葉とか言う時も冷静なんだよ!? そんなラルフが照れるなんて……!

 ていうかさ! 照れてるラルフ、新鮮で可愛くない? こんな表情を見せられたら、胸がキュンキュンしちゃうよ!

「ごほんっ。失礼いたしました。まさか褒められると思っておらず、油断しておりました。それと、私よりもシエル様の方がお綺麗です。思わず物語に出てくる、女神や精霊と見間違えてしまうくらいでした」
「それは言いすぎだよ~」
「私の本音ですよ」

 も~ラルフったら~なんて話をしながら、いつの間にか自然と手を握られてリードされた私は、再び会場に戻ってくる。

 すると、そこには煌びやかなドレスや燕尾服を使用人達が、私達を出迎えてくれた――
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