婚約破棄をされ、父に追放まで言われた私は、むしろ喜んで出て行きます! ~家を出る時に一緒に来てくれた執事の溺愛が始まりました~

ゆうき

文字の大きさ
上 下
22 / 44

第二十二話 怪しい行動

しおりを挟む
「んっ……!」

 暗闇の向こうで、何をされているのかわからない。唯一わかるのは、私の唇に何か柔らかいものが当たっているということだ。

 あぁ、私……ラルフに初めてを上げちゃったんだ……結婚どころか、お付き合いもしてないけど、ラルフならいいかな……。

「……?」

 全部の意識が唇に集中したおかげか、この極限までドキドキした状態でも、唇に感じる感触を確かめるくらいの余裕はあった。

 ……キスなんてしたことがないから、確かではないけど、こんなに唇の中心だけに感触を感じるものなのかな?

「シエル様、目をお開けください」
「……んむっ……?」

 ラルフの言葉に従って目を開けると、ラルフは私にぶつかる直前で止まっていた。そして、その間に割り込むように、ラルフの綺麗な人差し指があった。

 もしかして、この感触ってラルフの人差し指? だからこんな不思議な感覚だったの?

「まだ交際もしていないですし、こんな形で唇を奪うようなことは致しませんので、ご安心くださいませ」
「そ、そうだよね。ラルフみたいな真面目な人が、順番を間違えるはずがないよね!」
「そういうことです。許されるのなら、いくらでもしたいですが」

 サラッと発せられた爆弾発言に、思わず私の顔が一瞬にして真っ赤に染まった。

「本音というか、欲望が出ちゃってるから!」
「これは失礼しました。しかし、誠に勝手ながら、多少はお許しを願いたい。これでも、長い間あなたへの想いを隠し続けていたので、機会があれば伝えたくて仕方がないのです」
「うっ……わ、私がドキドキしすぎない程度にね!」

 今までずっと立場を考えて、気持ちを押し殺していたラルフの気持ちを考えると、強く言うことなんて出来ない。

 でも、せめてもう少しだけ、オブラートに包む言い方をするか、頻度を減らしてくれないかな……そうじゃないと、ドキドキしすぎてまた気絶しちゃうかもしれないよ。


 ****


「シエル様、今日は少々用事があって出かけるので、お傍にいられません」
「用事? なにかあったの?」
「特に何かあったわけではないので、ご安心ください」

 ラルフと一緒に胸キュン仕草のお試しをした日から数週間後の午前。ラルフは私にそう言い残して、そそくさと部屋を出て行ってしまった。

 ……なんだろう、いつも何か用事があるなら、こういう理由だって説明をしてくれるのに、全然説明をしてくれなかった。

 それどころか、なにか隠し事をしてますよ~って雰囲気がプンプンしていた。

「もしかして、私の知らないところで、大変なことでもあったのかな……? 私に何か出来ることがあったら手伝いたいけど、相手は子供じゃないんだから、変に介入するのも……」

 一人でブツブツ言いながら、う~んと頭を悩ませる。その結果、私はラルフを追いかけて部屋を出て行った。

「ラルフ、どこに行ったのかな……あ、ラルフを見ませんでしたか?」
「ラルフ様ですか? 先程屋敷を出て行かれましたよ」
「どこに行くかとかは言ってませんでしたか?」
「それはちょっとわからないですね……急いでいたのと、何か思いつめたような顔をしていたのは見ましたよ」

 思いつめた!? や、やっぱりなにかあったんだ! もう、どうしてそういう大切なことは言わないのかなぁ!?

「わかりました、ありがとうございます!」

 教えてくれた女性の使用人にお礼を伝えてから、私は早足で玄関まで向かった――が、その途中の曲がり角で、誰かと正面衝突をしてしまった。

「ふぎゃあ!? いたた……ご、ごめんなさい!」
「大丈夫かい? 我が愛しの妻よ」
「えっ?」

 ぶつかった衝撃で尻もちをついた私は、差し出された手を取って顔を上げると、にこやかに笑うラルフ……ではなく、ナディア様の姿があった。

「はっはっはっ! どうだい、結構似ているだろう?」
「一瞬ラルフかと思っちゃいました……ごめんなさい、急いでてちゃんと前を見ていませんでした!」
「何かあったのかい?」
「ラルフが珍しく私に隠し事をして、出かけたんです。それに、なんだか思いつめていたみたいで……だから追いかけようと思ったんですけど、どこに行ったかわからなくて」
「なるほど」

 こうしている間に、ラルフに追いつけなくなってしまうかもしれない。そう思うと、気持ちばかりが焦っちゃう。

「ラルフは港町に用事があると言っていたよ。確か、人と待ち合わせをしているんだとか」
「本当ですか!?」
「ああ、本当だとも! 十一時に町の中心にある公園で待ち合わせと言っていたはずだ!」
「ありがとうございます! すぐに行ってみます!」

 思わぬところで、ラルフの情報を手に入れることができた。こうしちゃいられない、早くラルフの所に行って、何を悩んでいるのか聞かないと!




「やれやれ、私の弟は隠し事がヘタクソすぎるな……よく今まで気持ちを隠し通せていたものだ。そんな弟の恋愛には、ちょっとしたスパイスがあってもいいだろう……ふふっ、仕事がなければ見に行きたいが、こればかりは仕方ないな」


 ****


 急いで身支度を整えた私は、ナディア様に教えられた、港町の公園へとやってきた。

 ここを目的地にしたことは無いけれど、何度か通ってはいるから、場所に関しては全く問題無かったよ。

「ふう、なんとか間に合ったかな」

 私は、つい最近おこづかいで買った懐中時計で時間を確認する。時計の針は、もう間もなく十一時を示そうとしていた。

 ギリギリ間に合ってよかった。ここまで走ってこなかったら、間に合ってなかったかも? 無駄にある体力に感謝だね!

「ラルフは……いたっ!」

 公園のどこにいるかはわからなかったから、手当たり次第に歩き回ると、ラルフは噴水の前に立っていた。

 うーん、声をかけようかやめておこうか、ちょっと悩みどころ……そんなことを思っていると、ラルフの元に知らない女性が近づいていった。

「あれ、誰だろう……? ラルフの知り合いかな?」

 この辺りはラルフの地元だから、私が会ったことがない知り合いがいてもおかしくないよね。

 ここからだと、さすがに話している内容は聞こえないな……。

「もう少し近づけば……あっ」

 他人を装って近づこうとした瞬間、ラルフは女性と一緒にどこかに向かって歩き出してしまった。

 それも……腕を組んだ状態で。

「え、うそ……ラルフって、あんな親しくする女性がいたの……?」

 べ、別にラルフが誰と仲良くしようとも、それはラルフの自由だ。だから、私にどうこう言う資格は無い。

 でも、それとは関係無しに、ラルフが知らない女性と親しくしているのをみて、ショックを受けている自分がいた。胸が苦しいし、今すぐにここから消えてしまいたい衝動に駆られた。

「き、きっと何か事情があるんだよね……そうに違いないよ!」

 目の前の現実から目を逸らすように、自分に必死にそう言い聞かせながら、私はラルフ達の後をこっそりと追いかけ始めた――
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

婚約者を譲れと姉に「お願い」されました。代わりに軍人侯爵との結婚を押し付けられましたが、私は形だけの妻のようです。

ナナカ
恋愛
メリオス伯爵の次女エレナは、幼い頃から姉アルチーナに振り回されてきた。そんな姉に婚約者ロエルを譲れと言われる。さらに自分の代わりに結婚しろとまで言い出した。結婚相手は貴族たちが成り上がりと侮蔑する軍人侯爵。伯爵家との縁組が目的だからか、エレナに入れ替わった結婚も承諾する。 こうして、ほとんど顔を合わせることない別居生活が始まった。冷め切った関係になるかと思われたが、年の離れた侯爵はエレナに丁寧に接してくれるし、意外に優しい人。エレナも数少ない会話の機会が楽しみになっていく。 (本編、番外編、完結しました)

兄にいらないと言われたので勝手に幸せになります

毒島醜女
恋愛
モラハラ兄に追い出された先で待っていたのは、甘く幸せな生活でした。 侯爵令嬢ライラ・コーデルは、実家が平民出の聖女ミミを養子に迎えてから実の兄デイヴィッドから冷遇されていた。 家でも学園でも、デビュタントでも、兄はいつもミミを最優先する。 友人である王太子たちと一緒にミミを持ち上げてはライラを貶めている始末だ。 「ミミみたいな可愛い妹が欲しかった」 挙句の果てには兄が婚約を破棄した辺境伯家の元へ代わりに嫁がされることになった。 ベミリオン辺境伯の一家はそんなライラを温かく迎えてくれた。 「あなたの笑顔は、どんな宝石や星よりも綺麗に輝いています!」 兄の元婚約者の弟、ヒューゴは不器用ながらも優しい愛情をライラに与え、甘いお菓子で癒してくれた。 ライラは次第に笑顔を取り戻し、ベミリオン家で幸せになっていく。 王都で聖女が起こした騒動も知らずに……

白い結婚のはずでしたが、王太子の愛人に嘲笑されたので隣国へ逃げたら、そちらの王子に大切にされました

ゆる
恋愛
「王太子妃として、私はただの飾り――それなら、いっそ逃げるわ」 オデット・ド・ブランシュフォール侯爵令嬢は、王太子アルベールの婚約者として育てられた。誰もが羨む立場のはずだったが、彼の心は愛人ミレイユに奪われ、オデットはただの“形式だけの妻”として冷遇される。 「君との結婚はただの義務だ。愛するのはミレイユだけ」 そう嘲笑う王太子と、勝ち誇る愛人。耐え忍ぶことを強いられた日々に、オデットの心は次第に冷え切っていった。だが、ある日――隣国アルヴェールの王子・レオポルドから届いた一通の書簡が、彼女の運命を大きく変える。 「もし君が望むなら、私は君を迎え入れよう」 このまま王太子妃として屈辱に耐え続けるのか。それとも、自らの人生を取り戻すのか。 オデットは決断する。――もう、アルベールの傀儡にはならない。 愛人に嘲笑われた王妃の座などまっぴらごめん! 王宮を飛び出し、隣国で新たな人生を掴み取ったオデットを待っていたのは、誠実な王子の深い愛。 冷遇された令嬢が、理不尽な白い結婚を捨てて“本当の幸せ”を手にする

婚約破棄は別にいいですけど、優秀な姉と無能な妹なんて噂、本気で信じてるんですか?

リオール
恋愛
侯爵家の執務を汗水流してこなしていた私──バルバラ。 だがある日突然、婚約者に婚約破棄を告げられ、父に次期当主は姉だと宣言され。出て行けと言われるのだった。 世間では姉が優秀、妹は駄目だと思われてるようですが、だから何? せいぜい束の間の贅沢を楽しめばいいです。 貴方達が遊んでる間に、私は──侯爵家、乗っ取らせていただきます! ===== いつもの勢いで書いた小説です。 前作とは逆に妹が主人公。優秀では無いけど努力する人。 妹、頑張ります! ※全41話完結。短編としておきながら読みの甘さが露呈…

初耳なのですが…、本当ですか?

あおくん
恋愛
侯爵令嬢の次女として、父親の仕事を手伝ったり、邸の管理をしたりと忙しくしているアニーに公爵家から婚約の申し込みが来た! でも実際に公爵家に訪れると、異世界から来たという少女が婚約者の隣に立っていて…。

ボロボロになるまで働いたのに見た目が不快だと追放された聖女は隣国の皇子に溺愛される。……ちょっと待って、皇子が三つ子だなんて聞いてません!

沙寺絃
恋愛
ルイン王国の神殿で働く聖女アリーシャは、早朝から深夜まで一人で激務をこなしていた。 それなのに聖女の力を理解しない王太子コリンから理不尽に追放を言い渡されてしまう。 失意のアリーシャを迎えに来たのは、隣国アストラ帝国からの使者だった。 アリーシャはポーション作りの才能を買われ、アストラ帝国に招かれて病に臥せった皇帝を助ける。 帝国の皇子は感謝して、アリーシャに深い愛情と敬意を示すようになる。 そして帝国の皇子は十年前にアリーシャと出会った事のある初恋の男の子だった。 再会に胸を弾ませるアリーシャ。しかし、衝撃の事実が発覚する。 なんと、皇子は三つ子だった! アリーシャの幼馴染の男の子も、三人の皇子が入れ替わって接していたと判明。 しかも病から復活した皇帝は、アリーシャを皇子の妃に迎えると言い出す。アリーシャと結婚した皇子に、次の皇帝の座を譲ると宣言した。 アリーシャは個性的な三つ子の皇子に愛されながら、誰と結婚するか決める事になってしまう。 一方、アリーシャを追放したルイン王国では暗雲が立ち込め始めていた……。

愛されない花嫁は初夜を一人で過ごす

リオール
恋愛
「俺はお前を妻と思わないし愛する事もない」  夫となったバジルはそう言って部屋を出て行った。妻となったアルビナは、初夜を一人で過ごすこととなる。  後に夫から聞かされた衝撃の事実。  アルビナは夫への復讐に、静かに心を燃やすのだった。 ※シリアスです。 ※ざまあが行き過ぎ・過剰だといったご意見を頂戴しております。年齢制限は設定しておりませんが、お読みになる場合は自己責任でお願い致します。

私を追い出した結果、飼っていた聖獣は誰にも懐かないようです

天宮有
恋愛
 子供の頃、男爵令嬢の私アミリア・ファグトは助けた小犬が聖獣と判明して、飼うことが決まる。  数年後――成長した聖獣は家を守ってくれて、私に一番懐いていた。  そんな私を妬んだ姉ラミダは「聖獣は私が拾って一番懐いている」と吹聴していたようで、姉は侯爵令息ケドスの婚約者になる。  どうやらラミダは聖獣が一番懐いていた私が邪魔なようで、追い出そうと目論んでいたようだ。  家族とゲドスはラミダの嘘を信じて、私を蔑み追い出そうとしていた。

処理中です...