婚約破棄をされ、父に追放まで言われた私は、むしろ喜んで出て行きます! ~家を出る時に一緒に来てくれた執事の溺愛が始まりました~

ゆうき

文字の大きさ
上 下
12 / 44

第十二話 直球な想い

しおりを挟む
 屋敷で働いていた男性に、港町にある大きな図書館の場所を教えてもらった私は、再び港町へとやってきた。

「シエル様、足元に気を付けてお降りください」
「うん、ありがとう……って、ここまで全然疑問に思わなかったけど、どうしてラルフも来てくれたの? クリスティア様とお話はいいの?」
「私はあなたの執事ですので、お供するのは当然です。お話は終わったので、ご安心を」

 そっか、終わったのなら安心……なのかな? 恋心を学ぶための本を手に入れるために、その相手と一緒に図書館に行くって、なんだか少し変な気がする。

 でも……まあいっか! ラルフと一緒に行動をするのは、恋心とか関係なしに凄く嬉しいし!

「わぁ、この町の図書館って大きい……そういえば、ラルフはもうマーチャント家を出てバーランド家に戻ったんだから、私の執事じゃないんじゃないかな?」

 図書館に入る前に、私は疑問に思ったことをラルフに投げかけると、ラルフはいつも通りの調子で話し始めた。

「仰る通り、私はもうマーチャント家には仕えておりませんし、家にも帰りました。ですが、私はあなたの執事をやめたつもりはありません。そして可能なら執事としてだけではなく、あなたの未来の夫として、一生尽くすつもりです」
「そ、そうなんだ……」

 お、夫って……確かにそうなる未来は来るかもしれないけど……なんか、急に直球な言葉を投げかけてくるようになったと感じるのは、私の気のせい?

「それに、どんな用とはいえ、あなたと二人きりで行動が出来るのはデートですからね。これを逃す手はありません」
「やっぱり直球になってる!?」
「直球? はて、球は投げておりませんが……」
「そういう意味じゃないよー!」

 やっぱり直球になってる! そういえば、しっかり自分の気持ちを伝えるって言ってだけど……こういう感じだったんだね! 凄すぎて言葉にならない!

「で、でもやっぱり普通に考えたら変だよ。侯爵家の人は、家を追い出された人に仕えたり、告白をしたり、デートをしたりしないよ。明らかに身分差がありすぎて、おかしいって思われるよ」
「世間ではそうかもしれませんが、自らをそれに落とし込む必要は無いかと存じます」
「う、うぅ~……」

 そう言われてしまうと、何も言い返せない。だって、誰かに迷惑をかけてないし、自由にしていいことだと思うから。

 これって、どうすればいいんだろう。少なくとも、執事は辞めてくれれば、普通の関係に近づけるのに。

 そうだ、大嫌いって言って怒らせたら、執事なんてやめてやる! って思ってもらえないかな? 全く心に思っていないことだけど、バカな私には、こんな子供みたいな方法しか思いつかない。

「ら、ラルフ!」
「はい」
「だ、だだだ……だい……だい……!!」
「シエル様?」
「うぅぅぅ……!!」

 い、言えない! 私のことをずっと想ってくれて、ずっと近くで私の味方をしてくれた人に、大嫌いなんて口が裂けても言えないよ!

「だだだ……大好き!」
「…………」
「あっ……」

 咄嗟に大嫌いとは真逆の言葉が出た私は、あまりにも恥ずかしすぎて、体中を真っ赤にさせた。

 た、確かにラルフのことは大好きだけど! 何も間違ってないけど! 心の底からそう思っているけどぉぉぉぉ!!

「私も大好きですよ、シエル様」
「ち、ちがっ……いや、なにも違くはないんだけど!」
「あらあら、こんな所で告白なんて、大胆ねぇ」
「ひゅーひゅー! お幸せになー!」
「えっ!?」

 なんて言い訳をしようか頭を悩ませていると、たまたま通りがかった人達に見られ、なぜか祝福されてしまった。

 な、なんでこんなことに!? も、もう恥ずかしすぎてお嫁に行けないよー!!


 ****


「な、なんか凄く疲れた……」
「お疲れ様です、シエル様」
「……う、うん……ラルフ……付き合ってくれてありがとう……」

 あの後、バーランド家に用意された私の部屋に戻ってきた私は、ベッドにうつ伏せで倒れていた。

 人前であんな大胆なことを言っちゃうなんて……今思い出しても、恥ずかしすぎて死んじゃいたいくらいだ。

 よくこんな状態で、本を借りられたなぁ……そこだけは自分を褒めてもいいかも……。

「お気を確かに、シエル様。私は嬉しかったですよ。またお聞かせいただきたいくらいです」
「ま、また言ったら、今度こそ恥ずかしさで死んじゃうって!」
「ご安心ください。もしシエル様が旅立たれたら、私もすぐに後を追いますので」
「愛が重いよ!? ラルフにはもっと長生きしてもらわないと!」

 なんだかんだで、ラルフの言葉に言い返すくらいの元気は残っているみたい。

「とりあえず、借りてきた本でも読んで、気晴らししようかな……」
「かしこまりました。すぐにお出しします」

 ラルフは今日私が借りてきた本を、テーブルの上に置いてくれた。大小様々な本達を、合計で二十冊借りている。

 普通の人なら、数が多すぎると思うかもしれないけど、これでも一応読書には慣れてるから、これくらいの量ならそんなに時間はかからずに読みきれる。

「これは有名な男女の冒険譚……これは恋愛物語……これはとある夫婦の実話を本にしたもの……先程は気づきませんでしたが、全部恋愛関連でございますか?」
「うん。私は恋心がよくわからないから、こういうのを読んで、恋心がどういうものかを理解しようと思って。そうすれば、ラルフの恋心とか、ラルフに対する私の気持ちの正体がわかって、誠実に返事が出来ると思ったんだ」

 ラルフに自分の考えを伝えてから、早速一冊手に取って読み始めてみる――が、私は即座にその本を勢いよく閉じた。

 今読もうとしていたのは、とある恋愛小説だったんだけど……冒頭から、その……濡れ場から始まってて……庶民の女の子が、王子様に襲われるって感じで……それにビックリして閉じちゃったの。

「な、なんで今に限ってこんな場面から始まるの!? 恥ずかしすぎて意識が飛びそう……あれ、ラルフ?」

 また恥ずかしい所を見られてしまったと思い、ラルフに弁明をしようとしたら、なぜかラルフは私に背を向け、右手で頭を抱えていた。

「どうかしたの? もしかして、調子が悪い?」
「いえ……私のために、こんなに勉強をしようとしてくれたあなたの優しさと愛情に、心を打たれていただけです」
「さ、さすがにそれは大げさな気もするけど?」
「大げさなものですか。ずっと想っていた相手が自分のために動いてくれる。こんなに幸せなことはありません。やはり、あなたに心を奪われたのは、必然だったのです」

 私の元に戻ってくると、そのまま私の手を取るラルフ。その目はとてもまっすぐで、輝いていた。

 ら、ラルフの目を見てるだけでドキドキしちゃう。見慣れたもののはずなのに、気持ち一つでこんなにも変わっちゃうんだね。

「あ、その……せ、せっかく借りてきたんだから、ゆっくり読まないとなー! だ、だから一人にしてほしいなー! なんて……」
「かしこまりました。では食事の時間になったらお呼びいたしますので、ごゆっくり」

 恥ずかしさに耐えかねて誤魔化したら、ラルフは素直に部屋を出て行った。

 ……悪いことをしちゃったかな……はぁ、もっと私にラルフの気持ちを全部受け止められるくらいの、恋愛の経験があれば……。

 今更そんなことを言っても、仕方がないんだけどね。さあ、片っ端から読んで恋心を少しでも理解しなきゃ! 根性で頑張るぞー!
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

婚約者を譲れと姉に「お願い」されました。代わりに軍人侯爵との結婚を押し付けられましたが、私は形だけの妻のようです。

ナナカ
恋愛
メリオス伯爵の次女エレナは、幼い頃から姉アルチーナに振り回されてきた。そんな姉に婚約者ロエルを譲れと言われる。さらに自分の代わりに結婚しろとまで言い出した。結婚相手は貴族たちが成り上がりと侮蔑する軍人侯爵。伯爵家との縁組が目的だからか、エレナに入れ替わった結婚も承諾する。 こうして、ほとんど顔を合わせることない別居生活が始まった。冷め切った関係になるかと思われたが、年の離れた侯爵はエレナに丁寧に接してくれるし、意外に優しい人。エレナも数少ない会話の機会が楽しみになっていく。 (本編、番外編、完結しました)

《完結》愛する人と結婚するだけが愛じゃない

ぜらいす黒糖
恋愛
オリビアはジェームズとこのまま結婚するだろうと思っていた。 ある日、可愛がっていた後輩のマリアから「先輩と別れて下さい」とオリビアは言われた。 ジェームズに確かめようと部屋に行くと、そこにはジェームズとマリアがベッドで抱き合っていた。 ショックのあまり部屋を飛び出したオリビアだったが、気がつくと走る馬車の前を歩いていた。

兄にいらないと言われたので勝手に幸せになります

毒島醜女
恋愛
モラハラ兄に追い出された先で待っていたのは、甘く幸せな生活でした。 侯爵令嬢ライラ・コーデルは、実家が平民出の聖女ミミを養子に迎えてから実の兄デイヴィッドから冷遇されていた。 家でも学園でも、デビュタントでも、兄はいつもミミを最優先する。 友人である王太子たちと一緒にミミを持ち上げてはライラを貶めている始末だ。 「ミミみたいな可愛い妹が欲しかった」 挙句の果てには兄が婚約を破棄した辺境伯家の元へ代わりに嫁がされることになった。 ベミリオン辺境伯の一家はそんなライラを温かく迎えてくれた。 「あなたの笑顔は、どんな宝石や星よりも綺麗に輝いています!」 兄の元婚約者の弟、ヒューゴは不器用ながらも優しい愛情をライラに与え、甘いお菓子で癒してくれた。 ライラは次第に笑顔を取り戻し、ベミリオン家で幸せになっていく。 王都で聖女が起こした騒動も知らずに……

初耳なのですが…、本当ですか?

あおくん
恋愛
侯爵令嬢の次女として、父親の仕事を手伝ったり、邸の管理をしたりと忙しくしているアニーに公爵家から婚約の申し込みが来た! でも実際に公爵家に訪れると、異世界から来たという少女が婚約者の隣に立っていて…。

婚約破棄に乗り換え、上等です。私は名前を変えて隣国へ行きますね

ルーシャオ
恋愛
アンカーソン伯爵家令嬢メリッサはテイト公爵家後継のヒューバートから婚約破棄を言い渡される。幼い頃妹ライラをかばってできたあざを指して「失せろ、その顔が治ってから出直してこい」と言い放たれ、挙句にはヒューバートはライラと婚約することに。 失意のメリッサは王立寄宿学校の教師マギニスの言葉に支えられ、一人で生きていくことを決断。エミーと名前を変え、隣国アスタニア帝国に渡って書籍商になる。するとあるとき、ジーベルン子爵アレクシスと出会う。ひょんなことでアレクシスに顔のあざを見られ——。

愛されない花嫁は初夜を一人で過ごす

リオール
恋愛
「俺はお前を妻と思わないし愛する事もない」  夫となったバジルはそう言って部屋を出て行った。妻となったアルビナは、初夜を一人で過ごすこととなる。  後に夫から聞かされた衝撃の事実。  アルビナは夫への復讐に、静かに心を燃やすのだった。 ※シリアスです。 ※ざまあが行き過ぎ・過剰だといったご意見を頂戴しております。年齢制限は設定しておりませんが、お読みになる場合は自己責任でお願い致します。

水魔法しか使えない私と婚約破棄するのなら、貴方が隠すよう命じていた前世の知識をこれから使います

黒木 楓
恋愛
 伯爵令嬢のリリカは、婚約者である侯爵令息ラルフに「水魔法しか使えないお前との婚約を破棄する」と言われてしまう。  異世界に転生したリリカは前世の知識があり、それにより普通とは違う水魔法が使える。  そのことは婚約前に話していたけど、ラルフは隠すよう命令していた。 「立場が下のお前が、俺よりも優秀であるわけがない。普通の水魔法だけ使っていろ」  そう言われ続けてきたけど、これから命令を聞く必要もない。 「婚約破棄するのなら、貴方が隠すよう命じていた力をこれから使います」  飲んだ人を強くしたり回復する聖水を作ることができるけど、命令により家族以外は誰も知らない。  これは前世の知識がある私だけが出せる特殊な水で、婚約破棄された後は何も気にせず使えそうだ。

ご自慢の聖女がいるのだから、私は失礼しますわ

ネコ
恋愛
伯爵令嬢ユリアは、幼い頃から第二王子アレクサンドルの婚約者。だが、留学から戻ってきたアレクサンドルは「聖女が僕の真実の花嫁だ」と堂々宣言。周囲は“奇跡の力を持つ聖女”と王子の恋を応援し、ユリアを貶める噂まで広まった。婚約者の座を奪われるより先に、ユリアは自分から破棄を申し出る。「お好きにどうぞ。もう私には関係ありません」そう言った途端、王宮では聖女の力が何かとおかしな騒ぎを起こし始めるのだった。

処理中です...