上 下
3 / 44

第三話 最後まで嫌がらせ

しおりを挟む
 マーチャント家の屋敷に帰ってきた私とラルフは、私の部屋で荷物の整理をするために、一緒に私の部屋へと入った。

「えーっと……あったあった!」
「シエル様、その袋は? なにやらパンパンに詰め込まれておられるようですが」
「ふふんっ、これはね……来るべき日に備えて、こっそりお小遣いを貯めていた袋なんだ! もちろん、誰にも内緒でね! ほら、たくさん入ってるでしょう?」

 私は少し自慢げに鼻を高くしながら、お金が入った麻袋をラルフに見せつける。

「シエル様、これはさすがに……」
「え、うそ……何かダメだった……? うぅ、頑張ってコツコツ貯めたんだけどなぁ……」
「ダメと言うわけではありませんが……私が管理させていただいてもよろしいですか?」
「管理? うん、もちろんいいよ! って……一緒に来てくれるの?」
「当然です。私はシエル様の専属執事なので。お伝えしておりませんでしたか?」
「してないよ! だから、いつ一緒に来てってお願いするか、ずっと悩んでたんだよ!?」

 私はラルフと離ればなれになりたくない。でも、家を出て行ったら、その後がどうなるかなんてわからないから、来てくれなんて頼みにくかった。

 だから、ずっとタイミングを見計らっていて……遅くなったけど、今日こそ言わなきゃって思ってたんだよ!? それなのに、ラルフから来るって言ってくれるなんて、嬉しすぎる!

「ありがとうラルフ!!」

 私はラルフに強く抱きついて、自分の嬉しさを爆発させる。

 ああもう、どうしよう! 出て行けるのも嬉しいけど、ラルフとこれからも一緒だって思うと、嬉しさが倍増する!

「シエル様。喜ばれるのは結構ですが、まずは荷物をまとめてしまいましょう」
「そうだね。これで忘れ物でもしたら、笑い話にもならないね!」

 ラルフから離れた私は、再び荷物をまとめ始める。長旅になる可能性がある状態で、多くの荷物なんて持っていけないから、なにを持っていくかしっかり考えないと。

 ――なんてことを考えながらまとめていると、部屋の扉がノックされる音が聞こえてきた。

「失礼するわ」
「ヴィオラお姉様? パーティーは?」
「パーティーならとっくに終わってますわよ?」

 え、もうそんな時間!? 荷物をまとめていたら、想像以上に時間が経っていたみたいだ。

「それで、何か用ですか?」
「お父様から、シエルが追放されるって聞きましてね。いなくなる前に、ちょっと聞きたいことがありますの」
「聞きたいこと?」
「婚約破棄や追放された気分というのは、どんな感じですの? 私のような優秀な人間には、一生縁がないことなので、聞いてみたくて」
「…………」
「悲しい? 惨め? 怒り? どれも嫌な感情だわ。本当に可哀想……可哀想で、とっても愉快!」

 これ、結局私をバカにするために来ただけだよね? どれだけヴィオラお姉様は暇なの?

 っと……我慢我慢。せっかく作戦がうまくいったんだから、ここで反発して変な流れになるくらいなら、ここはしおらしくして、ヴィオラお姉様を満足させるのが正解だね!

「自分がこんな目に合うなんて……悲しいです。それに、自分の凡才が憎いですよ、ヴィオラお姉様」
「ふふっ……毎日勉強をして、習い事に積極的に取り組んでも、全て無駄だったものね」

 うぐっ……悔しいけど、何も言い返せない。実際に、私は勉強を疎かにしたことなんて無いし、習い事だって真面目にこなしてたのに……いつの間にか、二人と天と地ほどの差が開いちゃった。

「無駄ではありません。その努力は別の形になるかもしれませんが、いつか必ず報われる日が訪れます」
「随分と知った口を利くのね、ラルフ」
「ええ。私が自らで証明したことですので」
「ふんっ、ほんっとうに生意気な男ですこと。私の家畜にして、一生こき使ってやりたいわ」
「それは諦めてくださいませ。私はシエル様と共に屋敷を出ますので」

 ラルフとヴィオラお姉様がバチバチと火花を散らしていると、その空気を壊すかのように、勢いよく扉が開かれた。

「あ、いたいた!」
「リンダじゃないの。入ってくる時はちゃんとノックしないと駄目よ?」
「え、別に良いじゃん。シエルお姉様の部屋なんだし」

 リンダが私の部屋に来るなんて珍しい。たまに来ても、私の私物で欲しいものがあって、それを奪いに――ごほんっ、譲ってもらいに来ることがほとんどだ。

「さっき聞いたんだけど、家を出て行くんだって!? うぅ、シエルお姉様がいなくなったら寂しいよぉ……」
「わかりやすい嘘泣きはやめて」
「え、バレるの早すぎ。つまんなーい」

 リンダは両手を目元に持っていって、めそめそと泣いたふりをするが、すぐに見破られてつまらなさそうな顔をした。

 この嘘泣きのせいで、何度私が悪くないことを、悪いことにされたことやら。思い出すだけでもイライラする!

「婚約を破棄されたうえに追放って、もはや狙ってるとしか思えないよ! 話を聞いた時、面白過ぎて笑っちゃった!」

 内心ではリンダに更にイライラしたけど、ここもグッと我慢をしなきゃ……我慢……我慢よ私……!

「ヴィオラ様、リンダ様。シエル様はとてもお忙しい方なので、そろそろ自分のお部屋にお帰りいただけると幸いです」
「え、知らないよそんなの! もうシエルお姉様と会えなくなっちゃうんだから、もーっとお話をしたいし!」
「お帰り下さい」
「これは姉妹のコミュニケーションなのよ。執事ごときに割って入れる領域じゃありませんの」
「帰れ」

 全く言う事を聞かない二人に、ラルフのドスの効いた声が響く。それに怯んだのか、二人はバツが悪そうな顔で、そそくさと部屋を後にした。

「追い払ってくれてありがとう、ラルフ!」
「礼には及びません」

 今回も守ってくれたことに感謝を述べながら、ラルフの手を握ってブンブンと振る。それが激しすぎたのか、冷静な表情のまま、そっぽを向かれてしまった。ちょっぴり悲しい……。

「それにしても、実の姉妹の不幸を笑いに来るなんて、全く理解できません」
「本当だよね! もう付き合いきれないよ! 一秒でも早く、こんな家なんか出ていきたいよ!」
「……前々から思っていたのですが、出ていった後はどこに行くかとか考えておられるのですか?」
「え、特には……お金は少しあるから、とりあえずどこかの町に行って、仕事と住む場所を探してって感じかなぁ。町にすぐつける保証は無いから、野宿とか狩りの勉強はしておいたよ」

 私が住んでいるスンリー国は、西側に巨大な湖があり、それ以外は広大な森が大多数を占めている、自然豊かな国だ。だから、何日かは森で野宿をして、町に着いたら仕事と家探しかなーって思ってる。

 そのために、野宿に必要な道具を用意したり、狩りの技術の勉強を事前にしておいたんだ!

 無謀かもって思われるかもしれないけど、それをやってみても良いと思うくらい、ここでの生活は嫌なもので、自由を手に入れたいの!

「では、一つ提案があるのですが」
「提案? なにかな?」
「一緒に、私の故郷に行きませんか?」
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

婚約者を譲れと姉に「お願い」されました。代わりに軍人侯爵との結婚を押し付けられましたが、私は形だけの妻のようです。

ナナカ
恋愛
メリオス伯爵の次女エレナは、幼い頃から姉アルチーナに振り回されてきた。そんな姉に婚約者ロエルを譲れと言われる。さらに自分の代わりに結婚しろとまで言い出した。結婚相手は貴族たちが成り上がりと侮蔑する軍人侯爵。伯爵家との縁組が目的だからか、エレナに入れ替わった結婚も承諾する。 こうして、ほとんど顔を合わせることない別居生活が始まった。冷め切った関係になるかと思われたが、年の離れた侯爵はエレナに丁寧に接してくれるし、意外に優しい人。エレナも数少ない会話の機会が楽しみになっていく。 (本編、番外編、完結しました)

大切なあのひとを失ったこと絶対許しません

にいるず
恋愛
公爵令嬢キャスリン・ダイモックは、王太子の思い人の命を脅かした罪状で、毒杯を飲んで死んだ。 はずだった。 目を開けると、いつものベッド。ここは天国?違う? あれっ、私生きかえったの?しかも若返ってる? でもどうしてこの世界にあの人はいないの?どうしてみんなあの人の事を覚えていないの? 私だけは、自分を犠牲にして助けてくれたあの人の事を忘れない。絶対に許すものか。こんな原因を作った人たちを。

妹に陥れられ処刑決定したのでブチギレることにします

リオール
恋愛
実の妹を殺そうとした罪で、私は処刑されることとなった。 違うと言っても、事実無根だとどれだけ訴えても。 真実を調べることもなく、私の処刑は決定となったのだ。 ──あ、そう?じゃあもう我慢しなくていいですね。 大人しくしてたら随分なめられた事態になってしまったようで。 いいでしょう、それではご期待通りに悪女となってみせますよ! 淑女の時間は終わりました。 これからは──ブチギレタイムと致します!! ====== 筆者定番の勢いだけで書いた小説。 主人公は大人しく、悲劇のヒロイン…ではありません。 処刑されたら時間が戻ってやり直し…なんて手間もかけません。とっととやっちゃいます。 矛盾点とか指摘したら負けです(?) 何でもオッケーな心の広い方向けです。

必要ないと言われたので、元の日常に戻ります

黒木 楓
恋愛
 私エレナは、3年間城で新たな聖女として暮らすも、突如「聖女は必要ない」と言われてしまう。  前の聖女の人は必死にルドロス国に加護を与えていたようで、私は魔力があるから問題なく加護を与えていた。  その違いから、「もう加護がなくても大丈夫だ」と思われたようで、私を追い出したいらしい。  森の中にある家で暮らしていた私は元の日常に戻り、国の異変を確認しながら過ごすことにする。  数日後――私の忠告通り、加護を失ったルドロス国は凶暴なモンスターによる被害を受け始める。  そして「助けてくれ」と城に居た人が何度も頼みに来るけど、私は動く気がなかった。

噂の悪女が妻になりました

はくまいキャベツ
恋愛
ミラ・イヴァンチスカ。 国王の右腕と言われている宰相を父に持つ彼女は見目麗しく気品溢れる容姿とは裏腹に、父の権力を良い事に贅沢を好み、自分と同等かそれ以上の人間としか付き合わないプライドの塊の様な女だという。 その名前は国中に知れ渡っており、田舎の貧乏貴族ローガン・ウィリアムズの耳にも届いていた。そんな彼に一通の手紙が届く。その手紙にはあの噂の悪女、ミラ・イヴァンチスカとの婚姻を勧める内容が書かれていた。

婚約破棄は別にいいですけど、優秀な姉と無能な妹なんて噂、本気で信じてるんですか?

リオール
恋愛
侯爵家の執務を汗水流してこなしていた私──バルバラ。 だがある日突然、婚約者に婚約破棄を告げられ、父に次期当主は姉だと宣言され。出て行けと言われるのだった。 世間では姉が優秀、妹は駄目だと思われてるようですが、だから何? せいぜい束の間の贅沢を楽しめばいいです。 貴方達が遊んでる間に、私は──侯爵家、乗っ取らせていただきます! ===== いつもの勢いで書いた小説です。 前作とは逆に妹が主人公。優秀では無いけど努力する人。 妹、頑張ります! ※全41話完結。短編としておきながら読みの甘さが露呈…

悪役令嬢は処刑されないように家出しました。

克全
恋愛
「アルファポリス」と「小説家になろう」にも投稿しています。 サンディランズ公爵家令嬢ルシアは毎夜悪夢にうなされた。婚約者のダニエル王太子に裏切られて処刑される夢。実の兄ディビッドが聖女マルティナを愛するあまり、歓心を買うために自分を処刑する夢。兄の友人である次期左将軍マルティンや次期右将軍ディエゴまでが、聖女マルティナを巡って私を陥れて処刑する。どれほど努力し、どれほど正直に生き、どれほど関係を断とうとしても処刑されるのだ。

愛されない花嫁は初夜を一人で過ごす

リオール
恋愛
「俺はお前を妻と思わないし愛する事もない」  夫となったバジルはそう言って部屋を出て行った。妻となったアルビナは、初夜を一人で過ごすこととなる。  後に夫から聞かされた衝撃の事実。  アルビナは夫への復讐に、静かに心を燃やすのだった。 ※シリアスです。 ※ざまあが行き過ぎ・過剰だといったご意見を頂戴しております。年齢制限は設定しておりませんが、お読みになる場合は自己責任でお願い致します。

処理中です...