【完結】聖女の私は利用されていた ~妹のために悪役令嬢を演じていたが、利用されていたので家を出て幸せになる~

ゆうき

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第三十二話 解決……?

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 無事に浄化を終えると、ジュリアは私の胸の中でぐったりしていた。息もほとんどしておらず、今にも命の灯を消してしまいそうなくらい、疲弊していた。

 見た目は正気の影響を受ける前に戻っているけど、私の想像を絶するくらい、体はボロボロに違いない。私の強くなった聖女の力でも完治は出来ないほどに。

「……諦めてたまるものですか。せっかくわかり合えたのに……こんな別れ方なんて、あんまりじゃないの!」

 私は聖女の力で生まれた翼を自分の中に戻すと、再びジュリアの治療にあたる。しかし……ジュリアが再び目を開けることは無く……そのまま呼吸もしなくなってしまった。

「ジュリア……」

 やっと姉として、あなたに正しいことが出来たと思ったのに……こんな結末になるなんて……。

 ジュリアのしてきたことは、いくら瘴気によって考え方が更に歪み、恐怖に支配されていたとはいえ、許されることではない。ない、けど……叶うのなら、助けたかった。

「何から何まで、情けない姉で本当にごめんなさい……」

 私はジュリアを仰向けに寝かせ、胸の前で手を組ませてあげてから、倒れているアルベール様の元へと向かい、まだ息があるかの確認を行う。

「アルベール様……よかった、まだ息がある!」

 先程に比べて、傷が少しだけ塞がっているように見える。どうやらあの羽で結界を張る際に、浄化と治療も行われていたようだ。しかし、未だに目を覚ましていない。

「アルベール様! しっかりしてください!」

 必死にアルベール様に呼びかけながら、聖女の力を使い続ける。懸命な治療のおかげで、貫かれた胸の傷は塞がったし、瘴気の影響も消えているように見える。呼吸だってとても穏やかだ。

 なのに……アルベール様は目を開けなかった。

「どうして……どうして目を開けてくれないの!?」
「リーゼお嬢様!!」

 必死にアルベール様の治療を行っていると、ずっと聞きたかった人の声が、元気よく私を呼んでくれていた。

 この声は……良かった、あなたは無事だったのね……本当に良かった……!

「クラリス……! 無事だったのね!」
「はい、おかげさまで。リーゼお嬢様もご無事で良かった……!」

 クラリスは私のことを強く抱きしめながら、再会を喜んでくれた。私もクラリスにまた会えて、心の底から嬉しい。

「あと少しでも事態の収束が遅かったら、どうなっていたことか……神々しい羽がこの辺りから発生するのを見て、ここで何かあったと思い、駆け付けた次第です。ところで、アルベール様は……」
「途中で深い傷を負ってしまったの。でも、浄化と治療は無事に終わったわ。だから、目を覚ますと思ってたのだけど……」
「思った以上に消耗が激しくて、聖女の治療では賄えなのかもしれませんね。休ませてあげれば、きっと良くなるでしょう」

 私の背中をさすりながら励まされた私は、思わず涙を流した。クラリスにそう言ってもらえると、きっとそうなんだろうと安心できる。

「それと、そこにいる方は……ジュリアお嬢様?」
「……元凶は、瘴気でおかしくなったジュリアだったわ。色々あったけど……でも、最後は自分のしたことを悔い改めて、私に謝罪した。それで許されることではないけど……私には、やっと妹と仲直りできたって思うのよ」
「リーゼお嬢様……」

 クラリスにとって、ジュリアはあまり良いようには見えていなかったはずだ。そうじゃなければ、ジュリアから離れるために、家を出ようなんて提案はしないもの。

 だから、ジュリアが亡くなったのは、クラリスからしたら喜ぶべきことなのかもしれないが、そんな素振りは一切見せず、複雑そうな表情を浮かべていた。

「事態は収まったから、救援を呼ばないとね」
「すぐに合図を出しますので、ここにすぐに人が来るでしょう」
「ええ、お願いするわ。私はアルベール様や他の貴族の方も診てくるわ」
「わかりました」

 クラリスは持ってきた荷物の中から、筒状の物を出して火をつける。すると、空に小さな物体が飛んでいき……大きな光と音をたてた。

「うぅ、ここは……」
「大丈夫ですか? あなた方を助けに来ました。お体はどうですか?」
「おぉ、ついに助けが! ありがとう!」

 診ていた男性の貴族の方が目を覚ましたのを皮切りに、沢山の貴族の方達が目を覚まし、助かったことへの喜びを爆発させていた。

 しかし……アルベール様だけはまだ意識が戻らない。今も静かに眠ったままだ。

 どうして……? わからないけど、はやく屋敷に帰って、ちゃんと調べた方がいいだろう。

 そう思った私は、救援に来てくれた人達にここを任せると、先程の翼を使ってアルベール様とクラリスを持ち上げながら、屋敷を目指して空へと羽ばたいた――


 ****


 屋敷に帰って来てから一ヶ月が経った。あれから私は、ヴレーデ国でまで瘴気で苦しむ人達の治療に当たっていた。

 私の聖女の力で生まれた羽根の力で、辺りに蔓延していた瘴気は無くなり、茨達も完全に消滅していたわ。

 これで瘴気も無くなり、茨も無くなり、元通り……とはならない。まだ建物が直っていないのと、瘴気で苦しんでいる人が残っていたの。

 どうやらあの羽根だけでは、完全に全ての瘴気を浄化するのは叶わなかったようなの。

 その苦しんでる人を何とかするのが、私の仕事だ。力が強くなったおかげで、これくらいなら余裕で出来るようになったわ。

 無事だった人や、回復した人達は、瓦礫の撤去をしたり、犠牲になった人を埋葬してくれている。その人達に、ジュリア達を埋葬してもらったので、毎日祈りをささげに行っている。

「姉ちゃん、ありがとうな!」
「いえいえ、おだいじに~」
「お、やってんなー」

 ご年配の男性を診終えたら、作業着姿のガレス様が、いつもの素敵な笑顔を向けながらやってきた。

 ガレス様は、騎士団で鍛えた力を存分に活かすために、聖女の仕事以外にも、土木作業も行っている。

「ガレス様! はい、僭越ながらやらせていただいてます。そちらは?」
「問題は山積みだけど、とりあえずは順調ってところだな! そっちは、そろそろ帰って診てやるんだろ?」
「はい……いつになったら目を覚ますのか……」
「なーに、きっと大丈夫さ! ほら、さっきの爺さんが今日の最後の患者だろ? 終わったんならさっさと帰りな!」

 半ば蹴りだされて城下町を追い出されてしまった私は、翼を使って空を飛び、サヴァイア家の屋敷に帰ってきた。

 なんだかんだで、この翼を上手く使えている気がするわね。私って、変に適応能力が高いとか?

 ……え、こんな翼を使ったら身分がバレる? 実はあの事件があってから、私の力については完全に広まってしまったから、今更隠す必要も無いのよ。

「ただいま」
「おかえりなさいませ、リーゼお嬢様」
「アルベール様の容体は?」
「残念ですが……今日も変わらずです」
「そう……」

 家に帰って来て早々に来た場所は、アルベール様の寝室だ。

 あれからアルベール様は、一度も目を覚ましていない。今も屋敷の寝室で眠っている。

 診てくれた学者様が言うには、瘴気に侵されながら聖女の力を使うなんて離れ業をしたから、体が耐えきれなくなり、長い休息が必要になったのだろう……ということらしい。

 亡くなる心配は無いと仰っていたけど、一向に目を覚まさないから、こうして仕事以外は、付きっきりで看病をしているの。

「……少々席を外します。何かあればお呼びください」
「ありがとう、クラリス」

 気を利かせてくれたクラリスにお礼を伝えてから、眠っているアルベール様の枕元に立つ。

「今日はですね、ヴレーデ国の浄化に行ったんですよ。結構まだ症状が出てる方が多くて……沢山治したら、凄く感謝されたんです! それに、患者の数もだいぶ減ったんですよ」

 先程あったことをアルベール様にお伝えしても、アルベール様から返事は返ってこない。今も静かに息をしているだけだ。

 このままずっと眠ったままだったらどうしよう。今は大丈夫でも、急に容体が急変して、そのまま助からなかったらどうしよう。そんな悪い考えばかりが、脳裏に過ぎる。

「幼い頃から、あなたはずっと私のことを褒めてくれましたね。私が悪者になってても、あなただけはいつもと変わらず接してくれましたね」
「…………」
「お屋敷に招いてくれて、住まわせてくれて、家具や服をたくさん用意しちゃう、優しいアルベール様……早く帰って来て……私の気持ちを伝えさせて。私、もうあなたがいないと駄目なんです……」

 私の気持ち。この単語が口から出た瞬間に、アルベール様への気持ちが抑えきれなくなってきた。

「幼い頃、落ち込んでいたあなたを励まさせてくれて、本当にありがとう。出会ってくれてありがとう。私が突然転がり込んできてから、毎日のように私を褒めてくれてありがとう。体を張って守ってくれてありがとう。私、歳を取っても、互いに尊重し合って、一緒に生きていきたいの。きっとその時も、一緒に笑っていられるはずだから」

 随分と長くなってしまった気持ちを伝えた私は、アルベールにキスをする。初めてのキスは、涙のせいかほのかにしょっぱくて、胸が締め付けられた。

「……んっ……」
「えっ?」

 今までずっと、何をしても返事が返ってこなかった。それなのに、私のキスに反応するように、アルベール様の目が、うっすらと開いた。

「アルベール様!?」
「……リーゼ……?」

 虚ろな目ではあったけど、私の名前を呼んでくれた。それが嬉しくて、私は大粒の涙を流しながら、アルベール様に抱きついた。

 良かった……もう二度と目を開けてくれないんじゃないかって……本当に良かった……!

「ここは俺の部屋……? ヴレーデ国は……あなたの家族は……?」
「大丈夫です、故郷は救われました。私の家族は……安らかな眠りにつきました」
「……そうか……辛かったですね……よく頑張りましたね……さすが、俺の愛しの妻だ……」

 まだ起きたばかりだというのに、いつもの様に私を褒めてくれるのが、なんだかおかしくて、嬉しくて……私は笑いながら、涙を流し続けた。
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