32 / 34
第三十二話 解決……?
しおりを挟む
無事に浄化を終えると、ジュリアは私の胸の中でぐったりしていた。息もほとんどしておらず、今にも命の灯を消してしまいそうなくらい、疲弊していた。
見た目は正気の影響を受ける前に戻っているけど、私の想像を絶するくらい、体はボロボロに違いない。私の強くなった聖女の力でも完治は出来ないほどに。
「……諦めてたまるものですか。せっかくわかり合えたのに……こんな別れ方なんて、あんまりじゃないの!」
私は聖女の力で生まれた翼を自分の中に戻すと、再びジュリアの治療にあたる。しかし……ジュリアが再び目を開けることは無く……そのまま呼吸もしなくなってしまった。
「ジュリア……」
やっと姉として、あなたに正しいことが出来たと思ったのに……こんな結末になるなんて……。
ジュリアのしてきたことは、いくら瘴気によって考え方が更に歪み、恐怖に支配されていたとはいえ、許されることではない。ない、けど……叶うのなら、助けたかった。
「何から何まで、情けない姉で本当にごめんなさい……」
私はジュリアを仰向けに寝かせ、胸の前で手を組ませてあげてから、倒れているアルベール様の元へと向かい、まだ息があるかの確認を行う。
「アルベール様……よかった、まだ息がある!」
先程に比べて、傷が少しだけ塞がっているように見える。どうやらあの羽で結界を張る際に、浄化と治療も行われていたようだ。しかし、未だに目を覚ましていない。
「アルベール様! しっかりしてください!」
必死にアルベール様に呼びかけながら、聖女の力を使い続ける。懸命な治療のおかげで、貫かれた胸の傷は塞がったし、瘴気の影響も消えているように見える。呼吸だってとても穏やかだ。
なのに……アルベール様は目を開けなかった。
「どうして……どうして目を開けてくれないの!?」
「リーゼお嬢様!!」
必死にアルベール様の治療を行っていると、ずっと聞きたかった人の声が、元気よく私を呼んでくれていた。
この声は……良かった、あなたは無事だったのね……本当に良かった……!
「クラリス……! 無事だったのね!」
「はい、おかげさまで。リーゼお嬢様もご無事で良かった……!」
クラリスは私のことを強く抱きしめながら、再会を喜んでくれた。私もクラリスにまた会えて、心の底から嬉しい。
「あと少しでも事態の収束が遅かったら、どうなっていたことか……神々しい羽がこの辺りから発生するのを見て、ここで何かあったと思い、駆け付けた次第です。ところで、アルベール様は……」
「途中で深い傷を負ってしまったの。でも、浄化と治療は無事に終わったわ。だから、目を覚ますと思ってたのだけど……」
「思った以上に消耗が激しくて、聖女の治療では賄えなのかもしれませんね。休ませてあげれば、きっと良くなるでしょう」
私の背中をさすりながら励まされた私は、思わず涙を流した。クラリスにそう言ってもらえると、きっとそうなんだろうと安心できる。
「それと、そこにいる方は……ジュリアお嬢様?」
「……元凶は、瘴気でおかしくなったジュリアだったわ。色々あったけど……でも、最後は自分のしたことを悔い改めて、私に謝罪した。それで許されることではないけど……私には、やっと妹と仲直りできたって思うのよ」
「リーゼお嬢様……」
クラリスにとって、ジュリアはあまり良いようには見えていなかったはずだ。そうじゃなければ、ジュリアから離れるために、家を出ようなんて提案はしないもの。
だから、ジュリアが亡くなったのは、クラリスからしたら喜ぶべきことなのかもしれないが、そんな素振りは一切見せず、複雑そうな表情を浮かべていた。
「事態は収まったから、救援を呼ばないとね」
「すぐに合図を出しますので、ここにすぐに人が来るでしょう」
「ええ、お願いするわ。私はアルベール様や他の貴族の方も診てくるわ」
「わかりました」
クラリスは持ってきた荷物の中から、筒状の物を出して火をつける。すると、空に小さな物体が飛んでいき……大きな光と音をたてた。
「うぅ、ここは……」
「大丈夫ですか? あなた方を助けに来ました。お体はどうですか?」
「おぉ、ついに助けが! ありがとう!」
診ていた男性の貴族の方が目を覚ましたのを皮切りに、沢山の貴族の方達が目を覚まし、助かったことへの喜びを爆発させていた。
しかし……アルベール様だけはまだ意識が戻らない。今も静かに眠ったままだ。
どうして……? わからないけど、はやく屋敷に帰って、ちゃんと調べた方がいいだろう。
そう思った私は、救援に来てくれた人達にここを任せると、先程の翼を使ってアルベール様とクラリスを持ち上げながら、屋敷を目指して空へと羽ばたいた――
****
屋敷に帰って来てから一ヶ月が経った。あれから私は、ヴレーデ国でまで瘴気で苦しむ人達の治療に当たっていた。
私の聖女の力で生まれた羽根の力で、辺りに蔓延していた瘴気は無くなり、茨達も完全に消滅していたわ。
これで瘴気も無くなり、茨も無くなり、元通り……とはならない。まだ建物が直っていないのと、瘴気で苦しんでいる人が残っていたの。
どうやらあの羽根だけでは、完全に全ての瘴気を浄化するのは叶わなかったようなの。
その苦しんでる人を何とかするのが、私の仕事だ。力が強くなったおかげで、これくらいなら余裕で出来るようになったわ。
無事だった人や、回復した人達は、瓦礫の撤去をしたり、犠牲になった人を埋葬してくれている。その人達に、ジュリア達を埋葬してもらったので、毎日祈りをささげに行っている。
「姉ちゃん、ありがとうな!」
「いえいえ、おだいじに~」
「お、やってんなー」
ご年配の男性を診終えたら、作業着姿のガレス様が、いつもの素敵な笑顔を向けながらやってきた。
ガレス様は、騎士団で鍛えた力を存分に活かすために、聖女の仕事以外にも、土木作業も行っている。
「ガレス様! はい、僭越ながらやらせていただいてます。そちらは?」
「問題は山積みだけど、とりあえずは順調ってところだな! そっちは、そろそろ帰って診てやるんだろ?」
「はい……いつになったら目を覚ますのか……」
「なーに、きっと大丈夫さ! ほら、さっきの爺さんが今日の最後の患者だろ? 終わったんならさっさと帰りな!」
半ば蹴りだされて城下町を追い出されてしまった私は、翼を使って空を飛び、サヴァイア家の屋敷に帰ってきた。
なんだかんだで、この翼を上手く使えている気がするわね。私って、変に適応能力が高いとか?
……え、こんな翼を使ったら身分がバレる? 実はあの事件があってから、私の力については完全に広まってしまったから、今更隠す必要も無いのよ。
「ただいま」
「おかえりなさいませ、リーゼお嬢様」
「アルベール様の容体は?」
「残念ですが……今日も変わらずです」
「そう……」
家に帰って来て早々に来た場所は、アルベール様の寝室だ。
あれからアルベール様は、一度も目を覚ましていない。今も屋敷の寝室で眠っている。
診てくれた学者様が言うには、瘴気に侵されながら聖女の力を使うなんて離れ業をしたから、体が耐えきれなくなり、長い休息が必要になったのだろう……ということらしい。
亡くなる心配は無いと仰っていたけど、一向に目を覚まさないから、こうして仕事以外は、付きっきりで看病をしているの。
「……少々席を外します。何かあればお呼びください」
「ありがとう、クラリス」
気を利かせてくれたクラリスにお礼を伝えてから、眠っているアルベール様の枕元に立つ。
「今日はですね、ヴレーデ国の浄化に行ったんですよ。結構まだ症状が出てる方が多くて……沢山治したら、凄く感謝されたんです! それに、患者の数もだいぶ減ったんですよ」
先程あったことをアルベール様にお伝えしても、アルベール様から返事は返ってこない。今も静かに息をしているだけだ。
このままずっと眠ったままだったらどうしよう。今は大丈夫でも、急に容体が急変して、そのまま助からなかったらどうしよう。そんな悪い考えばかりが、脳裏に過ぎる。
「幼い頃から、あなたはずっと私のことを褒めてくれましたね。私が悪者になってても、あなただけはいつもと変わらず接してくれましたね」
「…………」
「お屋敷に招いてくれて、住まわせてくれて、家具や服をたくさん用意しちゃう、優しいアルベール様……早く帰って来て……私の気持ちを伝えさせて。私、もうあなたがいないと駄目なんです……」
私の気持ち。この単語が口から出た瞬間に、アルベール様への気持ちが抑えきれなくなってきた。
「幼い頃、落ち込んでいたあなたを励まさせてくれて、本当にありがとう。出会ってくれてありがとう。私が突然転がり込んできてから、毎日のように私を褒めてくれてありがとう。体を張って守ってくれてありがとう。私、歳を取っても、互いに尊重し合って、一緒に生きていきたいの。きっとその時も、一緒に笑っていられるはずだから」
随分と長くなってしまった気持ちを伝えた私は、アルベールにキスをする。初めてのキスは、涙のせいかほのかにしょっぱくて、胸が締め付けられた。
「……んっ……」
「えっ?」
今までずっと、何をしても返事が返ってこなかった。それなのに、私のキスに反応するように、アルベール様の目が、うっすらと開いた。
「アルベール様!?」
「……リーゼ……?」
虚ろな目ではあったけど、私の名前を呼んでくれた。それが嬉しくて、私は大粒の涙を流しながら、アルベール様に抱きついた。
良かった……もう二度と目を開けてくれないんじゃないかって……本当に良かった……!
「ここは俺の部屋……? ヴレーデ国は……あなたの家族は……?」
「大丈夫です、故郷は救われました。私の家族は……安らかな眠りにつきました」
「……そうか……辛かったですね……よく頑張りましたね……さすが、俺の愛しの妻だ……」
まだ起きたばかりだというのに、いつもの様に私を褒めてくれるのが、なんだかおかしくて、嬉しくて……私は笑いながら、涙を流し続けた。
見た目は正気の影響を受ける前に戻っているけど、私の想像を絶するくらい、体はボロボロに違いない。私の強くなった聖女の力でも完治は出来ないほどに。
「……諦めてたまるものですか。せっかくわかり合えたのに……こんな別れ方なんて、あんまりじゃないの!」
私は聖女の力で生まれた翼を自分の中に戻すと、再びジュリアの治療にあたる。しかし……ジュリアが再び目を開けることは無く……そのまま呼吸もしなくなってしまった。
「ジュリア……」
やっと姉として、あなたに正しいことが出来たと思ったのに……こんな結末になるなんて……。
ジュリアのしてきたことは、いくら瘴気によって考え方が更に歪み、恐怖に支配されていたとはいえ、許されることではない。ない、けど……叶うのなら、助けたかった。
「何から何まで、情けない姉で本当にごめんなさい……」
私はジュリアを仰向けに寝かせ、胸の前で手を組ませてあげてから、倒れているアルベール様の元へと向かい、まだ息があるかの確認を行う。
「アルベール様……よかった、まだ息がある!」
先程に比べて、傷が少しだけ塞がっているように見える。どうやらあの羽で結界を張る際に、浄化と治療も行われていたようだ。しかし、未だに目を覚ましていない。
「アルベール様! しっかりしてください!」
必死にアルベール様に呼びかけながら、聖女の力を使い続ける。懸命な治療のおかげで、貫かれた胸の傷は塞がったし、瘴気の影響も消えているように見える。呼吸だってとても穏やかだ。
なのに……アルベール様は目を開けなかった。
「どうして……どうして目を開けてくれないの!?」
「リーゼお嬢様!!」
必死にアルベール様の治療を行っていると、ずっと聞きたかった人の声が、元気よく私を呼んでくれていた。
この声は……良かった、あなたは無事だったのね……本当に良かった……!
「クラリス……! 無事だったのね!」
「はい、おかげさまで。リーゼお嬢様もご無事で良かった……!」
クラリスは私のことを強く抱きしめながら、再会を喜んでくれた。私もクラリスにまた会えて、心の底から嬉しい。
「あと少しでも事態の収束が遅かったら、どうなっていたことか……神々しい羽がこの辺りから発生するのを見て、ここで何かあったと思い、駆け付けた次第です。ところで、アルベール様は……」
「途中で深い傷を負ってしまったの。でも、浄化と治療は無事に終わったわ。だから、目を覚ますと思ってたのだけど……」
「思った以上に消耗が激しくて、聖女の治療では賄えなのかもしれませんね。休ませてあげれば、きっと良くなるでしょう」
私の背中をさすりながら励まされた私は、思わず涙を流した。クラリスにそう言ってもらえると、きっとそうなんだろうと安心できる。
「それと、そこにいる方は……ジュリアお嬢様?」
「……元凶は、瘴気でおかしくなったジュリアだったわ。色々あったけど……でも、最後は自分のしたことを悔い改めて、私に謝罪した。それで許されることではないけど……私には、やっと妹と仲直りできたって思うのよ」
「リーゼお嬢様……」
クラリスにとって、ジュリアはあまり良いようには見えていなかったはずだ。そうじゃなければ、ジュリアから離れるために、家を出ようなんて提案はしないもの。
だから、ジュリアが亡くなったのは、クラリスからしたら喜ぶべきことなのかもしれないが、そんな素振りは一切見せず、複雑そうな表情を浮かべていた。
「事態は収まったから、救援を呼ばないとね」
「すぐに合図を出しますので、ここにすぐに人が来るでしょう」
「ええ、お願いするわ。私はアルベール様や他の貴族の方も診てくるわ」
「わかりました」
クラリスは持ってきた荷物の中から、筒状の物を出して火をつける。すると、空に小さな物体が飛んでいき……大きな光と音をたてた。
「うぅ、ここは……」
「大丈夫ですか? あなた方を助けに来ました。お体はどうですか?」
「おぉ、ついに助けが! ありがとう!」
診ていた男性の貴族の方が目を覚ましたのを皮切りに、沢山の貴族の方達が目を覚まし、助かったことへの喜びを爆発させていた。
しかし……アルベール様だけはまだ意識が戻らない。今も静かに眠ったままだ。
どうして……? わからないけど、はやく屋敷に帰って、ちゃんと調べた方がいいだろう。
そう思った私は、救援に来てくれた人達にここを任せると、先程の翼を使ってアルベール様とクラリスを持ち上げながら、屋敷を目指して空へと羽ばたいた――
****
屋敷に帰って来てから一ヶ月が経った。あれから私は、ヴレーデ国でまで瘴気で苦しむ人達の治療に当たっていた。
私の聖女の力で生まれた羽根の力で、辺りに蔓延していた瘴気は無くなり、茨達も完全に消滅していたわ。
これで瘴気も無くなり、茨も無くなり、元通り……とはならない。まだ建物が直っていないのと、瘴気で苦しんでいる人が残っていたの。
どうやらあの羽根だけでは、完全に全ての瘴気を浄化するのは叶わなかったようなの。
その苦しんでる人を何とかするのが、私の仕事だ。力が強くなったおかげで、これくらいなら余裕で出来るようになったわ。
無事だった人や、回復した人達は、瓦礫の撤去をしたり、犠牲になった人を埋葬してくれている。その人達に、ジュリア達を埋葬してもらったので、毎日祈りをささげに行っている。
「姉ちゃん、ありがとうな!」
「いえいえ、おだいじに~」
「お、やってんなー」
ご年配の男性を診終えたら、作業着姿のガレス様が、いつもの素敵な笑顔を向けながらやってきた。
ガレス様は、騎士団で鍛えた力を存分に活かすために、聖女の仕事以外にも、土木作業も行っている。
「ガレス様! はい、僭越ながらやらせていただいてます。そちらは?」
「問題は山積みだけど、とりあえずは順調ってところだな! そっちは、そろそろ帰って診てやるんだろ?」
「はい……いつになったら目を覚ますのか……」
「なーに、きっと大丈夫さ! ほら、さっきの爺さんが今日の最後の患者だろ? 終わったんならさっさと帰りな!」
半ば蹴りだされて城下町を追い出されてしまった私は、翼を使って空を飛び、サヴァイア家の屋敷に帰ってきた。
なんだかんだで、この翼を上手く使えている気がするわね。私って、変に適応能力が高いとか?
……え、こんな翼を使ったら身分がバレる? 実はあの事件があってから、私の力については完全に広まってしまったから、今更隠す必要も無いのよ。
「ただいま」
「おかえりなさいませ、リーゼお嬢様」
「アルベール様の容体は?」
「残念ですが……今日も変わらずです」
「そう……」
家に帰って来て早々に来た場所は、アルベール様の寝室だ。
あれからアルベール様は、一度も目を覚ましていない。今も屋敷の寝室で眠っている。
診てくれた学者様が言うには、瘴気に侵されながら聖女の力を使うなんて離れ業をしたから、体が耐えきれなくなり、長い休息が必要になったのだろう……ということらしい。
亡くなる心配は無いと仰っていたけど、一向に目を覚まさないから、こうして仕事以外は、付きっきりで看病をしているの。
「……少々席を外します。何かあればお呼びください」
「ありがとう、クラリス」
気を利かせてくれたクラリスにお礼を伝えてから、眠っているアルベール様の枕元に立つ。
「今日はですね、ヴレーデ国の浄化に行ったんですよ。結構まだ症状が出てる方が多くて……沢山治したら、凄く感謝されたんです! それに、患者の数もだいぶ減ったんですよ」
先程あったことをアルベール様にお伝えしても、アルベール様から返事は返ってこない。今も静かに息をしているだけだ。
このままずっと眠ったままだったらどうしよう。今は大丈夫でも、急に容体が急変して、そのまま助からなかったらどうしよう。そんな悪い考えばかりが、脳裏に過ぎる。
「幼い頃から、あなたはずっと私のことを褒めてくれましたね。私が悪者になってても、あなただけはいつもと変わらず接してくれましたね」
「…………」
「お屋敷に招いてくれて、住まわせてくれて、家具や服をたくさん用意しちゃう、優しいアルベール様……早く帰って来て……私の気持ちを伝えさせて。私、もうあなたがいないと駄目なんです……」
私の気持ち。この単語が口から出た瞬間に、アルベール様への気持ちが抑えきれなくなってきた。
「幼い頃、落ち込んでいたあなたを励まさせてくれて、本当にありがとう。出会ってくれてありがとう。私が突然転がり込んできてから、毎日のように私を褒めてくれてありがとう。体を張って守ってくれてありがとう。私、歳を取っても、互いに尊重し合って、一緒に生きていきたいの。きっとその時も、一緒に笑っていられるはずだから」
随分と長くなってしまった気持ちを伝えた私は、アルベールにキスをする。初めてのキスは、涙のせいかほのかにしょっぱくて、胸が締め付けられた。
「……んっ……」
「えっ?」
今までずっと、何をしても返事が返ってこなかった。それなのに、私のキスに反応するように、アルベール様の目が、うっすらと開いた。
「アルベール様!?」
「……リーゼ……?」
虚ろな目ではあったけど、私の名前を呼んでくれた。それが嬉しくて、私は大粒の涙を流しながら、アルベール様に抱きついた。
良かった……もう二度と目を開けてくれないんじゃないかって……本当に良かった……!
「ここは俺の部屋……? ヴレーデ国は……あなたの家族は……?」
「大丈夫です、故郷は救われました。私の家族は……安らかな眠りにつきました」
「……そうか……辛かったですね……よく頑張りましたね……さすが、俺の愛しの妻だ……」
まだ起きたばかりだというのに、いつもの様に私を褒めてくれるのが、なんだかおかしくて、嬉しくて……私は笑いながら、涙を流し続けた。
71
お気に入りに追加
2,265
あなたにおすすめの小説
どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします
文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。
夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。
エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。
「ゲルハルトさま、愛しています」
ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。
「エレーヌ、俺はあなたが憎い」
エレーヌは凍り付いた。

【完結】100日後に処刑されるイグワーナ(悪役令嬢)は抜け毛スキルで無双する
みねバイヤーン
恋愛
せっかく悪役令嬢に転生したのに、もう断罪イベント終わって、牢屋にぶち込まれてるんですけどー。これは100日後に処刑されるイグワーナが、抜け毛操りスキルを使って無双し、自分を陥れた第一王子と聖女の妹をざまぁする、そんな物語。
【コミカライズ2月28日引き下げ予定】実は白い結婚でしたの。元悪役令嬢は未亡人になったので今度こそ推しを見守りたい。
氷雨そら
恋愛
悪役令嬢だと気がついたのは、断罪直後。
私は、五十も年上の辺境伯に嫁いだのだった。
「でも、白い結婚だったのよね……」
奥様を愛していた辺境伯に、孫のように可愛がられた私は、彼の亡き後、王都へと戻ってきていた。
全ては、乙女ゲームの推しを遠くから眺めるため。
一途な年下枠ヒーローに、元悪役令嬢は溺愛される。
断罪に引き続き、私に拒否権はない……たぶん。

【コミカライズ決定】婚約破棄され辺境伯との婚姻を命じられましたが、私の初恋の人はその義父です
灰銀猫
恋愛
両親と妹にはいない者として扱われながらも、王子の婚約者の肩書のお陰で何とか暮らしていたアレクシア。
顔だけの婚約者を実妹に奪われ、顔も性格も醜いと噂の辺境伯との結婚を命じられる。
辺境に追いやられ、婚約者からは白い結婚を打診されるも、婚約も結婚もこりごりと思っていたアレクシアには好都合で、しかも婚約者の義父は初恋の相手だった。
王都にいた時よりも好待遇で意外にも快適な日々を送る事に…でも、厄介事は向こうからやってきて…
婚約破棄物を書いてみたくなったので、書いてみました。
ありがちな内容ですが、よろしくお願いします。
設定は緩いしご都合主義です。難しく考えずにお読みいただけると嬉しいです。
他サイトでも掲載しています。
コミカライズ決定しました。申し訳ございませんが配信開始後は削除いたします。
5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?
gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。
そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて
「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」
もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね?
3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。
4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。
1章が書籍になりました。

この度、皆さんの予想通り婚約者候補から外れることになりました。ですが、すぐに結婚することになりました。
鶯埜 餡
恋愛
ある事件のせいでいろいろ言われながらも国王夫妻の働きかけで王太子の婚約者候補となったシャルロッテ。
しかし当の王太子ルドウィックはアリアナという男爵令嬢にべったり。噂好きな貴族たちはシャルロッテに婚約者候補から外れるのではないかと言っていたが
いつだって二番目。こんな自分とさよならします!
椿蛍
恋愛
小説『二番目の姫』の中に転生した私。
ヒロインは第二王女として生まれ、いつも脇役の二番目にされてしまう運命にある。
ヒロインは婚約者から嫌われ、両親からは差別され、周囲も冷たい。
嫉妬したヒロインは暴走し、ラストは『お姉様……。私を救ってくれてありがとう』ガクッ……で終わるお話だ。
そんなヒロインはちょっとね……って、私が転生したのは二番目の姫!?
小説どおり、私はいつも『二番目』扱い。
いつも第一王女の姉が優先される日々。
そして、待ち受ける死。
――この運命、私は変えられるの?
※表紙イラストは作成者様からお借りしてます。
どうも、死んだはずの悪役令嬢です。
西藤島 みや
ファンタジー
ある夏の夜。公爵令嬢のアシュレイは王宮殿の舞踏会で、婚約者のルディ皇子にいつも通り罵声を浴びせられていた。
皇子の罵声のせいで、男にだらしなく浪費家と思われて王宮殿の使用人どころか通っている学園でも遠巻きにされているアシュレイ。
アシュレイの誕生日だというのに、エスコートすら放棄して、皇子づきのメイドのミュシャに気を遣うよう求めてくる皇子と取り巻き達に、呆れるばかり。
「幼馴染みだかなんだかしらないけれど、もう限界だわ。あの人達に罰があたればいいのに」
こっそり呟いた瞬間、
《願いを聞き届けてあげるよ!》
何故か全くの別人になってしまっていたアシュレイ。目の前で、アシュレイが倒れて意識不明になるのを見ることになる。
「よくも、義妹にこんなことを!皇子、婚約はなかったことにしてもらいます!」
義父と義兄はアシュレイが状況を理解する前に、アシュレイの体を持ち去ってしまう。
今までミュシャを崇めてアシュレイを冷遇してきた取り巻き達は、次々と不幸に巻き込まれてゆき…ついには、ミュシャや皇子まで…
ひたすら一人づつざまあされていくのを、呆然と見守ることになってしまった公爵令嬢と、怒り心頭の義父と義兄の物語。
はたしてアシュレイは元に戻れるのか?
剣と魔法と妖精の住む世界の、まあまあよくあるざまあメインの物語です。
ざまあが書きたかった。それだけです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる