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第十六話 最後のあがき
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決死の覚悟で浄化に当たっていたが、私は元々出来損ないの聖女だ。いくら頑張った所で、限界はすぐに来た。
「あ、あれ……」
私は、体から力が完全に抜けて、その場で倒れてしまった。それも、顔を水面に向けた状態で。
いくら水の流れが緩やかとはいえ、私は力を使い果たしていて、手を動かすだけでも困難な状態だ。
「がぼっ……ごぼっ……」
く、苦しい……息が出来ない……顔を上げたいのに、その力すら入らない。このままでは溺れてしまう……。
うぅ、さっき触手にやられたのも相まって、息も続かない。誰か助けて……!
「り、リーゼ嬢……! 大丈夫ですか!」
「ぷはっ……! はぁ、はぁ……!」
危うく窒息しかけそうだったところを、アルベール様が私の体を持ち上げてくれた。
本当に死んじゃうかと思った……アルベール様には感謝しないといけないわ……でも、疲労のせいで声が出ない……。
「あ、ある……べ……あり……が……」
「無理して喋らないでください! 今は息を整えてください!」
「すぅ……はぁ……ごほっごほっ」
アルベール様の言う通りに、私は喋らずに息を整えることに集中する。中々息は整わないし、体にも全く力が入らないけど、ほんの少しだけ楽にはなった。
「大丈夫ですか? 無理をせず、ゆっくり話してください」
「は、はい。アルベール様、お怪我は……」
「俺は問題ありません! この通り、ピンピンしておりますよ!」
……嘘だ。あれだけ触手に攻撃されていて、怪我が一つもないはずがないわ。私の聖女の力で、少しでも傷の手当てをしないと……。
「今……手当て……」
「いえ、お気になさらず。今は俺よりも、あちらの方が重要でしょう」
私のことを抱き抱えながら、視線だけ瘴気の元凶に向けるアルベール様。私も釣られて視線を向けると、先程まで暴れていた物とは思えないほど、沈黙していた。
それに、周りに漂っていた霧のような瘴気も無くなり、独特な嫌な気配も消えていた。
これは、機能が停止したと考えていいのかしら。いえ、油断は禁物よね。今は私の聖女の力で弱まっているだけで、時間が経ったら復活する可能性は十分にある。早く完全に浄化しないと。
「アルベール様……」
「なんですか?」
「私を……あれの所まで……連れて行ってください。完全に……浄化したいのですが、体が動かなくて……」
「大丈夫なのですか?」
「はい……あれを浄化するくらいの体力は残ってると……思いますわ」
「わかりました、お任せください」
アルベール様は、私をお姫様抱っこで運ぼうとするが、持ち上げようとした瞬間に表情を歪ませてしまい、私を持ち上げることは出来なかった。
「やはり、どこか怪我を……」
「あはは……さすがに隠せませんでしたか。申し訳ないが、肩を貸すだけでよろしいでしょうか?」
「はい」
体が痛いアルベール様にお願いをするのはとても心苦しいけど、こうでもしないと、ここから一歩も動けそうもない。
本当に、自分が情けない……もう少しで良いから、私に聖女の力があれば、アルベール様の負担をもっと減らせたかもしれないのに。
「リーゼ嬢、お願いできますか?」
「は、はい」
自分の情けなさに嘆いている間に、アルベール様は私を連れて瘴気の元凶の元にたどり着いていた。
本当に怪我をしているのか、疑ってしまうくらい早くて驚いたわ。私もアルベール様を見習って、体力をつけるために運動をしてみようかしら……。
「では、浄化を始めま――」
浄化をしようとした瞬間、私の後ろから、ザバン! と大きな水しぶきの音が聞こえてきた。その音に反応して振り返ると、消えたはずの触手が私を目掛けて襲ってきた。
まさか、気付かれないように水の中を通って背後に? 早く逃げないと……駄目だ、体が動かない……!
「……あれ?」
恐怖で目を閉じていたが、いつまで経ってもなにも起こらない。恐る恐る目を開けると、そこには斬られて霧散していく触手と、頼もしいアルベール様の背中があった。
「す、凄い……どうして……」
「あれほど必死に抵抗してきた相手ですからね。不意打ちも警戒してました。リーゼ嬢、なにがあっても俺がお守りするので、安心して浄化をしてください」
「は、はい……!」
振り返りながら微笑むアルベール様に、強い胸の高鳴りを覚えながら返事をした私は、瘴気の元凶に手をかざし、集中する。
「罪もない方々を苦しめる悪しき力よ、消え去りなさい……!」
先程と同じ光が生まれ、瘴気の元凶を覆っていく。それから間もなく、あの禍々しい塊は完全に消えた。
「消えた……リーゼ嬢、これでもう大丈夫なんでしょうか?」
「はい。あとは……辺りに瘴気に汚染された動植物がいないか……確認する必要がありますが……とりあえず、一安心です」
また座り込んでしまった私は、アルベール様に背中を支えられながら答える。
瘴気の元凶が襲い掛かってきた時は、どうなることかと思ったけど、とにかく無事に終わって本当に良かった。
「あっ……」
安心して気が緩んだのか、急激に意識が遠のいてきた。まぶたも異様に重くて、目を開けていられない。
駄目、もう少し耐えるのよ私。ここで意識を失ったら、またアルベール様に……心配を……。
「あ、あれ……」
私は、体から力が完全に抜けて、その場で倒れてしまった。それも、顔を水面に向けた状態で。
いくら水の流れが緩やかとはいえ、私は力を使い果たしていて、手を動かすだけでも困難な状態だ。
「がぼっ……ごぼっ……」
く、苦しい……息が出来ない……顔を上げたいのに、その力すら入らない。このままでは溺れてしまう……。
うぅ、さっき触手にやられたのも相まって、息も続かない。誰か助けて……!
「り、リーゼ嬢……! 大丈夫ですか!」
「ぷはっ……! はぁ、はぁ……!」
危うく窒息しかけそうだったところを、アルベール様が私の体を持ち上げてくれた。
本当に死んじゃうかと思った……アルベール様には感謝しないといけないわ……でも、疲労のせいで声が出ない……。
「あ、ある……べ……あり……が……」
「無理して喋らないでください! 今は息を整えてください!」
「すぅ……はぁ……ごほっごほっ」
アルベール様の言う通りに、私は喋らずに息を整えることに集中する。中々息は整わないし、体にも全く力が入らないけど、ほんの少しだけ楽にはなった。
「大丈夫ですか? 無理をせず、ゆっくり話してください」
「は、はい。アルベール様、お怪我は……」
「俺は問題ありません! この通り、ピンピンしておりますよ!」
……嘘だ。あれだけ触手に攻撃されていて、怪我が一つもないはずがないわ。私の聖女の力で、少しでも傷の手当てをしないと……。
「今……手当て……」
「いえ、お気になさらず。今は俺よりも、あちらの方が重要でしょう」
私のことを抱き抱えながら、視線だけ瘴気の元凶に向けるアルベール様。私も釣られて視線を向けると、先程まで暴れていた物とは思えないほど、沈黙していた。
それに、周りに漂っていた霧のような瘴気も無くなり、独特な嫌な気配も消えていた。
これは、機能が停止したと考えていいのかしら。いえ、油断は禁物よね。今は私の聖女の力で弱まっているだけで、時間が経ったら復活する可能性は十分にある。早く完全に浄化しないと。
「アルベール様……」
「なんですか?」
「私を……あれの所まで……連れて行ってください。完全に……浄化したいのですが、体が動かなくて……」
「大丈夫なのですか?」
「はい……あれを浄化するくらいの体力は残ってると……思いますわ」
「わかりました、お任せください」
アルベール様は、私をお姫様抱っこで運ぼうとするが、持ち上げようとした瞬間に表情を歪ませてしまい、私を持ち上げることは出来なかった。
「やはり、どこか怪我を……」
「あはは……さすがに隠せませんでしたか。申し訳ないが、肩を貸すだけでよろしいでしょうか?」
「はい」
体が痛いアルベール様にお願いをするのはとても心苦しいけど、こうでもしないと、ここから一歩も動けそうもない。
本当に、自分が情けない……もう少しで良いから、私に聖女の力があれば、アルベール様の負担をもっと減らせたかもしれないのに。
「リーゼ嬢、お願いできますか?」
「は、はい」
自分の情けなさに嘆いている間に、アルベール様は私を連れて瘴気の元凶の元にたどり着いていた。
本当に怪我をしているのか、疑ってしまうくらい早くて驚いたわ。私もアルベール様を見習って、体力をつけるために運動をしてみようかしら……。
「では、浄化を始めま――」
浄化をしようとした瞬間、私の後ろから、ザバン! と大きな水しぶきの音が聞こえてきた。その音に反応して振り返ると、消えたはずの触手が私を目掛けて襲ってきた。
まさか、気付かれないように水の中を通って背後に? 早く逃げないと……駄目だ、体が動かない……!
「……あれ?」
恐怖で目を閉じていたが、いつまで経ってもなにも起こらない。恐る恐る目を開けると、そこには斬られて霧散していく触手と、頼もしいアルベール様の背中があった。
「す、凄い……どうして……」
「あれほど必死に抵抗してきた相手ですからね。不意打ちも警戒してました。リーゼ嬢、なにがあっても俺がお守りするので、安心して浄化をしてください」
「は、はい……!」
振り返りながら微笑むアルベール様に、強い胸の高鳴りを覚えながら返事をした私は、瘴気の元凶に手をかざし、集中する。
「罪もない方々を苦しめる悪しき力よ、消え去りなさい……!」
先程と同じ光が生まれ、瘴気の元凶を覆っていく。それから間もなく、あの禍々しい塊は完全に消えた。
「消えた……リーゼ嬢、これでもう大丈夫なんでしょうか?」
「はい。あとは……辺りに瘴気に汚染された動植物がいないか……確認する必要がありますが……とりあえず、一安心です」
また座り込んでしまった私は、アルベール様に背中を支えられながら答える。
瘴気の元凶が襲い掛かってきた時は、どうなることかと思ったけど、とにかく無事に終わって本当に良かった。
「あっ……」
安心して気が緩んだのか、急激に意識が遠のいてきた。まぶたも異様に重くて、目を開けていられない。
駄目、もう少し耐えるのよ私。ここで意識を失ったら、またアルベール様に……心配を……。
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