【完結】聖女の私は利用されていた ~妹のために悪役令嬢を演じていたが、利用されていたので家を出て幸せになる~

ゆうき

文字の大きさ
上 下
16 / 34

第十六話 最後のあがき

しおりを挟む
 決死の覚悟で浄化に当たっていたが、私は元々出来損ないの聖女だ。いくら頑張った所で、限界はすぐに来た。

「あ、あれ……」

 私は、体から力が完全に抜けて、その場で倒れてしまった。それも、顔を水面に向けた状態で。

 いくら水の流れが緩やかとはいえ、私は力を使い果たしていて、手を動かすだけでも困難な状態だ。

「がぼっ……ごぼっ……」

 く、苦しい……息が出来ない……顔を上げたいのに、その力すら入らない。このままでは溺れてしまう……。

 うぅ、さっき触手にやられたのも相まって、息も続かない。誰か助けて……!

「り、リーゼ嬢……! 大丈夫ですか!」
「ぷはっ……! はぁ、はぁ……!」

 危うく窒息しかけそうだったところを、アルベール様が私の体を持ち上げてくれた。

 本当に死んじゃうかと思った……アルベール様には感謝しないといけないわ……でも、疲労のせいで声が出ない……。

「あ、ある……べ……あり……が……」
「無理して喋らないでください! 今は息を整えてください!」
「すぅ……はぁ……ごほっごほっ」

 アルベール様の言う通りに、私は喋らずに息を整えることに集中する。中々息は整わないし、体にも全く力が入らないけど、ほんの少しだけ楽にはなった。

「大丈夫ですか? 無理をせず、ゆっくり話してください」
「は、はい。アルベール様、お怪我は……」
「俺は問題ありません! この通り、ピンピンしておりますよ!」

 ……嘘だ。あれだけ触手に攻撃されていて、怪我が一つもないはずがないわ。私の聖女の力で、少しでも傷の手当てをしないと……。

「今……手当て……」
「いえ、お気になさらず。今は俺よりも、あちらの方が重要でしょう」

 私のことを抱き抱えながら、視線だけ瘴気の元凶に向けるアルベール様。私も釣られて視線を向けると、先程まで暴れていた物とは思えないほど、沈黙していた。

 それに、周りに漂っていた霧のような瘴気も無くなり、独特な嫌な気配も消えていた。

 これは、機能が停止したと考えていいのかしら。いえ、油断は禁物よね。今は私の聖女の力で弱まっているだけで、時間が経ったら復活する可能性は十分にある。早く完全に浄化しないと。

「アルベール様……」
「なんですか?」
「私を……あれの所まで……連れて行ってください。完全に……浄化したいのですが、体が動かなくて……」
「大丈夫なのですか?」
「はい……あれを浄化するくらいの体力は残ってると……思いますわ」
「わかりました、お任せください」

 アルベール様は、私をお姫様抱っこで運ぼうとするが、持ち上げようとした瞬間に表情を歪ませてしまい、私を持ち上げることは出来なかった。

「やはり、どこか怪我を……」
「あはは……さすがに隠せませんでしたか。申し訳ないが、肩を貸すだけでよろしいでしょうか?」
「はい」

 体が痛いアルベール様にお願いをするのはとても心苦しいけど、こうでもしないと、ここから一歩も動けそうもない。

 本当に、自分が情けない……もう少しで良いから、私に聖女の力があれば、アルベール様の負担をもっと減らせたかもしれないのに。

「リーゼ嬢、お願いできますか?」
「は、はい」

 自分の情けなさに嘆いている間に、アルベール様は私を連れて瘴気の元凶の元にたどり着いていた。

 本当に怪我をしているのか、疑ってしまうくらい早くて驚いたわ。私もアルベール様を見習って、体力をつけるために運動をしてみようかしら……。

「では、浄化を始めま――」

 浄化をしようとした瞬間、私の後ろから、ザバン! と大きな水しぶきの音が聞こえてきた。その音に反応して振り返ると、消えたはずの触手が私を目掛けて襲ってきた。

 まさか、気付かれないように水の中を通って背後に? 早く逃げないと……駄目だ、体が動かない……!

「……あれ?」

 恐怖で目を閉じていたが、いつまで経ってもなにも起こらない。恐る恐る目を開けると、そこには斬られて霧散していく触手と、頼もしいアルベール様の背中があった。

「す、凄い……どうして……」
「あれほど必死に抵抗してきた相手ですからね。不意打ちも警戒してました。リーゼ嬢、なにがあっても俺がお守りするので、安心して浄化をしてください」
「は、はい……!」

 振り返りながら微笑むアルベール様に、強い胸の高鳴りを覚えながら返事をした私は、瘴気の元凶に手をかざし、集中する。

「罪もない方々を苦しめる悪しき力よ、消え去りなさい……!」

 先程と同じ光が生まれ、瘴気の元凶を覆っていく。それから間もなく、あの禍々しい塊は完全に消えた。

「消えた……リーゼ嬢、これでもう大丈夫なんでしょうか?」
「はい。あとは……辺りに瘴気に汚染された動植物がいないか……確認する必要がありますが……とりあえず、一安心です」

 また座り込んでしまった私は、アルベール様に背中を支えられながら答える。

 瘴気の元凶が襲い掛かってきた時は、どうなることかと思ったけど、とにかく無事に終わって本当に良かった。

「あっ……」

 安心して気が緩んだのか、急激に意識が遠のいてきた。まぶたも異様に重くて、目を開けていられない。

 駄目、もう少し耐えるのよ私。ここで意識を失ったら、またアルベール様に……心配を……。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします

文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。 夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。 エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。 「ゲルハルトさま、愛しています」 ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。 「エレーヌ、俺はあなたが憎い」 エレーヌは凍り付いた。

【完結】100日後に処刑されるイグワーナ(悪役令嬢)は抜け毛スキルで無双する

みねバイヤーン
恋愛
せっかく悪役令嬢に転生したのに、もう断罪イベント終わって、牢屋にぶち込まれてるんですけどー。これは100日後に処刑されるイグワーナが、抜け毛操りスキルを使って無双し、自分を陥れた第一王子と聖女の妹をざまぁする、そんな物語。

【コミカライズ2月28日引き下げ予定】実は白い結婚でしたの。元悪役令嬢は未亡人になったので今度こそ推しを見守りたい。

氷雨そら
恋愛
悪役令嬢だと気がついたのは、断罪直後。 私は、五十も年上の辺境伯に嫁いだのだった。 「でも、白い結婚だったのよね……」 奥様を愛していた辺境伯に、孫のように可愛がられた私は、彼の亡き後、王都へと戻ってきていた。 全ては、乙女ゲームの推しを遠くから眺めるため。 一途な年下枠ヒーローに、元悪役令嬢は溺愛される。 断罪に引き続き、私に拒否権はない……たぶん。

5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?

gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。 そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて 「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」 もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね? 3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。 4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。 1章が書籍になりました。

この度、皆さんの予想通り婚約者候補から外れることになりました。ですが、すぐに結婚することになりました。

鶯埜 餡
恋愛
 ある事件のせいでいろいろ言われながらも国王夫妻の働きかけで王太子の婚約者候補となったシャルロッテ。  しかし当の王太子ルドウィックはアリアナという男爵令嬢にべったり。噂好きな貴族たちはシャルロッテに婚約者候補から外れるのではないかと言っていたが

いつだって二番目。こんな自分とさよならします!

椿蛍
恋愛
小説『二番目の姫』の中に転生した私。 ヒロインは第二王女として生まれ、いつも脇役の二番目にされてしまう運命にある。 ヒロインは婚約者から嫌われ、両親からは差別され、周囲も冷たい。 嫉妬したヒロインは暴走し、ラストは『お姉様……。私を救ってくれてありがとう』ガクッ……で終わるお話だ。  そんなヒロインはちょっとね……って、私が転生したのは二番目の姫!? 小説どおり、私はいつも『二番目』扱い。 いつも第一王女の姉が優先される日々。 そして、待ち受ける死。 ――この運命、私は変えられるの? ※表紙イラストは作成者様からお借りしてます。

お飾り公爵夫人の憂鬱

初瀬 叶
恋愛
空は澄み渡った雲1つない快晴。まるで今の私の心のようだわ。空を見上げた私はそう思った。 私の名前はステラ。ステラ・オーネット。夫の名前はディーン・オーネット……いえ、夫だった?と言った方が良いのかしら?だって、その夫だった人はたった今、私の足元に埋葬されようとしているのだから。 やっと!やっと私は自由よ!叫び出したい気分をグッと堪え、私は沈痛な面持ちで、黒い棺を見つめた。 そう自由……自由になるはずだったのに…… ※ 中世ヨーロッパ風ですが、私の頭の中の架空の異世界のお話です ※相変わらずのゆるふわ設定です。細かい事は気にしないよ!という読者の方向けかもしれません ※直接的な描写はありませんが、性的な表現が出てくる可能性があります

寵愛のいる旦那様との結婚生活が終わる。もし、次があるのなら緩やかに、優しい人と恋がしたい。

にのまえ
恋愛
リルガルド国。公爵令嬢リイーヤ・ロイアルは令嬢ながら、剣に明け暮れていた。 父に頼まれて参加をした王女のデビュタントの舞踏会で、伯爵家コール・デトロイトと知り合い恋に落ちる。 恋に浮かれて、剣を捨た。 コールと結婚をして初夜を迎えた。 リイーヤはナイトドレスを身に付け、鼓動を高鳴らせて旦那様を待っていた。しかし寝室に訪れた旦那から出た言葉は「私は君を抱くことはない」「私には心から愛する人がいる」だった。 ショックを受けて、旦那には愛してもられないと知る。しかし離縁したくてもリルガルド国では離縁は許されない。しかしリイーヤは二年待ち子供がいなければ離縁できると知る。 結婚二周年の食事の席で、旦那は義理両親にリイーヤに子供ができたと言い出した。それに反論して自分は生娘だと医師の診断書を見せる。 混乱した食堂を後にして、リイーヤは馬に乗り伯爵家から出て行き国境を越え違う国へと向かう。 もし、次があるのなら優しい人と恋がしたいと…… お読みいただき、ありがとうございます。 エブリスタで四月に『完結』した話に差し替えいたいと思っております。内容はさほど、変わっておりません。 それにあたり、栞を挟んでいただいている方、すみません。

処理中です...