【完結】聖女の私は利用されていた ~妹のために悪役令嬢を演じていたが、利用されていたので家を出て幸せになる~

ゆうき

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第九話 直面する問題

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■アルベール視点■

「……よし、このリストに書いたものを大至急用意してくれ」
「かしこまりました」

 リーゼ嬢とクラリス殿を一度家に帰した俺は、自室に戻って彼女達に必要な物をリストにまとめ、使用人へと手渡した。

 一応生活に必要な物や、服や化粧品といった物は一通りまとめたつもりだ。部屋に関しても、この屋敷は無駄に広いから問題無い……が、掃除をしないといけないから、すぐに用意はできない。心苦しいが、今日だけは別室で我慢してもらうしかない。

「それにしても……まさかリーゼ嬢と一緒に住むことになるとは、想像もしていなかった。頼ってくれただけでも舞い上がるくらい嬉しかったのに、同居だなんて……卒倒しそうだ」

 ぽつりと独り言を零しながら、使用人が用意してくれたコーヒーを一口飲む。口の中に広がるコーヒーの香りが、俺の心を少しだけ冷静にしてくれた。

 実は俺は……幼い頃、俺は大切な人を亡くし、酷く落ち込んでいた。そこにリーゼ嬢はこう言った。

『あなたにそこまで悲しんでもらえるなんて、その方は本当に幸せだったと思いますわ。だから、その方のために前を向いてあげてください。そうすれば、きっとその方は喜んでくださるわ』

 とても優しい声色で、俺の手を取って言ってくれたその言葉は、他人が聞いたら月並みな言葉かもしれないけど、確かに俺を救ってくれたんだ。そして、その彼女の優しさに、俺は惚れこんでしまった。

 その時から、リーゼ嬢に婚約者がいることはわかっていた。それでも俺は諦めきれず、社交界で会った時は積極的に話しかけに行っていたんだ。

 そんなリーゼ嬢が、婚約破棄をされたのを見た時は、とても驚いた。あの婚約者……ジェクソン殿は、リーゼ嬢の良さに全く気が付いていないのが、残念でならない。

 確かにリーゼ嬢は、社交界では粗暴な振る舞いを取っていた。しかし、彼女が一人でいる時や、クラリス殿と一緒にいる時は、とても優しい顔になる。俺には、そっちの顔が彼女の本質だと見抜いていた。

 ……どうしてそう思うのかって? 優しい時と粗暴な時を見比べればわかる。優しい時はとても自然体だけど、粗暴な彼女はとても無理しているのがひしひしと伝わってきていたからね。

「これからリーゼ嬢と一緒に……しかも婚約まで……!」

 これは不味い、考えたら嬉しすぎて顔のにやけが抑えきれない。

 ……どうもリーゼ嬢のことになると、好きという感情を抑えきれずに暴走をしてしまう。相談をしに頼ってきてくれた時も、あまりにも嬉しくて感情を抑えきれなかった。

 そのせいで、まさか後先考えずに婚約を持ちだしてしまうとは……しかも受け入れてもらえるなんてな。やれやれ、家長としてもっと冷静な判断をしないといけない。反省をしなければ。

 ……言っておくが、反省はしているが、後悔は一切していない。この恋心も、婚約したいという気持ちも、嘘偽りが無いからだ。

「おっと、もうこんな時間か……そろそろ仕事に戻ろう。リーゼ嬢達の話を聞いていた時間の分、きっちり仕事をしないとな」

 山のように積み上がった書類を手に取ろうとした瞬間、俺の頭にある考えがよぎった。

 浮かれて決めてしまったが、俺にはリーゼ嬢を迎え入れて愛する資格が、本当にあるのだろうか?

 婚約なんて結ぶ資格なんてあるのだろうか?

 また……大切な人を死に追いやったりしないだろうか?

「…………」

 駄目だな……考えれば考える程、気分は落ち込んでいく。だからといって、困っているリーゼ嬢達を放っておくことも出来ない。

「こんなことを考えて落ち込むくらいなら、もっと考えてから提案しろよ俺……どれだけ馬鹿なんだ……とにかく、俺に出来ることをしよう。さて、仕事仕事っと……」

 俺は机の上に山積みにされた書類の一番上を手に取る。そこには、サヴァイア家の領地で起こっている問題についての書類だった。

 その問題とは……瘴気による、領地の汚染だ。

「やはり瘴気の範囲が広がっているのか……まだ人的被害は出ていないが、このまま放っておいたら……」

 手に取った書類を見つめていると、いつの間にか体に力が入っていたようで、書類をグシャッとして、シワだらけにしてしまった。

 くそっ……聖女を派遣して貰いたいが、我が国は小国というのがあってか、聖女は一人しかいない。そのせいで、いくらサヴァイア家が侯爵家といっても、聖女に来てもらえるのはまだ先になると言われている。

「原因は一体何なんだ……わかれば対処が出来るかもしれないのに……くそっ!」
「アルベール様、よろしいでしょうか」
「あ、ああ。入っていいよ」

 瘴気の問題を前に頭を抱えていると、サヴァイア家に仕える使用人が部屋に入ってきた。

 危ない、危うく悩んでいる姿を見せてしまうところだった。家長として、皆に悩んでいる姿を見せて不安に思わせる必要は無い。

「リーゼ様達のお召し物の準備ができました」
「そうか、わかった。彼女達が戻ってくる前に、もう一度服に不備がないかの確認をしておいてくれ」
「かしこまりました」

 とりあえず、リーゼ嬢達の準備に関しては、使用人に任せてもよさそうだ。俺はとにかく、少しでもこの問題を解決するための策を練らなければ……。
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