【完結】聖女の私は利用されていた ~妹のために悪役令嬢を演じていたが、利用されていたので家を出て幸せになる~

ゆうき

文字の大きさ
上 下
9 / 34

第九話 直面する問題

しおりを挟む
■アルベール視点■

「……よし、このリストに書いたものを大至急用意してくれ」
「かしこまりました」

 リーゼ嬢とクラリス殿を一度家に帰した俺は、自室に戻って彼女達に必要な物をリストにまとめ、使用人へと手渡した。

 一応生活に必要な物や、服や化粧品といった物は一通りまとめたつもりだ。部屋に関しても、この屋敷は無駄に広いから問題無い……が、掃除をしないといけないから、すぐに用意はできない。心苦しいが、今日だけは別室で我慢してもらうしかない。

「それにしても……まさかリーゼ嬢と一緒に住むことになるとは、想像もしていなかった。頼ってくれただけでも舞い上がるくらい嬉しかったのに、同居だなんて……卒倒しそうだ」

 ぽつりと独り言を零しながら、使用人が用意してくれたコーヒーを一口飲む。口の中に広がるコーヒーの香りが、俺の心を少しだけ冷静にしてくれた。

 実は俺は……幼い頃、俺は大切な人を亡くし、酷く落ち込んでいた。そこにリーゼ嬢はこう言った。

『あなたにそこまで悲しんでもらえるなんて、その方は本当に幸せだったと思いますわ。だから、その方のために前を向いてあげてください。そうすれば、きっとその方は喜んでくださるわ』

 とても優しい声色で、俺の手を取って言ってくれたその言葉は、他人が聞いたら月並みな言葉かもしれないけど、確かに俺を救ってくれたんだ。そして、その彼女の優しさに、俺は惚れこんでしまった。

 その時から、リーゼ嬢に婚約者がいることはわかっていた。それでも俺は諦めきれず、社交界で会った時は積極的に話しかけに行っていたんだ。

 そんなリーゼ嬢が、婚約破棄をされたのを見た時は、とても驚いた。あの婚約者……ジェクソン殿は、リーゼ嬢の良さに全く気が付いていないのが、残念でならない。

 確かにリーゼ嬢は、社交界では粗暴な振る舞いを取っていた。しかし、彼女が一人でいる時や、クラリス殿と一緒にいる時は、とても優しい顔になる。俺には、そっちの顔が彼女の本質だと見抜いていた。

 ……どうしてそう思うのかって? 優しい時と粗暴な時を見比べればわかる。優しい時はとても自然体だけど、粗暴な彼女はとても無理しているのがひしひしと伝わってきていたからね。

「これからリーゼ嬢と一緒に……しかも婚約まで……!」

 これは不味い、考えたら嬉しすぎて顔のにやけが抑えきれない。

 ……どうもリーゼ嬢のことになると、好きという感情を抑えきれずに暴走をしてしまう。相談をしに頼ってきてくれた時も、あまりにも嬉しくて感情を抑えきれなかった。

 そのせいで、まさか後先考えずに婚約を持ちだしてしまうとは……しかも受け入れてもらえるなんてな。やれやれ、家長としてもっと冷静な判断をしないといけない。反省をしなければ。

 ……言っておくが、反省はしているが、後悔は一切していない。この恋心も、婚約したいという気持ちも、嘘偽りが無いからだ。

「おっと、もうこんな時間か……そろそろ仕事に戻ろう。リーゼ嬢達の話を聞いていた時間の分、きっちり仕事をしないとな」

 山のように積み上がった書類を手に取ろうとした瞬間、俺の頭にある考えがよぎった。

 浮かれて決めてしまったが、俺にはリーゼ嬢を迎え入れて愛する資格が、本当にあるのだろうか?

 婚約なんて結ぶ資格なんてあるのだろうか?

 また……大切な人を死に追いやったりしないだろうか?

「…………」

 駄目だな……考えれば考える程、気分は落ち込んでいく。だからといって、困っているリーゼ嬢達を放っておくことも出来ない。

「こんなことを考えて落ち込むくらいなら、もっと考えてから提案しろよ俺……どれだけ馬鹿なんだ……とにかく、俺に出来ることをしよう。さて、仕事仕事っと……」

 俺は机の上に山積みにされた書類の一番上を手に取る。そこには、サヴァイア家の領地で起こっている問題についての書類だった。

 その問題とは……瘴気による、領地の汚染だ。

「やはり瘴気の範囲が広がっているのか……まだ人的被害は出ていないが、このまま放っておいたら……」

 手に取った書類を見つめていると、いつの間にか体に力が入っていたようで、書類をグシャッとして、シワだらけにしてしまった。

 くそっ……聖女を派遣して貰いたいが、我が国は小国というのがあってか、聖女は一人しかいない。そのせいで、いくらサヴァイア家が侯爵家といっても、聖女に来てもらえるのはまだ先になると言われている。

「原因は一体何なんだ……わかれば対処が出来るかもしれないのに……くそっ!」
「アルベール様、よろしいでしょうか」
「あ、ああ。入っていいよ」

 瘴気の問題を前に頭を抱えていると、サヴァイア家に仕える使用人が部屋に入ってきた。

 危ない、危うく悩んでいる姿を見せてしまうところだった。家長として、皆に悩んでいる姿を見せて不安に思わせる必要は無い。

「リーゼ様達のお召し物の準備ができました」
「そうか、わかった。彼女達が戻ってくる前に、もう一度服に不備がないかの確認をしておいてくれ」
「かしこまりました」

 とりあえず、リーゼ嬢達の準備に関しては、使用人に任せてもよさそうだ。俺はとにかく、少しでもこの問題を解決するための策を練らなければ……。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします

文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。 夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。 エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。 「ゲルハルトさま、愛しています」 ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。 「エレーヌ、俺はあなたが憎い」 エレーヌは凍り付いた。

【完結】100日後に処刑されるイグワーナ(悪役令嬢)は抜け毛スキルで無双する

みねバイヤーン
恋愛
せっかく悪役令嬢に転生したのに、もう断罪イベント終わって、牢屋にぶち込まれてるんですけどー。これは100日後に処刑されるイグワーナが、抜け毛操りスキルを使って無双し、自分を陥れた第一王子と聖女の妹をざまぁする、そんな物語。

【コミカライズ2月28日引き下げ予定】実は白い結婚でしたの。元悪役令嬢は未亡人になったので今度こそ推しを見守りたい。

氷雨そら
恋愛
悪役令嬢だと気がついたのは、断罪直後。 私は、五十も年上の辺境伯に嫁いだのだった。 「でも、白い結婚だったのよね……」 奥様を愛していた辺境伯に、孫のように可愛がられた私は、彼の亡き後、王都へと戻ってきていた。 全ては、乙女ゲームの推しを遠くから眺めるため。 一途な年下枠ヒーローに、元悪役令嬢は溺愛される。 断罪に引き続き、私に拒否権はない……たぶん。

【コミカライズ決定】婚約破棄され辺境伯との婚姻を命じられましたが、私の初恋の人はその義父です

灰銀猫
恋愛
両親と妹にはいない者として扱われながらも、王子の婚約者の肩書のお陰で何とか暮らしていたアレクシア。 顔だけの婚約者を実妹に奪われ、顔も性格も醜いと噂の辺境伯との結婚を命じられる。 辺境に追いやられ、婚約者からは白い結婚を打診されるも、婚約も結婚もこりごりと思っていたアレクシアには好都合で、しかも婚約者の義父は初恋の相手だった。 王都にいた時よりも好待遇で意外にも快適な日々を送る事に…でも、厄介事は向こうからやってきて… 婚約破棄物を書いてみたくなったので、書いてみました。 ありがちな内容ですが、よろしくお願いします。 設定は緩いしご都合主義です。難しく考えずにお読みいただけると嬉しいです。 他サイトでも掲載しています。 コミカライズ決定しました。申し訳ございませんが配信開始後は削除いたします。

5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?

gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。 そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて 「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」 もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね? 3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。 4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。 1章が書籍になりました。

この度、皆さんの予想通り婚約者候補から外れることになりました。ですが、すぐに結婚することになりました。

鶯埜 餡
恋愛
 ある事件のせいでいろいろ言われながらも国王夫妻の働きかけで王太子の婚約者候補となったシャルロッテ。  しかし当の王太子ルドウィックはアリアナという男爵令嬢にべったり。噂好きな貴族たちはシャルロッテに婚約者候補から外れるのではないかと言っていたが

いつだって二番目。こんな自分とさよならします!

椿蛍
恋愛
小説『二番目の姫』の中に転生した私。 ヒロインは第二王女として生まれ、いつも脇役の二番目にされてしまう運命にある。 ヒロインは婚約者から嫌われ、両親からは差別され、周囲も冷たい。 嫉妬したヒロインは暴走し、ラストは『お姉様……。私を救ってくれてありがとう』ガクッ……で終わるお話だ。  そんなヒロインはちょっとね……って、私が転生したのは二番目の姫!? 小説どおり、私はいつも『二番目』扱い。 いつも第一王女の姉が優先される日々。 そして、待ち受ける死。 ――この運命、私は変えられるの? ※表紙イラストは作成者様からお借りしてます。

どうも、死んだはずの悪役令嬢です。

西藤島 みや
ファンタジー
ある夏の夜。公爵令嬢のアシュレイは王宮殿の舞踏会で、婚約者のルディ皇子にいつも通り罵声を浴びせられていた。 皇子の罵声のせいで、男にだらしなく浪費家と思われて王宮殿の使用人どころか通っている学園でも遠巻きにされているアシュレイ。 アシュレイの誕生日だというのに、エスコートすら放棄して、皇子づきのメイドのミュシャに気を遣うよう求めてくる皇子と取り巻き達に、呆れるばかり。 「幼馴染みだかなんだかしらないけれど、もう限界だわ。あの人達に罰があたればいいのに」 こっそり呟いた瞬間、 《願いを聞き届けてあげるよ!》 何故か全くの別人になってしまっていたアシュレイ。目の前で、アシュレイが倒れて意識不明になるのを見ることになる。 「よくも、義妹にこんなことを!皇子、婚約はなかったことにしてもらいます!」 義父と義兄はアシュレイが状況を理解する前に、アシュレイの体を持ち去ってしまう。 今までミュシャを崇めてアシュレイを冷遇してきた取り巻き達は、次々と不幸に巻き込まれてゆき…ついには、ミュシャや皇子まで… ひたすら一人づつざまあされていくのを、呆然と見守ることになってしまった公爵令嬢と、怒り心頭の義父と義兄の物語。 はたしてアシュレイは元に戻れるのか? 剣と魔法と妖精の住む世界の、まあまあよくあるざまあメインの物語です。 ざまあが書きたかった。それだけです。

処理中です...