【完結】聖女の私は利用されていた ~妹のために悪役令嬢を演じていたが、利用されていたので家を出て幸せになる~

ゆうき

文字の大きさ
上 下
6 / 34

第六話 サヴァイア家

しおりを挟む
 ここまで盛大に出迎えられるのは想定していなかった私は、ぽかーんと口を開けて固まってしまった。

 えっと、出迎えてくれるのは大変光栄で、嬉しいことよ? でも、ただ面会をしに伺っただけで、ここまで手厚い出迎えをしていただくのは、逆に恐縮してしまう。

「やあお二人共! ようこそ我がサヴァイア家へ! 我々はあなた方の来訪を、心から歓迎します!」

 ズラッと並んだ方々の中心を通って、私達の元へと歩み寄ってきたアルベール様。その表情は、いつもと変わらずニコニコしている。

「アルベール様。本日はお時間をいただき、誠にありがとうございます」

 もう悪者を演じる必要は無い私は、丁寧に頭を下げて見せる。すると、使用人の中から、少しだけざわついた声が聞こえてきた。

 きっと驚いた方々は、悪者の私を知っていて、それが本当の私だと思っていたのだろう。それを知っていれば、今の私は別人に見えてもおかしくない。

「いやぁ、まさかあなたからお越しいただけるなんて、光栄の至りです! このことは、子孫にも未来永劫伝えていかねば!」
「えっと、もっと伝えるべきことがあると存じますわ」
「うーん、確かにそうですね。リーゼ嬢と話したことや、その時の情景や気持ちも伝える必要がありますね!」
「悪化しておりますけど!?」
「よし、石碑を建ててそれを未来の子供たちに伝えていこう! それがいずれは伝説となり、永遠にリーゼ嬢が語り継がれることになる!」
「私の話を聞いてくださいませ!」

 さすがに石碑を建てるなんて、普通なら冗談にしか聞こえない。でも、アルベール様の勢いなら、本当に実行するのは想像できる。

 なんとか思いとどまってもらわないと……えーっと、えっと……!

「ふ、ふんっ! その心意気は褒めてさしあげますわ。そのお礼に、あなたの目の前で石碑を完膚なきまで破壊してあげましょう」

 結局考えた末に出てきたのは、染みついた悪者発言だった。うぅ、こういう時にもっと綺麗に、それとなく断る話術を身につけておくべきだった……私の馬鹿っ!

「それなら君が一つ壊している間に、十個……いや、百個作ればいいですね!」
「百個!? 何人の職人を雇う気ですの!?」
「無論、全世界の職人を――」
「無理に決まっているでしょう! それ以前に、少しは自重というものを覚えてください!」
「なぜ君のことで自重をしなければならない!?」
「え、なんで私が怒られているんですの!?」

 これ、多分アルベール様が仰ってることの方が、ちょっとズレている気がするのだけど……もしかして、私が気づいていないだけで、私がズレている?

「リーゼお嬢様、お戯れもそこまでにしてくださいませ。本題に入りましょう」
「はっ……ごほんっ。アルベール様、今日はお話があって伺わせていただいたのです」
「ええ、事前に使者から聞いています。部屋を用意してますので、そちらでお聞かせください」
「わかりました。クラリス、行くわよ」
「かしこまりました」

 私はクラリスと共に、アルベール様の後ろをついて歩いていくと、屋敷の少し奥に位置する、客間へと通された。

「どうぞおかけください」
「はい、ありがとうございます」

 アルベール様に促されて、フカフカなソファに腰を降ろす。するとタイミングを見計らっていたかのように、使用人がお茶を出してくれた。

「それで、何のお話でしょうか?」
「はい、実は――」

 私はゆっくりと深呼吸をして気持ちを落ち着けてから、先日あった出来事を、アルベール様に話した。

 私は妹のために悪者を演じていたことも、その妹に利用されていたことも、お父様が私の元婚約者と話をしていて、婚約破棄をするのも計画の一部だったことも……全部。

 全部を話しきった頃には、少し疲れてしまったわ。辛かった出来事って、話すだけでも体力を消費するのね。

「なるほど……申し訳ない、しばらく席を外します」
「え、どちらへ?」
「無論、リーゼ嬢のお父上と妹様に少々お話を」
「お話をするような目ではありませんわよね!? 狩りに出る獣のような目ですわ!」
「狩り……間違ってないですね。事と次第によっては、彼らを狩ることも――はっ」

 アルベール様は、明らかに危ない発言をしていたが、急に我に返った様に、コホンと咳ばらいをした。

「失礼、つい怒りに身を任せるところでした。どうもあなたのことになると、周りが見えなくなってしまう」
「は、はあ……」

 あ、危なかったわ……私のせいで、危うく両家の争いになるところだった。って……なんだかつい最近も、似たようなやり取りをクラリスとやったわね……。

「とにかく、これまでの経緯はリーゼお嬢様がお話した通りです。それで、あんな家にいるのは良くないということで、出て行こうと提案したのまでは良かったのですが……行くあてが無いのが現状です。それで、アルベール様なら、どこか私達が住める場所を探すご相談に乗ってくださると思い、こうして相談に参った次第です」

 クラリスの説明を聞いたアルベール様は、何かを考えるように目を閉じた。その美しさは、ただ考え事をしているだけなのに、とても絵になる。

「いきなりお願いをしても、受け入れてくれるような家は少ないでしょうね」
「やはりそうですわよね……」
「まあ、それに関しては問題ありません。我が家に住めばいいのですから」
「え、サヴァイア家に……??」
「はい」

 きっぱりと言い切られた私は、キョトンとした表情を浮かべながら、数回瞬きをした。クラリスも同じような顔をしているあたり、私と気持ちは同じだろう。

「お願いをした身で、こんなことをお伝えするのは、少々おかしな話ですが……本当によろしいんですか?」
「家長は俺ですからね。決定権は俺にあります。きっと先に旅立った父と母も許してくれるでしょう。いや、両親は厳しくもお人好しな一面もありましたから、放っておいた方が怒られるでしょうね」

 アルベール様は、おかしそうに笑ってみせながら、肩を少しすくめていた。

 アルベール様のお父様とお母様は、私も何度かお会いしたことがある。厳格な雰囲気ではあったけど、話すととても温厚な方達で、不思議な安心感がある方々だった。

 ただ、数年前に帰らぬ人になってしまったと聞いている。だから、まだ若いのにアルベール様が家長をしているのよ。

「とてもありがたい話ですが、本当によろしいのでしょうか……?」
「何を仰いますか。幼い頃、俺のことを慰めてくださったでしょう? あの時に、俺は本当に救われたのですよ!」
「そんなこともありましたね。でも……」
「まだ納得ができないと。ではこうしましょう」

 一旦言葉を切ってから、アルベール様は私の元に歩み寄ると、片膝をついて私の手をそっと取った。

「俺と婚約を結んでください。そうすれば、一緒に住むのは当然のことになる」
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします

文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。 夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。 エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。 「ゲルハルトさま、愛しています」 ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。 「エレーヌ、俺はあなたが憎い」 エレーヌは凍り付いた。

【完結】100日後に処刑されるイグワーナ(悪役令嬢)は抜け毛スキルで無双する

みねバイヤーン
恋愛
せっかく悪役令嬢に転生したのに、もう断罪イベント終わって、牢屋にぶち込まれてるんですけどー。これは100日後に処刑されるイグワーナが、抜け毛操りスキルを使って無双し、自分を陥れた第一王子と聖女の妹をざまぁする、そんな物語。

【コミカライズ2月28日引き下げ予定】実は白い結婚でしたの。元悪役令嬢は未亡人になったので今度こそ推しを見守りたい。

氷雨そら
恋愛
悪役令嬢だと気がついたのは、断罪直後。 私は、五十も年上の辺境伯に嫁いだのだった。 「でも、白い結婚だったのよね……」 奥様を愛していた辺境伯に、孫のように可愛がられた私は、彼の亡き後、王都へと戻ってきていた。 全ては、乙女ゲームの推しを遠くから眺めるため。 一途な年下枠ヒーローに、元悪役令嬢は溺愛される。 断罪に引き続き、私に拒否権はない……たぶん。

【コミカライズ決定】婚約破棄され辺境伯との婚姻を命じられましたが、私の初恋の人はその義父です

灰銀猫
恋愛
両親と妹にはいない者として扱われながらも、王子の婚約者の肩書のお陰で何とか暮らしていたアレクシア。 顔だけの婚約者を実妹に奪われ、顔も性格も醜いと噂の辺境伯との結婚を命じられる。 辺境に追いやられ、婚約者からは白い結婚を打診されるも、婚約も結婚もこりごりと思っていたアレクシアには好都合で、しかも婚約者の義父は初恋の相手だった。 王都にいた時よりも好待遇で意外にも快適な日々を送る事に…でも、厄介事は向こうからやってきて… 婚約破棄物を書いてみたくなったので、書いてみました。 ありがちな内容ですが、よろしくお願いします。 設定は緩いしご都合主義です。難しく考えずにお読みいただけると嬉しいです。 他サイトでも掲載しています。 コミカライズ決定しました。申し訳ございませんが配信開始後は削除いたします。

5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?

gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。 そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて 「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」 もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね? 3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。 4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。 1章が書籍になりました。

この度、皆さんの予想通り婚約者候補から外れることになりました。ですが、すぐに結婚することになりました。

鶯埜 餡
恋愛
 ある事件のせいでいろいろ言われながらも国王夫妻の働きかけで王太子の婚約者候補となったシャルロッテ。  しかし当の王太子ルドウィックはアリアナという男爵令嬢にべったり。噂好きな貴族たちはシャルロッテに婚約者候補から外れるのではないかと言っていたが

いつだって二番目。こんな自分とさよならします!

椿蛍
恋愛
小説『二番目の姫』の中に転生した私。 ヒロインは第二王女として生まれ、いつも脇役の二番目にされてしまう運命にある。 ヒロインは婚約者から嫌われ、両親からは差別され、周囲も冷たい。 嫉妬したヒロインは暴走し、ラストは『お姉様……。私を救ってくれてありがとう』ガクッ……で終わるお話だ。  そんなヒロインはちょっとね……って、私が転生したのは二番目の姫!? 小説どおり、私はいつも『二番目』扱い。 いつも第一王女の姉が優先される日々。 そして、待ち受ける死。 ――この運命、私は変えられるの? ※表紙イラストは作成者様からお借りしてます。

政略より愛を選んだ結婚。~後悔は十年後にやってきた。~

つくも茄子
恋愛
幼い頃からの婚約者であった侯爵令嬢との婚約を解消して、学生時代からの恋人と結婚した王太子殿下。 政略よりも愛を選んだ生活は思っていたのとは違っていた。「お幸せに」と微笑んだ元婚約者。結婚によって去っていた側近達。愛する妻の妃教育がままならない中での出産。世継ぎの王子の誕生を望んだものの産まれたのは王女だった。妻に瓜二つの娘は可愛い。無邪気な娘は欲望のままに動く。断罪の時、全てが明らかになった。王太子の思い描いていた未来は元から無かったものだった。後悔は続く。どこから間違っていたのか。 他サイトにも公開中。

処理中です...