【完結】聖女の私は利用されていた ~妹のために悪役令嬢を演じていたが、利用されていたので家を出て幸せになる~

ゆうき

文字の大きさ
上 下
4 / 34

第四話 私は利用されていた

しおりを挟む
 お父様の私室の中から聞こえてくる、信じがたい言葉。でもこれは間違いない……ジュリアの声だ。

 でも、私の知っているジュリアはもっと大人しくて、人の悪口なんて絶対に言わない子だ。まさか、声がそっくりなだけの別人?

 ……そ、そうよね! きっとそうに違いないわ! そうだ、こっそりと確認すればいいだけじゃない! こっそり……そう、こっそりと……。

「あの馬鹿のおかげで、家の評判が少々落ちたのは腹立たしいが、それ以上に奴がジュリアの評判を上げるのに一役を買ったことと、ジェクソンを引き止める駒になっていたのは確かだ」
「そうね。それが無ければ、とっくに家を追い出していたでしょ?」
「当然だ。ワシにはお前のような美しい娘がいるから、それだけで十分だ」
「っ……!!」

 動揺しつつも、部屋の扉を少しだけ開けて中を確認すると、そこにいたのは確かにお父様とジュリアだった。

 一番驚いたのは、ジュリアの態度と表情だった。いつものあの子は、座るときは浅く座り、手を合わせてとてもお行儀よく座るし、表情もどこか儚げだ。

 でも今は……ソファに深々と座って足を組み、表情も今まで見たことが無いような……悪人そのものになっていた。

「なんにせよ、これでようやくジュリアに相応しい婚約者を手に入れられた」
「本当にやっとって感じね。幼い頃から、お父様に言われてこの性格を演じるのは、凄く大変だったよ」

 ジュリアが大袈裟に肩をすくめてみせると、お父様はすまないと短く答えてから、葉巻に火をつけた。

「ていうかさ、もっと幼い頃にあたしと婚約させられなかったの?」
「出来なくはなかった。しかし、お前は男性が少し怖い弱々しい少女だが、横暴な姉を慕う優しさも持っているというのを演出したくてな。幼い頃から、馬鹿な貴族連中にそう思われていた方が、これからの人生で、何かと立ち回りがしやすいだろう?」
「まあ、そうかもしれないけどさ」
「だからジェクソンには表向きはリーゼと婚約をさせ、将来的にはお前と婚約をするように、前々から話をしておいたのだ」

 ……お父様もジュリアも、ずっと私を利用していただけということ? 私が悪者を演じていたのは自分の意思だけど、それすらも上手く利用して、ジュリアだけを良いようにしようとしていたってこと?

 そっか……お父様は……ジュリアだけを愛して、私のことなんて一切愛していなかったのね。ジュリアも……悪者を演じていた私の何倍も悪女だったのね。

「ふふっ、お姉様が馬鹿なことをして、貴族達の注意を逸らしてくれたおかげで、あたしがおもちゃで遊んでても、気づかれなかったのは助かるけどね」
「お前、まだあれで遊んでいるのか? ほどほどにしておかないと、国に目を付けられかねんぞ」

 あれ……? あれってなに? 駄目だわ、ショックが大きすぎて、頭が全然働いていない……眩暈までしてきた。

「だって、楽しいんだから仕方ないよ。この前も新しいのを一体購入しちゃったし」
「やれやれ……これではお前の中の聖女の力が泣いているな」
「別にこんな力、お母様が勝手にあたしに継承しただけにすぎないもの。あたしよりも、自己犠牲の塊であるお姉様の方が適任だよ! あーあ、こんなどうでもいい力なんて、お姉様に全部上げちゃいたいなー」

 ジュリアは心底嫌そうな顔をしながら、自らの手をジッと見つめる。すると、ジュリアの手がほんのりと光り始めた。

 あの力は、亡くなったお母様が私達に残してくれた、大切なものだというのに……どうしてそんな酷いことを言えるの?

「しかし、お前も聖女として、国のためにその力を使わねばならん」
「面倒くさいなぁ。でも、これからも良い子ちゃんは演じないといけないわけだし、それも仕方なしか。そうだ、これからも全部お姉様がやってくれないかな? ほら、なんかいつもの様に悪ぶりながら、あたしの代わりに聖女の仕事をしてくれたでしょ?」

 ジュリアの言っていることには、心当たりがある。国からの使者が来て、私達が持つ力を必要とされた時に、ジュリアなんかでは役に立たないと悪ぶって、自分がやるから感謝しろと高笑いをしたことがある。

 もちろん本心でそんなことは言っていない。むしろ私の力は不完全だから、ジュリアの方が適任だと思っているくらいだ。

「そういえば、お姉様はこれからどうするの?」
「知らん。ワシはあいつのことには興味が無い。お前がいればそれでいい」
「さすがお父様!」

 二人はとても楽しそうに笑う光景を、私はただこっそりと見つめることしか出来なかった。

 私だってこの家の家族なのに、私にはあの輪に入る資格が無いだなんて……あまりにも酷すぎるわ。

 もう、ここにいるのは辛すぎる……早く自室に帰りましょう……。

「…………」

 まるで体が鉛になったかのような錯覚を覚えながら、一歩ずつ自室に向かって歩を進める。その途中で、何度も涙が流れそうになったけど、人前で涙を流してはいけないと思い、何とか耐えた。

「あ、おかえりなさいませリーゼお嬢――ど、どうかされましたか?」
「クラリス……私……わた、し……うっ……うわぁぁぁぁぁん!!」

 自室に帰ってくると、クラリスがいつものように笑顔で出迎えてくれた。それが何よりも嬉しくて、同時に溜まりに溜まった悲しみが爆発して……彼女の胸の中で、子供のように泣きじゃくった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【完結】もう…我慢しなくても良いですよね?

アノマロカリス
ファンタジー
マーテルリア・フローレンス公爵令嬢は、幼い頃から自国の第一王子との婚約が決まっていて幼少の頃から厳しい教育を施されていた。 泣き言は許されず、笑みを浮かべる事も許されず、お茶会にすら参加させて貰えずに常に完璧な淑女を求められて教育をされて来た。 16歳の成人の義を過ぎてから王子との婚約発表の場で、事あろうことか王子は聖女に選ばれたという男爵令嬢を連れて来て私との婚約を破棄して、男爵令嬢と婚約する事を選んだ。 マーテルリアの幼少からの血の滲むような努力は、一瞬で崩壊してしまった。 あぁ、今迄の苦労は一体なんの為に… もう…我慢しなくても良いですよね? この物語は、「虐げられる生活を曽祖母の秘術でざまぁして差し上げますわ!」の続編です。 前作の登場人物達も多数登場する予定です。 マーテルリアのイラストを変更致しました。

婚約者の様子がおかしいので尾行したら、隠し妻と子供がいました

Kouei
恋愛
婚約者の様子がおかしい… ご両親が事故で亡くなったばかりだと分かっているけれど…何かがおかしいわ。 忌明けを過ぎて…もう2か月近く会っていないし。 だから私は婚約者を尾行した。 するとそこで目にしたのは、婚約者そっくりの小さな男の子と美しい女性と一緒にいる彼の姿だった。 まさかっ 隠し妻と子供がいたなんて!!! ※誤字脱字報告ありがとうございます。 ※この作品は、他サイトにも投稿しています。

この度、皆さんの予想通り婚約者候補から外れることになりました。ですが、すぐに結婚することになりました。

鶯埜 餡
恋愛
 ある事件のせいでいろいろ言われながらも国王夫妻の働きかけで王太子の婚約者候補となったシャルロッテ。  しかし当の王太子ルドウィックはアリアナという男爵令嬢にべったり。噂好きな貴族たちはシャルロッテに婚約者候補から外れるのではないかと言っていたが

【コミカライズ2月28日引き下げ予定】実は白い結婚でしたの。元悪役令嬢は未亡人になったので今度こそ推しを見守りたい。

氷雨そら
恋愛
悪役令嬢だと気がついたのは、断罪直後。 私は、五十も年上の辺境伯に嫁いだのだった。 「でも、白い結婚だったのよね……」 奥様を愛していた辺境伯に、孫のように可愛がられた私は、彼の亡き後、王都へと戻ってきていた。 全ては、乙女ゲームの推しを遠くから眺めるため。 一途な年下枠ヒーローに、元悪役令嬢は溺愛される。 断罪に引き続き、私に拒否権はない……たぶん。

【完結】家族にサヨナラ。皆様ゴキゲンヨウ。

くま
恋愛
「すまない、アデライトを愛してしまった」 「ソフィア、私の事許してくれるわよね?」 いきなり婚約破棄をする婚約者と、それが当たり前だと言い張る姉。そしてその事を家族は姉達を責めない。 「病弱なアデライトに譲ってあげなさい」と…… 私は昔から家族からは二番目扱いをされていた。いや、二番目どころでもなかった。私だって、兄や姉、妹達のように愛されたかった……だけど、いつも優先されるのは他のキョウダイばかり……我慢ばかりの毎日。 「マカロン家の長男であり次期当主のジェイコブをきちんと、敬い立てなさい」 「はい、お父様、お母様」 「長女のアデライトは体が弱いのですよ。ソフィア、貴女がきちんと長女の代わりに動くのですよ」 「……はい」 「妹のアメリーはまだ幼い。お前は我慢しなさい。下の子を面倒見るのは当然なのだから」 「はい、わかりました」 パーティー、私の誕生日、どれも私だけのなんてなかった。親はいつも私以外のキョウダイばかり、 兄も姉や妹ばかり構ってばかり。姉は病弱だからと言い私に八つ当たりするばかり。妹は我儘放題。 誰も私の言葉を聞いてくれない。 誰も私を見てくれない。 そして婚約者だったオスカー様もその一人だ。病弱な姉を守ってあげたいと婚約破棄してすぐに姉と婚約をした。家族は姉を祝福していた。私に一言も…慰めもせず。 ある日、熱にうなされ誰もお見舞いにきてくれなかった時、前世を思い出す。前世の私は家族と仲良くもしており、色々と明るい性格の持ち主さん。 「……なんか、馬鹿みたいだわ!」 もう、我慢もやめよう!家族の前で良い子になるのはもうやめる! ふるゆわ設定です。 ※家族という呪縛から解き放たれ自分自身を見つめ、好きな事を見つけだすソフィアを応援して下さい! ※ざまあ話とか読むのは好きだけど書くとなると難しいので…読者様が望むような結末に納得いかないかもしれません。🙇‍♀️でも頑張るます。それでもよければ、どうぞ! 追加文 番外編も現在進行中です。こちらはまた別な主人公です。

将来を誓い合った王子様は聖女と結ばれるそうです

きぬがやあきら
恋愛
「聖女になれなかったなりそこない。こんなところまで追って来るとはな。そんなに俺を忘れられないなら、一度くらい抱いてやろうか?」 5歳のオリヴィエは、神殿で出会ったアルディアの皇太子、ルーカスと恋に落ちた。アルディア王国では、皇太子が代々聖女を妻に迎える慣わしだ。しかし、13歳の選別式を迎えたオリヴィエは、聖女を落選してしまった。 その上盲目の知恵者オルガノに、若くして命を落とすと予言されたオリヴィエは、せめてルーカスの傍にいたいと、ルーカスが団長を務める聖騎士への道へと足を踏み入れる。しかし、やっとの思いで再開したルーカスは、昔の約束を忘れてしまったのではと錯覚するほど冷たい対応で――?

神のいとし子は追放された私でした〜異母妹を選んだ王太子様、今のお気持ちは如何ですか?〜

星里有乃
恋愛
「アメリアお姉様は、私達の幸せを考えて、自ら身を引いてくださいました」 「オレは……王太子としてではなく、一人の男としてアメリアの妹、聖女レティアへの真実の愛に目覚めたのだ!」 (レティアったら、何を血迷っているの……だって貴女本当は、霊感なんてこれっぽっちも無いじゃない!)  美貌の聖女レティアとは対照的に、とにかく目立たない姉のアメリア。しかし、地味に装っているアメリアこそが、この国の神のいとし子なのだが、悪魔と契約した妹レティアはついに姉を追放してしまう。  やがて、神のいとし子の祈りが届かなくなった国は災いが増え、聖女の力を隠さなくなったアメリアに救いの手を求めるが……。 * 2023年01月15日、連載完結しました。 * ヒロインアメリアの相手役が第1章は精霊ラルド、第2章からは隣国の王子アッシュに切り替わります。最終章に該当する黄昏の章で、それぞれの関係性を決着させています。お読みくださった読者様、ありがとうございました! * 初期投稿ではショートショート作品の予定で始まった本作ですが、途中から長編版に路線を変更して完結させました。 * この作品は小説家になろうさんとアルファポリスさんに投稿しております。 * ブクマ、感想、ありがとうございます。

契約破棄された聖女は帰りますけど

基本二度寝
恋愛
「聖女エルディーナ!あなたとの婚約を破棄する」 「…かしこまりました」 王太子から婚約破棄を宣言され、聖女は自身の従者と目を合わせ、頷く。 では、と身を翻す聖女を訝しげに王太子は見つめた。 「…何故理由を聞かない」 ※短編(勢い)

処理中です...