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第五十話 脱出大作戦
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「ぐぉぉぉぉ……すぴー……すぴー……」
「……見張りは一人だけだね。しかも、のんきに兜を外して、居眠りしてるし……うん、今ならうまくいくかも……」
夜の食事が運ばれてからしばらく経った頃、周りが寝静まったタイミングであたしはとある行動を始めた。
ここでアラン様の助けを待つのも手だけど、アラン様が本当にあたしを見捨てた可能性もゼロじゃないし、シロちゃんが助けを呼べない可能性もゼロじゃない。
だから、余計なことかもしれないし、作戦自体も急いで考えたものだから、行き当たりばったりになるのは予想できるけど……誰かに頼るだけじゃなくて、自分の力でここを抜け出すために、行動を起こそうと思ったの。
この首輪のせいで、脱出するのはそもそも無理かもしれないけど、逆に首輪があるからと油断してるかもしれない。あたしが我慢さえできれば、きっと可能性はあるよね!
「アラン様、悠、芽衣……あたしに勇気を分けて……!」
大切な人と、置いてきてしまった家族の顔を思いながら、炎の魔法を使う。すると、檻の中に小さめの爆発音が響き渡った。
「な、なんだ今の音は!?」
「いやぁぁぁぁ! 助けてぇぇぇぇ!!」
惨劇があった時とは別の、大きな檻に閉じ込められている人達の悲鳴が、こっちにまで聞こえてくる。
驚かせてごめんなさい。でも、これもここを脱出するためなの! 必ずあなた達も家に帰れるようにするから、今だけは我慢して!
「ふがっ!? ななな、なんだ今の音は!?」
見事な鼻提灯を作って寝ていても、さすがに起きるみたいだね。これで起きなかったらどうしようかと思ったけど、杞憂に過ぎなかったね。
「この檻から聞こえたような……おい、なにをしている!」
「う、うぅ……」
あたしは、ちょっとわざとらしいうめき声をあげながら、うつ伏せに倒れこむ。
今の爆発音で、あたしがなにか怪我をしたんじゃないかと、彼に思わせるための演技だ。
「い、痛い……」
「おい、しっかりしろ! ど、どうしよう……貴重なサンプルを怪我させたってバレたら、スィヤンフィ様に叱られる! この前もミスして減給されたのに……これじゃあ、彼女へのプロポーズのための指輪が、また遠のいちまう!」
……そ、そんな重要な話を聞かせないでよ……声も震えてるし……なんだか申し訳なってきちゃうよ……。
でもこれも、ここを脱出するためには仕方がないことだ。それに、ちゃんと見張りをしてれば済むことだし……うん、そう思うことにしよう。
「とにかく、報告しないと……でも、なんて言えばいいんだ……!」
薄目で見張りのことをチラチラ見て、あたしに背を向けたタイミングを見計らって、落ちていた石で彼の頭を叩いた。
「ふげぇ!?」
「ご、ごめんなさい! ごめんなさい!」
自分が非力なのはよくわかってる。だから、確実に気絶するように何度も叩いているうちに、彼はその場に倒れこんだ。
「ちょ、ちょっとやりすぎちゃったかな……でも、背に腹は代えられないよね」
倒れている彼の頭に積み上がったタンコブタワーを見ると、さすがに申し訳ないなぁ……って、哀れんでる場合じゃない。早く作戦を次の段階に移さないと。
「甲冑の着かたって、これで合ってるのかな……」
気絶した見張りの甲冑を身にまとい、彼がさっきまでいたテーブルの上に置かれていた鉄仮面を被る。
甲冑なんて着たことないから、かなり適当なんだけど……ここは薄暗いから、多少の時間は稼げる……と思う。
「思ったより、甲冑って重くて動きにくいのね……なんか湿ってるし……と、とにかく行かないと……」
早く出発しないといけないんだけど、その前にやることがある。それは、同じ様に閉じ込められている人達と話すことだ。
「みなさま、ご安心ください! 今のはワタクシが囮で使った魔法です! 害は無いのでご安心ください!」
「そ、そうなのか?」
「はい。ワタクシが補償いたします。そして、これからワタクシは何とか脱出し、外に助けを求めに行きます。きっと皆様を救助に参りますので、お静かに待ってていてください。それと、ワタクシのことは他言しないでくださいね」
なるべく静かにの部分を強調したおかげで、檻の中の人達は、黙ったまま首を縦に振った。
よし、このまま変装して逃げられればいいけど、もちろんそんなうまくいくわけもなく――階段を上がっている途中で、別の見張りに鉢合わせてしまった。
「おつかれさん。なんか音が聞こえた気がしたんだが、なにかあったか?」
「た、大したことは無かったよ。でも、一応報告に行こうと思ってさ」
「そうか、何事も無ければいいんだ……ん? なんかお前、声が変じゃないか?」
し、しまった! あたしのちょっと子供っぽい声だと、成人男性の声をやるのは無理があるよね! 完全に失念してた!
「ちょ、ちょっと風邪引いちまってよ。ごほんごほん!! はーくしょん!」
「んだよ風邪かよ。見張りしながら寝てるからそうなるんだよ。ひょっとしてあれか、同棲してる彼女とラブラブで寝れねえってか!」
「あ、あはは……」
「羨ましい限りだぜ! 俺にも彼女欲しいわぁ……まあいいや。俺は持ち場に戻るから、お前もさっさと報告しろよ」
「りょうか~い」
檻の人達の時みたいに、なるべく説得力があるように、社交界での喋り方をしたり、別の場所では普通に喋ってたら、ちょっぴり疲れちゃった。
でも休んではいられない。バレないうちに、ここから脱出しないと!
出口はどこなんだろう……とりあえず、地下なのは確かだから、上に向かっていけばよさそうだね。
「ふぅ……ぜぇ……はふぅ」
たたでさえ体力が無いのに、甲冑なんて着て、極めつけは鉄仮面のせいで視界も悪いし呼吸もしにくい。少し階段を上っただけで、もうバテバテだ。
「でも、もう少しで……あ、あれ?」
ようやく階段を上りきったが、何故か途中でシャッターのようなもので塞がれ、進むことは出来なくなっていた。
これじゃあ、ここから逃げるのは無理だね……それなら、あたしが最初に来た時につかった転送魔法を使えれば!
「確か、実験室の前の廊下だったよね」
疲労とムチの傷で痛む体でも、必死に一歩ずつ階段を降りていく。
はっきり言って、凄くきつい。体中が痛みで悲鳴を上げているのがわかるし、もし捕まったらって思うと、頭がおかしくなりそうだ。
でも……諦めるわけにはいかない! 逃げられる可能性が少しでも上がるなら、あたしは行動する!
「着いた……でも、なにもない……」
ようやく研究室の部屋の前に到着したけど、そこには何もなかった。これでは、転移魔法を使って帰ることはできない。
「他になにか……もしかしたら、この部屋に何か手掛かりがあるかも?」
あたしの目の前には、きっと手がかりがある。ここに手がかりがある保証は無いけど、ここでジッとしていても仕方がない。
「一応誰もいないか確認してっと……大丈夫そうかな」
念の為、静かに扉を開けて中を確認してみたけど、人影は特に無さそうだ。
……やっぱりここに入ると、動植物のつらい気持ちが伝わってくる……必ず助けてあげるから、もうちょっとだけ待ってね!
「カプセルの他に何かないかな……」
手当たり次第に部屋の中を探してみたけど、これといった手がかりは見つけられなかった。
完全に無駄足だったね……元々ボロボロの体のところに、みんなのつらい気持ちが体調不良という形に変化して襲ってくるせいで、歩くだけでもしんどくなってる状態で、余計な体力を使うのは痛すぎる。
「で、でも諦めないんだから……他の部屋に、何か手掛かりが……」
「はたして、そのようなものがあるでしょうか?」
突然背後から聞こえてきた聞き覚えのある声に、思わず汗が流れ落ちてくる。
なぜなら、そこにいたのは……スィヤンフィとエリーザだった。
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だから、余計なことかもしれないし、作戦自体も急いで考えたものだから、行き当たりばったりになるのは予想できるけど……誰かに頼るだけじゃなくて、自分の力でここを抜け出すために、行動を起こそうと思ったの。
この首輪のせいで、脱出するのはそもそも無理かもしれないけど、逆に首輪があるからと油断してるかもしれない。あたしが我慢さえできれば、きっと可能性はあるよね!
「アラン様、悠、芽衣……あたしに勇気を分けて……!」
大切な人と、置いてきてしまった家族の顔を思いながら、炎の魔法を使う。すると、檻の中に小さめの爆発音が響き渡った。
「な、なんだ今の音は!?」
「いやぁぁぁぁ! 助けてぇぇぇぇ!!」
惨劇があった時とは別の、大きな檻に閉じ込められている人達の悲鳴が、こっちにまで聞こえてくる。
驚かせてごめんなさい。でも、これもここを脱出するためなの! 必ずあなた達も家に帰れるようにするから、今だけは我慢して!
「ふがっ!? ななな、なんだ今の音は!?」
見事な鼻提灯を作って寝ていても、さすがに起きるみたいだね。これで起きなかったらどうしようかと思ったけど、杞憂に過ぎなかったね。
「この檻から聞こえたような……おい、なにをしている!」
「う、うぅ……」
あたしは、ちょっとわざとらしいうめき声をあげながら、うつ伏せに倒れこむ。
今の爆発音で、あたしがなにか怪我をしたんじゃないかと、彼に思わせるための演技だ。
「い、痛い……」
「おい、しっかりしろ! ど、どうしよう……貴重なサンプルを怪我させたってバレたら、スィヤンフィ様に叱られる! この前もミスして減給されたのに……これじゃあ、彼女へのプロポーズのための指輪が、また遠のいちまう!」
……そ、そんな重要な話を聞かせないでよ……声も震えてるし……なんだか申し訳なってきちゃうよ……。
でもこれも、ここを脱出するためには仕方がないことだ。それに、ちゃんと見張りをしてれば済むことだし……うん、そう思うことにしよう。
「とにかく、報告しないと……でも、なんて言えばいいんだ……!」
薄目で見張りのことをチラチラ見て、あたしに背を向けたタイミングを見計らって、落ちていた石で彼の頭を叩いた。
「ふげぇ!?」
「ご、ごめんなさい! ごめんなさい!」
自分が非力なのはよくわかってる。だから、確実に気絶するように何度も叩いているうちに、彼はその場に倒れこんだ。
「ちょ、ちょっとやりすぎちゃったかな……でも、背に腹は代えられないよね」
倒れている彼の頭に積み上がったタンコブタワーを見ると、さすがに申し訳ないなぁ……って、哀れんでる場合じゃない。早く作戦を次の段階に移さないと。
「甲冑の着かたって、これで合ってるのかな……」
気絶した見張りの甲冑を身にまとい、彼がさっきまでいたテーブルの上に置かれていた鉄仮面を被る。
甲冑なんて着たことないから、かなり適当なんだけど……ここは薄暗いから、多少の時間は稼げる……と思う。
「思ったより、甲冑って重くて動きにくいのね……なんか湿ってるし……と、とにかく行かないと……」
早く出発しないといけないんだけど、その前にやることがある。それは、同じ様に閉じ込められている人達と話すことだ。
「みなさま、ご安心ください! 今のはワタクシが囮で使った魔法です! 害は無いのでご安心ください!」
「そ、そうなのか?」
「はい。ワタクシが補償いたします。そして、これからワタクシは何とか脱出し、外に助けを求めに行きます。きっと皆様を救助に参りますので、お静かに待ってていてください。それと、ワタクシのことは他言しないでくださいね」
なるべく静かにの部分を強調したおかげで、檻の中の人達は、黙ったまま首を縦に振った。
よし、このまま変装して逃げられればいいけど、もちろんそんなうまくいくわけもなく――階段を上がっている途中で、別の見張りに鉢合わせてしまった。
「おつかれさん。なんか音が聞こえた気がしたんだが、なにかあったか?」
「た、大したことは無かったよ。でも、一応報告に行こうと思ってさ」
「そうか、何事も無ければいいんだ……ん? なんかお前、声が変じゃないか?」
し、しまった! あたしのちょっと子供っぽい声だと、成人男性の声をやるのは無理があるよね! 完全に失念してた!
「ちょ、ちょっと風邪引いちまってよ。ごほんごほん!! はーくしょん!」
「んだよ風邪かよ。見張りしながら寝てるからそうなるんだよ。ひょっとしてあれか、同棲してる彼女とラブラブで寝れねえってか!」
「あ、あはは……」
「羨ましい限りだぜ! 俺にも彼女欲しいわぁ……まあいいや。俺は持ち場に戻るから、お前もさっさと報告しろよ」
「りょうか~い」
檻の人達の時みたいに、なるべく説得力があるように、社交界での喋り方をしたり、別の場所では普通に喋ってたら、ちょっぴり疲れちゃった。
でも休んではいられない。バレないうちに、ここから脱出しないと!
出口はどこなんだろう……とりあえず、地下なのは確かだから、上に向かっていけばよさそうだね。
「ふぅ……ぜぇ……はふぅ」
たたでさえ体力が無いのに、甲冑なんて着て、極めつけは鉄仮面のせいで視界も悪いし呼吸もしにくい。少し階段を上っただけで、もうバテバテだ。
「でも、もう少しで……あ、あれ?」
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これじゃあ、ここから逃げるのは無理だね……それなら、あたしが最初に来た時につかった転送魔法を使えれば!
「確か、実験室の前の廊下だったよね」
疲労とムチの傷で痛む体でも、必死に一歩ずつ階段を降りていく。
はっきり言って、凄くきつい。体中が痛みで悲鳴を上げているのがわかるし、もし捕まったらって思うと、頭がおかしくなりそうだ。
でも……諦めるわけにはいかない! 逃げられる可能性が少しでも上がるなら、あたしは行動する!
「着いた……でも、なにもない……」
ようやく研究室の部屋の前に到着したけど、そこには何もなかった。これでは、転移魔法を使って帰ることはできない。
「他になにか……もしかしたら、この部屋に何か手掛かりがあるかも?」
あたしの目の前には、きっと手がかりがある。ここに手がかりがある保証は無いけど、ここでジッとしていても仕方がない。
「一応誰もいないか確認してっと……大丈夫そうかな」
念の為、静かに扉を開けて中を確認してみたけど、人影は特に無さそうだ。
……やっぱりここに入ると、動植物のつらい気持ちが伝わってくる……必ず助けてあげるから、もうちょっとだけ待ってね!
「カプセルの他に何かないかな……」
手当たり次第に部屋の中を探してみたけど、これといった手がかりは見つけられなかった。
完全に無駄足だったね……元々ボロボロの体のところに、みんなのつらい気持ちが体調不良という形に変化して襲ってくるせいで、歩くだけでもしんどくなってる状態で、余計な体力を使うのは痛すぎる。
「で、でも諦めないんだから……他の部屋に、何か手掛かりが……」
「はたして、そのようなものがあるでしょうか?」
突然背後から聞こえてきた聞き覚えのある声に、思わず汗が流れ落ちてくる。
なぜなら、そこにいたのは……スィヤンフィとエリーザだった。
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