上 下
9 / 60

第九話 聖女の裏の顔

しおりを挟む
■エリーザ視点■

「ふぅ……」

 フレリック様との結婚を発表した数日後の朝、フカフカなベッドの上で目を覚ました。
 その隣では、新しい婚約者であるフレリック様が、すやすやと寝息を立てている。

 先日婚約をしたばかりで、まだ気が早いと言われるかもしれないけど、こうしてすでにフレリック様と共に夜を過ごしている。
 とはいっても、まだ一線は超えていない。超えるつもりも無いのだけど。

「ん~……ああ、あはようエリーザ」
「お、おはようございます……」
「どうしたんだい、そんなにモジモジして」
「一緒に寝たんだって思ったら、恥ずかしくて……」
「既に何回か寝ているじゃないか。これからはずっとこうなるのだから、今のうちに慣れておくといいよ。それじゃあ、私は日課である魔法の練習に行ってくる」
「は、はい……いってらっしゃい、ませ」

 おどおどとしつつも、フレリック様が出て行ったのを完全に確認をしたわたくし……じゃねえ。うちは大の字でベッドに寝転んだ。

「ぷくくっ……フレリックとこうして寝ていると、あの傲慢ナルシストなバカ女に、仕返しが出来たって思えて、気分がアガるわ~!」

 いつも調子に乗っていて大嫌いだったミシェルから、婚約者を奪えたという快感に、体が震える。
 この感覚、マジパネェわ! 体中がゾクゾクする! 変な趣味に目覚めちまいそうだわ!

「つっても、まさかあんなに素直に謝るのは、さすがにないわー……やたらと素直になってたし、土下座でもさせりゃよかったかも? それをSNSにあげりゃ、バズりまくって、さらに仕返しになってたかもしんねーのに。もったいないことしたわ」

 炎上商法でもなんでもいいから、ミシェルの無様な姿がネットに晒されたら、あいつの人生終わらせられるのになー残念無念。

「てかさぁ……なんでこの世界にはスマホもパソコンもテレビも無いわけ? 代わりに魔法があるけど、調子に乗って使い過ぎっと、体がだるくてぴえんだし。魔法が使えるのを知った時はマジまんじだったけど、普通に考えて、家電とかの方が色々と便利じゃん」

 最初、うちは魔法が使えるどころか、聖女とかいう、よくわからん力も持っていたみたいで、テンションアゲアゲだったんだけど……これが使うと結構疲れる。
 しかも、聖女はみんなお淑やかだっていうから、それを演じないといけなくなって……まじだるいの極みなんだけど!

「でもまあ、今は我慢っしょ。このまま演じ続けて、研究に使えそうなものを集めまくれば……きっといつか達成できる。さて、ここでダラダラしてても仕方ないし、あの研究バカに状況を聞かないと」

 うちはベッドから起きると、パチンっと指を鳴らす。すると、足元から光に包まれていく。
 その光が消えると、うちの服がネグリジェから、華やかなドレスに変わった。

「こんなSNS映えしそうなドレスを、魔法で簡単に着れるのは、結構女の子の夢っぽく見えっけど、慣れると何も思わなくなるなー」

 ブツブツと独り言を漏らしながら、もう一度指を鳴らすと、床に魔法陣が出てきた。
 うちはその魔法陣にためらいなく乗ると、さっきまでの部屋の景色から一転して、別の部屋の景色に変わった。

 部屋の中の明かりは、十個以上あるテレビのようなモニターだけで、とても暗い。そんなモニターの前に置かれた椅子には、一人の男が腰を下ろし、ニヤニヤときしょい笑みを浮かべていた。

「おはようございます、エリーザ様。突然お越しになられると、驚いてしまいますね」
「心にもないこと言うなし、キモいんだよ」

 モニターの明かりでぼんやりと見える男は、ニコニコと笑顔を浮かべながら挨拶をする。

 一応こいつとは、利害が一致しているから協力関係にあるけど、なんかキモくて好きになれない。
 まあ、うちは男なんてみんな死ねばいいと思ってるくらい嫌いだけど。あ、男に限らず人間なんて全員消えればいい的な?

「ふふ、あなたのアイディアのおかげで、サンプル達の監視も楽になりましたよ」

 男が見るモニターには、SF映画で出てきそうな、培養液に浸かった色々な動物や植物、人間やエルフが管理されていた。
 こうしてみると、中々にヤベー光景で……ちょっとテンション上がるわ。

「むしろ今まで直接見て監視してたとか、原始的すぎてウケるんだけど? 天才が聞いて呆れるわ。本当に、うちが求めている魔法は完成するわけ? うちの駒がこいつらを集めてやってんのを忘れんなよ」
「ええ、もちろん。そもそも、あなたが甲斐甲斐しく男達を大根役者で誘惑して得た駒がいなくても、私には国のお偉い方という、心強い協力者がいますので」
「あぁ? 誰が大根芝居だ。てめーもやってみろよこれ。想像以上につらたんになるから」
「つらたん、というのはよくわかりませんが、私はそんなことをする暇も興味もございません」

 だろうな。むしろこいつが芝居なんかに興味持ったらビビるの確定だし、魔法の研究が遅れるから、やられたら困る。

「ていうか、偉そうに協力者とか言ってっけど、魔法でどうにかしてるだけじゃん……そうだ、ここの秘密を知ったバカ共やうちの駒は、ちゃんと処理してるよな?」
「滞りなく。私の魔法で記憶を消したり、使えそうな人間は利用してます。その他はサンプルにさせていただいております」

 研究に利用できてるんなら、特にうちからいうことはなにもねーわ。

「進捗ですが、以前よりも遠くに転移は出来てます。現に、あなたの家からここまで転移できていますしね」
「それな。気楽に来られるからマジ便利的な? 普通の転移魔法じゃ、こうはいかないっしょ」
「しかし、更なる長距離転移をすると、魔法の対象者の体が爆発四散してしまいます。何度かマウスや連れてきた人間で試しましたが、どれも同じ結果でした」
「……別にそいつらがどうなろうと興味ないけど、爆発するのを考えたら、さすがにテンサゲだわ……」

 まだうちが小さくてプリティな頃に、テレビで見た映画で、人間が爆発するシーンがあったな……さすがにビビり過ぎて、その日はトイレに行けなくなったっけ。

「魔法の発展に、犠牲はつきものです。ちなみに、現状の進捗をわかりやすくお伝えすると、大体三割程度といったところですね。まだいろいろと試してみたいことがありますが、いかんせんサンプルが足りません」
「まだ三割とか、なんの冗談? 転移出来てるし、八割くらいかと思ってたんだが? 研究しか生きがいの無い、クソつまらん人生を送ってるお前だから頼んだってのに……もっと早くに作れし」
「いくら私でも、今回のは難易度が高いものでしてね。まあ、難しければ難しいほど、研究のし甲斐がありますけどねぇ……くくくっ……!」

 うわぁ、キモイを通り越して、ドン引きレベルの表情するじゃん。夢に出てきたらテンサゲだから、そんな顔すんなよバーカ!

「そういえば、この前うちの駒が必死に捕まえてきたエルフはどうなったん? あれだけじゃ駄目系?」
「普通の人間よりも、頑丈で魔力も大きいエルフとはいえ、一人程度では全く足りませんよ。先日も一人壊れてしまいましたからね」

 ああ、そういえば魔力の摘出をやりすぎて、廃人みたいになったんだっけ。
 それで、獰猛なサンプルの一体のエサにしたとかなんとか……悪趣味すぎて、もはやホラー映画に出てくるマッドサイエンティストじゃん。

「まあ、エルフの細胞は全て回収したので、舐め回すように観察をしなければ……くくっ」
「キモいんだけど!? 同じ部屋の空気吸わないで欲しいんだけど!」
「そう仰られましてもねぇ。そうそう、エルフ以外にも希少な獣や植物も欲しておりましてね。これがまとめたリストなのですが」
「いや自分で集めろし!?」
「持ってきてくだされば、研究は進みますよ? 目的のために、元の世界に帰りたいのでしょう?」
「うぐっ……」

 言い当てられてめっちゃ悔しいけど、実際にその通りだ。うちは何があっても、元の世界に帰らなきゃいけない。

「……それな。うちを殺したあの男達と……うちを助けてくれなかった人間全てを、この聖女の魔法で全てぶっ殺すために、必ず帰らなきゃいけねーし!」
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

《勘違い》で婚約破棄された令嬢は失意のうちに自殺しました。

友坂 悠
ファンタジー
「婚約を考え直そう」 貴族院の卒業パーティーの会場で、婚約者フリードよりそう告げられたエルザ。 「それは、婚約を破棄されるとそういうことなのでしょうか?」 耳を疑いそう聞き返すも、 「君も、その方が良いのだろう?」 苦虫を噛み潰すように、そう吐き出すフリードに。 全てに絶望し、失意のうちに自死を選ぶエルザ。 絶景と評判の観光地でありながら、自殺の名所としても知られる断崖絶壁から飛び降りた彼女。 だったのですが。

【完結】復讐姫にはなりたくないので全て悪役に押し付けます

桃月とと
恋愛
 預言により未来の聖女としてチヤホヤされてきた伯爵令嬢アリソンは、新たな預言により男爵令嬢デボラにその地位を追われ、婚約者である王太子も奪われ、最後は家族もろとも国外追放となってしまう。ズタボロにされた彼女は全ての裏切り者に復讐を誓った……。  そんな『復讐姫アリソン』という小説の主人公に生まれ変わったことに、物語が始まる直前、運よく頭をぶつけた衝撃で気が付くことができた。 「あっぶねぇー!」  復讐なんてそんな面倒くさいことしたって仕方がない。彼女の望みは、これまで通り何一つ苦労なく暮らすこと。  その為に、とことん手を尽くすことに決めた。  別に聖女にも王妃になりたいわけではない。前世の記憶を取り戻した今、聖女の生活なんてなんの楽しみも見いだせなかった。 「なんで私1人が国の為にあくせく働かなきゃならないのよ! そういうのは心からやりたい人がやった方がいいに決まってる!」  前世の記憶が戻ると同時に彼女の性格も変わり始めていた。  だから彼女は一家を引き連れて、隣国へと移住することに。スムーズに国を出てスムーズに新たな国で安定した生活をするには、どの道ニセ聖女の汚名は邪魔だ。  そのためには悪役デボラ嬢をどうにかコントロールしなければ……。 「聖女も王妃も全部くれてやるわ! ……だからその他付随するものも全て持って行ってね!!!」 「アリソン様……少々やりすぎです……」  そうそう幼馴染の護衛、ギルバートの未来も守らなければ。  作戦は順調に行くというのに、どうも思ったようには進まない。  円満に国外出るため。復讐姫と呼ばれる世界を変えるため。  アリソンの奔走が始まります。

だから聖女はいなくなった

澤谷弥(さわたに わたる)
ファンタジー
「聖女ラティアーナよ。君との婚約を破棄することをここに宣言する」 レオンクル王国の王太子であるキンバリーが婚約破棄を告げた相手は聖女ラティアーナである。 彼女はその婚約破棄を黙って受け入れた。さらに彼女は、新たにキンバリーと婚約したアイニスに聖女の証である首飾りを手渡すと姿を消した。 だが、ラティアーナがいなくなってから彼女のありがたみに気づいたキンバリーだが、すでにその姿はどこにもない。 キンバリーの弟であるサディアスが、兄のためにもラティアーナを探し始める。だが、彼女を探していくうちに、なぜ彼女がキンバリーとの婚約破棄を受け入れ、聖女という地位を退いたのかの理由を知る――。 ※7万字程度の中編です。

【完結】薔薇の花をあなたに贈ります

彩華(あやはな)
恋愛
レティシアは階段から落ちた。 目を覚ますと、何かがおかしかった。それは婚約者である殿下を覚えていなかったのだ。 ロベルトは、レティシアとの婚約解消になり、聖女ミランダとの婚約することになる。 たが、それに違和感を抱くようになる。 ロベルト殿下視点がおもになります。 前作を多少引きずってはいますが、今回は暗くはないです!! 11話完結です。

伯爵令嬢は身の危険を感じるので家を出ます 〜伯爵家は乗っ取られそうですが、本当に私がいなくて大丈夫ですか?〜

超高校級の小説家
恋愛
マトリカリア伯爵家は代々アドニス王国軍の衛生兵団長を務める治癒魔法の名門です。 神々に祝福されているマトリカリア家では長女として胸元に十字の聖痕を持った娘が必ず生まれます。 その娘が使う強力な治癒魔法の力で衛生兵をまとめ上げ王国に重用されてきました。 そのため、家督はその長女が代々受け継ぎ、魔力容量の多い男性を婿として迎えています。 しかし、今代のマトリカリア伯爵令嬢フリージアは聖痕を持って生まれたにも関わらず治癒魔法を使えません。 それでも両親に愛されて幸せに暮らしていました。 衛生兵団長を務めていた母カトレアが急に亡くなるまでは。 フリージアの父マトリカリア伯爵は、治癒魔法に関してマトリカリア伯爵家に次ぐ名門のハイドランジア侯爵家の未亡人アザレアを後妻として迎えました。 アザレアには女の連れ子がいました。連れ子のガーベラは聖痕こそありませんが治癒魔法の素質があり、治癒魔法を使えないフリージアは次第に肩身の狭い思いをすることになりました。 アザレアもガーベラも治癒魔法を使えないフリージアを見下して、まるで使用人のように扱います。 そしてガーベラが王国軍の衛生兵団入団試験に合格し王宮に勤め始めたのをきっかけに、父のマトリカリア伯爵すらフリージアを疎ましく思い始め、アザレアに言われるがままガーベラに家督を継がせたいと考えるようになります。 治癒魔法こそ使えませんが、正式には未だにマトリカリア家の家督はフリージアにあるため、身の危険を感じたフリージアは家を出ることを決意しました。 しかし、本人すら知らないだけでフリージアにはマトリカリアの当主に相応しい力が眠っているのです。 ※最初は胸糞悪いと思いますが、ざまぁは早めに終わらせるのでお付き合いいただけると幸いです。

元聖女は新しい婚約者の元で「消えてなくなりたい」と言っていなくなった。

三月べに
恋愛
聖女リューリラ(19)は、ネイサン王太子(19)に婚約破棄を突き付けられた。 『慈悲の微笑の聖女様』と呼ばれるリューリラは、信者や患者にしか、微笑みを向けない。 婚約者の王太子には、スンとした無表情を見せるばかりか、嫌っているような態度まで見せる。 『慈悲の聖女』に嫌われていると、陰で笑われていると知った王太子は、我慢の限界だと婚約破棄を突き付けた。 (やったぁ!! 待ってました!!) 思惑通り、婚約破棄をしてもらえたことに、内心満面の笑みを浮かべていたリューリラだったのだが。 王太子は、聖女の座を奪った挙句、「オレが慈悲をくれてやる!!」と皮肉たっぷりに、次の縁談を突き付けたのだった。 (クソが!! また嫌われるために、画策しないといけないじゃないか!!) 内心で荒れ狂うリューリラの新しい婚約者は、王太子の従弟にして若くして公爵になったばかりのヘーヴァル(17)。 「爵位を受け継いだばかりで、私のような元聖女である元婚約者を押し付けらるなんて、よほど殿下に嫌われてしまっているのですか?」 「うわあ。治療するわけでもないのに、リューリラ様が、微笑んでくださった! 早速あなたの笑顔が見れて、嬉しいです!」 憐れんで微笑んだだけなのに、無邪気に大喜びされて、これは嫌われることが難しいな、と悟ったリューリラ。 年下ワンコのような公爵の溺愛を受けても、リューリラには婚約破棄をしてもらいたい秘密を抱えていた。 (『小説家になろう』サイトにも掲載)

記憶がないので離縁します。今更謝られても困りますからね。

せいめ
恋愛
 メイドにいじめられ、頭をぶつけた私は、前世の記憶を思い出す。前世では兄2人と取っ組み合いの喧嘩をするくらい気の強かった私が、メイドにいじめられているなんて…。どれ、やり返してやるか!まずは邸の使用人を教育しよう。その後は、顔も知らない旦那様と離婚して、平民として自由に生きていこう。  頭をぶつけて現世記憶を失ったけど、前世の記憶で逞しく生きて行く、侯爵夫人のお話。   ご都合主義です。誤字脱字お許しください。

婚約破棄された私は、処刑台へ送られるそうです

秋月乃衣
恋愛
ある日システィーナは婚約者であるイデオンの王子クロードから、王宮敷地内に存在する聖堂へと呼び出される。 そこで聖女への非道な行いを咎められ、婚約破棄を言い渡された挙句投獄されることとなる。 いわれの無い罪を否定する機会すら与えられず、寒く冷たい牢の中で断頭台に登るその時を待つシスティーナだったが── 他サイト様でも掲載しております。

処理中です...