そこは獣人たちの世界

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第一章

*じじいとの話し合い

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キオを訓練場に一人で待たせるのは少し不安だったが、もしニンゲンの姿に戻りそうな兆候があれば先に帰るか中を見えなくしてしのぐだろう。いや、むしろ帰る途中に元に戻ってしまう可能性を考えればあそこが一番安全ともいえる。
キオを置いてきたことばかりに気を取られてもいられない。マスタールームについたし、これからじじいとの話し合いだ。もちろんキオについてのことなんだけどな。

「さて、ガロ。儂としてもおぬしほどのものにこのような話し合いの場を設けたくはなかったんだがの。単刀直入に聞いたほうがいいかの?」

「あぁ、それで問題ないぜ。」

「良い目じゃな。なら悪しき気持ちはないということか。ではまず、なぜ連れてきたのじゃ?保護だけならばお主の家で過ごさせればよかったはずじゃ。」

確かにもっともな意見だ。俺の家に軟禁状態にはなるが、そうすればキオがじじいや他の奴の目に触れることはなかった。でもそれはキオの希望の一つを奪うことにもなる。

「いや、キオ自身が魔法を使いたいと願ったんだよ。家の中で使うわけにもいかないだろ?」

「それは言えておるの。ではキオ君は今まで加護に触れてこなかった理由は聞いておるかの?魔法を望むのなら10のときに一斉に加護を受けれたはずじゃ。」

「聞いてはいないが、理由はなんとなくわかってる。」

聞かれると思ってた質問からではなく、そこからの話か。まぁじじいに合わせて話すしかない。

「そういう言い回しをするということは、儂にも言いづらいことということじゃな。ではガロ、お主の用事は何じゃ?キオ君のことを話しに来たわけじゃないのか?」

「いや、聞かれたら話すつもりではいたが、本題はそこじゃない。俺は、Sランクを目指したいと思う。」

「何!?おぬしがSランクじゃと?」

まぁ驚かれてもしょうがないか。俺だって本当はAランクで満足しているんだ。でもキオを守るためにはSランクは必要になる。いや、できればそれ以上のランクすらも。

「あぁ、そうだ。それで家を出るならキオをずっと一人で家に置いておくわけにもいかねぇ。だからじじいに相談しに来たんだ。」

「なるほどの。おぬしはしっかり様々な街での依頼をこなした。後はギルド役員としての仕事を一定量こなせばSランクに昇格しても問題はない。問題はないが、それだと泊まり込みになるぞ?」

「あぁ、だからそこを相談しに来た。じじいが規定した1日の仕事量をこなしたら帰宅させてほしいんだ。」

やはりすさまじく渋い顔をされたか。かなり無茶な内容を頼んでいるのはわかる。普通役員の仕事はギルドに泊まり込みでこなすもので、覚えることもやることもすさまじい量があるからだ。

「まぁ、お主は仕事面での記憶力はいいからの。何とかなるじゃろうが、どうしてそこまでしてキオ君を守りたいと思うのじゃ?属性をあれだけ持っているというのは特殊じゃが、それを知ったのは今日じゃろ?」

「あぁ、あれには俺も驚いた。おそらくはキオの体質に関係してるんじゃないかと思ってるけどな。」

「む、何か特別な体質を持っているのかの?」

さて、どこまでいうべきか。じじいを信頼はしているが、ギルドマスターという職務上、さらに上であるギルドグランドマスターに報告しなきゃいけないだろうからな。しょうがない、少し濁すか。

「じじいは種族が変わる体質って知っているか?」

「ぬ!?おぬしがなぜその話を?まさか、キオ君がその体質ということか。」

さすがじじい察しがいいな。あながち間違ってはいないがそう勘違いさせるのが今はいいだろう。

「まぁそんなところだ。やっぱり知っているんだな。」

「その情報はSランクになれば否が応でも知ることになるがの。今話しても問題あるまい。おぬしは混種についてはしっておるかの?」

「あぁ、純粋な種族じゃなく、親がそれぞれ違い種からできた子だろ?そんな奴いっぱいいるじゃねぇか。」

「そうじゃ。いっぱいおる。そしてどちらかの親の種と同じ種となるから問題視はされにくかった。種族変異の事件が起きるまではの。」

「種族変異?そんなことがあったのか・・・」

聞いたことのない事件だが、何となく概要はわかる。おそらく混種のやつが別の種族になっちまったってとこだろう。少しキオの状況とは違う気もするが。

「そうじゃ。すぐにわかったと思うが親のもう一つの種族のほうに体が変化してしまったのじゃ。一時的じゃったがの。あまり起こっていない事件じゃし、すぐに魔法の誤作動ということで隠蔽され世間には広がっておらんがの。」

「Sランク連中で対応するってことか。それで、原因は何だったんだ?」

「それをお主に聞きたい。実はの、まだ解決されていないのじゃよ。どうしてそんなことが起きたのかすらもな。」

「まじか・・・」

これは面倒なことに首を突っ込んじまったな。そんなことになってたなんて知らなったんだからしかたねぇか。キオが狼種になった原因は話すしかない。

「お主は何か原因を掴んでいるんじゃないかの?」

「あー、そうだな。ちょっと言いづらいことなんだが、キオと行為をしたらキオは狼種の姿になった。」

「なに!?おぬしが抱いたというのか!?まさか発情期に任せ押し倒したのではないじゃろうな!?」

「ちげぇよ!確かに発情期と重なった時に保護はしちまったけどな。発情期が終わってから向うから求められたんだよ。」

あーもう、だから言いたくなかったんだよな。おれがそういったらこうふんするにきまってるから。とりあえず俺の否定で少し落ち着いたようだけど。

「そうか、それで、行為をしたのは一回だけなのかの?」

「いや、もう3回やったな。」

「3回もか!?おぬしがか!?まだ発情期が抜けてないんじゃないのか!?」

「そんなわけねぇだろ!俺は自分の体質は管理できる!」

「お主はそうかもしれんがの、キオ君はどうなのじゃ?あのくらいの見た目じゃから年齢は10以上ではあるじゃろうが、発情期の管理ができる子なのかの?最も発情の匂いはさせておらんかったがの。」

「え、あ、いや、確かにあいつはそういうのは無理だろうな。」

「ふむ、それではお主はキオ君に発情の匂いをかがせてしまった可能性はあるかの?」

「・・・ある。」

むしろ確実に嗅いじまっただろうと言える。そのせいで発情期みたいになって、俺と絡みたいといったんだと思っている。

「やはりの。」

「でもその時発情臭はあいつからしなかったぜ?」

「そうかもしれぬの。じゃが発情状態になったのであればお主を誘うような匂いは少なからずは出ていたはずじゃ。発情の匂いが無臭に感じることは発情中や発情明けすぐだとよくある。そのせいで発情臭に気が付かず、お互いの匂いを嗅いでしまったのであれば、それが原因でお互いを意識しているのかもしれぬな。」

「んな、確かにそれはあり得る話だが、俺は鼻はいいほうだぞ?いや、むしろ、いいから、なのか?」

まるで俺たちの関係は発情臭をお互いに嗅がせ合って生まれたものだと言われた気がした。それはたまにある無理やり発情臭をかがせて発情させ、愛させる事件と同じと言われているかのようで、少しじじいを殴りたくなってしまった。

「手に力が入っておるぞ。大丈夫じゃ、お主はキオ君を大切にしているじゃろ?キオ君もお主といたまんざらでもなさそうじゃ。ガロ、経緯はともあれ自信を持ってよい。」

「・・・はい。」

諭されて手を握る力を抜く。確かにそうだ。たとえ経緯が何だったとしても別にいいじゃねぇか。俺がキオを好きなのはうそじゃない。発情だけのせいにはしたくない。
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