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第一章
*コンソメスープ
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家の戸を開けるとふわりといつものパンとチーズとかいうやつの焼けるにおいが漂ってくる。嗅ぎなれてきていてもやはりいい匂いだ。その匂いの元であるキッチンの奥で飯の準備をしてくれてるまだ狼姿のキオに声をかける。
「戻ったぞ。」
「あ、おかえりー。結構早かったね?」
帰宅したときにお帰りといってくれる誰かが待っているというのも、案外いいものだな。帰ってきたという気持ちが余計に強くなる。ただいまは結構腹が減っちまった。
「もうできてるのか?」
「もうすぐできるけど、もうちょっと待ってて。」
「わかった、座って待ってるぞ。」
急がせるのも悪い。ゆっくりと座って待てばいい。こう思うようになったのは、初めて作ってもらった時からだ。今まで飯なんて自分が作るならある程度うまくければさっと作って食えればいいと思っていたのに。
ちょっと暇なのでキッチンで動くキオを見てると、狼種の状態でも特に問題なく料理の用意ができてるようだ。まぁ本人もあんま変わらないって言ってたんだけれど、俺としては変わってるわけだから気になる。
そう、狼の姿のキオは全然違うんだ。動くたびに尻尾は揺れてるし、狼らしく立ち上がった耳も小さな音で動いてるしで、どうも目で追ってしまう。おっと、もう飯ができたようでこっちにくるな。
「ごめんおまたせ。」
「おう、ってパンとスープだけか。スープに時間かかったのか?」
「ちょとだけね。それでも普通に作るよりもやっぱり早かったんだよ?」
確かにスープは具沢山でパンも俺の分は多く用意してくれてるので俺としては満足いく量で肉も入っているようだが、唐揚げでないってのはわかる。ちょっと楽しみにしてたんだけどな。
「昨日言ってたからから揚げとかいうのが出てくるかと思ってたんだけどな。」
「それは夕飯のお楽しみ。それに油絞るの手伝ってくれないと、足りないよ?」
手伝うと言われて、狼種の今のキオなら力も足りるはずなんだがと言おうとしたが、俺を手伝わせたかったのかと察して思わずにやつく。
「なるほどなぁ、一緒に作りたいってわけか。」
「ま、そういうこと、いいでしょ?」
「そうだな。悪くない。」
「よかった。じゃあとりあえず冷めないうちに食べちゃおう?」
「おっと、そうだったな。」
確かにキオのパンは焼きたての温かいときのほうがおいしいからな。10切れのパンの半分にはチーズをのせて焼いたようで、まずそちらを手に取る。一口で頬張ると、さくりと口の中にチーズの味が広がってやっぱりおいしい。
さくりとはするけど固すぎずふわりとしたところもあって、この口触りが俺はかなり好きだ。あっという間に5切れ分無くなっちまう。
物足りない気もするが、その分はスープがある。一番気になるのは多分鳥肉だとおもうが、それを小さく切ったものがスープに入ってる。スプーンですくって肉とスープを口に入れると、かなりあっさりとした鳥肉の味とスープの深いような野菜の味が口の中に広がる。
「いつも以上にスープがうめぇ。」
「お?ほんと?よかった。今日は野菜と鶏肉を煮込んでコンソメ作ってスープにしたんだ。ちょっともったいない気がしてコンソメに使った材料を使って具材にしちゃったけど、結構おいしくて安心したよ。」
「コンソメ?またキオの世界の知識か。確かにスープの味が深いな。でも具材はちょっと味が薄くなっちまってる。悪くはないけどな。」
「ガロには物足りなかったかな?ごめんね?」
「いや、そんなことはないぞ?ほら、あっという間に半分減っちまった。」
話ながらどんどんスープを飲んじまってあっという間に半分だ。大きめの器で具材もたっぷり入ってたはずなんだけどな。
「おうふ、もしかしてちょっと少なかった?パンもあっという間になくなっちゃったし。」
「いや、朝はこんなもんだろ。まだ残ってるしな。」
残りのパンにも手を伸ばす。こっちは塩を振って焼いてるだけのようなので、スープにつけて食べる。より柔らかくなってスープの味もしみ込んでこれもまたおいしい。
そうして食べてるうちにあっという間にスープもパンも間食。俺より少なかったはずのキオは残り二切れのパンをスープに浸して食べてるところで、スープもまだ少し残っているくらいだ。
「うまかった、先にごちそうさまだ。」
「やっぱガロは速いね。先片付けておく?」
「いや、キオが食い終わるまで待たせてもらう。」
狼種の状態でもそれほど食べる速さは変わってないようだ。食いづらいってことはないようだが、口を小さく開けて少しずつ食べている。パン一切れですら一気に一口で食ってないのも俺とは違うとこだな。
食べ終わるまでじっと見てたせいか、ちょっとだけギロリと見返される。そしてちょっと深めにため息をついた。
「ごちそうさま。じっと見られてたらちょっと食べにくいよ。」
「あぁ、悪い悪い。狼種の姿でも食べづらくねぇかと思ってな。」
「今のところ不便なところは何もないかな。前言ったように体は軽いくらいでむしろ動きやすいよ。」
手を握ったり閉じたりとするだけでも少し動きが軽いようだ。ニンゲンの姿の時よりも不便だと思うところが出てたらいろいろ教えてやりたいんだが、今のところは尻尾とか耳とかが勝手に動いちまうくらいだろうから、その制御は教えてやらない。感情のままに動くあいつの尻尾や耳を動いているのがかわいいんだから。
「戻ったぞ。」
「あ、おかえりー。結構早かったね?」
帰宅したときにお帰りといってくれる誰かが待っているというのも、案外いいものだな。帰ってきたという気持ちが余計に強くなる。ただいまは結構腹が減っちまった。
「もうできてるのか?」
「もうすぐできるけど、もうちょっと待ってて。」
「わかった、座って待ってるぞ。」
急がせるのも悪い。ゆっくりと座って待てばいい。こう思うようになったのは、初めて作ってもらった時からだ。今まで飯なんて自分が作るならある程度うまくければさっと作って食えればいいと思っていたのに。
ちょっと暇なのでキッチンで動くキオを見てると、狼種の状態でも特に問題なく料理の用意ができてるようだ。まぁ本人もあんま変わらないって言ってたんだけれど、俺としては変わってるわけだから気になる。
そう、狼の姿のキオは全然違うんだ。動くたびに尻尾は揺れてるし、狼らしく立ち上がった耳も小さな音で動いてるしで、どうも目で追ってしまう。おっと、もう飯ができたようでこっちにくるな。
「ごめんおまたせ。」
「おう、ってパンとスープだけか。スープに時間かかったのか?」
「ちょとだけね。それでも普通に作るよりもやっぱり早かったんだよ?」
確かにスープは具沢山でパンも俺の分は多く用意してくれてるので俺としては満足いく量で肉も入っているようだが、唐揚げでないってのはわかる。ちょっと楽しみにしてたんだけどな。
「昨日言ってたからから揚げとかいうのが出てくるかと思ってたんだけどな。」
「それは夕飯のお楽しみ。それに油絞るの手伝ってくれないと、足りないよ?」
手伝うと言われて、狼種の今のキオなら力も足りるはずなんだがと言おうとしたが、俺を手伝わせたかったのかと察して思わずにやつく。
「なるほどなぁ、一緒に作りたいってわけか。」
「ま、そういうこと、いいでしょ?」
「そうだな。悪くない。」
「よかった。じゃあとりあえず冷めないうちに食べちゃおう?」
「おっと、そうだったな。」
確かにキオのパンは焼きたての温かいときのほうがおいしいからな。10切れのパンの半分にはチーズをのせて焼いたようで、まずそちらを手に取る。一口で頬張ると、さくりと口の中にチーズの味が広がってやっぱりおいしい。
さくりとはするけど固すぎずふわりとしたところもあって、この口触りが俺はかなり好きだ。あっという間に5切れ分無くなっちまう。
物足りない気もするが、その分はスープがある。一番気になるのは多分鳥肉だとおもうが、それを小さく切ったものがスープに入ってる。スプーンですくって肉とスープを口に入れると、かなりあっさりとした鳥肉の味とスープの深いような野菜の味が口の中に広がる。
「いつも以上にスープがうめぇ。」
「お?ほんと?よかった。今日は野菜と鶏肉を煮込んでコンソメ作ってスープにしたんだ。ちょっともったいない気がしてコンソメに使った材料を使って具材にしちゃったけど、結構おいしくて安心したよ。」
「コンソメ?またキオの世界の知識か。確かにスープの味が深いな。でも具材はちょっと味が薄くなっちまってる。悪くはないけどな。」
「ガロには物足りなかったかな?ごめんね?」
「いや、そんなことはないぞ?ほら、あっという間に半分減っちまった。」
話ながらどんどんスープを飲んじまってあっという間に半分だ。大きめの器で具材もたっぷり入ってたはずなんだけどな。
「おうふ、もしかしてちょっと少なかった?パンもあっという間になくなっちゃったし。」
「いや、朝はこんなもんだろ。まだ残ってるしな。」
残りのパンにも手を伸ばす。こっちは塩を振って焼いてるだけのようなので、スープにつけて食べる。より柔らかくなってスープの味もしみ込んでこれもまたおいしい。
そうして食べてるうちにあっという間にスープもパンも間食。俺より少なかったはずのキオは残り二切れのパンをスープに浸して食べてるところで、スープもまだ少し残っているくらいだ。
「うまかった、先にごちそうさまだ。」
「やっぱガロは速いね。先片付けておく?」
「いや、キオが食い終わるまで待たせてもらう。」
狼種の状態でもそれほど食べる速さは変わってないようだ。食いづらいってことはないようだが、口を小さく開けて少しずつ食べている。パン一切れですら一気に一口で食ってないのも俺とは違うとこだな。
食べ終わるまでじっと見てたせいか、ちょっとだけギロリと見返される。そしてちょっと深めにため息をついた。
「ごちそうさま。じっと見られてたらちょっと食べにくいよ。」
「あぁ、悪い悪い。狼種の姿でも食べづらくねぇかと思ってな。」
「今のところ不便なところは何もないかな。前言ったように体は軽いくらいでむしろ動きやすいよ。」
手を握ったり閉じたりとするだけでも少し動きが軽いようだ。ニンゲンの姿の時よりも不便だと思うところが出てたらいろいろ教えてやりたいんだが、今のところは尻尾とか耳とかが勝手に動いちまうくらいだろうから、その制御は教えてやらない。感情のままに動くあいつの尻尾や耳を動いているのがかわいいんだから。
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