そこは獣人たちの世界

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第一章

町に向かう準備

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「んで、キオはこの辺の森を見て回るのと町まで行くのとどっちがいい?ただ町まで行くとなるとここに戻って来るのに時間がかかっちまうかもしれないぞ。」

「うーん、というか戻ってこれなくても別にいいや。僕は町に行って他の獣人を見てみたいなぁ。」

「そうか、だがあんまりその獣人という単語を使うなよ?俺ですらあんまりいい意味に聞こえないからな。」

「あ、そうなの?ごめん・・・」

気にも留めてなかったけど獣人呼びはちょっと不愉快に感じてたようだ。やっぱりそういう世界の違いっていうのは気にしないといけないか。そもそも自分はこんな姿で目立つだろうし。
そう思ってたらガロが腰につけた革製の袋を何やらゴソゴソとやり始めた。擂ると袋の置き差からして明らかに入ってなかっただろというローブが出てきた。

「町に行くならやっぱ面倒だが姿は隠さないとな。一応で買ったものだが、まさか使う機会があるとは思ってなかったぜ。」

「ね、ねぇ、その袋、もしかしてマジックバックとかマジックポーチとかそんなやつなの!?」

「な、なんだよ、急に目を輝かせて。これは確かにマジックポーチだが、なんだ魔道具を知ってるのか?」

「いや、知らないよ、初めて見た!でもそういうのをアニメとか小説の世界、つまり物語の中でなら知っていたんだよ、でもほんとに異世界にはそういうのあるんだなぁ。」

今の減少で完全にここが異世界だという実感がわいた。でもなおさらにうれしい!だって自分が魔法を使える可能性だってあるんだから!もしかしたらチート的な力を持っていたりして?

「その、なにしてんだ?」

「え、いや、手から火が出ないかなーって。」

「あん?魔法使えるのか?いや使えるか試してたってことか。そういうの調べたいなら確かに町に行くのがよさそうだな。訓練もなしに下手に使おうとすると暴走するからやめとけ。」

僕が手のひらを上にして力を籠めようとしてるのを見て突っ込まれてしまった。とりあえず今はやらないほうがいいってことですね。投げられた茶色のローブは明らかにガロ用ででかいけど、おかげで全身が隠れる。

「あとは靴があればうれしいんだけど・・・」

「靴かあの足に履くやつだろ?気取ったやつや一部の種族は履いてたりするが、俺はあれは苦手だからな。とりあえずそのままでも平気だろ?」

「いや、その、僕の種族は結構足が弱くて外を歩くなら靴は必須かな。ちょっと擦れたりするとすぐに血が出るかも・・・」

素足で外を歩いた経験がないから何とも言えないけど、このフローリングの床は平気だが外の自然あふれるところや床が石畳みとかでも怪しいかもしれない。

「あー、そうなのか、種族的な問題か。じゃあしょうがない、この休憩所の玄関にある履物を貰ってけ。」

「え、勝手にもらってっていいの?それともここはガロの持ち家?にしてはベットが多いけど。」

「俺の家はこれから向かうつもりの場所にある。ここはギルドの作った一時避難所兼休憩所だな。パーティー個別に寝れる部屋が8部屋あってそれぞれにベットが5台ある。それとキッチンには長期保存の魔道具を使って保存されてる食ベものや、玄関にはキオのように足を守ったほうがいい種族用に大きさもいろいろな履物なんかもあるってわけだ。」

さらっとギルドの名前が出たな。さすが異世界。人間の僕でもギルド登録はできるだろうか?ちょっと楽しみ。

「な、なるほど、でもそういうのって緊急用のものじゃないの?」

「いや、ギルドに登録してれば勝手に持って行って平気だ。俺が登録してるから俺が持って行ったことにする。それでいいだろ。」

「そ、それでいいんだ。」

「あぁ、とりあえず玄関まで出て自分に合う履物をはいてくれ。あ、でも立てないのか?」

そう、それが問題なんだよな。ローブはしゃがんだまま取り敢えず被ったけど、腰が抜けて立てそうにないのは変わらないんだよ。初めて腰が抜けたけど、こうも立とうとして立てないもんなんだな・・・

「その、ごめんなさい、立てないです・・・」

「謝ることはない、驚かしたのは俺だしな。もう少し気を使って声をかけるべきだった。」

「そんなガロのせいではないんだけど。」

勝手に恐れて勝手に腰を抜かした自分自身のせいだ。だからってこのまま腰抜けで動けないとそれはそれで困るわけで。

「はぁ、しょうがねぇな。」

「え、はぇ!?」

ガロがいきなりひょいっと僕のことを両腕で抱え上げてしまう、そ、そんな軽々?というかこの態勢ってまるでお姫様抱っこ!?

「とりあえず玄関まで運ぶぞ?そのあとも駄目そうならずっとこれで運ぶしかないな。というかキオは見た目よりは軽いな?」

「うっ、ちょっと恥ずかしいかも・・・というか軽いって、他にもこういう風に人を持ったことがあるの?」

「旅をしてたころはいろいろあったな、怪我した奴を運ぶのに抱えたり、足の遅いのを魔物から逃げるのに抱えたり。」

僕が思ってる以上には経験があるってことか。もちろん自分は人を抱えた経験なんてない。体重は前測った時でたしか60弱はあったはずだけど、それで軽いほうと言いうことはこの世界は結構重い人が多いのか?
そんな風なことを考えつつ抱えられてる恥ずかしさを紛らわして玄関まで運ばれてきたわけで、ガロが僕を下ろして靴箱から真っ白な上履きのようなのをいくつか取り出してくれた。

「サイズが合いそうなのはこの辺だな、自分で履けそうか?」

「普段なら当然自分でできるけど、どうだろ・・・」

取り敢えず一組一番合いそうなのを掴んで、立てはしないけど何とか体を屈めて上履きをはくことはできた。うん、これなら丁度いい。足の触り心地も完全に上履きで靴下履かなくても靴ずれは起きそうにないかな。

「お、大丈夫だったようだな。でもやっぱ立てはしないか。しょうがない、もったいないが歩くよりこれを使ったほうがよさそうだな。」

ガロがマジックポーチから取り出したのは真っ白な石だ。もしかして魔石か何かなんだろうか?

「それはなんなの?」

「これは転移石といって、魔力だまりや教会でこれに魔力をためておくと、砕いたときにそこに転移できるんだ。先に転移先のとこで魔力を込めておく必要があって面倒なのと、やたらめったら高いってのがあれなものだがな。」

「え、貴重なものを使わせちゃう感じなの?そしたら腰が直るまで待ってもらってからでも、それか普通に運んでいってもらってもいいし。」

「いや、キオを守りながらでも進む自信はあるが、ここから徒歩3日はかかるからな。腰が直ってからのほうが動きやすいだろうが、逆に俺がこうしてもって運ぶなら好都合だ。ローブで包んでさも怪我人を運ぶように俺の家に運び込んでおくさ。それでいいか?」

そ、それってお持ち帰りってことですか?いやでもこの世界で下手に動いて目立ったらどうなるかわからないし、とりあえずガロについていくしかできないか。確認してくれてるから強制ではないんだろうし。

「うん、ちょっと恥ずかしいけど、それでいいよ。」

「よし決まりだな。んじゃまた抱えるぞ。」

グイッとまたお姫様抱っこの状態で抱えられるが、今度はしっかり全身をローブで覆われた。そして少しするとバリンという音が後頭部で響いて、ほぼ一瞬僕たちの周りの空間が真っ白になったと思ったら、木々のぬくもりのあるログハウスから真っ白な壁、真っ白な長椅子、真っ白な女神らしき像、とにかく全部真っ白な教会にと景色が様変わりしていた。
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