『ラノベ作家のおっさん…異世界に転生する』

来夢

文字の大きさ
上 下
54 / 67
第1章 異世界転生

第54話

しおりを挟む
 新築した屋敷に転居して半年。俺達は1年前倒しして神託の儀を迎えた。ちなみにひと月前にはオレに妹が出来ている。シェリーと名付けたそうだがまだ会えなさそうだ。

俺達は、陛下の手回しで通常より2時間早く8時に王都の教会へと入った。

具体的な手続きは、3人~5人ごとに神父さんからステータスカードを受け取り、順に神様の像のある場所へと移動する。

そして神像の前に跪き、受け取ったカードを挟みこんで手を合わせて祈ると成功すれば、ステータスがカードに書き込まれるそうだ。

この時に生活魔法である四つの属性が付与(解放?)される。その後に神父さんからジョブの選択と魔力操作の事について説明をされることになっている。

前に本で読んだとおり、職業スキルやユニークスキルは血筋が関係してくるのだが、職業スキルを得た者は家族と話し合って決めることもできるように24時間以内なら変更も可能になっている。進路相談みたいな感じだな。

「いよいよね。長かった…」

ジュリエッタが、小声でそう言ったのが聞こえた。

「んっ?今何か言った?」

「えっ、ああ、最近の中で一番緊張するわね…って言ったのよ」

「ええ。どんなジョブが与えられるのかは不安ですが、楽しみでもありますね」

『ジュリエッタが動揺しているっぽいけど、どうしたんだ?』

「まあほら。どんなジョブでも、がんばりや努力でスキルが新たに芽生える事もあるみたいだし、16歳になったらもう一度選び直せるんだ。それに少なくとも俺達は、この1年間がんばってきたんだから、あとは神様に任せよう」

そう言うと二人は笑顔で頷いた。

中ではマーレさんが待っていて、笑顔で俺達を出迎えてくれた。

「3人とも、おはよう。とうとうこの時がやって来たな。年甲斐も無く昨日は期待と興奮で眠れなんだ。さっ陛下が部屋でお待ちだ。中に入るがいい」

教会の中はステンドグラスを通した日光がキラキラしている。空気が変わったのを感じた。神聖な場所に相応しい。

祭壇に目を向けると、陛下が跪き神像に祈りを捧げていたようで立ち上がって手招きをする。

「3人とも早くこちらへ来るのだ。何せお忍びだからな。急かして悪いが早速儀式を始めよう」

朝の挨拶まで端折る。よほど急ぎのようなので、俺達は陛下の待つ祭壇まで歩いて行くと、神父さんが扉を開けてやってきた。

神父さんは祭壇へと上がる。

「皆様、お揃いになられたようなので、こちらをどうぞ」

神父さんが俺達3人に王侯貴族用のプラチナ色のステータスカードをくれた。

「それでは新しく神託を受けられる皆様。本来ならば12歳で神託の儀となりますが、陛下たっての要望で今ここで執り行うことにします」

「さぁ、こちらの神の像の前に来て跪き、ステータスカードを手に挟み祈るのです」

本に書いてあった手順どおりなので、俺達3人は神様の像の前に跪き、カードを手のひらに挟みこんで祈りを捧げた。

するとどうだろう。一瞬時が止まりまわりの世界がモノトーンになるとパッと光り周りの世界が真っ白になる。これが神託の儀?

瞼越しの光が無くなると、そっと目を開けた。

「よく来たな。ヴェルグラッド」

ここどこだ?俺は神殿ぽい所に立っていた。

「ここはどこだ!!教会じゃないのか?」

「そう慌てるではない。ここは神界じゃ。ワシがこの世界の創造神オルディスである」

声がする方を見てみると、長い髭を生やした老人が一人立っていた。死んだ時にはこんなイベント無かったのに今になって神様に呼ばれたようだ。容姿も喋り方もテンプレどおりだが、神々しさが半端ない。

すると後方から「ヴェル!!」と言って、長く赤い髪の物凄い美人が走って来ていきなり涙を流しながら俺に抱きついた。

「ヴェル。会いたかった!!」

「どどど…どなたですか?!」

いきなりこんな美女に飛びつかれて狼狽しない方がどうかしている。それほどの美女であった。

「私よ。ジュリエッタよ」

どことなく雰囲気は残っていたが、まさかの大人になったジュリエッタ。いやこんなに美人になるのか。

「僕の知っているジュリエッタはまだ11歳の子供なんですが?」

「ジュリエッタ。そのくらいにしておきなさい。彼、戸惑っているわよ」

恐らく女神様だと思う。神様の隣で立つこれまた凄い美人が、大人モードのジュリエッタにそう声を掛けた。

ふと気がつくと、自分の体も大人になっていて正直びびった。贔屓目に見なくても首から下はイケメンだ。うむ。

「ありえないだろこれ。どう言うことだ?」

「驚かせてごめんね。どうしても大人の姿のあの時のあなたに会いたかったのよ」

「ん?ちょっと今何が起こってるのか理解できないってば。それにこちらの方は?」

「私はこの世界の時を司る神、レアリーフ。ヴェル、忘れてしまっているようですがあなたは一度この世界で亡くなっているのです。赤子の時に言葉が理解出来ることを、不思議に思いませんでしたか?」

「それでだったのかっ!と言う事は、今この世界で人生をやり直ししていると?」

「ええ。そのとおり。合っています」

「それで、なぜ僕は死んだんですか?」

「魔王の四天王である、シルフィスを倒した直後に、あなたに駆け寄って行ったら、シルフィスが残りの力を振り絞って、私に向かって槍を投げ放ったの。それをあなたが庇って、私の代わりに…」

俺が日本で死ぬ前に見た夢を思い出した。まさかあれが現実だったなんて…意味が分からん。

「私はこちらに転生をする前に、夢で何度か転生前の夢を見た事があります。あの夢は本当にあった事と言うわけですね」

「完全には魂から記憶は消えなかったようですね。恐らくはシルフィスの魂に掛けた呪いが原因だと」

「なるほど。それで…」

全ての謎は解けた。あの夢は全て現実に起こった事で、それを俺は小説に書いたのである。

「それでは、今の体に戻しましょう。それと賢者であるマイアにも色々と説明しておいた方が良いでしょう」

「へっ?マイアが賢者?!!」

女神様はそう言うと、俺とジュリエッタの体は元に戻り、隣にはきょとんとしたマイアがいた。

「ヴェル、ジュリエッタ。ここはどこなの?」

「神界と言えばわかるかしら」

ジュリエッタが説明をするとマイアが固まる。そりゃそうだろ。いきなり神界だぜ。神様だぜ。俺もびびったよ!

「本当なんですか?」

「ああ。本当の事らしい。正直言えば俺もまだ思考が追いついてない」

「そっ、そうですね。明らかにここは教会ではありまえんものね」

マイアは自分のほっぺたを引っ張ると痛くないのか、変顔になっている。オレも試しに引っ張ると確かに痛くない。

別に笑いを取る為にやっているのではないのだが、ジュリエッタは大笑い。神様達は苦笑いをしている。

「それでは今から、ジュリエッタの記憶を再現したものを見てもらいます。予め言っておきますが、これは現実に起こった事です。目を逸らさないで見て記憶に留めるのです」

女神様はそう説明をすると、まるで映画を見るように、目の前に映像が流れ始めた。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

調子に乗りすぎて処刑されてしまった悪役貴族のやり直し自制生活 〜ただし自制できるとは言っていない〜

EAT
ファンタジー
「どうしてこうなった?」 優れた血統、高貴な家柄、天賦の才能────生まれときから勝ち組の人生により調子に乗りまくっていた侯爵家嫡男クレイム・ブラッドレイは殺された。 傍から見ればそれは当然の報いであり、殺されて当然な悪逆非道の限りを彼は尽くしてきた。しかし、彼はなぜ自分が殺されなければならないのか理解できなかった。そして、死ぬ間際にてその答えにたどり着く。簡単な話だ………信頼し、友と思っていた人間に騙されていたのである。 そうして誰もにも助けてもらえずに彼は一生を終えた。意識が薄れゆく最中でクレイムは思う。「願うことならば今度の人生は平穏に過ごしたい」と「決して調子に乗らず、謙虚に慎ましく穏やかな自制生活を送ろう」と。 次に目が覚めればまた新しい人生が始まると思っていたクレイムであったが、目覚めてみればそれは10年前の少年時代であった。 最初はどういうことか理解が追いつかなかったが、また同じ未来を繰り返すのかと絶望さえしたが、同時にそれはクレイムにとって悪い話ではなかった。「同じ轍は踏まない。今度は全てを投げ出して平穏なスローライフを送るんだ!」と目標を定め、もう一度人生をやり直すことを決意する。 しかし、運命がそれを許さない。 一度目の人生では考えられないほどの苦難と試練が真人間へと更生したクレイムに次々と降りかかる。果たしてクレイムは本当にのんびり平穏なスローライフを遅れるのだろうか? ※他サイトにも掲載中

テンプレな異世界を楽しんでね♪~元おっさんの異世界生活~【加筆修正版】

永倉伊織
ファンタジー
神の力によって異世界に転生した長倉真八(39歳)、転生した世界は彼のよく知る「異世界小説」のような世界だった。 転生した彼の身体は20歳の若者になったが、精神は何故か39歳のおっさんのままだった。 こうして元おっさんとして第2の人生を歩む事になった彼は異世界小説でよくある展開、いわゆるテンプレな出来事に巻き込まれながらも、出逢いや別れ、時には仲間とゆる~い冒険の旅に出たり 授かった能力を使いつつも普通に生きていこうとする、おっさんの物語である。 ◇ ◇ ◇ 本作は主人公が異世界で「生活」していく事がメインのお話しなので、派手な出来事は起こりません。 序盤は1話あたりの文字数が少なめですが 全体的には1話2000文字前後でサクッと読める内容を目指してます。

誰一人帰らない『奈落』に落とされたおっさん、うっかり暗号を解読したら、未知の遺物の使い手になりました!

ミポリオン
ファンタジー
旧題:巻き込まれ召喚されたおっさん、無能で誰一人帰らない場所に追放されるも、超古代文明の暗号を解いて力を手にいれ、楽しく生きていく  高校生達が勇者として召喚される中、1人のただのサラリーマンのおっさんである福菅健吾が巻き込まれて異世界に召喚された。  高校生達は強力なステータスとスキルを獲得したが、おっさんは一般人未満のステータスしかない上に、異世界人の誰もが持っている言語理解しかなかったため、転移装置で誰一人帰ってこない『奈落』に追放されてしまう。  しかし、そこに刻まれた見たこともない文字を、健吾には全て理解する事ができ、強大な超古代文明のアイテムを手に入れる。  召喚者達は気づかなかった。健吾以外の高校生達の通常スキル欄に言語スキルがあり、健吾だけは固有スキルの欄に言語スキルがあった事を。そしてそのスキルが恐るべき力を秘めていることを。 ※カクヨムでも連載しています

実はスライムって最強なんだよ?初期ステータスが低すぎてレベルアップが出来ないだけ…

小桃
ファンタジー
 商業高校へ通う女子高校生一条 遥は通学時に仔犬が車に轢かれそうになった所を助けようとして車に轢かれ死亡する。この行動に獣の神は心を打たれ、彼女を転生させようとする。遥は獣の神より転生を打診され5つの希望を叶えると言われたので、希望を伝える。 1.最強になれる種族 2.無限収納 3.変幻自在 4.並列思考 5.スキルコピー  5つの希望を叶えられ遥は新たな世界へ転生する、その姿はスライムだった…最強になる種族で転生したはずなのにスライムに…遥はスライムとしてどう生きていくのか?スライムに転生した少女の物語が始まるのであった。

役立たずと言われダンジョンで殺されかけたが、実は最強で万能スキルでした !

本条蒼依
ファンタジー
地球とは違う異世界シンアースでの物語。  主人公マルクは神聖の儀で何にも反応しないスキルを貰い、絶望の淵へと叩き込まれる。 その役に立たないスキルで冒険者になるが、役立たずと言われダンジョンで殺されかけるが、そのスキルは唯一無二の万能スキルだった。  そのスキルで成り上がり、ダンジョンで裏切った人間は落ちぶれざまあ展開。 主人公マルクは、そのスキルで色んなことを解決し幸せになる。  ハーレム要素はしばらくありません。

1×∞(ワンバイエイト) 経験値1でレベルアップする俺は、最速で異世界最強になりました!

マツヤマユタカ
ファンタジー
23年5月22日にアルファポリス様より、拙著が出版されました!そのため改題しました。 今後ともよろしくお願いいたします! トラックに轢かれ、気づくと異世界の自然豊かな場所に一人いた少年、カズマ・ナカミチ。彼は事情がわからないまま、仕方なくそこでサバイバル生活を開始する。だが、未経験だった釣りや狩りは妙に上手くいった。その秘密は、レベル上げに必要な経験値にあった。実はカズマは、あらゆるスキルが経験値1でレベルアップするのだ。おかげで、何をやっても簡単にこなせて――。異世界爆速成長系ファンタジー、堂々開幕! タイトルの『1×∞』は『ワンバイエイト』と読みます。 男性向けHOTランキング1位!ファンタジー1位を獲得しました!【22/7/22】 そして『第15回ファンタジー小説大賞』において、奨励賞を受賞いたしました!【22/10/31】 アルファポリス様より出版されました!現在第四巻まで発売中です! コミカライズされました!公式漫画タブから見られます!【24/8/28】 ***************************** ***毎日更新しています。よろしくお願いいたします。*** ***************************** マツヤマユタカ名義でTwitterやってます。 見てください。

俺しか使えない『アイテムボックス』がバグってる

十本スイ
ファンタジー
俗にいう神様転生とやらを経験することになった主人公――札月沖長。ただしよくあるような最強でチートな能力をもらい、異世界ではしゃぐつもりなど到底なかった沖長は、丈夫な身体と便利なアイテムボックスだけを望んだ。しかしこの二つ、神がどういう解釈をしていたのか、特にアイテムボックスについてはバグっているのではと思うほどの能力を有していた。これはこれで便利に使えばいいかと思っていたが、どうも自分だけが転生者ではなく、一緒に同世界へ転生した者たちがいるようで……。しかもそいつらは自分が主人公で、沖長をイレギュラーだの踏み台だなどと言ってくる。これは異世界ではなく現代ファンタジーの世界に転生することになった男が、その世界の真実を知りながらもマイペースに生きる物語である。

~僕の異世界冒険記~異世界冒険始めました。

破滅の女神
ファンタジー
18歳の誕生日…先月死んだ、おじぃちゃんから1冊の本が届いた。 小さい頃の思い出で1ページ目に『この本は異世界冒険記、あなたの物語です。』と書かれてるだけで後は真っ白だった本だと思い出す。 本の表紙にはドラゴンが描かれており、指輪が付属されていた。 お遊び気分で指輪をはめて本を開くと、そこには2ページ目に短い文章が書き加えられていた。 その文章とは『さぁ、あなたの物語の始まりです。』と…。 次の瞬間、僕は気を失い、異世界冒険の旅が始まったのだった…。 本作品は『カクヨム』で掲載している物を『アルファポリス』用に少しだけ修正した物となります。

処理中です...