『ラノベ作家のおっさん…異世界に転生する』

来夢

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第1章 異世界転生

第50話

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引越しの前日、領地に帰るウォーレスさんを見送る。

「それでは、ひと月後にまた会おう。それまでみんな息災でな」

「ええ。お世話になった皆さんに宜しくお伝え下さい」

「お父様、お気をつけて」

「道中ご無事な事をお祈りしております。また顔合わせでお会いしましょう」

いつも一緒にいた人達がいなくなるのは寂しくなるな。まあまたすぐに会う機会はあるんだけど。

ウォーレスさん達の乗る馬車が見えなくなるまで手を振って見送ると、新居で事前準備をしているじいやさんから仮住まいの屋敷が明日から住めると言う連絡があった。

引越しの準備をする前に、新居で働く人達にクッキーを差し入れに挨拶に行くと事にした。

新居で働いてもらうのは、執事のじいやさんと護衛のレリクさん、護衛兼剣術指導のシャロンさん。そして他の従者さん達は陛下が用意してくれることになっている。

マイアに専属で付いていた護衛達は俺とシャロンさんとレリクさんに引き継がれ、その任を解かれるそうだ。

新居に着くと、まず門兵4人が出迎えてくれる。

「門兵もいるの?それも4人も?」

「はい。交代任務なので普段は4人いっぺんてことはありませんが」

「なるほど。王族のマイアが住むんだもんな。門番も必要なのか」

玄関では前乗りしていたじいやさんが馬車の扉を開けてくれて、門兵と庭師を紹介してくれた。

畏まった紹介や挨拶は中でまとめてすると言う事だったので、全員一緒に屋敷の中に入る。

新しく設けられた前室で靴を脱ぎ屋敷の中へと足を踏み入れると、メイドさんが赤いカーベット沿いに、綺麗に整列をしていて一斉に頭を下げた。

流石は王室から派遣されたスタッフだ。伯爵家のメイドさん達も凄かったが、一糸乱れぬ完璧なお辞儀をする。礼儀作法のスキルレベルがあるならカンストだと思えるぐらい素晴らしい。

使用人は全員で12名。結構多いな。

「皆さん、これからお世話になります。宜しくお願いします」

それからこちらの紹介が終わると、40代くらいのインテリ系の眼鏡をした女性が一礼をして前に出た。

「メイド長を務めさせていただきますメアリ・ブロウと申します。以後お見知りおきを。今後いたらない点がございましたら、私までお申し付け下さい」

「こちらこそ、もし何か不満や改善して欲しい事などありましたら、遠慮せずに相談して下さい。それにしても、さすが王室から推挙された方々ですね。礼儀作法は完璧ですし仕事が早くて助かります」

「お褒めいただいて恐縮でございます」

それから、使用人の自己紹介が終わると正式にじいやさんに家宰を依頼した。

「私めで本当に宜しいのでしょうか?」

「当然でしょう。じいやさん以外に適任者はいません」

そう答えると、笑顔で受け入れてくれた。

それから手土産のクッキーをメアリさんに渡してから新居の中見回る。以前こちらが要望したとおりにリフォームされていた。

下駄箱は雨や砂が屋敷内に入らないため、掃除の作業量の負担が減ると言う事で従者さん達にも受けいられ、従者専用の出入り口にも下駄箱が設けられたそうだ。

館内用の靴はメイド服に似合いそうなバレーシューズの様なソフト靴を買い物に行った時に、各サイズ大量買いしたので間に合うだろう。男性用には、踵が無いスリッパの様な革靴があったので、そちらを購入して既に支給した。

屋敷に帰って私物の整理をしに戻る。とは言ってもアイテムボックスがあるので物量はあまり関係無い。

夕食はお世話になった従者さん達全員と簡単なお別れ会をした。料理は商業エリアで購入したオードブルぽい物ばかりであったが、たまにはいいだろう。

「皆さん、短い間でしたが本当にありがとうございました。この屋敷で働く、皆さんの礼儀作法や働きぶりを見て感動しました。今日はささやかながら、その感動と感謝を込めてお別れ会を開く事にしました。同じ王都の貴族街にいる以上は、お会いする事もあろうと思いますが、その時は気軽に声を掛けて下さい」

「そう言って貰えると家宰として最高の褒め言葉です。それに、この屋敷の従者一同を労う為に、このような会を催していただきありがとうございます」

ジェムースは涙ぐみながらそう言うと、従者達全員が一斉に頭を下げた。

それから各々思い思い好きな食事や飲み物を取り、お別れ会が始まる。

「それにしても、本当にヴェルは9歳なのですか?今まで言えませんでしたが俄かには信じられません」

「王女様とこうして、食事をするなど末代までの誉れです」

「お嬢様と最初お会いした時は、まどこんな小さいかったのに、もうこんなに大きくなられて、感無量ですわ」

など会話を交わし、終始笑顔で終わった。


 翌朝になると、朝早くから引越しが始まる。昨日散財して買った物は、既にじいやさんが仮住まいの新居に運んでいてくれてあったので俺とジュリエッタの荷物なんてあって無いようなものだ。

新居に向う道中で、日本なら引越しをした後に引越し蕎麦を食べるという風習があるのを思い出し、この世界にも何かそい言った風習的なものがあるのかと聞いて見る。

「引越しをした後に、何か祝いとかってするの?」

「そう言った文化的な事は、私は無縁だったので存知あげません」

「私も知らないわね。なんなら昨晩のようにこれからお世話になる従者さん達と一緒に、親睦を兼ねて明日か明後日に軽く食事会でもするってのはどう?」

「それはいい考えだね。それじゃそうしようか?そうなると連日になるけどマイアもいいかな?」

「はい。これからお世話になる方々ですもの。楽しく新生活を始めに良い考えだと思います。じいや、日程が決まり次第、昨日と同じように手配を頼みます」

「畏まりました」

引越し蕎麦を食べたいが、今の時点で醤油も無ければ蕎麦も無い。米も味噌も見た事すら無い。日本の食文化が急に恋しくなってきた。

新居に到着すると、玄関先には大量の木箱が積まれていて驚く。

「これはいったい何の荷物だ!!」

「こちらは、姫様の衣服でございます」

それを聞いたマイアの顔が青ざめる。

「なんで全部持ってくるわけ?二人ともごめんなさい。直ぐに持ち帰らせるわね。じいや、ここは王宮ではないのよ。限度を考えなさい」

マイアは青ざめながらそう言うと、じいやさんは申し訳なさそうな顔をして、今の季節に必要な衣服のみを残して、後は王宮で預かるように兵士に指示を出した。

なんだか申し訳ないけど、昨日普段着は大量買いしたし、王宮で過ごすようなドレスを着て生活するわけでもないのだから、王宮で預かって貰うのが正解だろうな。
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