『ラノベ作家のおっさん…異世界に転生する』

来夢

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第1章 異世界転生

第31話

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【マイアSide】

コレラの非常事態宣言を受けて、わたくしは父の厳命で王宮の自室に引き篭もっていた。

たまに、廊下から衛兵や従者達の声が聞こえてくきますが、残念ながらこの王都でもコレラ感染者が急増していると言うネガティブな内容ばかりでした。

そんなある日、私のごく身近なところで、ええ、侍女のエーレがコレラに感染したという衝撃的なニュースが入ってきたのです。漠然と自分やその周りは大丈夫なのではと思っていたこともあり、それは目の前に突然現れた危機でした。

警戒は続けていましたが、私も突然口から大量の白い水のようなものを吐き出し、床を汚してしまったのです。

いつもなら、じいやか侍女がお付でいるのですが、コレラの感染予防の為に誰も私室にいません。

布団を必死で掴み、なんとかにベッドの這い上がって「誰か!」と助けを求めると、ドアが開き「姫様!!」と衛兵が飛び込んで来ました。

薄れゆく意識の中で「私は、天に召されてしまうのでしょうか?」とぼんやりつぶやいていました。

「そんなことはかありませぬ。必ずやお救い致します!!」

「私は、恋も知らずに死んでいくなんて嫌です」

つい出た言葉がこれでは恥ずかしい限りですが、まだこの世に生を受けて9年しか経っていないのに、本に憧れ自分もこれからと思っていた恋もせず死に直面するなんてと自分を恨めしく思いました。

それから、薄れゆく意識の中で生まれてからの人生が鮮明に思い出されました。これが本で読んだ事のある走馬灯と言うものなのでしょうか?

◇ ◆ ◇

私は、この国の第一王女として生を受けました。それが幸いなのか不幸なのか分かりませんが、今までは幸せだったような気がします。

あれは3歳半の頃だったでしょうか?私は大きな病気を患い今のように生死を彷徨った事があります。その時の記憶などあまありませんが、一命を取りとめた事がきっかけだったのでしょうか?あるスキルに目覚めました。瞬間記憶能力です。

その時は、気がつかなかったのですが、4歳になりお父様が専属の教師を付けて勉強を始めるよう言いました。もともと、本が好きでしたので、既に文字は読めていましたが、誰にもその話はしていません。

父から言われた次の日から、教師が絵本を使い朗読を教え始めてくれることになりました。

教師は私に同じ絵本を見せて「姫様、この文字を記憶するように、続けて読んで下さい。さすれば、文字を読むスピードが上がります」と言ったのです。

私は絵本を持ち「きおく?ですか?」そう言ったのです。

今思うと、それがスキル発動の詠唱だったのでしょう。絵本に書かれたページが脳に刷り込まれた気がしました。私は本置き、本の内容をすらすらと読み教師に聞かせました。

「これは凄い!陛下にすぐにお伝えせねば!!」

教師は慌てて部屋を飛び出して行きました。

あの時は大事になるとは思いもせず、特に何も考えなどありませんでした。4歳ですからね。今ならけっして言いません。だって面倒です。

お父様と教師は戻ってくるや、私の能力を再確認すると、お父様は幼い私を抱え「素晴らしい!この子は神から遣わされた鬼才かも知れぬ!!」と大喜び。その時はただお父様が喜んでいるのを見て自分は良いことをしたのだと思っていました。

その後文官が文献を調べたようで、その結果、過去にはそういったスキルではなく先天的に瞬間記憶能力を持つ人間がいたそうです。私は教師からこの能力の事を詳細に教えていただきました。

その晩の事です。布団に入り、本を読み始めましたが、何かが違うのでは?と違和感を覚え幼いながらに物思いに更けました。

違和感が明らかになったのは、私の場合は「記憶」と詠唱しなければ物事を覚えられないと言う事でした。つまりスキルです。

お父様と文官が苦労して調べ、教えてもらったので申し訳なくてそのことは今まで誰にも言ってはいません。それに、12歳までは魔法やスキルを使えることはないのです。うっかりこれはスキルですと言えば今よりもずっと面倒な事になるに違いありません。

スキルならばの利点もありました。魔力を流しながら本を読んでいると、意識を無くしどんな時でも安眠出来ますし、どうでもいい日常などは覚えなくてもよいのです。悲しい記憶に縛られることもありません。

それから2年ほど経ちました。あの時のショックは今でも忘れません。それは、私の6歳の誕生パーティーの時に社交デビューした時の事でした。

各国の王侯貴族からそれとなく縁談の誘いやアプローチを受け、それなりに会話をしましたが『何ですか?会話の内容の程度が低すぎやしませんか?』同年代の子供達と会話が成り立たなかったのです。

そう言えば、5歳上の兄との会話も、何となく物足りなさを感じるので当然かもしれません。なので、その気持ちを両親にも吐露しました。

「お父様、お母様。このままでは、私は結婚出来ないかも知れません。その…言い方が悪いのですが、程度が低くすぎて周りの子供達と上手く会話がかみ合わないのです」

「うむ。やはり同じ年ぐらいの子供では物足りなかったか。瞬間記憶能力は素晴らしいが、このような弊害が出るとは思いもよらなかったな」

「でもマイア。ある程度は妥協は必要なのではありませんか?身近な上級貴族ではあなたを超える、子供などいないのですから。年を重ねれば埋められるかもしれませんし…」

「それは分かっています……でも私は本の物語のような恋愛結婚したいのです」

そう頑なに拒否するのは、やはり本の影響なのかも知れません。恋愛の話に思いを馳せない女性などいるはずが無いのです。

私は自分に相応しい相手が見つかるまで安易にフィアンセなど作る気にはなりません。絶対に後悔します。

◇ ◆ ◇

微睡みながら幼い頃を思い出していると、突然目が覚めました。すると、口や鼻に奇妙な布をした王宮医療技師のウォーレス伯が目の前にいたのです。少し驚きましたがそれは内緒です。

「姫殿下。気分はいかがでしょうか?」

「私はいったい?」

「ええ。コレラに感染して3日間も眠りになられておられました。もう峠を越えたので大丈夫ですよ」

私は右手に違和感を覚え首を捻り確認をすると、ガラスの瓶にゴムが繋がれた管が右腕に刺さっていたのです。

「これは?」

「これは、ある人物が考案した生理食塩水という点滴にございます。なんでも人間の体に流れる成分と同じ成分であるとの事」

「なんと言うことでしょう。さぞかし高名な研究者が考えたものなのでしょうね」

「ははは。実はその人物は表舞台に立つ意思はございません。内密との事で私も強く口止めされているのです」

「それはいけません。私の命を救った恩人なのです。是非、直接御礼を申し上げたく存じ上げます」

「分かりました。その者には伝えておきます。まだまだ姫殿下は病み上がりでございます。今はごゆるりとご静養くださいませ」

それから、私の命を救ってくれた者に感謝をして療養し始めました。とは言っても引き篭もって寝ているだけですが…
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