『ラノベ作家のおっさん…異世界に転生する』

来夢

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第1章 異世界転生

第28話

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 次の村が見えた。結構遠いが村がわかる。なぜか…この世界で初めて見る懐かしい風景が見えたからだ。

「湯煙…湯煙ですか?あれは!」

「そうよ。このサンジュ村には温泉がいくつもあるのよ。それにしてもあれが温泉ってよく分かったわね?」

「本で読んだ事あるんだよ」と、誤魔化すがこっちにも温泉が、と言うか温泉という概念があったとは僥倖だ。興奮するぜ。

村の門に到着すると卵の腐ったような硫黄の匂い、いや硫化水素臭が漂い、あちこちから湯煙が立っているのが見える。

日本にいた頃は、出来る限り心臓に負担が掛からないように露天風呂は控えていた。が元々温泉は大好きなのだ。温泉地特有の雰囲気にテンションが上がらない筈がない。

ここで兵士達が野盗を引き連れて連れて行くために別れ、俺たちは村へと入った。

「ここは王都から一番近い温泉街なんだ。今はコレラが収まったばかりだから人は少ないが、本来なら宿の予約を取るのに数ヶ月掛かるぐらいの人気ぶりなんだよ。それに王族達の保養地であるから設備も他の宿場村より充実している。楽しむといいよ」

「それは凄いですね。それで宿は取れたのですか?」

「心配無用だよ。貴族専用の宿は予約など入れなくても、いつでも空いているからね」

「優遇されているんですね」

「そうだな。ヴェル君。君は上級貴族になれる素養も素質もある。誰にも文句言わせないように実力で上がってくるんだ」

「申し訳ありませんがそこまでのお話は尚早かと」

「相変わらず他人の評価と自己評価に隔たりがあるようだね。まだ先は長い。これから自他の評価の差を埋めるような出来事もあるだろう。更なる成長を期待しているよ」

伯爵はすたすたと宿へと歩き出すが、中身はおっさんとはいえまだ子供にはプレッシャーだよ。まったく。

湯煙が漂う赤い橋を渡り、暫く歩いていると宿が見えてくる。宿は立派なホテルだった。鄙びた印象の温泉地とは趣を異にするくらいの立派な建物だ。

温泉宿の玄関に馬車を止めると、ボーイさん?が馬車を開けてくれて、荷物を宿に運び入れてくれた。

ボーイさんが玄関の扉を開けると、従業員達が綺麗に立ち並び「そうこそいらっしゃいました」と、一斉に頭を下げた。

流石は貴族専用の宿だけはある。その一糸乱れぬ統制に驚愕をしながら受付カウンターに歩いて行く。

「伯爵閣下、ようこそおいでなさいました。部屋はいくつご用意されますか?」

「そうだな。私専用の部屋1つと、この子達2人の部屋をひとつ、あとは護衛の部屋を2つ借りるとしようか?」

「えっ。待って下さい。僕とジュリエッタは別の部屋では無いのですか?」

するとジュリエッタが苦笑いをしながら手を強く握ってくる。余計な事を言いやがってと言う雰囲気がありありだ。

「今更何を言うんだ?いつもジュリエッタと一緒に寝ているのは知っているよ。それに、まだ子供同士だから遠慮はいらん」

伯爵の言葉にジュリエッタはにんまりしている。この子にしてこの親ありだな。

「それじゃ、私達は軽く風呂に入ってから、そこにある食事処で一杯やっている。二人も温泉に入ったらごはんに来るといい」

「分かりました。もし僕達の方が早かったら、席を取っておきます」

「ああ。宜しく頼むよ」

部屋の鍵を貰い、ボーイさんに先導されてジュリエッタと部屋へと向う。

「もぅ、ヴェルったら、何であそこで余計な事を言うわけ?」

廊下で痴話喧嘩なんてありえないし、俺の常識の範囲だ。ボーイさんもいるし、そんなこと言うなよ。と思いつつ笑ってごまかす。

階段を上がって、部屋に到着するとボーイさんが荷物を部屋に運び入れてくれた。部屋に入ると、バルコニーに部屋専用の露天風呂があるのが見える。流石は貴族専用だ。豪華この上ない。

「ジュリエッタ。先に温泉に入るといいよ」

と、言いながらソファーに腰を下ろすと、ジュリエッタがいきなり俺の前に立つ。

「さっきの罰として、一緒に露天風呂に入って!」

「は?冗談だろ?」

「本気も本気。大本気よ!」

恥ずかしそうに顔を赤くして言い募る。風呂は1人のんびりする所だがまあ良く考えたら俺もジュリエッタもまだまだ子供だ。とは言え確か小学校に上がったら混浴アウトじゃなかったか?好きな相手とはいえジュリエッタは、まだ10歳だからな。ま、深く考えなきゃいいのか。

「分かった。じゃ、一緒に入ろうか」

「それじゃ、先に入ってて」

「はいは~い」

たぶん日本にいた頃の思い込みだな。大事な部分をタオルで隠して掛け湯をしてから温泉に浸かる。

「うっほ~。気持ちいいぞ!これはヤバい」

期待していなかったものが突如現れ、またそれが完璧となると言葉も出ない。全身の力が抜けるようだ。気持ちいい。湯の花と白く濁った湯、硫黄臭と檜独特のぬめり。全てが完璧だ。

木の桶に湯を張り、タオルを暖めて顔の上に乗せる。やばい。気持ちが良すぎてそのまま寝そうだ。

「お待たせ~」

その声に驚いて、タオルがズレ落ちた。そして、ジュリエッタがタオルで体を隠して掛け湯をしている姿が目に入ったので咄嗟に目を逸らす。でも思ってたよりも平気だな。当たり前か。

髪を束ね、タオルを頭に巻いてジュリエッタが湯船に入る。タオルを湯船に浸けるのはご法度だが、こっちではそんなルールは無いのだな。良かった。

「それにしても、いい雰囲気ね~。心まで洗われる気分だわ」

「そうだね。温泉たまりませんね~」

そう言いながら空を見上げると、満天の星と二つの月を見える。改めてここは異世界なんだなあと思う。

「私達もさ、あの二つの月のようにずっと寄り添って生きて行きたいね」

相変わらず10歳のセリフじゃないな。それは置いといて言いたいことはわかる。

「そうだね。これからずっといつも一緒に居られるといいね」

そう答えるとジュリエッタは感極まったのか?涙を流す。相変わらず涙を流す理由は分からない…聞くだけ野暮なので聞かないが…

それから体を洗うのに湯船から出るが温泉の効能なのか、体がぽかぽかして暖かい。

「ヴェル。私が背中流してあげる」

「いや。そこまで子供じゃないから自分で洗うよ」

「駄目よ。私が洗いたいの」

仕方なく背中を向く。

それからジュリエッタは背中をゴシゴシと洗ってくれた。でもな、俺、本当は頭から洗いたい。

「よしっと、終ったわよ。次は私の番ね」

はは。そうなると思ったよ。

「それじゃ、髪の毛を洗ってあげるね。あ、ちょっと待って」

そう言ってコラーゲンの入ったビンとレモンを絞った果汁の入ったビンを取りに行く。バスタオルで体をサッと拭いて部屋に戻ってから再び露天風呂に戻った。

「何を取ってきたの?」

「ヒミツだよ」

それから石鹸を泡立てると、コラーゲンとレモン果汁を数滴馴染ませた。

「痒いところ無いかな?」

「無いわよ。それにしても随分と髪の毛を洗うのが上手ね。気持ちよすぎて驚いたわ」

「お気に召して良かったよ」かつての美容師様様だ。

それから背中を流してあげた後、自分も髪の毛を洗う。当然クエン酸とコラーゲン配合だ。

それから湯船にもう一度浸かって露天風呂から出た。

風だけのドライヤーもどきで髪の毛を乾かすが、火照った体には、それがまたここちよい。

髪の毛を乾かし終えると、髪の毛は艶々サラサラでだ。コラーゲンがばっちり効いている。

「信じられない。髪の毛がこんなに綺麗になるなんて。温泉の効果かな~」

「そうかもね」

「嘘でしょ。顔に嘘と書いてあるわ。さっき部屋に何か取りに帰ったでしょ。あれの効果なんでしょ」

「バレた?コラーゲンって言って保湿効果のある素材を配合させて洗ったんだ。レモン果汁はベタ付き防止なんだ。いい感じだろ?」

「ええ。凄い効果だわ。これ、広まったら大金持ちになれるわね」

そんなつもりは無かったが、化粧品に配合すればビジネスチャンスになるな。まだ子供だし、また後で考えればいいか。

「お腹が空いたから、ごはんを食べにいきましょうか?」

「そうだね。温泉に入ったら、お腹が空いたな」

俺たちは照明あ当たると、天使の輪が出来たツヤツヤの髪で食事処へと向った。
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