『ラノベ作家のおっさん…異世界に転生する』

来夢

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第1章 異世界転生

第26話

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 翌朝、朝食を摂ると早速王都に出発する。

玄関ホールで屋敷に残る者に挨拶する。じいさんとエリザベートさんは居残りだ。

「おじい様。それでは行って参ります」

「ああ。向こうではアルフォンスが待っておる。元々戻ってくる予定だったが、ヴェルと陛下との謁見に付き合うそうじゃ。ワシも今日自分の領地に帰る。陛下との謁見の話を詳しく聞きたいからな。なのでアルフォンスに帰りに立ち寄るように言っておいてくれ」

「分かりました。伝えておきます。おじい様も息災で」

「うむ。気をつけて行って参れ。くれぐれも王族の前で無礼を働くなよ」

「はい。がんばります」

じいさんとの別れを済ますと、エリザベートさんが「それで、ダンスの練習はどうだった?」と聞いてきた。

「なんとか踊れるレベルになりました」

と答えると、エリザベートさんはジュリエッタを呼んだ。

ちなみに、昨日伯爵夫人と声を掛けると無視され、エリザベート様と言っても無視をされた。仕方がないのでエリザベートさんと呼ぶと満面の笑みでこちらを振り返った。どこにこだわりがあるのかさっぱり分からん。

「それじゃ宿場村と王都の屋敷でもう少し練習をしておこうか?私はウェールズがいるから行けないけど、ジュリエッタ、ヴェル君の練習に付き合ってあげてね」

「ええ。全力で協力するわね」

「お手柔らかに頼むよ」

なんだかジュリエッタは乗り気だが、オレ自身ははっきり言えばやりたくない。ただ王城のパーティーで恥をかくのはもっと嫌なので最低限の練習をしたておくけれど…

それから清流スライムをどうしようか迷ったが、エサは綺麗な水だけなので、自前の簡易的な浄水機を用意して連れて行く事にした。綺麗な水も用意して木製の水筒に詰めてある。

ジュリエッタには内緒だが、昨日ジュリエッタが部屋に来る前に少しスライムに試しにナイフで傷を付けてみると、コラーゲンがコップ1杯分取れた。

なんだか可愛そうだとは思ったが、傷跡は直ぐに無くなり、気持ち小さくなったような気がするレベルであった。直ぐにスライムに水を与えると、大きさも戻って嬉しそうにぴょんぴょんと跳ねていたので、まあ大丈夫だろう。

取れたコラーゲンは陶器の小瓶に入れて持って行く。それと、コンディショナーを作る為に、レモンを絞って小瓶に詰めた。クエン酸の効果を期待する。

これら知識は小説を書いていた時に得た知識で、いずれ書こうと思って調べておいたものだ。

馬車に乗りこむと今回は守りの護衛が4人といつもより多い。ジュリエッタに聞いてみると、御者の交代要員も兼ねていてようだ。それに、昨日伯爵が王都から帰ってくる途中で手に入れた情報によると、今から通る街道で魔物や野盗が現れたらしい。

「ジュリエッタは魔物や野盗は怖くないの?」

「ええ。護衛がいれば安心よ。ヴェルもいるしね」

「僕は実戦経験のないペーパー剣士だからね。本で読んだ知識なんて実践で何の役に立たない。それに武器も無いから」

「ああ、武器ね。武器ならほら。椅子の下に隠してあるから好きな武器で戦うといいわ。それに謙遜なんてしないで、重力魔法を使えば大人より強いんだから」

「いざとなったら使うけど、見せちゃマズいような気がするな」

「それはそうだけど、命には変えられないわ」

「まあね。そうならないよう祈るよ」

できれば誰にも重力魔法は見せたくない。あんなの見せたら絶対に勇者扱いされるのが目に見えている。それにしても椅子下収納とは。この世界の馬車は面白いな。

伯爵の準備が出来たようで、屋敷の者に見送られて2頭引きの馬車は王都に向けて出発をする。

今回2台で行く事になったので竜車は置いていくようだ。人数を考えると竜車1台でもいいんじゃないかと思って聞いて見たら「知らないわ」と言われてしまった。きっとなんか意味はあるのだろう。

馬車が走り出して30分が経った。馬車には時計が付いていたのはありがたい。ジュリエッタは馬車の中でもっと話しかけてくるのかと思ったが、直ぐに船を漕ぎ始めた。

「眠かったら、横になるといいよ。なんなら膝を貸そうか?」

「気を遣わせてごめんなさい。膝枕をされているのをお父様達にバレたくないから、少しここで横になるわ」

ジュリエッタは、そう言うと椅子に寝転んだ。何を今更遠慮する事があるんだ?は思ったが、朝日が差す方向のカーテンを閉めた。

喋る相手もいなくなり、俺は最初こそ初めての長距離移動で流れ行く風景を楽しんでいたが、遠くに見える山や草木ばかりの変わらない風景が続いたため途中で飽きてしまい、途中からは寝ては起きてを繰り返していた。

それから、馬車は何事も無く4時間ほど走ると中継地点の小さな村へと辿り着いた。ここまでは魔物も盗賊も現れなかった。

「お二方とも、トイレ休憩と腹ごしらえをするそうです。おや、お嬢様は寝ていらっしゃいましたか」

レリクさんは、すやすやと眠るジュリエッタを見て、申し訳なさそうな顔をしている。

「ジュリエッタ、起きて。トイレ休憩みたいだよ」

馬車の椅子で寝転がっている、ジュリエッタの肩を揺らして起こすとジュリエッタは眠そうに起き上がった。

 起きたジュリエッタと一緒に、村に入ると土産屋などがあって、さながら日本にあった道の駅やパーキングエリアのようで思ったより楽しい。ジュリエッタと一緒に少し散策をすると展望台があって、そこから見る景色は渓谷があって絶景だった。

「ん~。ちょっと寒いけどいい眺めね。こうしてヴェルと景色を楽しめるなんて思いもしなかったわ」

「そうだね。こんな泊まりで旅をしたことがないから新鮮だよ」

深呼吸をして大自然を楽しんでいると、レリクさんがそろそろ出発をすると呼びに来たので共同トイレに行き用をたした。

手を洗い出口に向うと、入る時には気付かなかった掲示板があり、魔物の出現情報や盗賊の情報などが書かれていていた。出発前にジュリエッタが言っていたのはこのことなんだろう。

詳しい内容を見てみると、どうやら昨日はゴブリンやポイズンスライムが出現したようだ。討伐完了と書いてあったのでもう誰かが倒したのかな。

もう一枚の方を見ると、こちらは盗賊情報だ。場所は王都と最後の宿場村の間で20人と人数が多い。討伐の褒賞金は生死問わず1人につき金貨1枚と書いてある。命がけの仕事の割には随分と安いものだ。

よく見ると金を渡せば命を狙われる事は無いようだ。こちらは未解決となっていて、近く王都の兵が討伐予定だと書かれていた。

 ジュリエッタと露天を冷やかしていると、なんと、もち麦で作られた串団子が売っているじゃないか。早速買って馬車の中で二人で食べてみると、甘いだけの味付けだけど、その味と食感の懐かしさに思わず目をつぶって感傷に浸る。

それから馬車が出発すると、結界が張られているのに、なぜ掲示板に魔物の目撃情報があるのかと尋ねてみた。

ジュリエッタの話では、街道に出える魔物は、ごく稀に魔石の寿命で結界石の効力が切れ掛かっている所から出てくるようだ。そう言えば、初めて町に行った時に御者さんから聞いたような気がするが、魔物を見た事が無いので詳しい内容を忘れてしまっていた。

「それじゃ、森の中に入ればそこらじゅうに魔物はいるのかい?」

「森の中や山の中に入ればいるとは思うけど、魔物の強さが選べないから、自分の適性レベルに見合う魔物とエンカウントするには迷宮に行くのが一般的ね。冒険者ギルドに行けば、魔物の間引きや目撃情報などで討伐依頼が出るけど、地下迷宮や竜脈が通る場所とは違って、この国の地上では魔力が溜まる場所が少ないから、比較的弱い魔物しか出現しないと聞いたかな」

「ん~。地下迷宮に竜脈か。冒険心をくすぐる言葉だな」

「まぁ、12歳までは、戦ってもレベルが上がらないから、危険を冒してまでわざわざ魔物と戦う必要はないわよ。また詳しい話は学園に入ってから勉強する事になるから、今知る必要も無いわし。適当な事を言って間違っていても嫌だもの」

「そうだな。12歳になるまで我慢するしか無いか」

話をしているうちに馬車は何事も無く今日宿泊をする宿場村、メリッセ村へと辿り着いた。

話を聞いたところでは、王都に通じる街道ではこうした宿場村が馬車で8時間~10時間ごとにあって、馬屋で馬を休ませたり疲れた馬を交換したりするらしい。負担を減らす工夫がされているようだ。

メリッセ村に入ると貴族専用の宿に泊まる事になった。今回はジュリエッタとは別々の部屋だが、部屋で休んでいると、また当たり前のようにジュリエッタが俺の部屋にやってきた。

「今からごはんまでの間に村を見て回らない?レリクに言ったら危険も無いだろうし良いってって言ってたから」

「そうだな。それも楽しそうだね」

「そうこなくっちゃ」

そんなわけで、夜にジュリエッタと村の散策に出かけたが、特に目新しいものは無かった。

けれど、長距離の旅というのは初めてだし、隣にはジュリエッタもいるから、話しながら散策をしているけでも楽しい。橋の上で立ち止まり川のせせらぎを聞いてるだけで充分満たされる。

夕食を食べてからお風呂に入ると夜は更けていき、いつもどおりジュリエッタがお忍びでやってきて、一緒に寝る。ここらへんは何時もと同じだが、いつもとと違う布団や枕で旅に来たんだと、新鮮な気分になる。

 夜が明けると村を発つ。馬車が出発をしてから3時間ほどすると街道の前方から凄い勢いで馬車が走って来た。

すれ違いざまに商人が乗っていると思われる馬車を操る御者が「野盗だ~!!野盗が出たぞ~!!」と、連呼しながら走り抜けて行った。

すると馬車は止まりレリクさんがやって来た。

「どうやら、野盗が出たようなので伯爵閣下と同じ馬車に乗って下さい。襲撃に備えましょう」

どうやら、野盗は後を追ってこなかったようでまだ姿が見えない。とは言え、やはりあの掲示板はフラグだったか。

「こんな、まっ昼間から野盗とは運が無いですね」

「この街道には宿場町が多いですからね。夜は誰も行き来しないのですよ。ですから野盗も朝から日が暮れるまでしか現れないんです。それに、コレラで厳戒令が出てやつらも食い扶持に困ったでしょう」

「なるほど。世知辛い世の中ですね」

「同情の余地はありませんよ。食べたかったら働けって言う事です。それでは私は今からこの馬車の反対側を警戒します。二方が馬車から降りたら後方からお守りします」

レリクさんはそう言うと、馬車の反対側に警戒しながら歩いて行った。

「それじゃジュリエッタ。伯爵閣下の馬車に移ろうか」

「ええ、取り敢えず武器を取りましょう」

何だかジュリエッタの口調がいつもと違う。緊張しているんだろう。

それから、自分の体に合う短剣を手に取ると馬車を降りる。

歩き始めて馬車の扉が開いた瞬間、狙いすました様に正面の木々の間から野盗が現れた。
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