『ラノベ作家のおっさん…異世界に転生する』

来夢

文字の大きさ
上 下
22 / 67
第1章 異世界転生

第22話

しおりを挟む
 部屋に部屋に戻ってから布団の中で本を読んでいると、柚子の残り香がとても心をリラックスさせてくれる。

身体もぽかぽかしていて、懐かしい日本の事を思い出していると【コン・コン】とドアをノックする音が鳴った。

「ヴェル、入るわよ」

「どうぞ、開いてるよ」

「へへへ、来ちゃった~」

照れ笑いしながらのご入場。ちょっとかわいすぎるな。狙ってやってるんならあざと過ぎだ。

「本当に来たんだね。大丈夫なの?」

「知らないわ。私、ヴェルの事に関しては我慢しないって決めたの」

何を我慢しないんだ?てか、我慢してた事があったのか?何度も言う。彼女は10歳の少女だ。落ち着けオレ。

「おお、そうなんだ。お手柔らかにね」

「なにその冷静な対応は。かえって照れるじゃないの!」

なんか照れているのは本当だろうけど、圧がでかくなっているのも気のせいじゃないんだろうな。まぁ、俺はおっさんだからな。これぐらいの事は許容範囲さ。

「はいはい。それで、どうするの?話でもする?」

「何よ冷たいわね。こうすんのよ!!」

ジュリエッタはそう言うと、布団の中に飛び込んできた。

「うっわっ。いきなり?それは反則じゃない?」

「ふふ~ん。驚いたでしょ。ところで何の本を読んでるの?」

「迷宮についての事が書いてある本だよ。今日書類を整理してたら迷宮の事に興味を持っちゃってね。自分の屋敷には無いから読んでみようと思ってさ」

「ふ~ん。相変わらず勉強家ね。尊敬するわ。私なんか、英雄譚とか恋愛系の本しか読まないからね…」

「それが普通の子供だよ」

「あ~。自分で普通の子供じゃないって認めたな。こうしてやる」

ジュリエッタはそう言うと、いきなり俺の脇に手をやりこしょぐり始めた。

「ふはははは、ごっ、なんか分からないけどごめんってば~、やめてやめて」

子供らしい…実に子供らしいが、こんなに楽しすぎていいのか俺の異世界人生…

「それでね。明日の話なんだけど、どこに行きたい?」

「そうだな。スライムが欲しいかな。家で飼える魔物の研究をしてみたいんだ」

テイムとまではいかないが、異世界ロマンじゃないか。魔物を飼うなんてさ。

「初めて働いて手にした給金を魔物に充てるなんて前代未聞だわ。まぁらしいけどね」

「もう何とでも言って。でもあとはジュリエッタの行きたいところに付いて行くよ。あっ、そうだ。美味しい軽食を沢山食べたいかな?」

「んっ?どうして?」

「お母様と町に出かけた時に、ホットドッグを食べたんだ。いわゆるジャンクフードってやつ。あの味が忘れられなくさぁ」

「ふ~ん。ヴェルは変な物を食べたがるのね」

「変なのかい?美味しいと思うよ?」

「本当はね、私そう言った物は食べた事ないんだ」

「そりゃ、人生損してるねぇ。そしたらさ、明日一緒に食べようか?」

「うん。ヴェルと一緒なら何でも食べるよ」

く~っ!嬉しい事言ってくれるね~。惚れてまうやろー。なんと言うかなー、自覚はあるが仕方が無いだろ。50歳の時のままの俺の人格と記憶が完全に残っているんだから。

そもそも子供の視点なんて半世紀以上昔に置いてきたし。いちいち何を考えるにも何をするにも、全てにいいわけから入り、見えない誰かに自己弁護してしまうわけだよ。おわかり?

それから他愛もない話をして、魔力操作で魔力を全て使いきって寝ることにする。これだけは、日課にしているので外せない。

「そろそろ部屋に戻らなくてもいいのかい?」

「我慢しないってさっき言ったじゃない。それに昨日久しぶりに一人で寝たら寂しかったのよ。ヴェルは寂しくなかったの?」

言葉だけ切り取ったら完全にR18だな。

「そう言えば、久しぶりに一人で布団に入ったら、少し寒かったよ」

「何よ、私はヴェルを暖める道具じゃないんだからね」

「道具はこんなに柔らかくないよ。でもちょっとは寂しかったかな」

そう答えると、ジュリエッタは頬を赤く染める。

「へへへ。そうやっぱり」

チョロい!あまーい!何だか最近こんなやりとりが多いがそれが今は楽しい。それから照明を消して布団にもぐる。

「先に言っておくけど明日目が覚めて私が居なくても驚かないで。バレないようにもだけどウェールズの面倒を見ないといけないから」

「へ~。ちゃんとお姉ちゃんしてるんだ」

「当たり前でしょ。弟の面倒ぐらい見るわよ。お母様と交代で朝食を食べる事になったから、ヴェルは起きたら食堂へ向って。ちなみにビュッフェスタイルだから好きな物を食べるといいわよ」

「そりゃ、朝から凄いな~。楽しみにしてるよ。それじゃおやすみ」

「おやすみなさ~い」

いやあ。ほんとホテルみたいだ。まあ誰に言っても通じないだろうから言わないけど、夕飯は高価なコース料理、柚子入りの大浴場、朝はビュッフェ、旅行パンフレット風に言うなら朝食バイキングかな。それに行き届いた部屋とベッド。な?どこの観光ホテルのプランだよ。

優雅な気分で魔力を消費しだすといつもながら気絶をするように寝てしまった。いや気絶なんだけど。

 
 翌朝、目が覚めるとジュリエッタは居なかった。目覚まし時計も無いのによく起きれるものだ。ちなみに手動巻きの時計は部屋にある。

顔を洗い、今日のデートに備え普段着を来て行こうとしたけど、もしかして伯爵家の屋敷の中では失礼にあたるのではないかと考え直して、いつもの貴族用の一張羅に着替えた。

着慣れないせいか、どうも馴染めないんだよな。しかも10年以上忘れてた肩がこるというおまけ付き。

それから共同の浴室にある洗面台で顔を洗い、歯を磨く。この世界では木製の歯ブラシを使い塩で磨くのが一般的だ。しょっぱいが慣れた。

二階の客室から階段を下りて食事の間に行くと、伯爵夫人とすれ違った。

「おはようございます」

「あら、おはよう。今ジュリエッタと交代してくるから、先に好きな食事を皿に取って待っているといいわ」

「ありがとうございます」

それから、机に置いてあるお皿を貰い、パンを貰って好きなおかずを取る。うっわ俺の苦手なナスがある。これはパスだな。

日本にいた時、一度冷めたてんぷらのナスを食べてから、あまりにも印象が悪くトラウマとなってしまった。生まれ変わってもそれは変わらない。

それから、飲み物を貰おうと思いドリンクコーナーに行くと、コーヒーのいい匂いがする。両親はコーヒーが苦手のようで、家ではコーヒーのコの字すら見た事が無い。

やったぞ。こんなところで飲めるとは!俺は期待しながら生まれ変わってから初のコーヒーをいただく事にした。

「ブラックで」

一言告げると従者の男性は驚いた後に失笑をする。お前の仕事は笑うことじゃない。早く俺にブラックを渡すことだ。

「ぼっちゃん。コーヒーは大人が嗜む物ですよ。それにとても苦いので子供向きではありません」

と、ちらっと牛乳の方に目をやる。やっぱり何も知らないと思ってるんだろうな。

苦笑しつつ「いや、コーヒーが飲みたいんです。ブラックで」と繰り返し言った。

「知りませんよ。残したら罰が当たりますからね」

そう言いながら、カップにコーヒーを入れて貰った。うむ。コーヒーだ。楽しみ。

いつの間にかそれを見ていたジュリエッタが興味津々だ。

「私は、お紅茶を」

『紅茶におを付けんなよ!』

「へ~。ヴェルってコーヒーが飲めるんだ~。大人アピール?」

「違うよ。今ちょっとイラっとしたのにジュリエッタまでそう言うこと言うのはやめて」

ちょっと感情出ちゃうな。修行が足りない証拠だよ。反省反省。冷静に冷静に。

それからジュリエッタと挨拶を交わして、コーヒーを嗜む。

「うっ、うまっ。うますぎる」

見た目はアメリカンだが、飲んでみるとエルサルバドルと言う銘柄のようなコクと旨味が喉を刺激する。

「ほんとに~?ヴェルは年齢を偽ってない?」

「いや。見たまんま9歳児だよ。それよりさ、冷めないうちにいただこうよ」

と食事を食べ始めるとジュリッタが聞こえない程度の声で「ああ、やっぱり」と溜息を吐いた。

「どうしたんだい?」

「あらやだ。聞こえた?ナスが嫌いなのバレバレよ」

「ああわかる?ダメなんだよね。嫌いなんだ。好きな人だけ食べればいいと思ってるから、わざわざ取らないよ」

「これだけ料理が並んでるのに、ナスだけ乗ってないからそうだと思ったわ」

そう言ってジュリエッタは、俺の皿にナスを乗せようとしてきた。嫌がらせにもほどがあるだろ。

「好き嫌いは駄目ってば。ちゃんと食べないと立派な大人になれないんだから」

いや、ここは断固拒否だ。婚約したんだろ?ここで食ったら将来普通にナスが食卓に乗るのが目に見える。いや、絶対にダメだ。引かれようがなんだろうが死守しなけば。

「ジュリエッタ、ナスなんて食べなくても歳を重ねれば大人にはなるし、ナスが嫌いな人がみんなダメな大人ってことは無いはずだよ。ナスで摂れる栄養は充分に他で賄えるんだ。それに、例え君が善意でそれをしたとしても、僕に限らず人が嫌いだって言っているのに、嫌な思いをさせて無理矢理食べさせることは正しいことなのかな?」

ごめんなナス、君に恨みは無いけど僕たちは相容れない存在なんだ。許してくれ。

思えばジュリエッタにしてみれば、初めての俺からの拒絶だ(ナスだけど)少し面くらってぶつぶつ言っていたようだが。

「そうね、ヴェルだもんね。ああ、ごめんなさい。もう言わないから午後も楽しく食事しましょ」

「熱く語ってごめん。理解してもらえて嬉しいよ。それでも絶対食べなさいと言われたらどうしようかと思った。ありがとう」

「うふふ。それで変な顔をして食べてるヴェルも見たかったわね」

「いやいやジュリエッタさま、そこはなにとぞご容赦を」

「もう、ヴェルったら」

こうして結果的にジュリエッタには、俺のナス嫌いを深く刻み込んだのだった。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

調子に乗りすぎて処刑されてしまった悪役貴族のやり直し自制生活 〜ただし自制できるとは言っていない〜

EAT
ファンタジー
「どうしてこうなった?」 優れた血統、高貴な家柄、天賦の才能────生まれときから勝ち組の人生により調子に乗りまくっていた侯爵家嫡男クレイム・ブラッドレイは殺された。 傍から見ればそれは当然の報いであり、殺されて当然な悪逆非道の限りを彼は尽くしてきた。しかし、彼はなぜ自分が殺されなければならないのか理解できなかった。そして、死ぬ間際にてその答えにたどり着く。簡単な話だ………信頼し、友と思っていた人間に騙されていたのである。 そうして誰もにも助けてもらえずに彼は一生を終えた。意識が薄れゆく最中でクレイムは思う。「願うことならば今度の人生は平穏に過ごしたい」と「決して調子に乗らず、謙虚に慎ましく穏やかな自制生活を送ろう」と。 次に目が覚めればまた新しい人生が始まると思っていたクレイムであったが、目覚めてみればそれは10年前の少年時代であった。 最初はどういうことか理解が追いつかなかったが、また同じ未来を繰り返すのかと絶望さえしたが、同時にそれはクレイムにとって悪い話ではなかった。「同じ轍は踏まない。今度は全てを投げ出して平穏なスローライフを送るんだ!」と目標を定め、もう一度人生をやり直すことを決意する。 しかし、運命がそれを許さない。 一度目の人生では考えられないほどの苦難と試練が真人間へと更生したクレイムに次々と降りかかる。果たしてクレイムは本当にのんびり平穏なスローライフを遅れるのだろうか? ※他サイトにも掲載中

誰一人帰らない『奈落』に落とされたおっさん、うっかり暗号を解読したら、未知の遺物の使い手になりました!

ミポリオン
ファンタジー
旧題:巻き込まれ召喚されたおっさん、無能で誰一人帰らない場所に追放されるも、超古代文明の暗号を解いて力を手にいれ、楽しく生きていく  高校生達が勇者として召喚される中、1人のただのサラリーマンのおっさんである福菅健吾が巻き込まれて異世界に召喚された。  高校生達は強力なステータスとスキルを獲得したが、おっさんは一般人未満のステータスしかない上に、異世界人の誰もが持っている言語理解しかなかったため、転移装置で誰一人帰ってこない『奈落』に追放されてしまう。  しかし、そこに刻まれた見たこともない文字を、健吾には全て理解する事ができ、強大な超古代文明のアイテムを手に入れる。  召喚者達は気づかなかった。健吾以外の高校生達の通常スキル欄に言語スキルがあり、健吾だけは固有スキルの欄に言語スキルがあった事を。そしてそのスキルが恐るべき力を秘めていることを。 ※カクヨムでも連載しています

実はスライムって最強なんだよ?初期ステータスが低すぎてレベルアップが出来ないだけ…

小桃
ファンタジー
 商業高校へ通う女子高校生一条 遥は通学時に仔犬が車に轢かれそうになった所を助けようとして車に轢かれ死亡する。この行動に獣の神は心を打たれ、彼女を転生させようとする。遥は獣の神より転生を打診され5つの希望を叶えると言われたので、希望を伝える。 1.最強になれる種族 2.無限収納 3.変幻自在 4.並列思考 5.スキルコピー  5つの希望を叶えられ遥は新たな世界へ転生する、その姿はスライムだった…最強になる種族で転生したはずなのにスライムに…遥はスライムとしてどう生きていくのか?スライムに転生した少女の物語が始まるのであった。

役立たずと言われダンジョンで殺されかけたが、実は最強で万能スキルでした !

本条蒼依
ファンタジー
地球とは違う異世界シンアースでの物語。  主人公マルクは神聖の儀で何にも反応しないスキルを貰い、絶望の淵へと叩き込まれる。 その役に立たないスキルで冒険者になるが、役立たずと言われダンジョンで殺されかけるが、そのスキルは唯一無二の万能スキルだった。  そのスキルで成り上がり、ダンジョンで裏切った人間は落ちぶれざまあ展開。 主人公マルクは、そのスキルで色んなことを解決し幸せになる。  ハーレム要素はしばらくありません。

1×∞(ワンバイエイト) 経験値1でレベルアップする俺は、最速で異世界最強になりました!

マツヤマユタカ
ファンタジー
23年5月22日にアルファポリス様より、拙著が出版されました!そのため改題しました。 今後ともよろしくお願いいたします! トラックに轢かれ、気づくと異世界の自然豊かな場所に一人いた少年、カズマ・ナカミチ。彼は事情がわからないまま、仕方なくそこでサバイバル生活を開始する。だが、未経験だった釣りや狩りは妙に上手くいった。その秘密は、レベル上げに必要な経験値にあった。実はカズマは、あらゆるスキルが経験値1でレベルアップするのだ。おかげで、何をやっても簡単にこなせて――。異世界爆速成長系ファンタジー、堂々開幕! タイトルの『1×∞』は『ワンバイエイト』と読みます。 男性向けHOTランキング1位!ファンタジー1位を獲得しました!【22/7/22】 そして『第15回ファンタジー小説大賞』において、奨励賞を受賞いたしました!【22/10/31】 アルファポリス様より出版されました!現在第四巻まで発売中です! コミカライズされました!公式漫画タブから見られます!【24/8/28】 ***************************** ***毎日更新しています。よろしくお願いいたします。*** ***************************** マツヤマユタカ名義でTwitterやってます。 見てください。

俺しか使えない『アイテムボックス』がバグってる

十本スイ
ファンタジー
俗にいう神様転生とやらを経験することになった主人公――札月沖長。ただしよくあるような最強でチートな能力をもらい、異世界ではしゃぐつもりなど到底なかった沖長は、丈夫な身体と便利なアイテムボックスだけを望んだ。しかしこの二つ、神がどういう解釈をしていたのか、特にアイテムボックスについてはバグっているのではと思うほどの能力を有していた。これはこれで便利に使えばいいかと思っていたが、どうも自分だけが転生者ではなく、一緒に同世界へ転生した者たちがいるようで……。しかもそいつらは自分が主人公で、沖長をイレギュラーだの踏み台だなどと言ってくる。これは異世界ではなく現代ファンタジーの世界に転生することになった男が、その世界の真実を知りながらもマイペースに生きる物語である。

~僕の異世界冒険記~異世界冒険始めました。

破滅の女神
ファンタジー
18歳の誕生日…先月死んだ、おじぃちゃんから1冊の本が届いた。 小さい頃の思い出で1ページ目に『この本は異世界冒険記、あなたの物語です。』と書かれてるだけで後は真っ白だった本だと思い出す。 本の表紙にはドラゴンが描かれており、指輪が付属されていた。 お遊び気分で指輪をはめて本を開くと、そこには2ページ目に短い文章が書き加えられていた。 その文章とは『さぁ、あなたの物語の始まりです。』と…。 次の瞬間、僕は気を失い、異世界冒険の旅が始まったのだった…。 本作品は『カクヨム』で掲載している物を『アルファポリス』用に少しだけ修正した物となります。

【本編完結】転生したら第6皇子冷遇されながらも力をつける

そう
ファンタジー
転生したら帝国の第6皇子だったけど周りの人たちに冷遇されながらも生きて行く話です

処理中です...