『ラノベ作家のおっさん…異世界に転生する』

来夢

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第1章 異世界転生

第21話

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 仕事がひと段落したあと昼食を食べると、ジュリエッタに案内されながら屋敷にある芸術作品を見回った。絵画に興味は無かったが良く見ると引き込まれるように美しい絵画ばかりだった。

その後客室に戻るとジュリエッタに言った。

「あのさ、書庫の中の本を読んでもいいか聞いてもらえないかな?」

「書庫には鍵が掛かっているから、お母様に鍵を貰っくるわね。少しここで待ってて」

「なら僕も一緒に付いて行くよ」

早速夫人の部屋に行きお願いしてみる。

「お母様、ヴェルが書庫の本を見たいと言っているんだけど、鍵を貸して貰ってもいい?」

「本当にヴェル君は勉強家ね。感心するわ」

「いや、そんな事はありません。ただの趣味です。時間が空きそうなので」

そう答えると、ジュリエッタが隣で少し拗ねた顔をした。俺の言葉がお気に召さなかったようだ。一緒に遊びたかったのか?

「それじゃ、私もヴェルの部屋で本を読むわ」

ジュリッタは、俺に与えられた部屋に一緒に来るつもりだったみたいだが、夫人から人目があるからやめておけと諭されてあきらめたようだ。伯爵家ご令嬢だからね。もう少し自覚を持ってもらいたいよ。

廊下に出て、書庫に向う途中「夜はこっそり行くからね」と小声で言われた。いや、いいのか?かーちゃんに言われたばかりだろ。

それから書庫で本を1冊借りて読んでいると、いつのまにが寝落ちしてしまった。時計を見ると2時間ほど経っている。

続きを読もうとページを捲ったが頭に入ってこない。しょうがないのでぼ~とする事にした。

なんとなく過ごしていると、メイドさんが食事だと呼び来たのでついて行く。

食事の間に辿り着くと流石は伯爵家、20人ほどが一緒に食事を取れるテーブルに、バスケットに入った大量の果物が一定の間隔で置かれていた。さっき見た静物画に似たようなのがあったな…

緊張をしながら案内された席に腰掛けると、当然のようにジュリエッタが来てそのまま隣に腰掛ける。

「家族の席はもっと前じゃないのか?」

「もう2年も前の話だけどさ、ヴェルのお父様の誕生パーティーで、こうして一緒に食べてくれたでしょう。その時とても嬉しかったからその時のお礼よ」

「ありがとう。それは嬉しいな」

まさかの2年前、あの時ジュリエッタの事を大切にしようと取った行動が巡り巡ってこうして返ってくるとはね。ジュリエッタの心遣いに緊張がとけていくのがわかる。

前菜が運ばれてきてから食事が始まると、テーブルマナーを気にしながら食事をする。

日本にいた時は、箸が中心で、家の屋敷では主に家族だけで食事を摂るのが普通だったので、慣れないマナーに気を取られ、食事の味などは後回しになっていた。

サラリーマンの時にもこんな機会は稀にあったから、何となくはテーブルマナーは把握をしていたけど、レストランではなく、こうして大人の貴族達や文官達と一緒に食べるとなると緊張も別次元だ。

「ヴェルは本当に何でも率なくこなすわね。それも大人達よりもマナーが行き届いている」

「そっか。それなら良かった。こんなに緊張して食事をするのは初めてだからさ、上手く出来ているか不安だったんだよね」

「子供はそんな事を気にしないで食事を楽しむものよ。大事な成長期なんですから自由に食べるといいわ」

夫人に会話を聞かれたのか、そう言われてほっとする。

「ありがとうございます。育ちが悪いと、両親が恥をかかないか心配でしたので、そう言って貰えると助かります」

「あの二人には過ぎた子供だよ」

「おじい様の子供でしょ。そこらへんは、擁護してあげないと可愛そうですよ」

「そりゃしっけい。しかし、ヴェルが自分の子じゃなくて良かったよ」

「それはどうしてですか?」

「こんな子供がいたら、気が抜けないじゃないか?」

全部杞憂だったようだ。良かれと思っていたのだが、どうやら自分の考えている常識は行き過ぎっぽいな。

それからは少し気楽にジュリエッタと会話をしながら食事をし、食後のデザートと紅茶が運ばれて来た。

「そう言えば、ヴェル君はあさってから、主人達と王都に向けて出発するのでしょ?。この分なら王族の度肝を抜けるわね。王族が慌てる姿を思い浮かべると、それだけで笑っちゃうわ」

夫人はそうは言うと楽しそうに笑う。何を想像しているのかは知らないが、王族に恨みでもあるんか?まあ俺は当事者だから笑えないぞ。

王都に行くのも初めてだし、王族を相手にどう接していいのかなんてわからないんだからいい気なもんだよまったく。

「王族の方々と言うのはどのような方々なんでしょうか?」

「王様とお后様と側室の側妃様、正室の第一王子と姫様、側室の第二王子と言った感じね。ちなみに、姫殿下はヴェル君と同じ歳で、勉強が良く出来て鬼才と称されているわ」

「なるほど。鬼才ですか?楽しみですねそれは」

「姫様になびいちゃ駄目なんだからね」

「馬鹿言わないの。身分も然る事ながら、喋る機会などありゃしないよ」

「本当にジュリエッタはヴェル君一筋なんだから。なんだか妬けちゃうわね」

「お母様!確かにそのとおりだけどからかうのはやめて下さい!」

ジュリエッタにそう言われると火が出そうなぐらい恥ずかしい。

なんと言うか、10歳児に言われて浮かれてることを、オトナの俺が自覚して羞恥心がピークになると言う、上手く伝えられないけどこんな感情は普通じゃなかなか無いよな。

身体は子供、中身はオトナのあの探偵さんならわかってもらえるのだろうか。一度聞いてみたい。

ただ、ジュリエッタと相思相愛確かめ合うなんてイベントは夢にも小説にも無かった事だ。だから敢えて言おう。夢の中で無念の死を遂げたヴェル、見ているか?俺はやってやったぞ。

既に自分の書いていた小説の内容とは違い過ぎて、今後の展開は全く読めなくなっている。むしろ何もかも上手く行き過ぎていて、そら恐ろしい。

と言うわけで食事が終ると伯爵夫人から、今日の書類整理の報酬を用意した言う事で、ジュリエッタと一緒に執務室へと行った。

「最初に言っておくけどこれから渡すお金は就労の対価の一部よ。子供に大金は持たせられないから、1/10だけ渡して残りは預かっておきます。だから何か欲しい物があったら言ってちょうだい。その都度必要な分を渡すわ」

そう言われ、封筒を開けてみると小金貨が3枚入っていた。この前買い物に行った時に物の価値を調べたのけれど、この小金貨1枚は日本円でおおよそ1万円だ。

家の屋敷の本を鑑定した時に本の価値が小金貨1枚と書いてあったので、本の値段は1冊1万円となる。

あれだけページ数が少ないのに日本の10倍以上するんじゃ普通の屋敷に本が無くても不思議じゃないや。とこっちでの本。紙?価値に今更ながら驚いた。

その小金貨が3枚で3万円。それが1/10だと考えると、今日の仕事の対価は30万となる。

「これは貰い過ぎです。ジュリエッタと食事に行く分くらいで充分です」

そもそも日本では小学生を働かせることは原則禁じられているからな。日本だったらもらえないよ?ただの手伝いって事で。

「あなたはね。自分のした仕事量が分かってないのよ。私の一月分の仕事をしたのよ。私の給金の半分でも少ないぐらいよ」

あっさり自分の給金は60万円と自白した。まぁ伯爵夫人なんだから、寧ろ責任がある分少ないと思う。

一旦部屋に戻り風呂に案内された。浴室は銭湯のようにデカい。

服を脱いで、浴室の扉を開けると柑橘系のいい匂いがする。バスク○ンかと思ったが、柚子が湯船に浮いていた。流石は伯爵家、贅沢だな~

それから、髪の毛を洗ってから、体を洗う。

この世界には髪を洗うシャンプー、リンスなどは無くて石鹸しか無い。

髪の毛を洗うとギシギシになるので二日に一度しか髪の毛を洗わないのが一般的だ。

風呂を入る習慣があるのも、貴族だけっぽいので自分の設定を貴族にしておいて良かったと思う。

それにしても石鹸があるのだから、後は椿オイルやコラーゲン、クエン酸を配合すればいいのだが、そこまでは研究が進んでいないようだ。と言うか発想が無いのかな。

しかも、最近気がついたことがあって、トイレのスライムを鑑定してみたらコラーゲンで出来ていた。

スライム独特のあのつやつやのぷるんぷるんの正体がコラーゲンだと分かると、見る目も、変わってくる。

この世界のスライムもコアを壊せば液体になると本に書いてあった。

スライムは無論、魔物なので倒したら経験値と小さな魔石は手に入るらしいが、生きていれば小金貨2枚と高額で取引されているし、経験値もたいして入らないので倒す対象にはなりにくいようだ。

なので今回いただいた給金でスライムを買って、研究に充てようなど考えている。うまく行けば化粧品にも流用できる。スライムには今後のより良い生活のために糧になってもらおう。

風呂から上がると、柚子のせいか体がぽかぽかだ。ここまでくると柚子○町という焼酎が飲みたくなる。あれはジュースのように上手い。

いろんな事を考えながら魔道具であるドライヤーで髪を乾かす。ちなみに風が出るだけで暖かく無いのが辛い。

お風呂から上がると、牛乳が用意されていたので一気飲みをする。口の周りに牛乳がついてまるでカー○おじさんの口髭のようになってしまった。笑えるぜ。いい年こいてさ。

新たに書庫で借りた本を2冊抱えながら、夫人やじいさんにおやすみの挨拶をして部屋に戻った。
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