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友2
しおりを挟む部屋着の着物に着替え、見舞いに来たという美代子と亜湖を自室へと招く。
西洋と和が見事にかけ混ざった部屋に、亜湖は目をキラキラと輝かせ落ちつかない様子で外国から取り寄せtたカーペットがひかれている床へと腰を下ろす。
美代子はというと、桜子の部屋にある細々とした西洋の調度品を興味深そうに眺めている。
「流石、花篭氏ね。貿易の主という名も伊達じゃありませんわ。亜湖さんみてごらんなさいな。これは最近流行りのガラスで出来たランタンというものよ」
「すごかね~。キラキラしとって綺麗じゃけ。まっこと不思議じゃ」
「あら、桜子さんのお父様はこの帝都一の貿易商なんですのよ。亜湖様も何か欲しいものがあったら桜子さんに頼んでごらんなさい。何でも揃えてくださるわよ」
「美代子、あまり大袈裟に話をもるな。父上にだって用意できないものはある」
桜子も床に腰を下ろし、何度目かの航海から帰ってきた敏正から渡された西洋の座布団へと体を預ける。
正方形の形をしているそれは、日本の座布団委に比べ綿がふんだんにつめられており、柔らかく弾力があった。何よりも金や銀といった刺繍糸で描かれている花たちはとても美しく、思わず桜子も見とれてしまうほどである。
「あら、なあにその座布団。膨れ上がってるじゃない」
ランタンから興味を移し、床へと腰を下ろした美代子と亜湖にも同じものを渡す。
「西洋の座布団らしいぞ。父上が土産で買ってきたのだ」
「まあ、これが座布団?こんなに膨れてたらお上に座れないわ」
物珍しそうに座布団を引っ張たり伸ばしたりする美代子に、思わず笑いが零れる。
「向こうでは座布団には座らないらしい。こうやって体をもたれかける物だそうだ」
そういって桜子は、はしたなくもカーペットがひかれている床に寝転がるような体制で横になり、座布団に上半身を鎮める。
「まあ、桜子様はしたないわ」
「年頃の女子がそんな恰好したらだめだ!」
美代子と亜湖に窘められるも、桜子は特に気にすることもなく平然と言ってのける。
「これが正しい使い方なんだから仕方あるまい。ここには私達しかいなんだ。それに、この体制も存外悪くない」
異性がいれば流石の桜子だってこのような無防備な格好などしない。ここにいるのは目新しいことに目がない年頃の乙女たちだけなのだ。誰に憚ることもないのである。
桜子の言葉に顔を見合わせた美代子と亜湖も、恐る恐るといった様子で体を寛げる。
「まあ!日本の座布団とは大違い。それにこの刺繍。ハイカラね」
「細かい所までちゃんと奇麗だ。これも人が縫ったがけ?」
美代子に続き、亜湖も西洋の座布団を気にいったようである。
しばらく西洋座布団の話に夢中になっていると、襖の向こうから控えめに声がかけられる。
「お嬢様、お茶請けをお持ちしました」
呼び声に襖を開け、女中が持ってきたお茶請菓子を受け取る。小皿に乗った表面が茶色の黄色いスポンジのような初めてみる茶菓子に目を瞬く。
「なんだこれは?」
「カステーラというものらしいですよ。先日、東条様がお嬢様への手土産として持って来てくださったんですよ。ほんに東条様はお嬢様を大切にされておいでで」
女中の口か出た名に思わず顔を顰める。
先日の無体のことなど知らない女中は不思議そうな顔を桜子に向ける。
「どうかなさいましたか?」
(あの男の手土産など誰が食うものか!)
愛らしい見た目の茶菓子には興を惹かれるが、どうしてもいけ好かない男の顔が浮かび素直に受け取ることが出来ない。
女中に下げろと突き返そうとしたが、それを阻むかのように後ろから声がかけられる。
「まあ!カステーラですって!!最近流行の洋菓子じゃないの。桜子さん、私にも見せて」
声を弾ませる美代子の言葉に、突き返そうとしていた手が止まる。
(・・・・・・いや、あいつは憎らしいが食べ物に罪はあるまい)
自信を言い聞かせるように心を宥める。普段は男言葉をつかっている桜子も可愛らしい物や甘味は好きなのだ。年頃の娘のように黄色い声をあげたりはしないだけで。
「いや、何でもない。下がれ」
軽く頭を会釈をし桜子の部屋から下がる女中を見送り、元の位置へと戻る。
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