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はじまり

魔力石

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――――――――数か月後



「〝ルバルダ”」

ライラが放った術は大きな球体を生み、激しくうねりながら中庭の一部をのみこみ草花が覆い茂る地面をさら地と化す。
最初は何の力を持っていなかったライラだったが、アランの元で魔術の訓練を重ね見違えるほどの成長をとげていた。
今では自身の身を守る最低限の魔法を魔力切れを起こすことなく使えるまでに上達した。
本来なら竜王に謁見した後、直ぐに帰る予定だったのだが学び舎の卒業までは幸い時間もあったためアランの元で魔力を安定させるためにも鍛錬を積むことにしたのだ。
それにはダークも賛成してくれた。
 竜城にライラだけが残ると言い出した時はスティハーン公爵もトゥ―ナも一生の別れを迎えるかのような反対っぷりだったが、公爵もトゥーナも公務が残っておりどうしても残ることが出来なかったのだ。
そんな二人を兄達が説得してくれたおかげ何とか居残ることができた。
ミシェルとクランには、戻ったら改めてお礼を言わなければ。

「いいんじゃねえか。ちたぁマシな腕になったな」

ライラの魔法を傍で見ていたアランが満足そうに頷く。

「はい、アランのおかげです」

「素直なチビは可愛げがあるな。これぐらい魔力が強くなったなら、もうアレを試してもいいか」

何かを思案するよなアランに、ライラは首を傾げる。

「アレって何ですか?」

「ん~、まだ内緒だ。よし!おい、チビ。魔法の練習は今日で終わりだ。もう少しで学び舎に戻るんだろ?あと数日はゆっくり体でも休めとけ」

アランはそれだけ言うとライラの前から颯爽と姿を消す。
それから魔術の練習をすることも無く、日がな一日ダークと過ごした。
そんな竜城生活も、残り数日となった日の夜。
ライラはアランに呼び出され中庭へと足を向けていた。

 「悪いなチビ、こんな時間に。ちゃんと教えた護身の術はかけてるな。偉い偉い」

 「私はチビじゃないって何度言えば分かるんですか!子ども扱いしないでください!!」

 何度目か分からないやり取りを返し、アランの側へと寄る。

 「今日は保護者はいないのか?」

 意地の悪い笑みを浮かべるアランにムスッとした表情でライラは言葉を返す。

 「いつも一緒にいるわけではありませんし、保護者じゃないです!!」

アランが言う保護者とはダークの事である。
確かに日中はダークと共に行動していることがほとんどだが、夜になるとダークは姿を消していることが多い。
ライラが寝静まるまで側にいて、その後にこっそりと何処かに出かけているのだ。ダークがどこに行っているのかライラは知らない。でも、朝目覚めると眠ったときと同じようにダークはライラの隣に必ずいる。
今日も、ライラが眠るのを確認したあとダークは何処かへと消えてしまった。

 「そうか?いつも一緒にいるように思えたがな。まぁ、お前も自分の身を守れるぐらいに強くなったし、子守から解放されたのかもな」

 「子守じゃありません!!・・・・・・ところで、こんな時間に何をするのですか?最後の授業だとお聞きしましたが」

こんな夜中の呼び出しにライラが素直に応じたのは、この時間帯じゃないと出来ない授業があると言われたからだ。こんな時間帯に師とはいえ異性と会っていたなんて噂が、両親や兄たちの耳に少しでも入ってしまえば大変なことになるぐらい用意に想像がつく。そのため早々に授業を済ませ部屋に戻ってしまいたいのが本心である。

 「急用ができてな、明日一番でここを出ることになった。だから今夜のうちに魔力石の作り方を教えて起きたかったんだよ。それに今日は新月だ。闇の力を操るには持ってこいだからな、お前でも簡単に作れるだろう」

 「魔力石を私が?」

魔力石とは名の通り魔力の塊である石だ。
自分の魔力を結晶化させたもので、よく市場にも並ぶ生活に欠かせない出需品の一つでもある。
闇の魔力が体に流れているライラは本来、闇の力しか使えないが炎の魔力石を使えば火を起こすことが出来る。魔力石とは自分が持っていない魔力を補うことが出来る魔法具の一つでもあるのだ。
と言っても、市場に並んでいるものは純度が低く安価なものばかりである。数回使えば直ぐに砕けてしまう。
極まれに純度が高い魔力石が出回ることもあるが、純度が高ければ高いほど高価なものになり簡単に手が出せない代物となっている。
純度が高い魔力石を作るのには相当な実力がいるからだ。魔力石を作るとアランは簡単に言ったが、純度の低い魔力石を作るのすらそれなりの実力が求められるのだ。
今のライラでは小石ほどの大きさも作れないだろう。

「どうした、何をビビってんだ?今日は新月だっていったろ。新月の夜は闇の力が一番強くなる日なんだ。だからいつもより魔力石が出来やすい。それにな、純度の濃さも上がるんだ。ほら、」

そう言ってアランから差し出された左手には、先程までなにも無かったはずの手の平に拳大の黒光りを放つ石が握られていた。

「キラキラしてて凄く綺麗」

「闇の魔力石は他の石に比べ貴重なんだ。純度が低くても必ず買い手はつく。魔力石は小遣い稼ぎにも持ってこいだからな。覚えておいて損はない。やってみろ」

「やってみろって・・・・・・どうやって」

「ただ集中して、一箇所に魔力を集めればい。そうすれば勝手に出来てるもんだ」

大雑把な説明に眉を顰めつつもアランに言われた通り、自身の魔力の波動を掴み一点に集中させるイメージを頭の中で起こす。
すると、先程まで何も無かった手のひらに小石大の小さな欠片がのっていた。

「言っただろ?簡単だって。それを何度か繰り返してコツを掴めば石になる。純度は申し分ないな。これなら欠片でも高く売れる」

「凄いですアラン、本当に私でも作れました!」

ライラの手の平に乗っている欠片は石というにはまだまだほど遠い物だったが、確かに闇の魔力を放っていた。

「もう少しお前の魔力が増えれば大きい石も簡単に作れるようになる。魔力を戻したいときは手の平で握ってみろ。自分で作った魔力石なら体内に戻すことも出来る」

言われたとおりに欠片を握れば、手の平に吸い込まれるように欠片は綺麗に消えた。
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