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はじまり
お兄様 新
しおりを挟む竜王に謁見してから2日目の朝、宛がわれた一室で読書をしていたライラは不意に聞こえたノックの音に首をかしげる。
ダークによって部屋へと強制送還された後、ライラは一度もこの部屋の外には出ていなかった。
竜の間から中途半端に退場してしまった手前、形だけでも謝罪しようと竜王に謁見を求めたのだがやんわりと断られ、かといって勝手に城内を歩くことも出来ず大人しく部屋にいるしかなかったのである。
しばらくは警戒して傍を離れなかったダークも、ライラの身に危険がないと判断したのか気付いた時にはフラッと姿を消していた。
それ以降、この部屋に訪れたのは食事を運んでくるメイドと暇潰しにと、本を届けて来てくれたカザルだけである。だが、食事の時間にしてはまだ早いなと時計を確認しながらも扉に声を返す。
「どうぞ」
「「ライラ!!」」
返した声とともに勢いよく開けられた扉から同じ顔を持つ二人の青年が部屋へと入ってくる。
その見覚えのある二人にライラは驚き、思わず素っ純狂な声をあげる。
「ミシェルお兄様!!クランお兄様!!」
予想だにしていなかった訪問者に読みかけの本を机に置き慌てて駆け寄る。
「ふふ、驚いた顔も可愛いね、ライラ。びっくりした?僕達も父上に知らせを受けてね、急ぎこちらに出向いたんだよ。勿論、父さんや母さんもいるよ。と言っても、父さんはこっちに着いて直ぐに、王国騎士団の人達に連れられてどこかに行ってしまったのだけれどね。」
母親譲りのブロンドの髪に気品だつ整った顔を柔和に微笑ませ、妹を溺愛していますという表情を前面に醸し出しているのは歳の離れた双子の兄であるミシェルだ。
「そんな父さんを、別室で母さんが待ってる。皆で部屋を開けると戻ってきた父さんが驚くからな。母さんに頼まれて俺たちだけ、先にライラの様子を見に来たんだ。」
そんなミシェルに続き、後ろから現れ口を開いたのはこれまたミシェルにそっくりな双子の弟のクランである。
「お久しぶりですお兄様!!まさかこんな所でお会いできるなんて!お二人に会えてすごく嬉しいです!!」
そんな二人に向け、ライラも華のような満面の笑みを返す。
「ふふ、僕も会えて嬉しいよ。母さん達も落ち着いたらこっちに来るよ。あぁ、そうだ。改めて、精霊との契約おめでとうライラ。一緒に祝ってやれなくてごめんね?本当は駆けつけたかったんだけど、昇進テストが近くてね、都合がつかなかったんだ。今度きちんと祝うよ。」
「ありがとうございます、ミシェルお兄様」
「お前も元気そうで何よりだ。俺からも改めておめでとう。・・・・・・それより玉座で出来事を少し聞きかじったんだが・・・・・・本当に怪我はないのか?」
「クランお兄様もありがとうございます。玉座での事は・・・・・・闇の精霊王が守ってくれましたから、怪我はありません。」
交互に話すミシェルとクランを部屋に招き入れ、メイドが置いていったティ―セットで三人分のお茶を用意する。
本来なら側使えと呼ばれる専属の付き人の仕事なのだが、あいにく竜城には一人で来てしまったため早々に自分で淹れる。
「あまり美味しくないかも知れませんが・・・・・・。」
湯気がたつ紅茶を座り心地の良い椅子に腰かける二人の前へと並べる。
「ありがとう。ライラが淹れてくれたものなら何でも嬉しいよ。」
「おっ、サンキュな。・・・・・・・さて、玉座の間で何が起こったのか俺たちに聞かせてくれるか?王国騎士団のカザルって奴から掻い摘んでしか聞いてないからな、詳しく教えてくれ。」
隠し事は許さない。そんな含みを視線にのせ、クランとミシェルはライラを捉える。
そんな二人に促されライラも自身の入れた紅茶を一口飲み、事の発端をポツリポツリと話し出した。
―――――――――――
それから、玉座の間だけではなく精霊の儀で起こった出来事も追及されたライラは全てを包み隠さず話すこととなった。
事の詳細を聞き終えたミシャルとクランの表情は険しくどちらともつかない盛大な溜息が室内に響き渡っる。
「そのトカゲ殺されれば良かったのに」
怜悧な笑みを浮かべ、恐ろしい言葉を躊躇なくさらりと言い放つミシェルの瞳には竜王に対する怒りが色濃く浮かんでいた。
「落ちつけミシェル。トカゲじゃない。竜王だ。」
そんなミシェルをクランが宥めつつ諫める。
「尻尾が再生するかしないかの違いだよ。それに先に手を出してきたのは向こうなんでしょう?」
「・・・・・・そうですが、」
言葉を詰まらせるライラにミシェルは強い口調で言い放つ。
「ライラは精霊王がいなかったら殺されてたかもしれないんだよ?竜王だからって何でも許されるわけじゃないよね?しかもこんな幼い子に向かってすることじゃないよ」
ライラも憤るミシェルを落ち着かせようと、口を挟もうとするが有無を言わせない笑顔で押し黙される。
「確かに竜王が悪い。だが、ミシェルその言い方はよせ。誰かに聞かれたら不敬どころじゃない。」
「分かったよ。俺もトカゲのせいで首を刎ねられらくはないからね。」
悪びれもなく言い流すミシェルにクランの鋭い眼差しが向けられる。
「あーもう分かったっよ。・・・・・・それにしても・・・・・・・ねぇライラ、君が契約した精霊は精霊王で間違いないんだよね。精霊の儀での出来事もそうだけけど、君はもう少し精霊との付き合い方を学ぶべきだね」
「あー・・・・・・それは俺も思った。ってもまだ、契約したばかりだしなぁ。知らなくても仕方ないんだけどよ、精霊と契約した以上知りませんでしたわ通用しねぇからな」
まだ瞳に憤りを浮かべるミシェルと物言いたげなクランの視線がライラに向けられる。
そんな二人にライラは小さく首を傾げた。
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