上 下
57 / 68

第57話 生贄の谷

しおりを挟む


2日後


『にゅめょりと』たちが魔界の生贄の谷に到達した。



セラフィーナは辺りを見渡しながら言った。



「ここが……グリーンフェルデ王国と
アストラル王国の人々が連れ去られた場所ね」



彼らの目の前に広がる光景は
想像を遥かに超える絶望そのものだった。



谷の奥深くには
闇の力によって築かれた巨大な建造物がそびえ立ち
まるで地平線をも覆い尽くすかのように
圧倒的な存在感を放っていた。





その周りには無数のカプセルが並んでおり
それらには各国の王国民たちが
無表情のまま眠らされていた。



エリシアは胸が締めつけられる思いで
言葉を絞り出した。


「ひどい……こんな場所に人々を閉じ込めるなんて……」



セラフィーナは呟くように


「これが…生贄の谷…」




セラフィーナはカプセルの並ぶ景色に圧倒され
思わず言葉を漏らす。





「こんなに多くの人が…どうやって解決すれば…」


エリシアは心の奥から湧き上がる不安を抑えきれず
かすかな震えを感じていた。



カプセルに閉じ込められた人々の命を救うために
何ができるのか
その解決策はまったく見えない。





「このカプセルを壊すことはできない…中にいる人々の命を奪ってしまうだけだ…」


『にゅめょりと』は冷静に状況を見据えながらも
焦燥感を抱えていた。



カプセルが生贄となる人々の命を
魔王の魔力の源として繋いでいることは明白だったが


同時に壊せばその命を奪ってしまうという
二重の罠となっていたのだ。





「ここをそのままにしておくわけにはいかない


解決策を探さなくちゃならないわ…」


アイシャは力強く決意を込めて語りかける。



その声には
かつての勇者パーティの一員としての責任感と
今は『にゅめょりと』たちと共に戦う覚悟が込められていた。





「解決策はあるはずだ」


『にゅめょりと』は仲間たちに向けて頷く。



冷静な瞳には希望を失わない
強い光が宿っていた。



「カプセルの機能を止めて
中の人々の命を奪わずに解放するには……

魔王の魔力を断ち切るしかない

それ以外に方法はない」



その言葉に
仲間たちは互いに頷きあう。



今は目の前にある絶望の光景に惑わされることなく
解決策を見つけ出すために前へ進むしかない。





その時
不意に霞之刃かすみのはが建物の陰に目を向けた。



「…誰かいる!」


一瞬で身構える霞之刃かすみのはの鋭い反応に
他のメンバーもすぐさま武器を構える。





そして影から現れたのは
強大な魔力をまとった者の姿だった。



その瞳には冷酷な笑みが浮かんでおり
生贄の谷に侵入してきた『にゅめょりと』たちを一瞥したかと思うと
口元が歪んで声を上げた。





「お前たちも、その生贄に加えてやるとしよう」




魔王軍の幹部として立ちはだかったのは
『アビサルヴァンガード』


と呼ばれる精鋭部隊の一員で
魔王の直属配下の女魔族
セレクタであった。



セレクタは冷酷かつ残忍な性格であり
かつてセラフィーナとアイシャを捕らえ
監禁した経験がある。




その際
セレクタは二人の戦士としての誇りを打ち砕くため
彼女たちの排泄を制御できないような魔法をかけ
屈辱的な状況に追い込んだ。




戦士としての尊厳を奪われたセラフィーナとアイシャは
あの時の苦しみと恥辱を深く心に刻みつけられ
その記憶が今でも彼女たちを苛んでいた。





「セレクタ……!」


セラフィーナは剣を握り締め
怒りに燃える瞳で彼女を睨みつける。



声が震えているのは
その怒りが激しさを増しているからだ。



「よくも……よくも
あのような屈辱を与えてくれたな!
私たちを……侮辱し、弄んで……!」




その隣で
アイシャもまた鋭い目つきでセレクタを見据える。



唇を噛み締め
怒りを抑えることなく
その声を吐き出した。



「今度こそ……絶対にお前を許さない!
あの時の恥辱を
何倍にもして返してやる!」




セレクタはその二人の激昂ぶりに
薄笑いを浮かべたまま
何の動揺も見せなかった。



それどころか
その口元には軽蔑と嘲笑が溢れ
冷たく響く声で彼女たちをからかうように言い放つ。



「あらあら、随分と元気じゃない。

……尿の垂れ流しはもう治ったのかしら?
それとも
また私が排泄まみれにしてあげようか?」




セレクタのその言葉に
セラフィーナとアイシャは
心の底からの怒りが湧き上がり
身体全体に戦慄が走った。



手にした武器がわずかに震え
その瞳には今にもセレクタに飛びかからんとする狂気が宿る。



「黙れ!」


セラフィーナは叫び
剣を構える。



その剣先には
光の魔力が集まり始め
まるで彼女の怒りがそのまま具現化されたかのような激しい輝きを放っていた。





「貴様には絶対に負けない……!
あの時の私たちとは違う!」




アイシャもまた
剣を構え直し
セレクタに立ち向かう覚悟を決める。




闇の中で彼女たちの怒りは炎のように燃え盛り
次なる戦いへの決意を強く固めていた。





セレクタの嘲笑が谷に響き渡る中
セラフィーナとアイシャはその屈辱に決着をつけるべく
そして王国民を救うために
剣を掲げ戦いに挑むのであった。






その時
重々しい空気を切り裂くように
背後から圧倒的な魔力の気配が迫った。



月姫組とセレクタの緊張感が最高潮に達した瞬間
闇の中から姿を現したのは
恐るべき存在——魔王アザゼルだった。




「これはこれは
魔王様が直々にお越しとは」


セレクタはその場で膝をつき
地面に頭を垂れて忠誠の姿勢を示した。




その身から溢れ出す魔力は
まるで空間そのものをねじ曲げるかのような圧迫感を放っていた。




「ふふふ……生贄を取られては
さすがの私も困るのだよ」


アザゼルは静かに微笑みながらそう言い放ち
冷徹な瞳で『にゅめょりと』たちを見据える。



その目には
明らかな余裕と威圧が宿っていた。





次の瞬間
アザゼルは鋭い動きを見せ
その魔力でエリシアを空中へと浮かせると
まるで引き寄せるかのように自らの手元へと引き寄せた。




「きゃああああーーーっ!!!」


エリシアは足元が地面から浮き上がる恐怖に襲われ
必死にもがきながら悲鳴を上げた。




「くっ……エリシア!」


『にゅめょりと』は叫び
彼女を助けようと駆け出す。



しかし


アザゼルはその手に握られた漆黒の剣を
エリシアの首元へと突きつけ
邪悪な笑みを浮かべた。



「この娘を返して欲しくば……
我が最大の魔王城


『マレフィックシタデル』

に来るが良い。



そこで貴様の力を見せてみろ
勇者『にゅめょりと』よ」



「!」



そう言うとアザゼルは邪悪な笑い声を響かせながら
まるで黒い霧のように消え去り
エリシアを連れ去ってしまった。



空間に残るのはその場に立ち尽くす『にゅめょりと』たちと
アザゼルが残した不吉な魔力の余韻だけだった。





「くそっ……!」


『にゅめょりと』は歯を食いしばり
拳を握りしめる。



仲間を守れなかった悔しさと
圧倒的な力の差を見せつけられた無力感に苛まれていた。





その時
セラフィーナが静かに『にゅめょりと』に歩み寄り
彼の肩に手を置いた。



「『にゅめょりと』様
ここは私たちにお任せください


私たち月姫組で
生贄の谷を守ります



今は
どうかエリシアを……救い出してあげてください」




その声には決意と覚悟が込められており
彼女の瞳には揺るぎない信頼が宿っていた。



彼女だけでなく
霞之刃かすみのはやアイシャもそれぞれがうなずき
覚悟を決めた表情で『にゅめょりと』を見つめていた。





『にゅめょりと』は一瞬
迷いと葛藤の表情を浮かべたが
すぐに強く頷いた。



「……分かった

ここは頼む
セラフィーナ


必ず……必ずエリシアを取り戻してくる!」




『にゅめょりと』は彼女たちに背を向け
一人で闇の中へと走り出した。



その背中には
仲間への信頼と
エリシアを救い出すという強い決意が込められていた。



魔王アザゼルのいるマレフィックシタデルへ
そしてエリシアを救い出すための新たな戦いが始まるのであった。





セラフィーナ、霞之刃かすみのは、アイシャ
そして月姫組のメンバーたちは
彼の背中を見送りながら
自分たちの役割を果たすべく再び構えを整えた。



「生贄の谷は
私たちが守り抜く……!」


セラフィーナは剣を掲げ
その刃に誓いを立てた。



しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

勇者一行から追放された二刀流使い~仲間から捜索願いを出されるが、もう遅い!~新たな仲間と共に魔王を討伐ス

R666
ファンタジー
アマチュアニートの【二龍隆史】こと36歳のおっさんは、ある日を境に実の両親達の手によって包丁で腹部を何度も刺されて地獄のような痛みを味わい死亡。 そして彼の魂はそのまま天界へ向かう筈であったが女神を自称する危ない女に呼び止められると、ギフトと呼ばれる最強の特典を一つだけ選んで、異世界で勇者達が魔王を討伐できるように手助けをして欲しいと頼み込まれた。 最初こそ余り乗り気ではない隆史ではあったが第二の人生を始めるのも悪くないとして、ギフトを一つ選び女神に言われた通りに勇者一行の手助けをするべく異世界へと乗り込む。 そして異世界にて真面目に勇者達の手助けをしていたらチキン野郎の役立たずという烙印を押されてしまい隆史は勇者一行から追放されてしまう。 ※これは勇者一行から追放された最凶の二刀流使いの隆史が新たな仲間を自ら探して、自分達が新たな勇者一行となり魔王を討伐するまでの物語である※

異世界召喚された俺は余分な子でした

KeyBow
ファンタジー
異世界召喚を行うも本来の人数よりも1人多かった。召喚時にエラーが発生し余分な1人とは召喚に巻き込まれたおっさんだ。そして何故か若返った!また、理由が分からぬまま冤罪で捕らえられ、余分な異分子として処刑の為に危険な場所への放逐を実行される。果たしてその流刑された所から生きて出られるか?己の身に起こったエラーに苦しむ事になる。 サブタイトル 〜異世界召喚されたおっさんにはエラーがあり処刑の為放逐された!しかし真の勇者だった〜

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

幼なじみ三人が勇者に魅了されちゃって寝盗られるんだけど数年後勇者が死んで正気に戻った幼なじみ達がめちゃくちゃ後悔する話

妄想屋さん
ファンタジー
『元彼?冗談でしょ?僕はもうあんなのもうどうでもいいよ!』 『ええ、アタシはあなたに愛して欲しい。あんなゴミもう知らないわ!』 『ええ!そうですとも!だから早く私にも――』  大切な三人の仲間を勇者に〈魅了〉で奪い取られて絶望した主人公と、〈魅了〉から解放されて今までの自分たちの行いに絶望するヒロイン達の話。

幼馴染達にフラれた俺は、それに耐えられず他の学園へと転校する

あおアンドあお
ファンタジー
俺には二人の幼馴染がいた。 俺の幼馴染達は所謂エリートと呼ばれる人種だが、俺はそんな才能なんて まるでない、凡愚で普通の人種だった。 そんな幼馴染達に並び立つべく、努力もしたし、特訓もした。 だがどう頑張っても、どうあがいてもエリート達には才能の無いこの俺が 勝てる訳も道理もなく、いつの日か二人を追い駆けるのを諦めた。 自尊心が砕ける前に幼馴染達から離れる事も考えたけど、しかし結局、ぬるま湯の 関係から抜け出せず、別れずくっつかずの関係を続けていたが、そんな俺の下に 衝撃な展開が舞い込んできた。 そう...幼馴染の二人に彼氏ができたらしい。 ※小説家になろう様にも掲載しています。

死んだら男女比1:99の異世界に来ていた。SSスキル持ちの僕を冒険者や王女、騎士が奪い合おうとして困っているんですけど!?

わんた
ファンタジー
DVの父から母を守って死ぬと、異世界の住民であるイオディプスの体に乗り移って目覚めた。 ここは、男女比率が1対99に偏っている世界だ。 しかもスキルという特殊能力も存在し、イオディプスは最高ランクSSのスキルブースターをもっている。 他人が持っているスキルの効果を上昇させる効果があり、ブースト対象との仲が良ければ上昇率は高まるうえに、スキルが別物に進化することもある。 本来であれば上位貴族の夫(種馬)として過ごせるほどの能力を持っているのだが、当の本人は自らの価値に気づいていない。 贅沢な暮らしなんてどうでもよく、近くにいる女性を幸せにしたいと願っているのだ。 そんな隙だらけの男を、知り合った女性は見逃さない。 家で監禁しようとする危険な女性や子作りにしか興味のない女性などと、表面上は穏やかな生活をしつつ、一緒に冒険者として活躍する日々が始まった。

俺がカノジョに寝取られた理由

下城米雪
ライト文芸
その夜、知らない男の上に半裸で跨る幼馴染の姿を見た俺は…… ※完結。予約投稿済。最終話は6月27日公開

彼女の浮気相手からNTRビデオレターが送られてきたから全力で反撃しますが、今さら許してくれと言われてももう遅い

うぱー
恋愛
彼女の浮気相手からハメ撮りを送られてきたことにより、浮気されていた事実を知る。 浮気相手はサークルの女性にモテまくりの先輩だった。 裏切られていた悲しみと憎しみを糧に社会的制裁を徹底的に加えて復讐することを誓う。 ■一行あらすじ 浮気相手と彼女を地獄に落とすために頑張る話です(●´艸`)ィヒヒ

処理中です...