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48話 代替わりの時期

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 1人の道中、僕は感傷に浸っていた。僕の部下はもういない、そう思うとあの頃の思い出が嘘のように感じてしまった。他の勢力との抗争を何度も乗り越えてきた仲間達が、敵として僕の前に現れ、そいつらを殴らなきゃいけない。そんな拷問、あんまりだった。

 愛斗はうちの勢力の中でも下っ端で、抗争にすら参加させていなかった。そんな奴がどうしてリーダーのような振る舞いができたのか。大方、幹部でも約束したのだろう。名声に目が眩み、あいつらは前が見えなくなった。

 僕は怒ってもいた。地位に目が眩むような奴らではなかったはずなのに、どうして考えが豹変していたのか。僕には到底理解できなかった。

 この地域にはいくつもの勢力がある。それらを僕らの間では、何とか派と呼んで区別していた。これから向かうのはそんな派閥の中でも僕らの次に力があった派閥だ。その名も誠也派。名前からも分かる通り、リーダーは誠也である。

そいつにある提案をしに、僕は向かった。言っておくが僕が総長という肩書きを持っているのは、すべての派閥をまとめ上げる役職に相応しいからという、勝手につけられたものだった。だからこれは、この地域のチンピラの中で1番強い奴が持つものなのだ。

僕はそのリーダーの元を訪ねた。チャイムを鳴らし、初対面の彼のお母さんと挨拶を交わすと、彼を呼んでくると言ってくれた。彼のお母さんは僕のことを知っていたようで、僕の顔を見るなりにこやかな顔を浮かべていた。

「翔太さん、どうしたんですか?」

「ああ、ちょっと話をしたくてな。入ってもいいか?」

「どうぞどうぞ! 上がってください。遠いところありがとうございます。」

こんな礼儀正しい子が、この地区では三本の指に入るほど、喧嘩の強い男なのだ。誠也は僕の一つ下で、今は高1。僕がこの地域にいた頃は、週に二、三度は喧嘩をしていた。

「それで、どうしたんですか?」

誠也は僕を自室に招待すると、麦茶をコップに注いでくれた。

「僕は今日をもって、総長の位を下りようと思ってな。それで、お前の跡を継いで欲しいんだ。」

「何を言って…………」

そんな顔をすると思ったよ。お前ほどの性格なら、僕を引き止めるに決まってる。

「僕はね、もう疲れたんだよ。総長になんてなるもんじゃないね。」

「それでも適任は翔太さんしかいないんです! そんなこと言わないで下さいよ!」

「誠也、僕ももうすぐ高3なんだよ。受験勉強しないといけないし。中学の頃のように、治安維持活動もできないからな。」

「じゃあ誰が翔太さんの代わりを務めるんですか!? あなたほどの強さと人望を兼ね備えた人なんて、この地域にはいませんよ?」

「後任はもう決めてるんだ。」

「えっ、誰なんです?」

「誠也、お前だよ。」

「えーーーー!!」

話の流れ上お前しかあり得ないだろ……まったく、そういうとこ鈍いんだよなお前は。

「何で俺なんですか! もっと他にもいるでしょう?」

「僕が1番信頼をするお前なら、全てを任せられる。だから引き受けてくれないか?」

「……それなら、友也さんだっていいのでは?」

そういえば誠也に話忘れていた。さっきの出来事について、僕は事細かに説明した。それが原因で友也と絶縁し、後継者も他の派閥から探さなくてはいけなくなった。

「そんなことが……たしかに信頼できませんね、それは。」

誠也は最後まで話を聞いて、僕にそう言った。彼は呆れた顔を浮かべ、僕の派閥の連中を軽蔑しているように見えた。

「分かりました。そこまで言うのなら引き受けましょう。」

「本当か! やってくれるか!」

「但し……俺は総長代理として、責務をまっとうします。」

「何で代理なんだよ。別に総長名乗ってもいいんだぞ?」

「いえ、私はあなたに一度も勝っていませんし、あなたほどの人望もありません。そんな方を差し置いて総長を名乗るのは些か抵抗があります。」

ったく、真面目だな……こんな奴がうちの派閥にいたらどんなによかっただろうか。あんなごろつきばっかで、礼儀もなく、権力欲しさに人を貶める奴らとは格が違うな。

「僕、そんなんじゃないんだけどな……まあ、お前が言うならそうしよう。強制する気もないし。」

「ありがとうございます! これからは総長代理として。総長が帰省している時は、副総長として頑張ります!」

「ああ。よろしく頼むぞ!」

僕らは男同士の約束を交わし、握手をした。

これでようやく安心して勉強に本腰を入れられるな。僕が久々に帰省してみたら、この地域の治安最悪なんだよ。そんなの、心配で集中なんかできるわけないだろ。

「邪魔したな。誠也、この地域の治安はお前にかかってる。だから、気張って行けよ!」

「はい! がんばります! 翔太さんも気をつけて帰ってください!」

「ああ。またな。」

僕はこれから紗南さんの家に帰り、少しばかり昔話をしたい。総長という大仰な肩書きからもようやく解放される時が来た。それが少し嬉しかった。
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