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39話 トイレの攻防戦

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 「とりあえずあと5時間あるから、それを乗り切るための作戦を考えないといけないわね……」

 僕らは5時間を乗り切る選択肢を選んだ。先生に言っても警察に通報しても、取り合ってすらくれない可能性が高い。だから自分たちを信じて行動するしか無かった。

 僕らは、とある喫茶店に入った。窓がほとんどなくて少し閉鎖的な空間が、今は逆にありがたかった。あの男の部下達がそれぐらいの量いるのか見た目でも数十人はいた。

 流石に目立つような行動を慎むはずだから、大人数で行動は避けるはずだ。だから、細かく散らばっていると予想を立てた。

「そろそろ20分?」

「だな。時々、外に柄の悪い男達が通ってたな。」

「始まったね……」

 葵の声は震えていた。トラウマを植え付けた相手が、目の前で再び恐怖を与えた。その事実は僕らの目に明白に映っていた。

「作戦通りにね。」

「ああ。行こう!」

 そして僕らは行動を始めた。あと5時間40分なんとか葵を守り切らなければならない。10分後準備を整えて通りに出て行った。平日で尚且つ、交通量が多い。

 これでは逃げる場所が限られてくるし、バレやすくもなる。あと1時間半後に、この通りでは面白いことが起こる。それまで耐えられれば、勝機は見えてくるだろう。

「絶対頭出したり、顔あげたりするなよ。もし近くにいたらバレるからな。」

僕はパーカー姿の女子と歩いていた。格好は基本制服。でも上に一枚羽織るくらいなら大丈夫、そうしおりには記載されていた。だからルール上は問題ない。

「ごめん、ありがとう。ちょっとの間お邪魔するな。」

「全然大丈夫だから。なんか楽しそうじゃん?」

 僕らは4人の班を半分に分け、発見されるリスクを下げるためにこのような手段を取った。僕自身も少しだけ格好を変えて、マスクをしている。

 パーカー女子も同様にマスクをつけていた。最低限で、しかも怪しまれるスレスレのラインでの変装を心がけた。

「……とりあえず、僕らはあまり話さない方向で。」

 パーカー女子は「うん……」とだけ返すとすぐに押し黙った。

 約30分くらい経過した頃、僕の携帯に一通の連絡が届いた。「後をつけられている。」と。僕と巧はイヤホンをインカムのように使って、逐一情報を取り当ていた。

 そう、僕らが取った作戦は、どっちが葵か分からなくする作戦。体型も身長もほぼ変わらない二人は、傍から見ても全く見分けがつかない。それを利用して撹乱するつもりだ。

「こっちは今の所大丈夫。巧はそのまま様子を見ていてくれ。」

「オーケー!」

 巧は軽快な返事をした。しかしそれを聞いたのはこれが最後だった。少しずつ向こうの様子が変わってきたらしく、チンピラから追われる回数が増えてきていた。

 開始約1時間の今、インカムに聞こえてくるの女子を連れて走る巧の息切れと励ます声だけだった。

「……そろそろ限界だ。あれをやろう。」

「分かった。僕らもちょうどつけられ始めたところだったから、丁度いいな。」

「ああ、よろしく…………おい離せ! 触んじゃねえ!」

「どうした、巧?」

僕がそう問いかけると、巧は申し訳なさそうな声で言った。

「すまん、こっちの女子が沙耶香だってバレた……」

残り4時間半でバレたか……流石に早過ぎやしないか。あいつらも必死と言う訳だ。どれだけ葵を傷つければ気が済むのか、僕にはあいつらの気がしれない。

「そっちからチンピラ達はいなくなったか?」

「ああ。翔太の方に向かった。」

「だったら好都合だ。場所変更をしたい。そこにきてくれ。」

「わかったぜ。すぐに向かう。作戦通りに準備を済ませとくから。」

「よろしく頼むね。」

僕はそう言うと一度深呼吸をした。後ろからチンピラ達が数人がかりで捕まえようとしているのは知っていた。だからすぐにでもはなれる必要があった。

「葵、走れるか?」

「行けるよ。」

僕らは走り出した。ちゃんと紛れ込んだその班にもお礼を言って、集合場所を目指して全速力で走った。

「トイレ行っていい? 漏れそうなんだよね……」

「マジか……わかった急いで行ってきて。ここで僕待ってるから。」

そして、チンピラが襲いかかってきた。人数は数人しかいないから片付けるには造作もないことだが、その後の事を考えないといけない。

「これで全部だな。」

「葵終わったよー。」

僕は少し明るめのトーンで言った。彼女はパーカーを深く被り、顔を見えないようにした。

「出てきたな、本命の女。全員で行くぞ!」

その中には幹部の男がいるようで、周りのチンピラに比べてひとまわりガタイがよかった。

「葵、ちゃんと僕の後ろにいろよ。」

「うん、いるわね。」

そして再び殴り合いが始まった。さっきと同様に部下のチンピラを瞬殺し、幹部との一騎打ちに移った。僕は猪のようの突進してくる幹部のを、なんとか止めて、膠着状態に入った。

……今だ。

僕は一瞬の隙を見つけ、幹部のみぞおちを殴り、再び立ち上がってきたところを、思い切り蹴り上げた。

「て、てめえ……よくもやってくれたな……でもゲームオーバーだな……」

一人の雑魚チンピラは回復して、パーカー女子を捕まえていた。

「おい、フードとってみな。」

そうチンピラに促すと、血相を変えてフードを取った。

「お疲れ様。私は葵ではありません。だからその汚い手を早く離してね。」

沙耶香がそう言い切ると、僕は一発腹部を殴った。

「く、くそ……」

その場にいたチンピラは全滅した。そして僕らは再びその場から走って逃げていった。

まだまだ僕らの戦いは続く……。



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