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12話 起きたらそこは非日常

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 そんな冗談もあって別荘に向かって車を走らせていた。適当な雑談を交わしているうちに、巧の別荘に到着した。

 「翔太。起きてー、着いたよ。」

 「んっんん……。もう着いたのか……?」

 「何寝ぼけてんの? ほら早く荷物持ってくよ。」

 「あっうん……分かった。先行ってて。」

 目が半開きのまま、寝ぼけた意識の中で、僕は立ち上がった。フラつきながらもどうにか車から降りて、自分のスーツケースとリックを持った。そしてそのまま、久々の別荘の中に入って行った。

 「凄いね……。こんな広い別荘、見たことない。」

 「巧の家は資産家だからな。こんな別荘の一つや二つ買うのは造作もない事だろ。」

 「やめてよ、そんなお金持ってますみたいなの。俺そんなお金持ってないからな。」

 「巧が持ってなくても、親がメチャクチャ持ってんだろ?」

 「まあね。でも俺にはそんな実感ない。」

 まあ、昔からそれが当たり前だから、自分が資産家の息子だなんていう実感がないのも、当たり前っちゃ当たり前なんだろうな。

 それでも、資産家の息子ならではの苦悩もあるらしい。家に帰れば会社のお偉いさんとか、他企業の社長が家に来ていて、遊びに来ている人ならいいのだが、取り入ろうとする大人が時々来るそうだ。家だけじゃない。授業参観にきた親御さん達に、クラスメイトや他学年の先輩後輩まで。

 巧の家のお金持ち目当てで近寄ってくる人間が多いそうだ。だから人望もあって、友達も作ろうと思えばいくらでも作れるような人だが、僕ら以外に友達を作ろうとはしない。その理由がそれだったりする。

 だからお金の話題になると、少し不機嫌になったりする事がしばしばあるようだ。でもそれは、彼の境遇がそうさせた。だから僕はそれを咎めるようなことはしないし、僕からもその話題を触れ回ることはしない。

 「この後はどうするんだ?」

 「海でも行こうぜ。夏休みだし、泳ぎてーよ。」

 「いいわね。今日のために新しい水着を買ったのよ。だからそのお披露目という事で。楽しみにしててね。」

 「何でそんなに、口調がおばさん臭いの?」

 「なっ、まだ17歳のJ Kなのに。失礼しちゃうわ。」

 沙耶香の冗談めいた言葉は僕らの笑いを誘った。やはり彼女は面白い。

 「私もね買ってきたよ。翔太と一緒に買いに行ったんだ。」

 「あら、翔太。葵ちゃんの水着の感想は?」

 「それは、葵が水着に着替えてから言うよ。」

 僕は照れ隠しのようにそう言った。

 「じゃ、みんな食べ終わったみたいだし、海に行くか!」

 巧はそういうと、席を立ち自室に戻った。この別荘では、一人一部屋用意されている。だからラッキーなんとかが起きる事は無いだろう。

 あったほうがいいのか、ないほうがいいのか選べと言われたら。そりゃ前者を選んじゃうけど、変なトラブルを避けられるのならそれでいい。

 僕も自室に戻り、自前の海パンを履いた。

 窓の外を眺めてみる。自分が住んでいる世界とは別次元の風景だった。目下に広がる雄大な海に、それを取り囲むようにして聳え立つ山々。蝉の声が響き渡り、木々が山を緑色に染めていた。

 ここ一帯は巧の家の私有地だから、僕ら四人と数名のメイドさんがいるだけ。僕にはこの旅行が楽しくなる未来しか見えていなかった。

 「遅せーぞ、翔太。早く泳ごうぜ!」

 「おい待てよ。そんな急ぐなって。」

 「早い行かなきゃ、遊ぶ時間なくなるだろーが!」

 巧は走って海に通ずる階段を降りていった。僕らの姿は客観的に見て、小学生が海をみて興奮する様と同じなのだろう。それだけ、僕らは無邪気にこの時間を楽しんでいた。

 ーーバシャバシャ……。

 響く二人の水を掻く音。それと同化するように、女子二人の声もした。

 


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