9 / 59
9話 心を許すなり
しおりを挟む
二人はそうして奥へと消えて行った。僕らは二人の背中を見ながら少し微笑んでいた。あんな楽しそうにしている葵を見るのが初めてだった僕は、沙耶香にもちろん嫉妬もした。でもそれ以上の尊敬があった。
「俺らは、翔太の洋服を買いに行くぞ。」
「本当に買うのか? 別にいいよ、買わなくても。」
「あのさ、翔太が良くても、葵ちゃんに失礼だろ? 頑張ってお洒落したのに、翔太はダサい格好で一緒に歩いてたらさ。せっかく時間かけたのに。」
僕は翔太の言葉が、どこか腑に落ちた。何の言い訳も思いつく事もなく、的を得た発言だった。
だから、巧は皆んなからモテんだよな。そういう所でちゃんと気を遣えるから。モテるからとか、人望がすごいからとかじゃない。相手を考えた行動が、いつでも出来ているのが、本当に凄い。
「分かった。買いに行こう。」
「んじゃ、とりあえずあそこ行こう。」
今度は巧みに連れられて、これまたお洒落な洋服店に足を踏み入れた。
「洋服は巧任せでいいか?」
「ああ。翔太には服を選ぶなんて出来ないだろうからな。全部俺に任せて。」
まったく、一言余計なんだっつーの。気を遣えるのか遣えないのな、分からなくなるよ。
「やっぱ、巧みすげーな。」
僕は巧の洋服センスに脱帽していた。服の良さが全く分からない僕でさえ、自分の格好が何段階もグレードアップしていることに気づいていた。
「ほらな。翔太、別に素材悪い訳じゃないんだからさ、ちゃんと身だしなみを整えれば光るんだよ。」
「それは、流石に過大評価してないか? 別にそんな素材を持ってる訳じゃないぞ?」
「翔太こそ過小評価してないか? 客観視したら、結構翔太ってモテる部類だからな?」
とりあえず、巧の言葉には適当な相槌を打って、この話を流した。どう考えてもイタチごっこになりそうだったから。
自分がモテるなんてあるはずがないんだ。自分の顔なら、容姿なら何度も鏡で見た。それで判断した、僕は非モテ部類だと。
巧は、努力してそのカッコよさ。手に入れたのかもしれないが、僕にはそこまでする情熱もなければ、元の素材だって、ただの石ころ。磨けば光るダイアモンドとは訳が違うのだ。
「結構かかったな……。洋服ってこんな高かったんだな……。」
「そういうお店にきたからな。どうだ、少しは洋服に興味湧いたか?」
「全然。洋服にお金を使うくらいなら、貯金しときたい。」
「そっか。まあ、価値観は人それぞれだし、別になんでもいいけど。これだけは覚えとけよ。」
「隣を歩く女子に恥をかかせるな。失礼なことをするな。それだけ覚えておけば、何とかなると思うね。」
マジで言葉が高校生じゃないんだよな。成人した、イケてる大人が言うやつなんだよ。将来、凄い人数の女の子を侍らせてそうだな……。
「とりあえず、二人が帰ってくるまでどっかで暇でも潰してるから。」
「そうだな。適当にベンチにでも座ってればいいんじゃないか?」
「ああ、そうするか。」
そうして、一番近くになる二人掛け用のベンチに腰掛けると、奥から大きな紙袋を持った葵とにこやかな沙耶香が戻ってきた。
「沙耶香、葵に何買ったんだよ。」
「ふふーん。それはね……」
そう言って沙耶香は僕の耳元までくると、小声でこう言った。
「何着かの女性用下着をね。気になるのなら、夜にでも見てみたら?」
「なっ、沙耶香お前……!」
「翔太、沙耶香ちゃんに何言われたの?」
「う、うん。別に大したことじゃないよ。ただ、葵が楽しそうに買い物してたって話をね……。」
僕はそう言って、笑って誤魔化した。僕は不敵な笑みを浮かべている、あの女を睨んだ。
「せっかくだし、昼でも食べて解散するか。」
「そうだな。葵、どっか行きたいとこある?」
「んー、じゃあね、ファミレス!」
「オッケー。じゃあいこっか。」
そうして、四人はファミレスで昼食をとり現地解散した。
葵は終始楽しそうに、笑顔を綻ばせていた。やはり二人と相性が良かったのだろう。僕は、二人に合わせて良かったと再確認したのだった。
「俺らは、翔太の洋服を買いに行くぞ。」
「本当に買うのか? 別にいいよ、買わなくても。」
「あのさ、翔太が良くても、葵ちゃんに失礼だろ? 頑張ってお洒落したのに、翔太はダサい格好で一緒に歩いてたらさ。せっかく時間かけたのに。」
僕は翔太の言葉が、どこか腑に落ちた。何の言い訳も思いつく事もなく、的を得た発言だった。
だから、巧は皆んなからモテんだよな。そういう所でちゃんと気を遣えるから。モテるからとか、人望がすごいからとかじゃない。相手を考えた行動が、いつでも出来ているのが、本当に凄い。
「分かった。買いに行こう。」
「んじゃ、とりあえずあそこ行こう。」
今度は巧みに連れられて、これまたお洒落な洋服店に足を踏み入れた。
「洋服は巧任せでいいか?」
「ああ。翔太には服を選ぶなんて出来ないだろうからな。全部俺に任せて。」
まったく、一言余計なんだっつーの。気を遣えるのか遣えないのな、分からなくなるよ。
「やっぱ、巧みすげーな。」
僕は巧の洋服センスに脱帽していた。服の良さが全く分からない僕でさえ、自分の格好が何段階もグレードアップしていることに気づいていた。
「ほらな。翔太、別に素材悪い訳じゃないんだからさ、ちゃんと身だしなみを整えれば光るんだよ。」
「それは、流石に過大評価してないか? 別にそんな素材を持ってる訳じゃないぞ?」
「翔太こそ過小評価してないか? 客観視したら、結構翔太ってモテる部類だからな?」
とりあえず、巧の言葉には適当な相槌を打って、この話を流した。どう考えてもイタチごっこになりそうだったから。
自分がモテるなんてあるはずがないんだ。自分の顔なら、容姿なら何度も鏡で見た。それで判断した、僕は非モテ部類だと。
巧は、努力してそのカッコよさ。手に入れたのかもしれないが、僕にはそこまでする情熱もなければ、元の素材だって、ただの石ころ。磨けば光るダイアモンドとは訳が違うのだ。
「結構かかったな……。洋服ってこんな高かったんだな……。」
「そういうお店にきたからな。どうだ、少しは洋服に興味湧いたか?」
「全然。洋服にお金を使うくらいなら、貯金しときたい。」
「そっか。まあ、価値観は人それぞれだし、別になんでもいいけど。これだけは覚えとけよ。」
「隣を歩く女子に恥をかかせるな。失礼なことをするな。それだけ覚えておけば、何とかなると思うね。」
マジで言葉が高校生じゃないんだよな。成人した、イケてる大人が言うやつなんだよ。将来、凄い人数の女の子を侍らせてそうだな……。
「とりあえず、二人が帰ってくるまでどっかで暇でも潰してるから。」
「そうだな。適当にベンチにでも座ってればいいんじゃないか?」
「ああ、そうするか。」
そうして、一番近くになる二人掛け用のベンチに腰掛けると、奥から大きな紙袋を持った葵とにこやかな沙耶香が戻ってきた。
「沙耶香、葵に何買ったんだよ。」
「ふふーん。それはね……」
そう言って沙耶香は僕の耳元までくると、小声でこう言った。
「何着かの女性用下着をね。気になるのなら、夜にでも見てみたら?」
「なっ、沙耶香お前……!」
「翔太、沙耶香ちゃんに何言われたの?」
「う、うん。別に大したことじゃないよ。ただ、葵が楽しそうに買い物してたって話をね……。」
僕はそう言って、笑って誤魔化した。僕は不敵な笑みを浮かべている、あの女を睨んだ。
「せっかくだし、昼でも食べて解散するか。」
「そうだな。葵、どっか行きたいとこある?」
「んー、じゃあね、ファミレス!」
「オッケー。じゃあいこっか。」
そうして、四人はファミレスで昼食をとり現地解散した。
葵は終始楽しそうに、笑顔を綻ばせていた。やはり二人と相性が良かったのだろう。僕は、二人に合わせて良かったと再確認したのだった。
0
お気に入りに追加
2
あなたにおすすめの小説


乗り換え ~結婚したい明子の打算~
G3M
恋愛
吉田明子は職場の後輩の四谷正敏に自分のアパートへの荷物運びを頼む。アパートの部屋で二人は肉体関係を持つ。その後、残業のたびに明子は正敏を情事に誘うようになる。ある日、明子は正敏に結婚してほしいと頼みむのだが断られてしまう。それから明子がとった解決策 は……。
<登場人物>
四谷正敏・・・・主人公、工場勤務の会社員
吉田明子・・・・正敏の職場の先輩
山本達也・・・・明子の同期
松本・・・・・・正敏と明子の上司、課長
山川・・・・・・正敏と明子の上司

極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~
恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」
そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。
私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。
葵は私のことを本当はどう思ってるの?
私は葵のことをどう思ってるの?
意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。
こうなったら確かめなくちゃ!
葵の気持ちも、自分の気持ちも!
だけど甘い誘惑が多すぎて――
ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。
ママと中学生の僕
キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

マッサージ
えぼりゅういち
恋愛
いつからか疎遠になっていた女友達が、ある日突然僕の家にやってきた。
背中のマッサージをするように言われ、大人しく従うものの、しばらく見ないうちにすっかり成長していたからだに触れて、興奮が止まらなくなってしまう。
僕たちはただの友達……。そう思いながらも、彼女の身体の感触が、冷静になることを許さない。

ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる