ワンダラーズ 無銘放浪伝

旗戦士

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第五章:守護者たちの軌跡

第八十伝:騎士達の凱旋

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<洞窟>

 聞き覚えのある声を二人も耳にした雷蔵は、思わず呆気に取られてしまう。
それほど目の前にあった景色は信じられないものであったのだ。

長い期間を経て、成長したフィルとヴィクトール。
窮地に立たされた雷蔵たちにとって、これほど心強い助っ人は居なかった。

「お、お前たちは……! 」
「忘れたとは言わせねえぜ。だろ? 雷蔵」
「な、何故貴様らが……! キマイラが周囲に居たはずだぞ! 」

黒い騎士の問いに、フィルが口を開く。

「もうゲイル達が洞窟の入り口を制圧してる。もう降伏するんだ、ステルク」
「その名前で……呼ぶなッ!! 」

ステルク、という名を呼ばれて激昂したのか騎士はフィルとの距離を一気に詰めた。
最後に雷蔵が見たフィルの未熟さは既に消えており、彼の使う長剣で迫った騎士剣を易々と受け止める。

改良型魔法具。
それが今、フィルの全身を包み込むように魔法を展開した。

白い膜に包まれたフィルはステルクの剣を弾き返し、肩口を狙って剣を振り下ろす。
黒い甲冑が火花を散らして彼の長剣を防ぐが、大きな衝撃と共に後方へ追いやられた。

「はァッ!! 」

防御をさせないという強い意志が感じられる程の連撃がステルクに迫る。
後方へ飛び退いたステルクを追うようにフィルは一歩前へ踏み出し、縦一文字に剣を振るった。

「ステルクが目を覚ますまで僕は容赦しない。だから……」

防いでいたステルクの剣を弾き上げ、その勢いで地面に剣を突き刺した支点を駆使して蹴り上げる。

「君の剣は僕には効かない。君が得たその強さは、偽りの強さだ」
「黙れ……黙れ黙れ黙れ黙れェッ!!! 」

フィルは涼し気な表情を浮かべながらステルクの剣を長剣で捌き、がら空きになった胸部に剣を突き立てる。
魔力で鎧が強化されているのか、その甲冑を貫く事は出来なかった。
それでも彼は反動を利用して身体を捻転させ、横殴りの一撃をステルクに見舞う。

「あれは……」
「一先ずあいつにやらしときな。フィルの坊主、あの騎士と一悶着あったもんでね」

その間、地面に膝を着いていた雷蔵の隣にヴィクトールが不敵な笑みを浮かべながら近づいてきた。
椛や平重郎も他の騎士たちに保護されていたようで、既に事なきを得ている。

「な、何故……拙者たちを……? 」
「事情は後で説明する。今はここから抜け出す事が先決さ」

傷ついた雷蔵に肩を貸しながらヴィクトールは立ち上がり、彼を安全な場所へ移動させた。
その奥でフィルとステルクは依然として剣を交えており、その激しさは増すばかりである。

「ステルクッ! もう降参するんだっ! 僕は君を殺したくはない! 」
「ッ!! 強者の余裕という訳かァッ!! 」
「違う! 君を連れ戻す為だ! 今の君は間違っている! 共に剣を磨いた身として、見逃す訳にはいかないッ!! 」

嘗てのフィルの面影を感じさせない程その声は勇ましく、そして真っ直ぐだった。
神速で迫るステルクの剣を肉薄し、空いていた左拳で彼の兜を殴りつける。

「目が覚めたかッ! ステルク! 」
「きっ……さまァッ!! 」

振り翳された拳を更に避け、フィルは剣の柄頭でステルクの兜を殴りつけて無理やり顔を露わにさせた。
整った顔立ちにパーマが掛かった金髪を揺らす今の彼の瞳は、やけに赤く輝いている。
その様子を見かねたヴィクトールが、すかさず二人の間に入った。

「……よう、ステルク。久しぶりじゃねえか」
「あ、貴方は……! 」
「事情は知ってる。……今のお前の状態もな」

手にした槍の穂先を向け、彼は咥えていた煙草に火を点ける。

「とりあえず今は退け。出来る限り俺は、教え子を殺したくはない。フィルとの決闘は、後で思う存分させてやる」
「黙れッ! 人間の分際――――」

瞬間、ステルクの背筋に悪寒が走った。
目の前のヴィクトールが人工魔獣に成り果てたステルクさえも怯えさせる威圧感を放ったことに気づく頃には、既に彼は握った剣から手を離している。

「――――来るというのなら、容赦はしない」
「ッ……!? 」
「俺はお前を殺す覚悟でここに来ている。それが理解できないなら……今すぐ俺たちの目の前から失せろ」

本能に囚われるかのように、ステルクは次元魔法を展開して出来上がった渦の中へと消えていく。
彼が消えた後でヴィクトールは深い溜息を吐き、雷蔵の方へ振り返った。
同じようにしてフィルも腰の鞘に剣を納め、彼に手を差し伸べる。

「ふ、フィル……? フィル、なのか……? 」
「はい、雷蔵さん。僕は貴方がたを助けに来ました。もう安心してください、道中の人工魔獣を全て僕の仲間が討伐しています」
「だが何故、拙者たちのところに……」

フィルの手を握りながら雷蔵は立ち上がり、成長したフィルの風貌をまじまじと見つめた。
最後に出会った彼とは見違えるほど背が伸び、雷蔵とほぼ同じ身長になっている。
それに細身ながらも鍛え上げられた筋肉が雷蔵の身体を支えている事に気づき、思わず妙な安心感を覚えた。
何よりも変わったのは顔立ちで、幼さが一切見られないその端正な表情は正しく騎士のものとなっている。

「その事情は詳しく後で説明します。今はとにかく、村へ戻りましょう。あのイングリットさん……じゃなかった、椛さんやご老体が怪我を負っています。見たところ致命傷ではありませんが、この気候じゃ傷を晒すのは拙い」
「分かった。一先ず今は肩を貸してくれ……恥ずかしながら、腰が抜けてしまってな」
「勿論ですよ。……あの日の恩、これから返すつもりですから」

そんな言葉が聞こえたが、敢えて雷蔵は聞かないふりをした。
隣で肩を貸す青年の成長を嚙み締めながら、雷蔵たちは洞窟を後にした。
――――――――――――――――――――――――――――――――
<テオボスの村>

 そうして昼下がりの午後。
フィルたち率いるリヒトクライス騎士団四番隊に合流した雷蔵たちは彼らによって無事に村へと帰還し、今はリラの家の客間のベッドで寝かされていた。
途中で気を失っていたのだろう、雷蔵は我に返ったようにベッドから起き上がり周囲を見回す。

客間に置いてある他の二つのベッドには椛と平重郎がそれぞれ寝かされており、治療した跡が垣間見える。
気が緩んだせいか彼自身も負っていた傷から痛みを感じ、顔を顰めた。

「気が付きましたか、雷蔵さん」
「フィル……。夢だとは思ったが、どうやら本当にお主らしいな」
「はい。少しは役に立てたと思うんですが……」

照れ臭そうにフィルは頭を掻く。
頬を紅潮させるその顔は少年時代の頃から全く変わっていない。
安堵感を覚えた雷蔵は深い溜息を吐き、頭を下げた。

「忝い、フィル。お主たちの援護がなければあそこで拙者たちは死んでいた。恩に着るぞ。そして……」

雷蔵はフィルの頭に手を乗せる。

「……強くなったな。それこそ、拙者よりも遥かに」
「そ、そんな事ありませんよ……。僕はまだまだです……」

優しく撫でられたのが久々なせいか、フィルは顔を雷蔵から背けた。
顔を赤くしている事を見られたくないのであろう。

「そ、それでですね! 僕たちの事情をお話しようと思っているんです。おそらく、僕たちと雷蔵さんの目的はほぼ一緒の筈ですから」
「……ほう。と、言うと? 」

「先ず。僕らの所属しているリヒトクライス騎士団の第四番隊はイシュテンの首相から直接任務を言い渡されました。その内容が帝国ヴァルスカへ赴いて人工魔獣の手掛かりを調べろ、という事だったんです。補足で、首相から"先に人工魔獣を調べている人物がいる筈だから、彼らとも合流しろ"という指示も受けました。その人物というのが、雷蔵さん達だとはまさか僕も思わなくて……」

フィルの言葉を聞いた瞬間、雷蔵の脳裏にある疑問が浮かび上がる。
何故、ゼルギウスだけが知っていた自分たちの存在をイシュテンの首相が知っているのか。
雷蔵は秘密裏にゼルギウスから依頼を請けていただけに、フィルたちへ疑念を抱かねばならなかった。

「……首相が拙者たちを知っていた理由は? 」
「流石に、其処までは分りません。ただ、憶測としては代表者たちの間での情報交換があったのではないかと読んでいます」

その時、客間の扉が開く。

「半分当たりで、半分外れだ。残念だな坊主、お前さんもまだまだってこった」
「隊長! どこ行ってたんですか、雷蔵さんが目を覚ましたって言うのに! 」

隊長、とヴィクトールが呼ばれた事に雷蔵は違和感を覚える。
この一年の間で彼も昇格した、という事だろうか。

「ここの家主さんがちょいと良い方でなぁ、少し話が盛り上がっちまった」
「……レーヴィンさんに言いつけますよ」
「ちょっ、冗談だって! 冗談! このお家上がらしてくれたことを御礼に行ってただけだから! 」
「はは、お主は相変わらずのようだな。ヴィクター」

雷蔵の言葉を聞くなり、ヴィクトールは笑みを浮かべながら傍にあった椅子に腰かける。

「まあさっきもこいつが言った通りだ、俺達は首相からの命令でここに来てる。ヴァルスカのハーヴィン皇帝からも入国の許可が降りててな。おそらくだが、あの三人は定期的に会議でも開いてるんだろう。だから首相がお前さんたちの存在を知ってたのさ」
「そうか……。だが、お主が隊長とは誠か? 」
「おうよ。レーヴがフレイピオスに戻っちまって、席が空いたから自動的に俺が隊長になった訳。正直士官学校の先生やってた方が楽なんだけどさ」
「でもレーヴィンさんからのお墨付きを拒否する訳にはいかないって言ってたの隊長でしょう? 」
「ばっかお前ここで言うなって! 雷蔵口軽いんだからさ! 」

長い期間を経てフィルとヴィクトールはずいぶん仲が深まったらしく、今の二人は親子のように見えた。
そんな彼らの成長を感じながら、雷蔵は口を開く。

「……それで。先ほどお主が申していた、半分外れ、とは……? 」
「あぁ、俺たちの本当の目的ってとこだよ。俺たちの目的は人工魔獣の手掛かりを調べる事じゃない」

次の瞬間、ヴィクトールの口から雷蔵には信じられない名前が言い放たれた。

「ロイ・レーベンバンクの拘束及び殺害。俺達は、お前たちと同じ目的で動いている」
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