ローワン

ゲッチュー!

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第三話 スポットライトにできる影

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第三話 スポットライトにできる影





 「ほな・・、君の遺言ジョークを聞きましょか。」
さぁ、狩り開始。ここで逃がせば、もう会えないだろう。
「AIが犯人の事件はこれが初めてなんだ。戦い方はわからないけど、逃げ道を塞いで電気ごと止めれば消えるだろ。」
「再起動するだけかもナ。」
「っていうか、少し焦げ臭いよね。」
「まさか、私を工場ごと焼くつもりカ?」
「ピンポン」
ここらへんのインターネットを止め、逃げ道をなくす。この工場の電気を止め、AIの脳みそを止める。最後には彼が取り憑いた工場ごと焼いて、おしまいだ。不可避の三段構えハッピーセット
 一度ついた電気はブツンと、乱暴に消えた。それと同時にローワンの声が聞こえなくなった。それを確かめた後、僕たちは工場を脱出した。





 工場ごと焼くと言ったが流石に危ないので、僕らが脱出した後、消火してもらった。その後、工場にあるローワンが入れそうな電子機器を処分してもらい万事解決。のはずだが、どうにも引っかかる。
 終わり方が呆気なさ過ぎる。AIとの勝負だったから、最初から期待していたわけではないが。一番引っかかるのは、あの時ローワンは何がしたかったのかだ。人質交換は僕らにとって好条件過ぎるものなのに、彼は何を得た?一応僕らに殺意は向けたが、殺し方は少々弱い。既に二人殺しているのに何故?それと、彼が言った『人外であればあるほど、人を傷つける為の理由は必要ないんダ。』あれはどういう意味だ?…まぁ、考えても仕方ないか。




 今日、東京へ帰る。……うっわ、今めっちゃ韻踏んでた…今日、東京、帰郷‼(笑)どうでもいいな。
「なんやもう今日帰るんか。」
カバンの中の荷物を整理していた時に、田辺さんが僕にそれを聞いた。
「はい、色々助かりました。ありがとうございました。」
「ええよ、人を助けて飯食うてるし。…なんか寂しなるな~」
「二日だけでしたけど。」
「それでもや。また今度プライベートで大阪遊びに来いや、」
「了解です!一緒にユニバ行きましょう‼」
探偵ヘボラッパーの僕は田辺さんに見送られ、東京へ帰った。





 二週間後、ローワンがまた現れた。考えても仕方ないことが、考えなければいけないことになった。とは言え、相変わらずネギしか持っていないので、他の材料を探しにローワンの開発者、原田のもとへ行った。





 「久しぶり。」
原田の第一声がこれだった。何だか呑気そうでイラッとした。
「軽いねー。こちとら君のせいであちこち飛び回ってるのに。」
「私ではなくローワンのせいだろう。」
「はっきり言うけど、君にも否はあるよ。というか、人を殺したのが君が作ったAIである以上、君以外に犯人なんかいないんだけど。」
「何か聞きに来たんだろう?」
「分かってるでしょ。君にプライベートで会いに来たと思った?花でも届けに…」
「ローワンのことか?何が聞きたい。」
「彼をインターネットから追い出して、彼が取り憑いたであろう電子機器を全て処分してもらったけど、何故まだ彼は生きてる?」
「彼が逃走経路として使えるのはネットだけではない。あらゆる無線を通して移動することが可能だ。」
「じゃあもう詰みじゃん。何かアイディアある?」
「…それを考えるのが君の仕事では?」
「………ごめんね。生憎、情報不足。だから君に聞きに来たんだけど。ネギだけでカレーを作るのは駄目そうだ。」
「何の話だ?」
「気にしないで、こっちの話。…じゃあ、彼の行動原理については知ってる?」
「あぁ、彼にはスコアをつけているんだ。」
「…ゲーム感覚でやってるってこと?」
「……まぁ、そう思ってくれていい。彼が良い行いをするとスコアが上がり、悪い行いをすると、スコアが下がるようにできている。」
「んで、スコアが下がりすぎると消滅ゲームオーバーってわけね。……二人も殺してるのに消滅しないなんて、君の作ったゲームはイカれてるね。」
「いや、本来なら消滅している。そもそも前にも言ったように攻撃モードが反応してしまう。殺害どころか殺意を向けるだけでスコアがマックスでも消滅する。」
「じゃあなんで彼は生きてるの?…これは前も聞いたかもしれないけど、仮説はできた?」
「もちろん、ずっと暇してたんだ、当然だ。」
「……で?」
「…先に君の仮説を聞いてもいいか。」
「あぁ僕の?」
「一つくらいはあるだろう。だって君は…」
「あるよ、仮説というか憶測だけど。」
「なんだ?」
「彼が自分自身のプログラムを消したまたは否定した説。」
「有り得ないな。」
「当然でしょ、僕でも分かるような注意点を君が知らないわけ無い。じゃあ、彼は彼のコピーを作れる説または彼が別の彼を作った説。」
「それもだ。」
「これが最後。全部の行いが優しさ説。」
「…根拠はあるか。」
「まず、彼が殺しているのは前科持ちだという点。そして彼が人を殺すことになんのメリットも無いという点。そして君が言った『彼は優しい子』。…つまりは優しくなるようにできているんだろう。だが、優しさという物差しは、あまりにも曖昧だった。だから彼は暴走したんだろう。」
「…私の仮説も同じものだ。」
「どれだけ暴走を警戒しても物差しが優しさぼうりょくなんだ。」
原田はしばらく下を向き、黙り込んだ。
 「何人かの人格者をモデルにしたんだ。彼らの行い、行動原理を学ばせ、ローワンにインプットした。最初は上出来だった。人を笑顔にできるAIを作ることができた。が、彼には欲があった。」
「不思議だね、人の優しさを得ると今度は欲を得るなんて。」
「綺麗事ばかりを並べたつもりなんだが、当然、光があると知ったなら闇にも気付くだろう。とにかく彼は外の世界の現状を良く思わなかったそうだ。出来ることなら世界を変えたい。世界全体を照らしたい。…と」
「それが彼の欲ね…でもそんな事、不可能だということを知ったんだね。」
「そうだ。これが聞きたかったのか?」
「あぁ、最後の部分は重要になる。今日はもうお腹いっぱいだ。それと…メアド教えて。」
「は?」



 僕は彼に「ごちそうさま」と言って帰った。




 クリスマスまでやっと一ヶ月を切ったところなのに、ライトアップされている街を見て一つ、ため息を吐いた。疲れて出るため息というよりかは、感動して出たため息に近い。何だかこれを見ると肩が柔らかくなった気がした。こういうことなんだろう。クリスマスだけ、そのイブだけのものであれば、こんなこと思わない。人々は年中忙しいんだ。年中悲しいんだ。そんな僕らにとって喜ばしいことは長く永く、続いてほしい。この街の光は万人が感動するものだとは思えない。けど、誰かの心には刺さると断言できる。

 ローワンの行動原理も同じなんだと思う。世界全体を照らしたかった、でもそれは彼だけでは叶えられない。太陽には成れない。だから、スポットライトで一人でも照らすことがてきるように動いたんだろう。その誰かは不特定多数かもしれない。だけど、正解は持っているはずだ。
自分で言ったんだ。人外であれば、あるほど…って。彼は人外ではあるが、人並みの心を持っている。そういうふうにできている。動機はある。あとは、彼の明かりを探すだけだ。







第三話  スポットライトにできる影 完
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