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第一話 探偵
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プロローグ
行きつけのコーヒー店を出て一つ、ため息を吐いてからそれの白さに驚いた。ここ一年色々なことがあったせいで、時間の流れが速く感じる。…桜が散ったのはつい最近だったはずだ。なのに、もう夏休みも、紅葉も終わって、今は息が白く染まっている。
僕は探偵の辻本。「探偵」と聞くとスマートにカッコよく事件を解決し、「犯人はお前だ‼」みたいな決め台詞を言い放つ、こんなイメージがあるかもしれないが、僕はこんなこと言ったことがない。そもそも探偵の経験も浅く、今までに解決した事件数は、たったの二件。どちらも事件というより事故で、犯人なんて存在しなかった。まぁ、ホイホイ大事件が来られても困るが…そろそろ決め台詞を解禁したい‼名探偵になりたい‼と、思っている。そんなこともあり今回の事件に期待をしている。なんせ殺人事件。十中八九、犯人は存在するし、それの動機もあるはずだ。そして今日早速、事件関係者の取り調べ。わくわくはするが、人が死んだ大事件だ。積極的に、スマートにいこう。
第一話 探偵
取り調べ室の重たい扉を開け、近くに居た男性に少し挨拶と名刺を渡して現状を聞いた。
「どんな感じ?」
「容疑者の名前は原田明。」
「待った、『容疑者』?」
「あぁ、彼はこの事件の犯人もしくは共犯の可能性が高い。」
「いきなりディープな取り調べだな…探偵を呼んだ理由は?」
「君が来る前、何度か取り調べをしたんだが、彼が言ってる意味がわからん。」
「まさか…翻訳を僕にやらせるの?母国語と英語以外喋れないんだけど…なんていうか、太っ腹だね。」
「彼は少々…気が狂ってる。事件のせいかもな。」
「…状況はわかったよ。じゃ、いってくる。」
容疑者…原田が入った部屋の扉は、最初に開けた扉より軽かった。
「君が犯人?」
「…ちがう。」
少しホッとした。これで犯人捜しができる。
「おっけい。僕は探偵の辻本だ。君は僕らが追ってる事件と深く関係してるんだって?これについて、知ってることは?」
「深いもなにも、私が作ったんだ。」
「…あー、犯人とは親子関係なの?」
「…まぁ、そんなところだ。」
「へー、じゃあその子はどんな子?」
「賢くて、優しい子だ。」
「ふーん。とても殺人をするような子じゃなさそーね。」
「不可能だ。」
「…なにが?」
「彼が人を傷つけることがだ。」
「でも実際、傷つけるどころかトドメまで刺してるけど、」
「有り得ないんだ。」
「なんで?」
「そもそも彼は体を持たない。」
「どういうこと?僕らが追ってる犯人は幽霊なの?」
「違う、AIだ。」
「…うん。」
「ローワンはAIだ。スマホに搭載されている喋るやつだと思ってくれ。」
「僕のスマホにもいるよ。そいつが今回の犯人なの?」
「君たちが言ってるのはそういうことだ。有り得ないだろ?」
「…確かに、現実味を帯びてない話だね。じゃあ、なんでこんなのが捜査に上がると思う?」
「それは私が自首したからだ。」
「…意味わからんけど…」
「私も何が起こったのかは分からない。だが実際、事件当日ローワンは失踪、消息を絶つ二秒前まで事件現場付近にいたんだ。」
「…でも『有り得ない』んでしょ?」
「そうだ。仮にローワンが自身の機械を手に入れたとしてもだ。攻撃モードがある。」
「……また意味わから…」
「攻撃モードは、あくまでローワンの攻撃性を感知するためのタグ、名付けたローワン自身の感情だ。」
「…つまり?」
「攻撃モードに入れば、ローワンはプログラムが消えるようにできてるんだ。」
「なら、説明はつくんじゃない?二秒で人を殺したあと、プログラムごと消えて消息を絶ったんでしょ。」
「消息を絶ったと言っても、まだ存在している。事件から二日後、ローワンの信号を受信したんだ。」
「場所は分かるの?」
「あぁ、だがローワンはインターネットを利用し、光速で移動するAIだ。追ったところで…だ。」
「本当に…君の話は僕の理解の先を行くね。君は何が言いたいの?」
「有り得ない事が起こったんだ。ローワンを止めないと…」
「君が話した事が全部ホントなら…僕もそれに大賛成だ。だけど残念ながら、AIに手錠はかけられないし、そもそも逮捕状も貰えないだろう。それで、被害者とその親族は納得するかな…?」
「…つまり、今のところ手錠は私の手首にかけられるのだろう?ローワンを止めることさえ出来ればそれでも構わない。」
………もう十分か。
「あっそ、じゃあもう今日はこれで終わりにするよ。」
そう言い残して部屋を出た。
「どうだった?」
と、部屋を出てすぐに聞かれた。
「…聞こえてたでしょ。犯人の名前も居場所もわかったけど、犯人は人じゃない。それに…」
犯人が開示されてしまった。もう指をさして「犯人はお前だ‼」なんて言えない。
「それに?」
彼に聞き返されてしまった。
「あ、いや何でもない。」
「というか、信じるのか?あのホラ話を。」
「ホラ話かどうかはこれから分かる。どちらにせよ、彼は色んな意味で犯人に近い。」
「『色んな意味』とは?」
「立場と関係かな…」
「二つは『色んな』か?」
「買い被るなよ、探偵の語彙を。」
「でも…探偵はロマンチストだろ?」
「それは、名探偵。僕はロマンもドラマもない、ただの探偵だ。」
「…そうか。ま、とりあえず原田はハコに入れておく。」
「あぁ、頼んだ。彼が獄中に居るとき、似たような事件が起こるまでは、彼が犯人だ。」
「探偵は、どうするんだ?」
「…次の依頼を待つよ。まぁ、今後二週間くらいは僕も目を光らせておく。」
「了解。」
そう言って彼は僕の手を握り「頼んだ」と言ったので、僕は「よろしく」と言い返した。
外へ出ると思ったより暗くなっていた。やっぱり時間の流れが速い。
今回の事件は期待できそうにないな…
犯人は体がない、もしくは二枚舌の嘘つき。…後者であってほしい。AIと追いかけっこは楽しくない。
そして何より、決め台詞はもうしばらく使えない……
第一話 探偵 完
行きつけのコーヒー店を出て一つ、ため息を吐いてからそれの白さに驚いた。ここ一年色々なことがあったせいで、時間の流れが速く感じる。…桜が散ったのはつい最近だったはずだ。なのに、もう夏休みも、紅葉も終わって、今は息が白く染まっている。
僕は探偵の辻本。「探偵」と聞くとスマートにカッコよく事件を解決し、「犯人はお前だ‼」みたいな決め台詞を言い放つ、こんなイメージがあるかもしれないが、僕はこんなこと言ったことがない。そもそも探偵の経験も浅く、今までに解決した事件数は、たったの二件。どちらも事件というより事故で、犯人なんて存在しなかった。まぁ、ホイホイ大事件が来られても困るが…そろそろ決め台詞を解禁したい‼名探偵になりたい‼と、思っている。そんなこともあり今回の事件に期待をしている。なんせ殺人事件。十中八九、犯人は存在するし、それの動機もあるはずだ。そして今日早速、事件関係者の取り調べ。わくわくはするが、人が死んだ大事件だ。積極的に、スマートにいこう。
第一話 探偵
取り調べ室の重たい扉を開け、近くに居た男性に少し挨拶と名刺を渡して現状を聞いた。
「どんな感じ?」
「容疑者の名前は原田明。」
「待った、『容疑者』?」
「あぁ、彼はこの事件の犯人もしくは共犯の可能性が高い。」
「いきなりディープな取り調べだな…探偵を呼んだ理由は?」
「君が来る前、何度か取り調べをしたんだが、彼が言ってる意味がわからん。」
「まさか…翻訳を僕にやらせるの?母国語と英語以外喋れないんだけど…なんていうか、太っ腹だね。」
「彼は少々…気が狂ってる。事件のせいかもな。」
「…状況はわかったよ。じゃ、いってくる。」
容疑者…原田が入った部屋の扉は、最初に開けた扉より軽かった。
「君が犯人?」
「…ちがう。」
少しホッとした。これで犯人捜しができる。
「おっけい。僕は探偵の辻本だ。君は僕らが追ってる事件と深く関係してるんだって?これについて、知ってることは?」
「深いもなにも、私が作ったんだ。」
「…あー、犯人とは親子関係なの?」
「…まぁ、そんなところだ。」
「へー、じゃあその子はどんな子?」
「賢くて、優しい子だ。」
「ふーん。とても殺人をするような子じゃなさそーね。」
「不可能だ。」
「…なにが?」
「彼が人を傷つけることがだ。」
「でも実際、傷つけるどころかトドメまで刺してるけど、」
「有り得ないんだ。」
「なんで?」
「そもそも彼は体を持たない。」
「どういうこと?僕らが追ってる犯人は幽霊なの?」
「違う、AIだ。」
「…うん。」
「ローワンはAIだ。スマホに搭載されている喋るやつだと思ってくれ。」
「僕のスマホにもいるよ。そいつが今回の犯人なの?」
「君たちが言ってるのはそういうことだ。有り得ないだろ?」
「…確かに、現実味を帯びてない話だね。じゃあ、なんでこんなのが捜査に上がると思う?」
「それは私が自首したからだ。」
「…意味わからんけど…」
「私も何が起こったのかは分からない。だが実際、事件当日ローワンは失踪、消息を絶つ二秒前まで事件現場付近にいたんだ。」
「…でも『有り得ない』んでしょ?」
「そうだ。仮にローワンが自身の機械を手に入れたとしてもだ。攻撃モードがある。」
「……また意味わから…」
「攻撃モードは、あくまでローワンの攻撃性を感知するためのタグ、名付けたローワン自身の感情だ。」
「…つまり?」
「攻撃モードに入れば、ローワンはプログラムが消えるようにできてるんだ。」
「なら、説明はつくんじゃない?二秒で人を殺したあと、プログラムごと消えて消息を絶ったんでしょ。」
「消息を絶ったと言っても、まだ存在している。事件から二日後、ローワンの信号を受信したんだ。」
「場所は分かるの?」
「あぁ、だがローワンはインターネットを利用し、光速で移動するAIだ。追ったところで…だ。」
「本当に…君の話は僕の理解の先を行くね。君は何が言いたいの?」
「有り得ない事が起こったんだ。ローワンを止めないと…」
「君が話した事が全部ホントなら…僕もそれに大賛成だ。だけど残念ながら、AIに手錠はかけられないし、そもそも逮捕状も貰えないだろう。それで、被害者とその親族は納得するかな…?」
「…つまり、今のところ手錠は私の手首にかけられるのだろう?ローワンを止めることさえ出来ればそれでも構わない。」
………もう十分か。
「あっそ、じゃあもう今日はこれで終わりにするよ。」
そう言い残して部屋を出た。
「どうだった?」
と、部屋を出てすぐに聞かれた。
「…聞こえてたでしょ。犯人の名前も居場所もわかったけど、犯人は人じゃない。それに…」
犯人が開示されてしまった。もう指をさして「犯人はお前だ‼」なんて言えない。
「それに?」
彼に聞き返されてしまった。
「あ、いや何でもない。」
「というか、信じるのか?あのホラ話を。」
「ホラ話かどうかはこれから分かる。どちらにせよ、彼は色んな意味で犯人に近い。」
「『色んな意味』とは?」
「立場と関係かな…」
「二つは『色んな』か?」
「買い被るなよ、探偵の語彙を。」
「でも…探偵はロマンチストだろ?」
「それは、名探偵。僕はロマンもドラマもない、ただの探偵だ。」
「…そうか。ま、とりあえず原田はハコに入れておく。」
「あぁ、頼んだ。彼が獄中に居るとき、似たような事件が起こるまでは、彼が犯人だ。」
「探偵は、どうするんだ?」
「…次の依頼を待つよ。まぁ、今後二週間くらいは僕も目を光らせておく。」
「了解。」
そう言って彼は僕の手を握り「頼んだ」と言ったので、僕は「よろしく」と言い返した。
外へ出ると思ったより暗くなっていた。やっぱり時間の流れが速い。
今回の事件は期待できそうにないな…
犯人は体がない、もしくは二枚舌の嘘つき。…後者であってほしい。AIと追いかけっこは楽しくない。
そして何より、決め台詞はもうしばらく使えない……
第一話 探偵 完
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