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偉大なる賢者の願い2
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「この場所で会おう」
俺は師匠から届いた追加の手紙についていた地図に書かれた地点へと足を運びながら考える。
師匠はもうじき自分の残した魔力を取り戻すと言っていたが、目標の地点に近づいても一向に師匠の気配が感じられない。
(師匠は凄まじい力を持っている人だ。師匠の力のごく一部でも気配は感じられると思うんだけど……)
地図に書かれた地点へと辿り着いた俺は足を止め、改めて師匠から届いたいくつかの手紙に目を通す。
「君は自分の役目を忘れてはいないか? 君は何の為に生き続けているのか、己の指名を今一度よく考えて欲しい」
師匠の手紙から目を離し、俺はそっと目を瞑って自分に課せられた使命や師匠の事を考える。
(全部……全部忘れた事はない。今でも鮮明に覚えてる。俺は……)
ー
これは、今から数千年前の話。異様な争いと言われるとても大きな戦争があった。
機械を武器にして戦う『機械の国』と人体改造をして化物を造り出して戦う『化物の国』の二つの国の戦争。
俺はその戦争の時代に生きていた。そして、その時代から数千年間という長い時を俺はずっと生き続けている。
異様な争いは俺にとって全ての始まりだった。
俺は化物の国の方にいて、当時は研究員をしていた。
俺は、自分が何をしているのか理解していなかった。自分の造ったものが何なのかすら知らなかった。
そして何も知らないまま、戦死した父親を改造して化物にした。
俺の母はその事を知って酷く取り乱した。その様子を見て俺は初めて自分のしている事を理解した。
それから、国に「使えない人間」とみなされた母は殺され、俺の意思とは関係なく化物にされた。
俺には化物に変わってしまった両親がただただ怖くておぞましいものに見えた。そして、人をおぞましい化物に変えて戦うこの国に嫌悪感を覚えた。
俺は自分の手で化物を造り出すことが怖くなって逃げ出した。
逃げることに疲れ途方に暮れた時、俺の元に師匠は姿を現した。
師匠は俺の話を聞いて同情し、俺に手を差しのべてこう言った。
「復讐をしないか?」
俺は泣き出しながらその手を取ったことを覚えている。
それから師匠は自分が大賢者と言われる魔法使いで、おぞましい力を使って戦う国を止めようとしている事を俺に明かした。
師匠は俺に様々な事を教えてくれた。残念ながら師匠が俺に教えてくれた数々の魔法は今でも使えないままだが、師匠の教えのお陰で俺は強くなることができた。
そして師匠と二人で戦争について調べているうちに、俺たちは国がとんでもない核兵器を造り出している事を知った。
俺と師匠は国一つ滅ぼせるほどの力を持った兵器を停止させるために兵器に接近した。そして……。
ー
(師匠は兵器を封じる時に命を落とした)
俺は首に下げたロケットペンダントを手に取る。
俺が数千年と死なずに生き続けたのはこれのお陰か、それとも師匠の残した封印が解かれないように見守る使命感だろうか。
「あれー、ニコルー? こんな所で会うなんて珍しいねー!」
不意に間の抜けた声が聞こえ、俺は考え事に耽った意識を現実に戻す。
顔を上げるとよく手紙を届けに来てくれている郵便屋の店長がニコニコと笑いながら俺に向かって手を振っていた。
「どうも、こんにちーー……っ!?」
挨拶を返そうと口を開きかけた時、強烈な気配を感じ俺は口を閉ざす。
(違う、この気配、まさか……!)
そう思った瞬間、郵便屋の店長が力無く倒れる。そして、郵便屋の店長の体から光が浮かび上がり、その光は次第に半透明な青年の形へと変わった。
「やぁ、お久しぶりだね。ニコル」
ーー屋台のおっちゃんサイド
「なぁおっちゃん。おっちゃんはもし明日世界が終わるっつったら、どうする?」
目の前でお好み焼きを熱心に冷ましていたカイがふと質問をしてくる。
「おぉ、いきなりどうした? 頭でも打ったのか?」
「いやさ、レクリエムの予言によると確か今週辺りに世界が滅亡するらしいじゃん?」
「レクリエムの予言? 何だそれ?」
聞き馴染みのない言葉に首を傾げるとカイが信じられないと言った顔をしてオレを見てくる。
「おまっ、レクリエムの予言知らねーの!? 超有名な大予言だぞ!? 今世間はこの話題で持ちきりなんだぞ!?」
「オレはそういうのに疎いんだよ。お前、そういうの信じるタイプだったのか?」
オレの問いかけにカイは「いや全然」と首を振る。
「むしろ逆。全くもってこれっぽっちも信じちゃいないんだけどさ、単純にもし本当に世界が終わる~っつったらおっちゃんは何すんのかなーって気になっただけ」
カイの質問にオレは「うーん……」と唸る。
(世界の終わりなんてあんまりにも非現実過ぎて全く想像ができないが……)
「ま、オレは世界が終わろうがなんだろうが屋台で料理を作り続けるだろうな」
「おっちゃんはそんな時まで仕事かよっ! オレは仕事なんかほっぽって千百合ちゃんと世界中の絶景でも見に行くけどな!」
「お前ら仲良しだな……。オレは仕事が生き甲斐だからな。でもまぁ……」
オレはしみじみと辺りを見渡してから空を見上げ、言葉を続ける。
「オレらが今立ってる地面も、こうやって見上げる空も、数千年の様々な出来事を乗り越えてきて今に繋がってる訳だろ? それがさ、突然無くなる事なんて無いと思うよ。今までだって何とかなってきたんだし」
しんみりとした気持ちで語ると、オレの言葉を聞いたカイが「おっちゃん……」と呟く。
「おっちゃん……お好み焼き冷めないんだけど……どうすれば良い?」
「お前っ、人がしんみり語ってたのにそれかよ!! てかもう食えんだろ! 猫舌にも程があるだろ!」
「だってオレ、猫だもん」
そう言ってふーふーとお好み焼きを冷ますカイにオレははぁ、と溜め息を吐く。
「ちょっとカッコつけて喋ったのが恥ずかしいわ。全く……」
「まー、万が一世界を滅ぼしかねない何かが起こったとして、オレも千百合もそうはさせないし、ここらにはすげー奴たくさんいるし大丈夫だろ」
「ほう、ずいぶんとまあ強気だな」
感心しながら言うと、カイはにやりと口角を上げて笑った。
「まあね。言っとくけどそういう事態に陥った時はおっちゃんお前も手伝えよ?」
「はあ? 何でだよ。オレは何があろうが屋台にいるっつったろ」
「はぁー、全くこの仕事人間は……そんなんだから屋台ジジイって呼ばれんだぞ」
「それは関係ないだろ! オレは屋台と生涯を共にしてんだよ」
「なんだそりゃ! おっちゃん屋台と結婚でもしてんのか?」
呆れたような顔をしてオレを見るカイの元には先ほどまで冷ましていたはずのお好み焼きが綺麗さっぱりと無くなっている。
「食うの早っ!? カイお前、いつ食ってたんだ!?」
「おうよ、さっきちょうど良い温度になってたから食ったぜ。さてと、腹もいっぱいになった事だし、オレはそろそろ帰るよ」
「はいよ、また来いよ」
屋台を後にし去っていくカイに手を振ると、カイは尻尾を振って「潰れんなよー!」と言った。
それに対してオレはいつものように「うるせー!」と返すのだった。
ーーニコルサイド
「驚いた? 本当に久しぶりだね、ニコル」
突如現れた師匠の変わらぬ姿に、無邪気な表情に、俺は言葉を失う。
「師匠……」
なんとか声を出すと、師匠は口元に手を当ててくすりと笑った。
「違うよ、ニコル。師匠だなんて距離を感じちゃうな。僕の事は名前で呼んでって約束だったよね?」
師匠の言葉に、俺は師匠の名前を口にする。
「……久しぶり、レクリエ」
「うん、久しぶり。ずっと会いたかったよ」
師匠……レクリエは優しい笑みを浮かべながら俺の頭を撫でようとするが、半透明なレクリエの手はすり抜けてしまう。
「あぁ、残念。今の僕の体じゃ君の頭は撫でられないみたい」
残念そうに自分の手を見た後、レクリエは改めて俺の方に向き直る。
「状況が飲み込めないって顔だね。今説明するよ」
そう言ってレクリエは言葉を続ける。
「ニコルと核兵器を封印するために研究室に乗り込んだあの日、僕は自分が死ぬことを知っていたんだ。それで、僕は自分の魔力のほんの少しを自分から切り離して、この地に残しておいたんだ。そして僕の魔力は人に憑依し、乗り移った人の魔力を吸収して少しずつ魔力を回復させてたんだ」
「そんな事を……レクリエは本当に凄いね……」
レクリエの壮大な業に驚き感嘆の声を漏らすと、レクリエはケラケラと悪戯っぽく笑った。
「もちろん皆が皆魔力を保有してる訳ではないし、良い感じの魔力を持っている人がいても人は短命ですぐ死んじゃうから、本当に長い時間がかかった。僕の力が完璧に戻った訳じゃないけど、こうやって姿を再形成させられるまでは回復できたから良かったよ。ま、この姿は僕の魔力をよく理解しているニコルにしか見えないんだけどね」
「そっか、そうだよね……」
それでもこうやって俺の前に姿を現したのは、レクリエにしかできない業だと思う。
(やっぱりレクリエは凄い人だ)
「僕の事を褒めてくれるんだね。ありがとう、ニコル」
俺の心を読んだレクリエが嬉しそうな顔をする。それから「さて……」と呟いて俺の顔を見た。
「そろそろ本題に入ろうか。僕たちの現状についてまとめよう」
レクリエの顔は先ほどまでの少し子どもっぽい明るい表情から一転して真剣な表情に変わる。
「僕たちは兵器の封印を試みたけど、兵器は予測していたよりもずっと強い力を持っていて、僕の封印では左翼の封印しかできなかった。そして、僕の不完全な封印は最近少しずつ解け始めてしまっている。そして……とうとう左翼の封印が解けてしまった。これが危機的な状況なのは分かるね?」
「……うん、分かってる」
「幸いな事に、あの子たちにはまだ僕のかけたリミッターが効いていて、二人は分離したままそれぞれ力を失っている状態だ。だけどあの子たちは国の外へまで出てきてしまった。もし今力を取り戻してしまったら……国が滅ぶなんかじゃ済まされない。世界が滅ぶかもしれない。だから……」
そこまで言うとレクリエは改めてまっすぐに俺の目を見て、それから言葉を続けた。
「ユーリとレイヴァン、二人が力を取り戻す前に、二人を殺せ」
俺は師匠から届いた追加の手紙についていた地図に書かれた地点へと足を運びながら考える。
師匠はもうじき自分の残した魔力を取り戻すと言っていたが、目標の地点に近づいても一向に師匠の気配が感じられない。
(師匠は凄まじい力を持っている人だ。師匠の力のごく一部でも気配は感じられると思うんだけど……)
地図に書かれた地点へと辿り着いた俺は足を止め、改めて師匠から届いたいくつかの手紙に目を通す。
「君は自分の役目を忘れてはいないか? 君は何の為に生き続けているのか、己の指名を今一度よく考えて欲しい」
師匠の手紙から目を離し、俺はそっと目を瞑って自分に課せられた使命や師匠の事を考える。
(全部……全部忘れた事はない。今でも鮮明に覚えてる。俺は……)
ー
これは、今から数千年前の話。異様な争いと言われるとても大きな戦争があった。
機械を武器にして戦う『機械の国』と人体改造をして化物を造り出して戦う『化物の国』の二つの国の戦争。
俺はその戦争の時代に生きていた。そして、その時代から数千年間という長い時を俺はずっと生き続けている。
異様な争いは俺にとって全ての始まりだった。
俺は化物の国の方にいて、当時は研究員をしていた。
俺は、自分が何をしているのか理解していなかった。自分の造ったものが何なのかすら知らなかった。
そして何も知らないまま、戦死した父親を改造して化物にした。
俺の母はその事を知って酷く取り乱した。その様子を見て俺は初めて自分のしている事を理解した。
それから、国に「使えない人間」とみなされた母は殺され、俺の意思とは関係なく化物にされた。
俺には化物に変わってしまった両親がただただ怖くておぞましいものに見えた。そして、人をおぞましい化物に変えて戦うこの国に嫌悪感を覚えた。
俺は自分の手で化物を造り出すことが怖くなって逃げ出した。
逃げることに疲れ途方に暮れた時、俺の元に師匠は姿を現した。
師匠は俺の話を聞いて同情し、俺に手を差しのべてこう言った。
「復讐をしないか?」
俺は泣き出しながらその手を取ったことを覚えている。
それから師匠は自分が大賢者と言われる魔法使いで、おぞましい力を使って戦う国を止めようとしている事を俺に明かした。
師匠は俺に様々な事を教えてくれた。残念ながら師匠が俺に教えてくれた数々の魔法は今でも使えないままだが、師匠の教えのお陰で俺は強くなることができた。
そして師匠と二人で戦争について調べているうちに、俺たちは国がとんでもない核兵器を造り出している事を知った。
俺と師匠は国一つ滅ぼせるほどの力を持った兵器を停止させるために兵器に接近した。そして……。
ー
(師匠は兵器を封じる時に命を落とした)
俺は首に下げたロケットペンダントを手に取る。
俺が数千年と死なずに生き続けたのはこれのお陰か、それとも師匠の残した封印が解かれないように見守る使命感だろうか。
「あれー、ニコルー? こんな所で会うなんて珍しいねー!」
不意に間の抜けた声が聞こえ、俺は考え事に耽った意識を現実に戻す。
顔を上げるとよく手紙を届けに来てくれている郵便屋の店長がニコニコと笑いながら俺に向かって手を振っていた。
「どうも、こんにちーー……っ!?」
挨拶を返そうと口を開きかけた時、強烈な気配を感じ俺は口を閉ざす。
(違う、この気配、まさか……!)
そう思った瞬間、郵便屋の店長が力無く倒れる。そして、郵便屋の店長の体から光が浮かび上がり、その光は次第に半透明な青年の形へと変わった。
「やぁ、お久しぶりだね。ニコル」
ーー屋台のおっちゃんサイド
「なぁおっちゃん。おっちゃんはもし明日世界が終わるっつったら、どうする?」
目の前でお好み焼きを熱心に冷ましていたカイがふと質問をしてくる。
「おぉ、いきなりどうした? 頭でも打ったのか?」
「いやさ、レクリエムの予言によると確か今週辺りに世界が滅亡するらしいじゃん?」
「レクリエムの予言? 何だそれ?」
聞き馴染みのない言葉に首を傾げるとカイが信じられないと言った顔をしてオレを見てくる。
「おまっ、レクリエムの予言知らねーの!? 超有名な大予言だぞ!? 今世間はこの話題で持ちきりなんだぞ!?」
「オレはそういうのに疎いんだよ。お前、そういうの信じるタイプだったのか?」
オレの問いかけにカイは「いや全然」と首を振る。
「むしろ逆。全くもってこれっぽっちも信じちゃいないんだけどさ、単純にもし本当に世界が終わる~っつったらおっちゃんは何すんのかなーって気になっただけ」
カイの質問にオレは「うーん……」と唸る。
(世界の終わりなんてあんまりにも非現実過ぎて全く想像ができないが……)
「ま、オレは世界が終わろうがなんだろうが屋台で料理を作り続けるだろうな」
「おっちゃんはそんな時まで仕事かよっ! オレは仕事なんかほっぽって千百合ちゃんと世界中の絶景でも見に行くけどな!」
「お前ら仲良しだな……。オレは仕事が生き甲斐だからな。でもまぁ……」
オレはしみじみと辺りを見渡してから空を見上げ、言葉を続ける。
「オレらが今立ってる地面も、こうやって見上げる空も、数千年の様々な出来事を乗り越えてきて今に繋がってる訳だろ? それがさ、突然無くなる事なんて無いと思うよ。今までだって何とかなってきたんだし」
しんみりとした気持ちで語ると、オレの言葉を聞いたカイが「おっちゃん……」と呟く。
「おっちゃん……お好み焼き冷めないんだけど……どうすれば良い?」
「お前っ、人がしんみり語ってたのにそれかよ!! てかもう食えんだろ! 猫舌にも程があるだろ!」
「だってオレ、猫だもん」
そう言ってふーふーとお好み焼きを冷ますカイにオレははぁ、と溜め息を吐く。
「ちょっとカッコつけて喋ったのが恥ずかしいわ。全く……」
「まー、万が一世界を滅ぼしかねない何かが起こったとして、オレも千百合もそうはさせないし、ここらにはすげー奴たくさんいるし大丈夫だろ」
「ほう、ずいぶんとまあ強気だな」
感心しながら言うと、カイはにやりと口角を上げて笑った。
「まあね。言っとくけどそういう事態に陥った時はおっちゃんお前も手伝えよ?」
「はあ? 何でだよ。オレは何があろうが屋台にいるっつったろ」
「はぁー、全くこの仕事人間は……そんなんだから屋台ジジイって呼ばれんだぞ」
「それは関係ないだろ! オレは屋台と生涯を共にしてんだよ」
「なんだそりゃ! おっちゃん屋台と結婚でもしてんのか?」
呆れたような顔をしてオレを見るカイの元には先ほどまで冷ましていたはずのお好み焼きが綺麗さっぱりと無くなっている。
「食うの早っ!? カイお前、いつ食ってたんだ!?」
「おうよ、さっきちょうど良い温度になってたから食ったぜ。さてと、腹もいっぱいになった事だし、オレはそろそろ帰るよ」
「はいよ、また来いよ」
屋台を後にし去っていくカイに手を振ると、カイは尻尾を振って「潰れんなよー!」と言った。
それに対してオレはいつものように「うるせー!」と返すのだった。
ーーニコルサイド
「驚いた? 本当に久しぶりだね、ニコル」
突如現れた師匠の変わらぬ姿に、無邪気な表情に、俺は言葉を失う。
「師匠……」
なんとか声を出すと、師匠は口元に手を当ててくすりと笑った。
「違うよ、ニコル。師匠だなんて距離を感じちゃうな。僕の事は名前で呼んでって約束だったよね?」
師匠の言葉に、俺は師匠の名前を口にする。
「……久しぶり、レクリエ」
「うん、久しぶり。ずっと会いたかったよ」
師匠……レクリエは優しい笑みを浮かべながら俺の頭を撫でようとするが、半透明なレクリエの手はすり抜けてしまう。
「あぁ、残念。今の僕の体じゃ君の頭は撫でられないみたい」
残念そうに自分の手を見た後、レクリエは改めて俺の方に向き直る。
「状況が飲み込めないって顔だね。今説明するよ」
そう言ってレクリエは言葉を続ける。
「ニコルと核兵器を封印するために研究室に乗り込んだあの日、僕は自分が死ぬことを知っていたんだ。それで、僕は自分の魔力のほんの少しを自分から切り離して、この地に残しておいたんだ。そして僕の魔力は人に憑依し、乗り移った人の魔力を吸収して少しずつ魔力を回復させてたんだ」
「そんな事を……レクリエは本当に凄いね……」
レクリエの壮大な業に驚き感嘆の声を漏らすと、レクリエはケラケラと悪戯っぽく笑った。
「もちろん皆が皆魔力を保有してる訳ではないし、良い感じの魔力を持っている人がいても人は短命ですぐ死んじゃうから、本当に長い時間がかかった。僕の力が完璧に戻った訳じゃないけど、こうやって姿を再形成させられるまでは回復できたから良かったよ。ま、この姿は僕の魔力をよく理解しているニコルにしか見えないんだけどね」
「そっか、そうだよね……」
それでもこうやって俺の前に姿を現したのは、レクリエにしかできない業だと思う。
(やっぱりレクリエは凄い人だ)
「僕の事を褒めてくれるんだね。ありがとう、ニコル」
俺の心を読んだレクリエが嬉しそうな顔をする。それから「さて……」と呟いて俺の顔を見た。
「そろそろ本題に入ろうか。僕たちの現状についてまとめよう」
レクリエの顔は先ほどまでの少し子どもっぽい明るい表情から一転して真剣な表情に変わる。
「僕たちは兵器の封印を試みたけど、兵器は予測していたよりもずっと強い力を持っていて、僕の封印では左翼の封印しかできなかった。そして、僕の不完全な封印は最近少しずつ解け始めてしまっている。そして……とうとう左翼の封印が解けてしまった。これが危機的な状況なのは分かるね?」
「……うん、分かってる」
「幸いな事に、あの子たちにはまだ僕のかけたリミッターが効いていて、二人は分離したままそれぞれ力を失っている状態だ。だけどあの子たちは国の外へまで出てきてしまった。もし今力を取り戻してしまったら……国が滅ぶなんかじゃ済まされない。世界が滅ぶかもしれない。だから……」
そこまで言うとレクリエは改めてまっすぐに俺の目を見て、それから言葉を続けた。
「ユーリとレイヴァン、二人が力を取り戻す前に、二人を殺せ」
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