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アホ感染注意報2
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「あんたら昨日こいつが言ってた正義のヒーロー隊ってやつ?」
はあっと溜息を吐きながら少年天使が言う。
「おうっ! そうだよ」
「確か名前はとうがらしとか言ったよな……。ってことは二人はシーチキンととろろ、とか?」
少年は呆れ顔でさらっと名前を当ててくる。
「な、なんで分かった!?」
「なんとなく。こいつがとうがらしなんていう変な名前してたから、屋台で売られてるシーチキン入り七味唐辛子とろろお好み焼きが思い浮かんだんだよ」
「詳しくはシーチキンじゃなくてしーちきんだぞ!」
「なんだそれ」
「……ところでお前、名前なんていうの?」
オレと少年のやり取りを見ていたとろろが口を挟んでくる。するとなぜかとうがらしが誇らしげに胸を反らして言った。
「こいつはユーリ。可愛い名前だろ?」
「なんであんたが俺の自己紹介してんだよ。変なこと言うんじゃない」
少年天使ことユーリがとうがらしの頭を殴る。
「痛……くない、だと……? その見た目でその力とか……」
「それでもって男だとか……」
「罪だよなあ……」
ユーリを眺めて溜息を吐くオレら。ユーリは顔を真っ赤にした。
「しょ、しょうがないでしょ。ないもんはないんだから」
「ばかっ」と呟いてユーリは羽でとうがらしを叩いた。
「おうふっ」
とうがらしの体が吹っ飛ぶ。
「羽は強いんですね、はい」
吹っ飛んで行ったとうがらしの姿を見送っていると、ずっとオレらのやり取りを見ていた屋台のおっちゃんが口を開く。
「相変わらず楽しそうだなー。お前らは」
「こいつらと一緒にしないでよおっちゃん」
ユーリは何やら不満そうだ。
「おっちゃん! シーチキン入り七味唐辛子とろろ……」
いつものメニューを注文しようとしてオレは口を閉じた。
そして、三人で顔を見合わせる。
「……? どした?」
「と、共食い……」
「そして自滅……」
オレらの様子を見ておっちゃんは大きな声を上げて笑い始めた。
「何をそんな、珍しく真面目な顔してんのかと思ったらそんなことか! お前ららしいな」
「そんなことって失礼な! これは深刻な問題だぞ? まあ食うけど」
「食うんかい」
おっちゃんは呆れたように笑ってシーチキン入り七味唐辛子とろろお好み焼きを差し出す。頼んだらすぐに出してくれるところは流石だと思う。しかもホカホカってことは、頼んだ直後一瞬で作るってことだよな……。
(凄いよな……どうやってるんだろ)
「ところでさぁ……」
不意にユーリが口を開く。オレはそれを遮るように言葉を重ねた。
「なんでお前はそんな機嫌悪そうなんだよ」
「あんたらのせいだよ! いきなり捕まえられるわ奢らされるわ、ほんとなんなんだよ!!」
「ほら、まぁそこは……十円じゃん? そんな高いもの奢らせてるわけじゃないんだから許してよ、ね? 財布忘れちまったんだよ」
「全く……三人して忘れやがって……! まぁ、そんなことより、いちいちシーチキン入り七味唐辛子とろろお好み焼きって言うの面倒くさくない? 長いんだよ」
「確かに……」
ユーリの言葉におっちゃんが「ううむ……」と唸る。
「いっそのことこいつら正義のヒーロー隊から取って正義のヒーロー焼きで良くない?」
「あー、良いね。その方が言いやすいもんな」
ふむふむと頷くおっちゃん。
「おー。オレたち商品の名前になっちゃったか! なんか有名人になった気分!」
「じゃあおっちゃん、正義のヒーロー焼き三つ!」
「ちょ、俺の金だろっ!」
「いいじゃんいいじゃんちょっとくらい」
「良くない!!」
オレらのやり取りを見ておっちゃんは楽しそうに笑い、正義のヒーロー焼きとたい焼きを置いた。
「ほら食べな。サービスしてやるよ」
その言葉を聞いて皆の顔がぱぁっと明るくなる。
「ほんと!?」
「流石おっちゃん!!」
「やっさし~!」
「もうおっちゃん大好き!!」
ーー?サイド
使い魔というのは呼び出した者に仕え続けるんだって。
主のために生まれ、聞き従うことが使い魔にとっての存在証明となる。
じゃあ主が死んでしまったらどうなるの?
オレは使い魔ではないけれど、それに近い存在とも言えるだろう。
ヒトの願いを叶えるために造られた存在。
オレはずっと、その使命を全うしてきた。
いつしかオレを造ったヒトは死に、オレを知る者もいなくなって、オレは生きる意味を失った。
(オレは……どうすれば良い……?)
誰かがオレを見つけてくれるなら、オレのやるべきことは分かるのだろうか。
「誰かオレに気づいて……」
ーーユーリサイド
「……? 山火事?」
バイトの帰り、煙のにおいを察知し、辺りを見渡すと煙が山から発生しているのが見えた。
確か今朝もニュースで山火事がどうとか言ってたような。
(山火事発生しすぎだろ)
鳴り響くサイレンの音を耳にし、物騒だなと呟いていつもバイト帰りに通っているお菓子屋へ入る。
店から出ると、あからさまに暗いオーラを放っている正義のヒーロー隊を見かけた。
「な、何? なんかあったの?」
常に明るく楽しそうな印象が強い正義のヒーロー隊がこんなにどんよりとしていると異様だ。
「草木が泣いている……」
真剣な顔をしたまましーちきんが呟いた。
「……へ?」
ついつい変な声が漏れてしまう。
「山火事だよ。最近山燃えすぎじゃない? 異常だよ」
「山火事多すぎて木や花が悲鳴上げてる~」
重たい溜息を吐く正義のヒーロー隊。
「まぁ……確かに山火事多いよな。でもあんたらが気に病むことじゃないでしょ」
ちゃんと俺の言葉を聞いてるのかいないのか。しーちきんが思い切り机を叩いて立ち上がった。
「これは絶対人為的なものだ! 誰かが山を燃やしてる!! 許せない!!」
「おいおい……。いくら山火事が多いからって決めつけるのはどうかと思うけど……」
「ははっ、こいつら自然に関しては結構シビアなんだ。放っといてやって」
屋台のおっちゃんが苦笑いをして言う。
「むう……」
「確かにこれは人為的なものかもね」
いつからいたのか不意にニコルが呟いて木の上から降りてきた。
「山の様子がおかしいかったからちょっと辺りの様子を見てきたけど同時に三つ、山が燃えたみたい」
「それは……不自然だな……。あっれい兄だ」
れい兄は地面に降り立つや否や即効で三個ほど肉まんを注文した。
「今日はずいぶん賑やかなんだなー。そいつらは知り合い?」
「んーまぁ、知り合い、か」
「おっ! 肉まんうまそう! なあなあ、俺にもちょうだい!」
「オレもー!!」
「しーちきんととうがらしは図々しいことにちゃっかりれい兄から肉まんをもらおうとしている。
「おう、良いよ。ほい」
(あげるんかい!!)
自分で買った肉まんを二人にあげてしまうれい兄。
(気前良すぎだよ……。れい兄は優しいからな)
おのれ正義のヒーロー隊。自分で買えよ。
「ずるいぞー!! おれにもくれー!!」
しーちきんととうがらしが肉まんををもらっているのを見て、とろろまでもがれい兄に迫る。
(いやいや、れい兄の肉まんなくなっちゃうし!)
「良いよ」
「あげちゃうの!?」
やすやすと残り一つとなった肉まんをあげるれい兄。
「ん……? 肉まんがない。まあ買えばいっか」
(……。れい兄……)
れい兄は気前が良いし、とっても優しい。でもそれ以前にアホだ。
そりゃ三つ買って三つあげればなくなるのは当然だよ……。
なんだかれい兄を見ていると切なくなってきた。
「ところで。君たち、なんかやった?」
追加の肉まんを購入しながられい兄が言う。
「ん? どういうこと……?」
れい兄の言葉に、その場にいた皆が首を傾げる。
「ここら辺から強い力を感じたと思ったら山が一斉に燃えたからさ。なんかあったのかなーって思って」
「オレらが山燃やすわけないだろ。ありえない!」
「俺も、なんか変だなーと思ってここに来たところだよ」
正義のヒーロー隊とニコルが答える。
「そもそも俺にそんな力ないし」
「うん知ってる」
だよね。れい兄は俺の力量知ってるもんね。でもそんなストレートに言わなくても良いのに……。
「とりあえず誰かが山燃やしてるってことだろ? 許せない! 早く犯人見つけてとっちめてやろうぜ」
「ううむ……確かに、誰かがやってるってことに間違いはなさそうだけど……」
それは警察がやれば良い話であって俺らどうこうすることじゃないんじゃないか。
俺は言おうとした言葉を飲み込んだ。
「まぁ……誰かがやってるんなら早めに解決した方が良いもんな」
俺の言葉を聞いた正義のヒーロー隊は嬉しそうに笑った。
(そっか……正義のヒーロー隊っていうくらいだ。こういうことは許せないのかな)
どうやら正義のヒーロー隊ってのは名ばかりじゃないようだ。
「さてと。善は急げってことでまずは情報収集しようぜ。でもその前に、改めて自己紹介してもらっても良い?」
落ち着かない様子でしーちきんが言う。
(そっか。ニコルとれい兄とは初めて会うのか)
普通に会話してるからてっきり会ったことあるのかと思ってた。
(誰にでも隔てなく会話ができるのかな……正義のヒーロー隊は)
本当に明るい人だからこそ出来るんだろうな。
「俺はニコル。宜しくね」
ニコルは小さく微笑んでお辞儀をした。正義のヒーロー隊もつられるようににこにこと笑い、それぞれ「よろしく~」などと言っている。
「俺はレイヴァン! よろしく!」
「おお~ユーリと同じ羽を持ってる人なのになんだろうこの、あふれる優しいオーラっていうのか……ユーリとは大違い」
「うるさいなあ、余計なお世話だ」
「おうふ」
失礼なことを呟いているとうがらしはとりあえず羽で叩いておこう。
「オレはしーちきん。んでもって今吹っ飛んでったあいつがとうがらしで、こいつはとろろ」
「三人揃って正義のヒーロー隊!ってな!」
(アホっぽい自己紹介だなー)
「さて、自己紹介も済んだところで、犯人探しと行きますか!」
服についた土を払いながらとうがらしが言う。しかししーちきんは「うーん……」と呟いたまま動こうとしない。
「どうした?」
「いやね、ばらばらに探すと分かった情報を伝えにくいっていうか……分かったことがあればすぐ知りたいし。ほら、オレら頭悪いからさ、うまく情報集められるか不安なんだよね」
そう言ってしーちきんは顔を上げ、へにゃりと笑った。
「一緒に探してくれない?」
反則級の笑顔。こんな笑顔見せられてしまったら断れるわけがない。
「お、おう……」
他の人たちも頷いている。
「でも皆で探すっていうのも効率が悪いから二つに分かれて探した方が良いんじゃない?」
「確かに……!!」
ニコルの提案により、二つのグループに分かれることになり、俺とれい兄ととろろ、ニコルとしーちきんととうがらしのグループに決まった。
はあっと溜息を吐きながら少年天使が言う。
「おうっ! そうだよ」
「確か名前はとうがらしとか言ったよな……。ってことは二人はシーチキンととろろ、とか?」
少年は呆れ顔でさらっと名前を当ててくる。
「な、なんで分かった!?」
「なんとなく。こいつがとうがらしなんていう変な名前してたから、屋台で売られてるシーチキン入り七味唐辛子とろろお好み焼きが思い浮かんだんだよ」
「詳しくはシーチキンじゃなくてしーちきんだぞ!」
「なんだそれ」
「……ところでお前、名前なんていうの?」
オレと少年のやり取りを見ていたとろろが口を挟んでくる。するとなぜかとうがらしが誇らしげに胸を反らして言った。
「こいつはユーリ。可愛い名前だろ?」
「なんであんたが俺の自己紹介してんだよ。変なこと言うんじゃない」
少年天使ことユーリがとうがらしの頭を殴る。
「痛……くない、だと……? その見た目でその力とか……」
「それでもって男だとか……」
「罪だよなあ……」
ユーリを眺めて溜息を吐くオレら。ユーリは顔を真っ赤にした。
「しょ、しょうがないでしょ。ないもんはないんだから」
「ばかっ」と呟いてユーリは羽でとうがらしを叩いた。
「おうふっ」
とうがらしの体が吹っ飛ぶ。
「羽は強いんですね、はい」
吹っ飛んで行ったとうがらしの姿を見送っていると、ずっとオレらのやり取りを見ていた屋台のおっちゃんが口を開く。
「相変わらず楽しそうだなー。お前らは」
「こいつらと一緒にしないでよおっちゃん」
ユーリは何やら不満そうだ。
「おっちゃん! シーチキン入り七味唐辛子とろろ……」
いつものメニューを注文しようとしてオレは口を閉じた。
そして、三人で顔を見合わせる。
「……? どした?」
「と、共食い……」
「そして自滅……」
オレらの様子を見ておっちゃんは大きな声を上げて笑い始めた。
「何をそんな、珍しく真面目な顔してんのかと思ったらそんなことか! お前ららしいな」
「そんなことって失礼な! これは深刻な問題だぞ? まあ食うけど」
「食うんかい」
おっちゃんは呆れたように笑ってシーチキン入り七味唐辛子とろろお好み焼きを差し出す。頼んだらすぐに出してくれるところは流石だと思う。しかもホカホカってことは、頼んだ直後一瞬で作るってことだよな……。
(凄いよな……どうやってるんだろ)
「ところでさぁ……」
不意にユーリが口を開く。オレはそれを遮るように言葉を重ねた。
「なんでお前はそんな機嫌悪そうなんだよ」
「あんたらのせいだよ! いきなり捕まえられるわ奢らされるわ、ほんとなんなんだよ!!」
「ほら、まぁそこは……十円じゃん? そんな高いもの奢らせてるわけじゃないんだから許してよ、ね? 財布忘れちまったんだよ」
「全く……三人して忘れやがって……! まぁ、そんなことより、いちいちシーチキン入り七味唐辛子とろろお好み焼きって言うの面倒くさくない? 長いんだよ」
「確かに……」
ユーリの言葉におっちゃんが「ううむ……」と唸る。
「いっそのことこいつら正義のヒーロー隊から取って正義のヒーロー焼きで良くない?」
「あー、良いね。その方が言いやすいもんな」
ふむふむと頷くおっちゃん。
「おー。オレたち商品の名前になっちゃったか! なんか有名人になった気分!」
「じゃあおっちゃん、正義のヒーロー焼き三つ!」
「ちょ、俺の金だろっ!」
「いいじゃんいいじゃんちょっとくらい」
「良くない!!」
オレらのやり取りを見ておっちゃんは楽しそうに笑い、正義のヒーロー焼きとたい焼きを置いた。
「ほら食べな。サービスしてやるよ」
その言葉を聞いて皆の顔がぱぁっと明るくなる。
「ほんと!?」
「流石おっちゃん!!」
「やっさし~!」
「もうおっちゃん大好き!!」
ーー?サイド
使い魔というのは呼び出した者に仕え続けるんだって。
主のために生まれ、聞き従うことが使い魔にとっての存在証明となる。
じゃあ主が死んでしまったらどうなるの?
オレは使い魔ではないけれど、それに近い存在とも言えるだろう。
ヒトの願いを叶えるために造られた存在。
オレはずっと、その使命を全うしてきた。
いつしかオレを造ったヒトは死に、オレを知る者もいなくなって、オレは生きる意味を失った。
(オレは……どうすれば良い……?)
誰かがオレを見つけてくれるなら、オレのやるべきことは分かるのだろうか。
「誰かオレに気づいて……」
ーーユーリサイド
「……? 山火事?」
バイトの帰り、煙のにおいを察知し、辺りを見渡すと煙が山から発生しているのが見えた。
確か今朝もニュースで山火事がどうとか言ってたような。
(山火事発生しすぎだろ)
鳴り響くサイレンの音を耳にし、物騒だなと呟いていつもバイト帰りに通っているお菓子屋へ入る。
店から出ると、あからさまに暗いオーラを放っている正義のヒーロー隊を見かけた。
「な、何? なんかあったの?」
常に明るく楽しそうな印象が強い正義のヒーロー隊がこんなにどんよりとしていると異様だ。
「草木が泣いている……」
真剣な顔をしたまましーちきんが呟いた。
「……へ?」
ついつい変な声が漏れてしまう。
「山火事だよ。最近山燃えすぎじゃない? 異常だよ」
「山火事多すぎて木や花が悲鳴上げてる~」
重たい溜息を吐く正義のヒーロー隊。
「まぁ……確かに山火事多いよな。でもあんたらが気に病むことじゃないでしょ」
ちゃんと俺の言葉を聞いてるのかいないのか。しーちきんが思い切り机を叩いて立ち上がった。
「これは絶対人為的なものだ! 誰かが山を燃やしてる!! 許せない!!」
「おいおい……。いくら山火事が多いからって決めつけるのはどうかと思うけど……」
「ははっ、こいつら自然に関しては結構シビアなんだ。放っといてやって」
屋台のおっちゃんが苦笑いをして言う。
「むう……」
「確かにこれは人為的なものかもね」
いつからいたのか不意にニコルが呟いて木の上から降りてきた。
「山の様子がおかしいかったからちょっと辺りの様子を見てきたけど同時に三つ、山が燃えたみたい」
「それは……不自然だな……。あっれい兄だ」
れい兄は地面に降り立つや否や即効で三個ほど肉まんを注文した。
「今日はずいぶん賑やかなんだなー。そいつらは知り合い?」
「んーまぁ、知り合い、か」
「おっ! 肉まんうまそう! なあなあ、俺にもちょうだい!」
「オレもー!!」
「しーちきんととうがらしは図々しいことにちゃっかりれい兄から肉まんをもらおうとしている。
「おう、良いよ。ほい」
(あげるんかい!!)
自分で買った肉まんを二人にあげてしまうれい兄。
(気前良すぎだよ……。れい兄は優しいからな)
おのれ正義のヒーロー隊。自分で買えよ。
「ずるいぞー!! おれにもくれー!!」
しーちきんととうがらしが肉まんををもらっているのを見て、とろろまでもがれい兄に迫る。
(いやいや、れい兄の肉まんなくなっちゃうし!)
「良いよ」
「あげちゃうの!?」
やすやすと残り一つとなった肉まんをあげるれい兄。
「ん……? 肉まんがない。まあ買えばいっか」
(……。れい兄……)
れい兄は気前が良いし、とっても優しい。でもそれ以前にアホだ。
そりゃ三つ買って三つあげればなくなるのは当然だよ……。
なんだかれい兄を見ていると切なくなってきた。
「ところで。君たち、なんかやった?」
追加の肉まんを購入しながられい兄が言う。
「ん? どういうこと……?」
れい兄の言葉に、その場にいた皆が首を傾げる。
「ここら辺から強い力を感じたと思ったら山が一斉に燃えたからさ。なんかあったのかなーって思って」
「オレらが山燃やすわけないだろ。ありえない!」
「俺も、なんか変だなーと思ってここに来たところだよ」
正義のヒーロー隊とニコルが答える。
「そもそも俺にそんな力ないし」
「うん知ってる」
だよね。れい兄は俺の力量知ってるもんね。でもそんなストレートに言わなくても良いのに……。
「とりあえず誰かが山燃やしてるってことだろ? 許せない! 早く犯人見つけてとっちめてやろうぜ」
「ううむ……確かに、誰かがやってるってことに間違いはなさそうだけど……」
それは警察がやれば良い話であって俺らどうこうすることじゃないんじゃないか。
俺は言おうとした言葉を飲み込んだ。
「まぁ……誰かがやってるんなら早めに解決した方が良いもんな」
俺の言葉を聞いた正義のヒーロー隊は嬉しそうに笑った。
(そっか……正義のヒーロー隊っていうくらいだ。こういうことは許せないのかな)
どうやら正義のヒーロー隊ってのは名ばかりじゃないようだ。
「さてと。善は急げってことでまずは情報収集しようぜ。でもその前に、改めて自己紹介してもらっても良い?」
落ち着かない様子でしーちきんが言う。
(そっか。ニコルとれい兄とは初めて会うのか)
普通に会話してるからてっきり会ったことあるのかと思ってた。
(誰にでも隔てなく会話ができるのかな……正義のヒーロー隊は)
本当に明るい人だからこそ出来るんだろうな。
「俺はニコル。宜しくね」
ニコルは小さく微笑んでお辞儀をした。正義のヒーロー隊もつられるようににこにこと笑い、それぞれ「よろしく~」などと言っている。
「俺はレイヴァン! よろしく!」
「おお~ユーリと同じ羽を持ってる人なのになんだろうこの、あふれる優しいオーラっていうのか……ユーリとは大違い」
「うるさいなあ、余計なお世話だ」
「おうふ」
失礼なことを呟いているとうがらしはとりあえず羽で叩いておこう。
「オレはしーちきん。んでもって今吹っ飛んでったあいつがとうがらしで、こいつはとろろ」
「三人揃って正義のヒーロー隊!ってな!」
(アホっぽい自己紹介だなー)
「さて、自己紹介も済んだところで、犯人探しと行きますか!」
服についた土を払いながらとうがらしが言う。しかししーちきんは「うーん……」と呟いたまま動こうとしない。
「どうした?」
「いやね、ばらばらに探すと分かった情報を伝えにくいっていうか……分かったことがあればすぐ知りたいし。ほら、オレら頭悪いからさ、うまく情報集められるか不安なんだよね」
そう言ってしーちきんは顔を上げ、へにゃりと笑った。
「一緒に探してくれない?」
反則級の笑顔。こんな笑顔見せられてしまったら断れるわけがない。
「お、おう……」
他の人たちも頷いている。
「でも皆で探すっていうのも効率が悪いから二つに分かれて探した方が良いんじゃない?」
「確かに……!!」
ニコルの提案により、二つのグループに分かれることになり、俺とれい兄ととろろ、ニコルとしーちきんととうがらしのグループに決まった。
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