河童村

ごむらば

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#3 説明

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私は自分の今の状況、テレビ番組に参加していてカッパの姿になっている事を伝えようと、水掻きのついた指でテレビを指差す。
男の子が私がテレビを見たいものだと思ってテレビをつけてくれた。
「カッパさんテレビ見たいみたいだよ」
男の子は笑顔で私の顔を眺めてくる。
ものすごくかわいい男の子。
男の子がつけてくれたテレビでタイミングよくCMが流れた。
たまたま同じ局だった事もあり、私が河童村という視聴者参加型のゲームの参加者である事が父親に気づいて貰えた。
私はようやく自分のこのカッパの姿の理由を理解して貰えて、少しホッとした。
だが、話せなければゲームへの復帰もできないし、カッパになったビルへ戻って着ぐるみを脱がせてもらう事もできない。
私は必死で身振り手振りで父親に訴えたが伝わらなかった。
父親は私に優しく話しかけてくれる。
「君のカッパの着ぐるみを脱がせたら説明できる?」
私はウンウンと頷いた。
「動かないでよ」
父親はカッターを使い慎重に私の背中を開いていく。
時間はかかるが、ゆっくりと慎重に私を傷つけないように作業してくれているのが伝わってくる。
それはなぜか私に愛情を注いでくれているかのようだった。
なんとか、カッパの着ぐるみに裂け目ができた。
そこから傷口を広げるように着ぐるみを開いていく。
こうしてなんとかカッパの着ぐるみから解放された。
だが、カッパの中身は緑色のラバースーツに覆われた異様な姿。
子どもが退いてしまう中、父親は頭の天辺にあるファスナーを見つけて下ろすのを手伝ってくれるが、鍵がかかっていてファスナーが全く動かない。
「ちょっと、待ってね」
父親はそう言うと何か工具を取りに行った。
ラバーに覆われた不気味な姿の私に男の子が寄って来た。
「パパはね、なんでもできちゃうんだよ、すごいんだよ」
私は男の子の言葉に耳を傾けてウンウンと頷いた。
父親は工具を持って戻ってくると、ものの数分でファスナーのロックを解除してくれた。
そのままラバースーツのファスナーを開いてくれる。
首元から背中へとラバースーツが開いていくのが、肌に触れる冷たい空気で分かる。
緑色のラバースーツの下から露わになった白い素肌を見た父親は手を止めた。
「ゴメン、何も着けていなかったんだね」
私はマスクに手をかけて顔を出した。
その顔に一番に反応したのは男の子。
「ママだ!」
父親も続く。
「本当だ、沙織によく似てる」
「私は明日名 詩織(あすなしおり)です、助けて頂いてありがとうございます」
「私は仁科 晴人(にしなはると)、息子は良太郎(りょうたろう)と言います」
「ところで何か慌ててたみたいですが」
父親に言われて思い出した。
「私、川の上流まで戻らないと行けないんです」
父親は真剣な面持ちで聞いてくる。
「何時に戻ればいいんですか?」
「15時に旧村役場がある所です」
「送りますよ、その前にカッパに戻らないといけないですね」
私はウンと頷いた。
「今、14時30分なので5分ほどで、旧村役場には着くので大丈夫です、安心して!」
父親はそう言うと私をカッパに戻し始めた。
男の子は私を見ながら涙を浮かべて言う。
「ママ、行っちゃうの?」
父親が男の子を諭す。
「この人はママじゃないんだよ」
男の子は父親の言葉で涙をグッと堪えて呑み込んだ。
カッパの着ぐるみの切り開いた場所も元通りに戻してもらい、軽トラックの荷台に乗せてもらう。
助手席を勧められたが、ゲームのスタッフに見られたらマズイのでと断った。
その後、私は無事にゲームに復帰し賞金100万円をゲットした。
早々に捕まった麻美には凄いと称賛してもらったが、今の私にとっては賞金を貰っても浮かれた気分にはなれなかった。
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