河童村

ごむらば

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#2 プレイヤー

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大きな機械はプレス機。
刻印を終えたラバースーツの女性たちは、その機械の中へうつ伏せで入り、顔の位置を調整した後、プレス機にかけられてカッパの着ぐるみを着せられていく。
まるでたい焼きのように。
プレスされてカッパの着ぐるみを着せられた女性たちはもちろん、着ぐるみを簡単に脱ぐことはできない。
しかし、それは彼女たちが好んでカッパになっているので、誰からも文句は出ない。
これはテレビ番組の企画。
彼女たちは頭陀袋に一匹ずつ詰められ、ベルトコンベアへと載せられる。
側から見ているとまるで物扱いだ。
そのままトラックの荷台に載せられ乗せられて会場となる村へと運ばれていく。
河童村内にランダムに頭陀袋に入ったまま放たれたカッパたちを一般公募の男性ハンターが捕獲していく。
ハンターはカッパを捕まえた数に応じて賞金が貰え、カッパは逃げ延びた時間に応じて賞金を手に入れることができるというゲーム。
ゲームは2時間。
13時にスタートし、ハンターから逃げ切り15時に旧村役場に来ることができれば、カッパは賞金100万円をゲットできる。
私は廃屋のカビ臭い床下収納に隠れて、2人のハンターをやり過ごす事に成功した。
また、いつハンターがやって来るとも限らない。
見つかれば逃げ場のないこの場所なら一瞬で捕まってしまう。
私は意を決して床下収納から這い出て移動を始めた。
私が逃げ込んだ廃屋の近くには川が流れている。
今は冬、山奥の川といえばかなりの冷たさである事は間違いない。
カッパの着ぐるみは密封されているので、水はそんなに入って来ないはず。
そんな事を考えて川を眺めていると、背後の草むらから音がした。
振り返るとそこにはハンターが迫っていた。
私は無我夢中で川に飛び込んだ。
流れの速い川、かなりの冷たさの川にまで入ってハンターは追って来ない。
安心したのも束の間、川の流れは速くおまけに深く足が届かない。
“私泳げなかったんだ“
いまさら、一番重要な事を忘れていた。
カッパなのに泳いでいるのか溺れているか分からないような犬かきで必死に岸を目指す。
川で溺れて水死なんて事になったら、ゲームどころではない。
私はなんとか岸にたどり着いた。
私が力尽きたのは近くの民家の脇だった。
水掻きのついた自由の効かない手で必死に【たすけて】と書いて、私は気を失った。
民家の男の子が私を見つけ、【たすけて】と書いているのを父親に伝えに走っていった。
グロテスクなカッパを父子は民家へ迎え入れてくれた。
しかし、話すことの出来ない私。
この親子は今、この村でテレビ番組の撮影が行われている事を知らなかった。
ハンターに追い回されて本当に怖く震えている私に優しく接してくれる男の子。
父親は女性の体のラインが露になっているカッパの姿を気遣い、服を用意してくれた。
スカートと上に羽織るもの、それは女性ものだった。
私が首を傾げている事に気づいた父親は言った。
「亡くなった妻のものです」
だから、父親と男の子の2人なんだと思い、話す事もできないのに余計な事を話させてしまったと、申し訳ない気持ちになった。
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