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23 魔力欠乏の原因

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魔力欠乏症の公表から数日後、私はソフィー様に会いに行った。
この件に、ソフィー様がどう関係しているのか、確かめずにはいられなかったのだ。

侯爵家の応接室に案内されて、ソフィー様の向かいの席に腰を下ろす。


「リチャード様が、ソフィー様に何かお考えがある様だと仰っていたのですが、今回の公爵家の発表と何か関係があるのですか?」

「ええ。実は、王城の夜会でサミュエルが魔術薬で治療出来たって言ったのを聞いて、ちょっと思い付いた事があってね・・・・・・。
メルは、魔術薬の作り方は分かるかしら?」

「なんとなくは知っています」

魔術薬は、普通の治療薬の成分を精製する際に、治癒魔術の魔力を流し込む事によって作られる。
その効果の高さは、作成者の魔力の強さや、薬の原料の質、精製の技術などによって変化する。

今回サミュエル様を助けた薬は、大聖女様の桁違いの魔力と、薬師としても名高い彼女の技術で、それこそ万能と言われる程に、最高に効果が高い物だったらしい。

魔術薬は、魔術の効果と薬の効果が複雑に絡み合い、単に薬を飲んでから治癒魔術を掛ける場合の何十倍もの効き目があるのだとか。

「魔術薬で治ったなら、始まりも魔術薬だったのではないかと考えて・・・。
今迄は、魔術薬と言えば、薬に治癒魔術を付与した物だったけど、治癒薬とは反対に、未知の毒薬を作る事も出来るのではないかって思ったの」

「未知の・・・・・・毒薬・・・」

不穏な話になりそうな予感。

「そう。もしも、毒薬の成分を精製する際に、呪術の魔力を流し込んだら、どうなるのかなって。
それを思い付いて、色々実験して、サミュエルの魔力欠乏症の原因が、呪術の毒薬だって突き止めたのよ。
どうやら、どこかの黒魔術師がオーダーメイドで作って売り捌いていたみたいで、他にも何件か被害が見つかったの。
そして、つい先日、その黒魔術師がやっと拘束されたのよ」

魔力欠乏症が始まった頃、サミュエル様は高熱を出して寝込んだと言っていた。

その日は昼に茶会に出席しており、犯人に買収された侍女がサミュエル様のお茶に薬を入れたのだそう。

遅効性の毒薬と組み合わせたせいか、帰宅してかなり時間が経ってから症状が出始めたため、直ぐには茶会は疑われなかった。
そうこうしている内に、魔力の欠乏という症状も出た事から、毒薬の可能性は否定された。
魔力の器を破壊する薬なんて、今迄実在しなかったのだから。

「一応、呪いの可能性は考慮されたのだけど、いつ、どの様にして呪術を掛けられたのか、全く分からなかったの。
当然よね、今迄に無い方法だったのだから」

これ迄は、呪いを掛けるには、術者とターゲットが接触するか、呪具と呼ばれる物をターゲットに持たせる方法しか知られていなかった。
接触するには危険が伴うし、呪具を渡せば証拠が残る。
しかし、その前提が崩れた。
相手に薬を飲ませるだけで、魔力量が少ない人間でも、呪術の素養がない人間でも、証拠を残さず簡単に呪いを扱う事が出来てしまうのだから、非常に厄介だ。
しかも、治癒の魔術薬と同じ様に、薬にする事で呪いの効果も高まるとしたら・・・・・・。
想像したら、背筋が寒くなった。


「それで、犯人は特定出来たのですか?」

「まだ発表前だから、家名は伏せるけど、ある伯爵家の令息だった。
動機は本当に身勝手で、その男の片想いの相手がサミュエルの熱狂的なファンで、そのせいで婚約を受けて貰えなかったのを逆恨みしたんですって。
しかも、魔力欠乏症のせいで貴女達が婚約したじゃない?
犯人の奴、それでサミュエルの事を諦めたそのご令嬢と、ちゃっかり婚約していたのだそうよ。
まあ今は勾留されて、勿論、婚約も破棄されたらしいけど」

ソフィー様が、不快感も顕な表情になる。

「なんだか、知らない内にその男の計画に協力してしまったみたいで、気分が悪いですね」

私も思わず顔を顰めてしまった。

「そうよね。
それに、そんな奴のせいでメルが色々苦労したのかと思うと、本当に腹が立つわ。
・・・まあ、そんな訳で、この事件が裁判にかけられると、魔力欠乏症の件が公になってしまうので、その前にキチンとした形で公表しようと言う事になったのよ」

しかし、肝心な部分が分からない。

「でも・・・私の件は、公表しなければならない訳ではありませんでしたよね?
スタンリー公爵家にとって、不利な噂になったりしたら、申し訳ないです」

「それは、私とサミュエルが公爵夫妻を説得したの。
メルの魔力量が多い事を知っている貴族は沢山いるから、魔力欠乏症のことを発表すれば、勘の良い連中は真相に気付くわ。
憶測を元に、面白おかしく噂を流される位なら、先に事実を公表して、情報操作した方がまだマシですよって。
サミュエルにとっては罪滅ぼしの様な物ね。
自分の罪悪感を薄める為にやった事なのだから、メルが気に病む事では無いわ」

ソフィー様は私の心配を笑い飛ばした。
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