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18 王城の夜会
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王家主催の夜会の前日、リチャード様から大きな荷物と花束が届いた。
荷物の中身はドレスと宝飾品だった。
しかも、どちらもリチャード様の瞳の色を連想させる代物だ。
ドレスの方は、生地は彩度を抑えた落ち着いた水色であるものの、濃い青色の光沢のある糸で全体に刺繍が施されている。
宝飾品は大きなサファイアを使ったネックレスとイヤリングのセットだ。
花束の方は、領地にいた時に贈って下さった物と全く同じ物だった。
私が「癒された」と言ったから、同じ物を用意してくれたのかもしれないと思うと、少し嬉しい。
ドレスを身に付けてみると、サイズがピッタリ過ぎて不思議に思ったが、その謎についてはすぐに解明された。
そのドレスを購入した店が、いつも私が利用している店だと気付いたからだ。
おそらくソフィー様辺りに店を聞いて「メリッサ・ハミルトン嬢のサイズで」とでも言って注文したのだろう。
夜会当日の朝、前夜から妙に張り切っている侍女達にピカピカに磨き上げられた私は、平凡な亜麻色の髪を複雑に結い上げられ、薄く化粧を施されてリチャード様から頂いたドレスを身に纏った。
ネックレスとイヤリングも着けて、鏡を覗けば、知らない私がそこにいた。
ーーーまるで、リチャード様に包み込まれているみたい。
全身をリチャード様の色で固めた姿を見て、恥ずかしい感想が頭に浮かんでしまい、頬が熱くなる。
「ウェイクリング様がお見えです」
執事に声をかけられたので、玄関ホールへ向かうと、そこにはキラキラと光りを放つ貴公子がいた。
彼のクラバットピンには、私の瞳の色と同じオリーブグリーンのペリドットがあしらわれている。
リチャード様は私と目が合うと、息を飲んだ。
その美しい顔が、見る見る内に薔薇色に染まっていく。
「あぁ、俺の色を纏ったメリッサは一段と美しいね。
まるで君を抱きしめているみたいだ」
「・・・っ!!」
先程私が思ったのと同じ意味の言葉をかけられて、私の心臓がドキリと跳ねた。
「今回は時間が無くて、既製品に手を加えただけだが、次はオーダーメイドで生地からメリッサに合う物を選びたい」
「・・・有難うございます」
嬉しそうなリチャード様に水を差すようで言えなかったが、果たして次の機会があるのだろうか?
「では参りましょう。俺のお姫様」
「ふふっ。
ええ、今日はよろしくお願いします」
差し出された手を取って、私達は王城へと向う馬車に乗り込んだ。
王城で馬車を降りた私は、緊張で微かに震えていた。
その背中を優しく撫でる大きな手に励まされて、足を踏み出す。
リチャード様にエスコートされて会場入りすると、予想した通り、いつも以上の視線が集まった。
思わずリチャード様の腕に添えた手に力がこもってしまう。
「メリッサ?」
呼び掛けられて、隣を見上げると、優しい青い瞳に私だけが映っていて、少しだけ肩の力が抜けた。
「大丈夫です」
それにこの雰囲気は、嘲られているというよりも、羨まれている感じだ。
私の悪口を囁く令嬢達もいたが、リチャード様が鋭い眼差しを向けると直ぐに口を閉ざす。
視線一つで黙らせるのは流石だ。
ーーー私も堂々としよう。何も悪い事はしていないのだから。
決意を胸に、前を向く。
私の噂をしていた令嬢達と目が合ったので、艶然と微笑みかけて見せる。
彼女達は気不味そうに俯いて、コソコソと人混みに紛れた。
暫くすると楽団の演奏が始まり、王族の方々のファーストダンスが終わると、続々と参加者達がダンスの輪に加わる。
「メリッサ、踊っていただけますか?」
「光栄ですわ」
手を取り合って私達も輪に加わった。
「夜会で君と踊れるなんて、夢みたいだ」
「学園でのダンスのクラスも違いましたし、リチャード様と踊るのは初めてですね。
私、あんまり得意じゃなくて・・・ごめんなさい」
「そんな事ないよ。でも、もっと俺の腕に体重を預けても良い」
「こうですか?」
「そう。上手いじゃないか」
リチャード様のリードは安定していてとても踊り易い。
下手くそな私でも、それなりに見えそうだ。
曲が終わって壁際に戻ると、リチャード様にダンスに誘って欲しいご令嬢達がチラチラとこちらを伺う。
しかし、リチャード様は全く気付いていない・・・と言うか、私の事ばかり見ている気がする。
常に隣から熱視線を感じる。
多分、気のせいじゃない。
それでも彼に近付く猛者も居て・・・。
「ウェイクリング様、私とも踊って頂けませんこと?」
妖艶な美女が私を完全に無視して、リチャード様に声を掛けて来た。
女性からダンスに誘うのは、はしたないとされているのだが、余程自分に自信があるのだろう。
「申し訳ないが、今日は出来るだけ、愛らしいパートナーの隣を離れたく無いので」
口元には笑みを浮かべているが、その瞳は驚くほどに冷たい。
先程まで私に向けられていた、甘過ぎる微笑みとの落差に驚く。
彼女は悔しそうに私を睨みつけて去って行った。
「独占欲丸出しね」
揶揄うように笑いながら、ソフィー様がやって来た。
「丁度良かった。
ソフィア、ちょっと陛下方に挨拶して来るから、メリッサと一緒にいてくれないか?」
リチャード様は、この挨拶も私を伴って行きたいと言ったが、婚約者でも無いのに荷が重すぎると遠慮させて貰った。
一人でも待てるのに、わざわざソフィー様に頼むなんて・・・、相変わらず過保護だ。
「はいはい。メルの事は私に任せて、行ってらっしゃい」
ソフィー様は早く行けと言うように、片手を振った。
荷物の中身はドレスと宝飾品だった。
しかも、どちらもリチャード様の瞳の色を連想させる代物だ。
ドレスの方は、生地は彩度を抑えた落ち着いた水色であるものの、濃い青色の光沢のある糸で全体に刺繍が施されている。
宝飾品は大きなサファイアを使ったネックレスとイヤリングのセットだ。
花束の方は、領地にいた時に贈って下さった物と全く同じ物だった。
私が「癒された」と言ったから、同じ物を用意してくれたのかもしれないと思うと、少し嬉しい。
ドレスを身に付けてみると、サイズがピッタリ過ぎて不思議に思ったが、その謎についてはすぐに解明された。
そのドレスを購入した店が、いつも私が利用している店だと気付いたからだ。
おそらくソフィー様辺りに店を聞いて「メリッサ・ハミルトン嬢のサイズで」とでも言って注文したのだろう。
夜会当日の朝、前夜から妙に張り切っている侍女達にピカピカに磨き上げられた私は、平凡な亜麻色の髪を複雑に結い上げられ、薄く化粧を施されてリチャード様から頂いたドレスを身に纏った。
ネックレスとイヤリングも着けて、鏡を覗けば、知らない私がそこにいた。
ーーーまるで、リチャード様に包み込まれているみたい。
全身をリチャード様の色で固めた姿を見て、恥ずかしい感想が頭に浮かんでしまい、頬が熱くなる。
「ウェイクリング様がお見えです」
執事に声をかけられたので、玄関ホールへ向かうと、そこにはキラキラと光りを放つ貴公子がいた。
彼のクラバットピンには、私の瞳の色と同じオリーブグリーンのペリドットがあしらわれている。
リチャード様は私と目が合うと、息を飲んだ。
その美しい顔が、見る見る内に薔薇色に染まっていく。
「あぁ、俺の色を纏ったメリッサは一段と美しいね。
まるで君を抱きしめているみたいだ」
「・・・っ!!」
先程私が思ったのと同じ意味の言葉をかけられて、私の心臓がドキリと跳ねた。
「今回は時間が無くて、既製品に手を加えただけだが、次はオーダーメイドで生地からメリッサに合う物を選びたい」
「・・・有難うございます」
嬉しそうなリチャード様に水を差すようで言えなかったが、果たして次の機会があるのだろうか?
「では参りましょう。俺のお姫様」
「ふふっ。
ええ、今日はよろしくお願いします」
差し出された手を取って、私達は王城へと向う馬車に乗り込んだ。
王城で馬車を降りた私は、緊張で微かに震えていた。
その背中を優しく撫でる大きな手に励まされて、足を踏み出す。
リチャード様にエスコートされて会場入りすると、予想した通り、いつも以上の視線が集まった。
思わずリチャード様の腕に添えた手に力がこもってしまう。
「メリッサ?」
呼び掛けられて、隣を見上げると、優しい青い瞳に私だけが映っていて、少しだけ肩の力が抜けた。
「大丈夫です」
それにこの雰囲気は、嘲られているというよりも、羨まれている感じだ。
私の悪口を囁く令嬢達もいたが、リチャード様が鋭い眼差しを向けると直ぐに口を閉ざす。
視線一つで黙らせるのは流石だ。
ーーー私も堂々としよう。何も悪い事はしていないのだから。
決意を胸に、前を向く。
私の噂をしていた令嬢達と目が合ったので、艶然と微笑みかけて見せる。
彼女達は気不味そうに俯いて、コソコソと人混みに紛れた。
暫くすると楽団の演奏が始まり、王族の方々のファーストダンスが終わると、続々と参加者達がダンスの輪に加わる。
「メリッサ、踊っていただけますか?」
「光栄ですわ」
手を取り合って私達も輪に加わった。
「夜会で君と踊れるなんて、夢みたいだ」
「学園でのダンスのクラスも違いましたし、リチャード様と踊るのは初めてですね。
私、あんまり得意じゃなくて・・・ごめんなさい」
「そんな事ないよ。でも、もっと俺の腕に体重を預けても良い」
「こうですか?」
「そう。上手いじゃないか」
リチャード様のリードは安定していてとても踊り易い。
下手くそな私でも、それなりに見えそうだ。
曲が終わって壁際に戻ると、リチャード様にダンスに誘って欲しいご令嬢達がチラチラとこちらを伺う。
しかし、リチャード様は全く気付いていない・・・と言うか、私の事ばかり見ている気がする。
常に隣から熱視線を感じる。
多分、気のせいじゃない。
それでも彼に近付く猛者も居て・・・。
「ウェイクリング様、私とも踊って頂けませんこと?」
妖艶な美女が私を完全に無視して、リチャード様に声を掛けて来た。
女性からダンスに誘うのは、はしたないとされているのだが、余程自分に自信があるのだろう。
「申し訳ないが、今日は出来るだけ、愛らしいパートナーの隣を離れたく無いので」
口元には笑みを浮かべているが、その瞳は驚くほどに冷たい。
先程まで私に向けられていた、甘過ぎる微笑みとの落差に驚く。
彼女は悔しそうに私を睨みつけて去って行った。
「独占欲丸出しね」
揶揄うように笑いながら、ソフィー様がやって来た。
「丁度良かった。
ソフィア、ちょっと陛下方に挨拶して来るから、メリッサと一緒にいてくれないか?」
リチャード様は、この挨拶も私を伴って行きたいと言ったが、婚約者でも無いのに荷が重すぎると遠慮させて貰った。
一人でも待てるのに、わざわざソフィー様に頼むなんて・・・、相変わらず過保護だ。
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