上 下
14 / 24

14 デートの誘い

しおりを挟む
「暫く会えなかったが、元気にしていたか?」

久し振りに聞くウェイクリング様の落ち着いた低い声が、耳に心地よい。

「ええ。噂が耳に入るのが鬱陶しかったので、田舎の領地に篭っておりました。
都会の暮らしよりも、あちらの方が私には合っているみたいでして。
あ、お花とカードを頂き、ありがとうございました。
とっても癒されました」

「ああ、気に入ってくれたのなら良かった。
領地に行ったのは、ソフィアから聞いていたんだ。
今日も、ソフィアに君が来るって聞いたから、急遽参加させてもらった」

私に何か用事でもあったのだろうか?
ウェイクリング様が私に会いたがる理由など、何も思いつかないのだが。

「何か私に聞きたい事でも?
サミュエル様に何かあったのですか?」

「何故そこでアイツの名前が出る?」

冷ややかに目を細める、ウェイクリング様。
私とウェイクリング様の共通の話題と言えば、サミュエル様のことしか思いつかなかったのだが、彼の名前を出したのは失敗だったようだ。
よく考えればウェイクリング様は、こんな状況の私にサミュエル様の話題を振るほどデリカシーの無い人ではなかった。

「・・・・・・やはり君は・・・いや、いい。
なんでもない。
ところで、この夜会が終わったら、また直ぐに領地へ帰ってしまうのか?」

ウェイクリング様は何か言いかけたが、思い直した様に口を閉じて、別の話題を持ち出した。

「いいえ。王都に残って、少しづつ社交を再開しようかと思っています。
そろそろ新たなご縁も探さなければなりませんし」

「もう、次の縁談を考えているのか!?」

びっくりした表情のウェイクリング様が、珍しく幼く見えて、思わずクスリと笑いが溢れた。

「家族は無理をするなと言っているのですが、私もいい歳なので、モタモタしていたら嫁き遅れてしまいますもの。
こんな状況なので、見つかるかどうかはわかりませんが。
贅沢は言っていられないので、後妻とかも含めて探してみようかと」

私の〝後妻〟という言葉に、隣からの空気がすこしピリッとした。
やはりこの人も過保護だ。

「暫くこちらに居るのなら、来週の花祭りの日は空いているか?」

「??・・・特に予定はありませんが」

「では、当日迎えに行く。
一緒に参加しよう」

「え・・・・・・?」

「俺と一緒では嫌か?」

「いえ、そうでは無いですが・・・・・・」

花祭りは、カップルで参加する者が多い。
所謂〝デート〟の定番である。
ウェイクリング様は婚約者はいらっしゃらない様だが、どなたか恋い慕う女性と参加なさるべきなのではないか?
そんな考えが頭を過ぎるが、私を誘うくらいだから、今は想う方がいらっしゃらないのかもしれない。
婚約破棄で傷ついたであろう私を元気付けようとしてくれているのだから、無碍にするのも申し訳ない。

私は彼のお誘いを受ける事にした。

「お誘いありがとうございます。
よろしくお願いします、ウェイクリング様」

「リチャードと呼んでくれないか?」

「えっ?」

「リチャードと呼んでほしい。
君はサミュエルの婚約者だったから、今までは少し距離を置いて接していたが、俺は君の事をずっと前から友人だと思っている。
これからは君も、俺にもう少し親しみを持ってくれると嬉しい」

「・・・光栄です。
私なんかで良ければ、これからもよろしくお願いします。リチャード様」

「ありがとう。
俺も、君の事をメリッサと呼んでも?」

「ええ、勿論です」

家族とサミュエル様以外の男性に初めて名前で呼ばれるなんて、なんだか擽ったい気持ちだ。

同性のソフィー様はともかく、異性であるリチャード様とは、サミュエル様との繋がりが無くなれば疎遠になってしまう物だと思っていた。

彼と友人であり続けられるのが、とても嬉しい。


一通り挨拶を終えたと言うソフィー様が私の元へ戻ったのは、それからすぐだった。

私とリチャード様が二人でいるところを見て、彼女はニヤリと笑った。

「お邪魔だったかしら?」

「とんでもない」

私達はそんな関係ではない。
おかしな噂が絶えない私との関係を誤解されては、リチャード様に迷惑がかかってしまうだろう。
しおりを挟む
感想 60

あなたにおすすめの小説

自業自得って言葉、知ってますか? 私をいじめていたのはあなたですよね?

長岡更紗
恋愛
庶民聖女の私をいじめてくる、貴族聖女のニコレット。 王子の婚約者を決める舞踏会に出ると、 「卑しい庶民聖女ね。王子妃になりたいがためにそのドレスも盗んできたそうじゃないの」 あることないこと言われて、我慢の限界! 絶対にあなたなんかに王子様は渡さない! これは一生懸命生きる人が報われ、悪さをする人は報いを受ける、勧善懲悪のシンデレラストーリー! *旧タイトルは『灰かぶり聖女は冷徹王子のお気に入り 〜自業自得って言葉、知ってますか? 私をいじめていたのは公爵令嬢、あなたですよ〜』です。 *小説家になろうでも掲載しています。

出来損ないと言われて、国を追い出されました。魔物避けの効果も失われるので、魔物が押し寄せてきますが、頑張って倒してくださいね

猿喰 森繁
恋愛
「婚約破棄だ!」 広間に高らかに響く声。 私の婚約者であり、この国の王子である。 「そうですか」 「貴様は、魔法の一つもろくに使えないと聞く。そんな出来損ないは、俺にふさわしくない」 「… … …」 「よって、婚約は破棄だ!」 私は、周りを見渡す。 私を見下し、気持ち悪そうに見ているもの、冷ややかな笑いを浮かべているもの、私を守ってくれそうな人は、いないようだ。 「王様も同じ意見ということで、よろしいでしょうか?」 私のその言葉に王は言葉を返すでもなく、ただ一つ頷いた。それを確認して、私はため息をついた。たしかに私は魔法を使えない。魔力というものを持っていないからだ。 なにやら勘違いしているようだが、聖女は魔法なんて使えませんよ。

【完結】お飾り妃〜寵愛は聖女様のモノ〜

恋愛
今日、私はお飾りの妃となります。 ※実際の慣習等とは異なる場合があり、あくまでこの世界観での要素もございますので御了承ください。

婚約破棄まで死んでいます。

豆狸
恋愛
婚約を解消したので生き返ってもいいのでしょうか?

婚約者に「愛することはない」と言われたその日にたまたま出会った隣国の皇帝から溺愛されることになります。~捨てる王あれば拾う王ありですわ。

松ノ木るな
恋愛
 純真無垢な心の侯爵令嬢レヴィーナは、国の次期王であるフィリベールと固い絆で結ばれる未来を夢みていた。しかし王太子はそのような意思を持つ彼女を生意気と見なして疎み、気まぐれに婚約破棄を言い渡す。  伴侶と寄り添う心穏やかな人生を諦めた彼女は悲観し、井戸に身を投げたのだった。  あの世だと思って辿りついた先は、小さな貴族の家の、こじんまりとした食堂。そこには呑めもしないのに酒を舐め、身分社会に恨み節を唱える美しい青年がいた。  どこの家の出の、どの立場とも知らぬふたりが、一目で恋に落ちたなら。  たまたま出会って離れていてもその存在を支えとする、そんなふたりが再会して結ばれる初恋ストーリーです。

婚約破棄の上に家を追放された直後に聖女としての力に目覚めました。

三葉 空
恋愛
 ユリナはバラノン伯爵家の長女であり、公爵子息のブリックス・オメルダと婚約していた。しかし、ブリックスは身勝手な理由で彼女に婚約破棄を言い渡す。さらに、元から妹ばかり可愛がっていた両親にも愛想を尽かされ、家から追放されてしまう。ユリナは全てを失いショックを受けるが、直後に聖女としての力に目覚める。そして、神殿の神職たちだけでなく、王家からも丁重に扱われる。さらに、お祈りをするだけでたんまりと給料をもらえるチート職業、それが聖女。さらに、イケメン王子のレオルドに見初められて求愛を受ける。どん底から一転、一気に幸せを掴み取った。その事実を知った元婚約者と元家族は……

欲深い聖女のなれの果ては

あねもね
恋愛
ヴィオレーヌ・ランバルト公爵令嬢は婚約者の第二王子のアルバートと愛し合っていた。 その彼が王位第一継承者の座を得るために、探し出された聖女を伴って魔王討伐に出ると言う。 しかし王宮で準備期間中に聖女と惹かれ合い、恋仲になった様子を目撃してしまう。 これまで傍観していたヴィオレーヌは動くことを決意する。 ※2022年3月31日、HOTランキング1位となりました。お読みいただいている皆様方、誠にありがとうございます。

お金に目の眩んだ最低な婚約者サマ。次は50年後にお会いしましょう

ちくわぶ(まるどらむぎ)
恋愛
《魔法を使う》と言われる商会の一人娘アイラは幼馴染の婚約者エイデンの裏切りを知る。 それをエイデンの父母も認めていることも。 許せるはずはない!頭にきたアイラのとった行動は? ざまあが書きたかったので書いてみたお話です。

処理中です...