12 / 24
12 夜会の招待
しおりを挟む
「メルは、もう社交には出ないつもりなのかしら?」
「悩んでいる所なのです。
今回の件では、スタンリー公爵家からかなりの報酬を頂きました。
だから私一人、結婚せずに遊んで暮らした所で、問題は無いのです。
家族も無理に嫁に行かなくて良いと言ってくれてはいるのですが・・・それでは兄が益々縁遠くなりそうでしょう?
女性としては、小姑が居ると分かっている家に嫁に入るのは遠慮したい物ですよね。
ですから、やはりなんとか嫁ぎ先を探さねばならないかと」
私の話を聞いたソフィー様の顔が、パッと嬉しそうに華やいだ。
「じゃあ、我がロブソン侯爵家の夜会で社交に復帰するのはどうかしら?
丁度、メルを誘おうと思って、招待状を持ってきているの」
「でも、侯爵家の夜会では、高位貴族の方ばかりなのではないですか?」
「お父様の事業の関係者や、遠縁の者とか、子爵家や男爵家の方もご招待する予定だから、そんなに畏まらなくても大丈夫よ」
全く味方がいない夜会よりも、友人の家の夜会からスタートした方が、少しはマシかもしれない。
それでも色々言われるのは、覚悟しなければならないが。
「お言葉に甘えて参加させて頂こうかしら」
夜会の当日は、お兄様がエスコートを引き受けてくれた。
宵闇が迫る街並みを、馬車に乗ってソフィー様のお邸へと向かう。
薄暗い窓の外を何となく眺めながら、これから始まるであろう試練に思いを馳せた。
「メリッサ、大丈夫か?」
「ええ、お兄様。
いつまでも引き篭もってはいられませんから」
少し過保護なお兄様の瞳は、私よりも不安気に揺れている。
この歳になっても、家族に心配ばかりかけているとは、不甲斐ない。
「心配しないで。私、結構強いのですよ」
お兄様と会話をしている間に、馬車は今夜の戦場へと辿り着いた。
「メリッサ、無理をしなくても良いんだぞ」
「大丈夫です。お兄様」
兄のエスコートでホールに足を踏み入れた私の背中に、幾つもの不躾な視線が突き刺さる。
騒めきに紛れて聞こえる嘲笑の声。
ーーー大丈夫。俯いたら負けだ。凛と前を向いて。
私は意識的に背筋を正して、グッと奥歯を噛み締めた。
先ずは、主催者であるロブソン侯爵夫妻にご挨拶しなければ。
辺りを見回すと、早足で寄って来てくれるソフィー様が目に入った。
「メル。よく来てくれたわね。
ウチの家族に挨拶に行くなら、私が紹介するわ」
公爵令息の婚約者だった私だが、サミュエル様のご病気のせいで、社交の経験は少ない。
お兄様は言わずもがなだ。
高位貴族に慣れていない私達を気遣って下さったのだろう。
本当に優しい方だ。
談笑する侯爵令嬢と私達に、更に視線が集まっているが、気にしていないフリをする。
ソフィー様は私達を侯爵夫妻の元へ案内してくれた。
「お父様とお母様に紹介したい方がいるの。
こちら、私の大切な友人、メリッサ・ハミルトン子爵令嬢。お隣は彼女のお兄様です」
周囲で耳をそば立てている貴族達に聞こえるように、ソフィー様は〝大切な〟の部分をやや強調した。
「初めまして、メリッサ・ハミルトンと申します。
本日はお招き頂きありがとうござます」
丁寧にカテーシーをしながら、ご挨拶をした。
「初めまして、メリッサ嬢。
娘からよくお話は聞いていますよ。
雷撃事件の事とか」
侯爵様は揶揄うようにそう言った。
何の話をしてくれているのだ。
私はソフィー様を軽く睨んだ。
侯爵夫妻とも談笑を始めた私達は、益々注目を集めている。
主催者家族と懇意にしていると知らしめる事は、私を悪意から護るのに効果的だろう。
ソフィー様には足を向けて寝られない。
「悩んでいる所なのです。
今回の件では、スタンリー公爵家からかなりの報酬を頂きました。
だから私一人、結婚せずに遊んで暮らした所で、問題は無いのです。
家族も無理に嫁に行かなくて良いと言ってくれてはいるのですが・・・それでは兄が益々縁遠くなりそうでしょう?
女性としては、小姑が居ると分かっている家に嫁に入るのは遠慮したい物ですよね。
ですから、やはりなんとか嫁ぎ先を探さねばならないかと」
私の話を聞いたソフィー様の顔が、パッと嬉しそうに華やいだ。
「じゃあ、我がロブソン侯爵家の夜会で社交に復帰するのはどうかしら?
丁度、メルを誘おうと思って、招待状を持ってきているの」
「でも、侯爵家の夜会では、高位貴族の方ばかりなのではないですか?」
「お父様の事業の関係者や、遠縁の者とか、子爵家や男爵家の方もご招待する予定だから、そんなに畏まらなくても大丈夫よ」
全く味方がいない夜会よりも、友人の家の夜会からスタートした方が、少しはマシかもしれない。
それでも色々言われるのは、覚悟しなければならないが。
「お言葉に甘えて参加させて頂こうかしら」
夜会の当日は、お兄様がエスコートを引き受けてくれた。
宵闇が迫る街並みを、馬車に乗ってソフィー様のお邸へと向かう。
薄暗い窓の外を何となく眺めながら、これから始まるであろう試練に思いを馳せた。
「メリッサ、大丈夫か?」
「ええ、お兄様。
いつまでも引き篭もってはいられませんから」
少し過保護なお兄様の瞳は、私よりも不安気に揺れている。
この歳になっても、家族に心配ばかりかけているとは、不甲斐ない。
「心配しないで。私、結構強いのですよ」
お兄様と会話をしている間に、馬車は今夜の戦場へと辿り着いた。
「メリッサ、無理をしなくても良いんだぞ」
「大丈夫です。お兄様」
兄のエスコートでホールに足を踏み入れた私の背中に、幾つもの不躾な視線が突き刺さる。
騒めきに紛れて聞こえる嘲笑の声。
ーーー大丈夫。俯いたら負けだ。凛と前を向いて。
私は意識的に背筋を正して、グッと奥歯を噛み締めた。
先ずは、主催者であるロブソン侯爵夫妻にご挨拶しなければ。
辺りを見回すと、早足で寄って来てくれるソフィー様が目に入った。
「メル。よく来てくれたわね。
ウチの家族に挨拶に行くなら、私が紹介するわ」
公爵令息の婚約者だった私だが、サミュエル様のご病気のせいで、社交の経験は少ない。
お兄様は言わずもがなだ。
高位貴族に慣れていない私達を気遣って下さったのだろう。
本当に優しい方だ。
談笑する侯爵令嬢と私達に、更に視線が集まっているが、気にしていないフリをする。
ソフィー様は私達を侯爵夫妻の元へ案内してくれた。
「お父様とお母様に紹介したい方がいるの。
こちら、私の大切な友人、メリッサ・ハミルトン子爵令嬢。お隣は彼女のお兄様です」
周囲で耳をそば立てている貴族達に聞こえるように、ソフィー様は〝大切な〟の部分をやや強調した。
「初めまして、メリッサ・ハミルトンと申します。
本日はお招き頂きありがとうござます」
丁寧にカテーシーをしながら、ご挨拶をした。
「初めまして、メリッサ嬢。
娘からよくお話は聞いていますよ。
雷撃事件の事とか」
侯爵様は揶揄うようにそう言った。
何の話をしてくれているのだ。
私はソフィー様を軽く睨んだ。
侯爵夫妻とも談笑を始めた私達は、益々注目を集めている。
主催者家族と懇意にしていると知らしめる事は、私を悪意から護るのに効果的だろう。
ソフィー様には足を向けて寝られない。
17
お気に入りに追加
1,114
あなたにおすすめの小説
出来損ないと言われて、国を追い出されました。魔物避けの効果も失われるので、魔物が押し寄せてきますが、頑張って倒してくださいね
猿喰 森繁
恋愛
「婚約破棄だ!」
広間に高らかに響く声。
私の婚約者であり、この国の王子である。
「そうですか」
「貴様は、魔法の一つもろくに使えないと聞く。そんな出来損ないは、俺にふさわしくない」
「… … …」
「よって、婚約は破棄だ!」
私は、周りを見渡す。
私を見下し、気持ち悪そうに見ているもの、冷ややかな笑いを浮かべているもの、私を守ってくれそうな人は、いないようだ。
「王様も同じ意見ということで、よろしいでしょうか?」
私のその言葉に王は言葉を返すでもなく、ただ一つ頷いた。それを確認して、私はため息をついた。たしかに私は魔法を使えない。魔力というものを持っていないからだ。
なにやら勘違いしているようだが、聖女は魔法なんて使えませんよ。
自業自得って言葉、知ってますか? 私をいじめていたのはあなたですよね?
長岡更紗
恋愛
庶民聖女の私をいじめてくる、貴族聖女のニコレット。
王子の婚約者を決める舞踏会に出ると、
「卑しい庶民聖女ね。王子妃になりたいがためにそのドレスも盗んできたそうじゃないの」
あることないこと言われて、我慢の限界!
絶対にあなたなんかに王子様は渡さない!
これは一生懸命生きる人が報われ、悪さをする人は報いを受ける、勧善懲悪のシンデレラストーリー!
*旧タイトルは『灰かぶり聖女は冷徹王子のお気に入り 〜自業自得って言葉、知ってますか? 私をいじめていたのは公爵令嬢、あなたですよ〜』です。
*小説家になろうでも掲載しています。
欲深い聖女のなれの果ては
あねもね
恋愛
ヴィオレーヌ・ランバルト公爵令嬢は婚約者の第二王子のアルバートと愛し合っていた。
その彼が王位第一継承者の座を得るために、探し出された聖女を伴って魔王討伐に出ると言う。
しかし王宮で準備期間中に聖女と惹かれ合い、恋仲になった様子を目撃してしまう。
これまで傍観していたヴィオレーヌは動くことを決意する。
※2022年3月31日、HOTランキング1位となりました。お読みいただいている皆様方、誠にありがとうございます。
もう、愛はいりませんから
さくたろう
恋愛
ローザリア王国公爵令嬢ルクレティア・フォルセティに、ある日突然、未来の記憶が蘇った。
王子リーヴァイの愛する人を殺害しようとした罪により投獄され、兄に差し出された毒を煽り死んだ記憶だ。それが未来の出来事だと確信したルクレティアは、そんな未来に怯えるが、その記憶のおかしさに気がつき、謎を探ることにする。そうしてやがて、ある人のひたむきな愛を知ることになる。
素直になるのが遅すぎた
gacchi
恋愛
王女はいらだっていた。幼馴染の公爵令息シャルルに。婚約者の子爵令嬢ローズマリーを侮辱し続けておきながら、実は大好きだとぬかす大馬鹿に。いい加減にしないと後悔するわよ、そう何度言っただろう。その忠告を聞かなかったことで、シャルルは後悔し続けることになる。
【完結】私はいてもいなくても同じなのですね ~三人姉妹の中でハズレの私~
紺青
恋愛
マルティナはスコールズ伯爵家の三姉妹の中でハズレの存在だ。才媛で美人な姉と愛嬌があり可愛い妹に挟まれた地味で不器用な次女として、家族の世話やフォローに振り回される生活を送っている。そんな自分を諦めて受け入れているマルティナの前に、マルティナの思い込みや常識を覆す存在が現れて―――家族にめぐまれなかったマルティナが、強引だけど優しいブラッドリーと出会って、少しずつ成長し、別離を経て、再生していく物語。
※三章まで上げて落とされる鬱展開続きます。
※因果応報はありますが、痛快爽快なざまぁはありません。
※なろうにも掲載しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる